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NEC、「2025中期経営計画」を発表 2025年に3兆5000億円の売上高を目指す

2020年度連結業績は減収増益、調整後当期利益は2年連続で過去最高益を更新

 日本電気株式会社(以下、NEC)は12日、2025年度を最終年度とする「2025中期経営計画」を発表した。NECの森田隆之社長兼CEOは、「デジタルガバメントおよびデジタルファイナンス市場において、グローバルトップクラスのバーチカルSaaSベンダーを目指す」と宣言した。

NECの森田隆之社長兼CEO

 2025年度の経営目標は、売上収益が3兆5000億円(2020年度実績2兆9940億円)、調整後営業利益は3000億円(同1782億円)、調整後当期利益が1850億円(同1496億円)、EBITDAが4500億円(同2958億円)、ROICは6.5%(同4.7%)を見込む。

 調整後営業利益率は8.6%、EBITDAの年平均成長率9.0%となる。また、非財務指標として、エンゲージメントスコア50%(同25%)、女性および外国人役員の構成比20%、女性管理職20%を目指すことも明らかにした。

中期経営目標

強みの技術を顧客の価値に転換、4つのフォーカスで成長を実現する

 今回の中期経営計画が、2021年4月1日付で社長兼CEOに就任したばかりの森田隆之氏の経営目標となるものだ。

 森田社長兼CEOは、「NECの強みは、効率がいいR&Dと、日本で長年に渡り社会インフラやネットワーク基盤を支えてきたクオリティの高い実装力である。この強みを価値に転換するために、自社の強い技術を共通基盤として整備するとともに、M&Aなどにより、適宜、外部補完することで、グローバルと日本で高い収益力とキャッシュ創出力を実現する」と話す。

 また、「日本を含むグローバルでフォーカスする事業領域は、デジタルガバメント(DG)/デジタルファイナンス(DF)、グローバル5Gである。国内IT事業のトランスフォーメーションでは、コンサルティング領域から実装力までを一体化した強みや、優位性がある共通技術と共通基盤などをコアDXと位置づけ、これを、成長を実現するためのキードライバーとする。社会変化や企業変革のDXを支援するとともに、国内の既存IT事業においても競合を上回る高い収益性を実現したい」と述べた。

 成長事業には、「DG/DF」、「グローバル5G」、「コアDX」とともに、「次の柱となる成長事業」の4点を挙げ、「成長事業は、競争優位獲得強化のために優先的に資源配分を進め、増収増益をけん引。成長事業以外で構成するベース事業では、慎重な事業環境を前提にした上で収益性の改善に軸足を置く」との考えを示している。

 成長事業の構成比率は、2020年度実績の12.7%から、2025年度には32.9%に拡大。2025年度の営業利益率目標は、ベース事業の10.0%に対して、成長事業は12.9%を見込む。

NECの成長モデル
成長事業/ベース事業の両輪で収益成長を実現

 DG/DF事業においては、「グローバルトップクラスのバーチカルSaaSベンダーを目指す」とし、買収した欧州3社(Northgate Public Services、KMD、Avaloq)のアセットと、NECが持つ生体認証技術やAI技術、エンジニアリング力を組み合わせて、事業基盤の再構築による融合と安定化を実現。事業シナジーの本格追求と新たな成長領域の創出によって、事業拡大を目指すという。

 2025年度のDG/DFの売上収益は3000億円(2020年度実績は1931億円)、調整後営業利益は2100億円(同1251億円)、調整後営業利益率は12%(同4%)を目指す。また、DG/DFの中核となる欧州3社のEBITDAマージンは20%(同17%)を計画している。

 グローバル5G事業では、開発体制およびグローバル体制の強化を急ピッチで進めており、「これらの2020年度まで取り組みをフェーズ1とし、NTTや楽天との協業による世界初の商用実績をベースに、圧倒的なTCO性能と差別化技術で、グローバルでのOpen RANのリーディングベンダーのポジションを獲得したい。また、2025年度までをフェーズ2とし、アプリケーション領域を含む、エンド・トゥ・エンドのケイパビリティをさらに強化することで、軸足をソフトウェア、サービス事業にシフトし、事業の拡大とももに、高収益事業に育てたい」と述べ、「本年度中に海外での商用案件の報告ができなくてはいけない。ターゲットとしているのは欧州と米国になる」と語った。

 グローバル5Gの売上収益は2025年度に1900億円(2020年度実績は417億円)を目指し、年平均成長率は35%。調整後営業利益率は10%(同マイナス31%)を計画している。

4つの取り組みで推進する「コアDX」

 コアDXでは、4つの取り組みを挙げる。ひとつ目は、ABeamの国内5000人のコンサルティング力とNECのデリバリー力をつなげ、コンサル人材とDX人材を強化。CxOやエンドユーザー部門へのアプローチを推進し、社会や企業のDXを支援する「コンサルからデリバリーまで一貫したアプローチで提供価値の拡大」。

 2つ目は、企業のDXに有効なNECの技術をプラットフォーム化し、リピータブルに活用することで原価低減を実現するとともに、提供ソリューションの標準化により価値提供型のプライシングによる競争力向上を目指す「ICT共通基盤技術とオファリングの標準化による売上総利益改善と価格戦略の強化」。

 そして3点目は、AWSやAzureなどのハイパースケーラーとのグローバル協業と、セキュアなNECクラウドを組み合わせたマルチクラウドの提供力を強化するとした。顧客ニーズにあわせた最適な環境を実現することで、さまざまのセキュリティレベルへの対応や、広域なサービスが必要となるDGにも適切にも対応できる「クラウド、データセンター、オンプレミスを最適に組み合わせるハイブリッドIT環境の実現」となる。

 また、デジタル庁創設で加速する国や自治体のDX化や、スーパーシティによる都市構築、インフラ協調型モビリティなど、社会変革を後押しするフラッグシッププロジェクトに、NECが政策連動しながらリードしていく「新たな事業機会(社会/企業改革)、技術、政策連動、E2Eの実装力を生かしたDX領域の拡大」に取り組むとのこと。

 コアDX事業では、20025年度の売上収益で5700億円(2020年度実績は1410億円)とし、年平均成長率は32%。調整後営業利益率は13%(同マイナス3%)を目指す。

 最後の「次の柱となる成長事業の創造」では、「2025中期経営計画の期間中を超える形で、次の成長の柱となる事業を創造したい」と述べ、量子暗号やレーザー通信などの防衛技術、個人情報保護型データ分析技術など、現在の主流技術を破壊することになるディスラプティブ技術のほか、海外を含む先端顧客や研究機関との協業、dotDataやAI創薬などで培ってきた新事業開発のノウハウを活用し、事業化を進めるという。

次の柱となる成長事業の創造

 ここでは、具体的な例として、ヘルスケア・ライフサイエンス事業を挙げた。AIを活用した個別化治療、統合的病院サービス、ライフサポートを実現するもので、AI創薬や内視鏡画像解析、健康状態の可視化などにより、2025年度の事業価値で5000億円を目指す。

 また、カーボンニュートラル関連事業についても触れ、「脱酸素社会に向けて、エネルギーマネジメントの効率化、最適化を目指すリソースアグリゲーション事業に取り組んでいる。脱炭素経営ソリューションや、サーキュラーエコノミーの事業化探索、CO2削減に向けた貢献を行っていく」とした。リソースアグリケーション事業では、2025年度に120億円の売上規模を目指すという。

 国内IT事業および社会インフラ事業については、「コアDXへの投資を加速する一方で、営業利益によってグループ分けし、低収益事業は個別改善計画を実施。高中収益事業は業界トップの収益性をベンチマークとして、それを上回る体質へと改善する」と述べた。

 国内IT事業の営業利益率は、2020年度の8%から、2025年度には13%に向上させるとしており、「これまでの個別最適から、DXによる全体最適へと転換することで営業利益率を高める。そのためにNECの強みである技術力を踏まえて共通基盤化を実施。外部活用を含めて、顧客にとって価値が見える化できる仕組みを提供する」という。

 そして、「具体的には、コンサルティングからデリバリーまでの一貫した形により、顧客視点での価値提案型アプローチを強化。NECの差別化技術を含むICT共通基盤とオファリングの標準化によって、リピータブルな活用を実践することで、コスト競争力を向上させる。顧客ごとのニーズにあったハイブリッドIT環境を提供する」と語った。

 ベース事業の低収益性の改善では、個別にターンアラウンド計画を策定し、これを担当する役員をアサイン。進捗モニタリングを行い、重点領域へのリソースアロケーションを進め、計画未達の場合にはエグジット戦略も検討するという。

 また、M&Aについては、「今後も、中長期で成長を目指す領域に絞って、継続していく」と述べたほか、中期経営計画中には、ソフトウェア無線、レーザー通信などのネットワーク、量子暗号や個人情報保護型データ分析などのセキュリティ、ドローンの無人管制技術や制御技術などのロボティクスといった世界レベルの技術を創出し、国内外の市場に向けて、応用展開する活動を強化する。

 さらに森田社長兼CEOは、「成長戦略や経緯基盤変革に向けて、戦略的費用を積極投資。キャッシュ創出力を持続的に高め、収益構造を改革する」と語った。

 2021年度には前年比で320億円の戦略投資を増加。125億円の設備投資の増加を含めて、445億円増やす。2021年度の研究開発費は1300億円に増加させるが、「2022年度以降に効果が吸収できる。継続的にモニタリングし、戦略費用の内容や優先度の見直しを進め、2025年度には成長事業では、ネットで1200億円の営業利益の上乗せ、経営基盤の強化ではネットで200億円の改善につなげる」とした。

パーパスを中期経営計画の基本に置く

 このほか森田社長兼CEOは、「戦略と文化を結びつけ、パーパス(存在意義)を実現する。そのためには、テクノロジーを最大活用し、世界に一歩先んじて、目指す未来像を提示し、『未来の共感』を創ることが必要である」と語り、「戦略では、テクノロジーを強みに、グローバル成長と国内事業のトランスフォーメーションを加速し、長期利益の最大化と短期利益の最適化を目指す。また文化では、NEC Wayのもとに多様な人材が集い、イノベーションを追求する会社を実現し、選ばれる会社(Employer of Choice)を目指す」とし、戦略面ではEDITDAでの年平均成長率9%、文化面ではエンゲージメントスコア50%という目標指標を置いた。

 NECでは、2013年にパーパスとして「Orchestrating a Brighter world」を掲げ、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指す「パーパス経営」に取り組んでいる。

 森田社長兼CEOは、「パーパスは、今回の中期経営計画の基本に置いている。パーパス経営に向けて、戦略と文化に一体的に取り組み、2025中期経営計画を推進していく」とした。

文化と経営基盤の変革

 文化と経営基盤の改革では、「人・カルチャーの変革」、「ビジネスインフラの整備」、「顧客との未来の共感創り」の3点に取り組む。「パーパス経営の実現には、高いモチベーションを持つ社員の存在が必須である。選ばれる会社への変革を目指す」とした。

 このうち「人・カルチャーの変革」では、イノベーションの源泉であるダイバーシティの加速、多様なタレントのワークスタイルを支える働き方改革を推進。多様なタレント人材の活躍により、2025年度には女性および外国人役員を20%、女性管理職で20%を目標とする。

 あわせて、働き方マインドセット改革を推進し、オフィスを作業空間からコミュニケーションハブやハイブリッド型の共創空間へと転換。ジョブ型マネジメントの採用による適時適所適材の実現、リーダー育成やDX人材育成によるタレントマネジメントを強化する。

 「ビジネスインフラの整備」では、コーポレートトランスフォーメーションという視点で改革を推進するために、CEO直下に業務プロセス改革、財務制度改革、全社ITシステム改革に責任を持つTransformation Officeを新設。三位一体の改革を実行するという。ここでは、人事、調達などの全社基幹システムのクラウドシフト、ITと一体化したプロセスや制度の再設計、データドリブン経営への移行を進める。

 「顧客との未来の共感創り」では、「市場のリーダーとして、積極的に将来ビジョンを社会に発信し、未来の共感を創ることがNECの責務であり、それによって新たな価値創造に貢献できる」として、発信の中核となる総研機能の強化と、外部知見を集めたアドバイザリーボードを新設し、変革を推進するという。

 さらにNECでは、「NEC 2030 VISION」を策定したことを発表。「環境」、「社会」、「暮らし」の3点から取り組む。「NEC 2030 VISIONは、各部門の代表者や役員が策定に参画し、未来の生活者を思い、ありたい姿を具体化し、社会実装に向けた活動を開始することになる」とした。

 環境では、「地球と共生して未来を守る」とし、脱炭素社会の実現や地球温暖化対策の実施、水・食の安全に、事業を通じて貢献するほか、社会では、個人と社会が調和し、豊かな街をはぐくむことや、有事の際にも止まらない、産業と仕事を支えるレジリエントな社会を構築し、時空間や世代を超えて共感を生む場を、通信とサイバーによって実現することに貢献。暮らしでは、「人に寄り添い、心躍る暮らしを実現する」ことを掲げ、ヘルスケアやライフサイエンスの技術を駆使し、Well-beingな生活を支えていくことに加えて、デジタルを活用することで、自由で開かれた学びの機会を提供したいと述べた。

文化と経営基盤の変革

2020年度連結業績は減収増益、

 一方、2020年度(2020年4月~2021年3月)の連結業績は、売上収益が前年比3.3%減の2兆9940億円、営業利益が同20.5%増の1537億円、調整後営業利益が同22.2%増の1782億円、税引前利益が同27.3%増の1578億円、当期純利益が同49.7%増の1496億円となった。

2020年度 通期実績サマリー

 5G基地局の出荷の本格化に加え、リモートワーク商材やGIGAスクール特需の拡大などによりニューノーマル需要を獲得し、新型コロナウイルス感染症拡大による影響を抑制。主としてネットワークサービスとグローバルの改善と、不採算案件の抑制などの収益性改善によって、2020中期経営計画で掲げた2020年度の調整後営業利益目標の1650億円に対して過達となり、調整後当期利益は2期連続で過去最高益を更新した。

 「2020中期経営計画の目標に対して、営業利益、利益率、フリーキャッシュフローで達成。フリーキャッシュフローでは、計画外のAvaloqの買収を実行しながらも達成できた。収益構造の改革、成長の実現、実行力の改革が、2020中期経営計画の3本柱であったが、費用構造や事業ポートフォリオを見直し、収益構造の改革を進めた結果、継続的な成長をするために最低限とされる営業利益率5%を過達し、6%を達成した。また、グローバル成長と国内事業のさらなる収益性向上を目指すための布石ができた」と総括した。

 加えて、「2020年度は、新型コロナの影響で不透明なスタートとなったが、さまざまな施策を打ったことで、財務的には年初想定よりも強固になった。収益においても、不採算案件が想定通りにマネージでき、足腰の強さも出てきた。NTTや楽天との戦略的協業も現実化している。AvaloqというDF分野において、今後の武器になる企業も獲得できた。新たな中期経営計画に向けていいスタートが切れる」とした。

 新型コロナウイルスの影響は、営業利益では420億円のマイナス影響があった。その一方で、費用削減で170億円増、ニューノーマル需要の獲得で120億円増、資産売却で330億円増となった。だが、「もうしばらくコロナの影響を考えておく必要がある」とした。

セグメント別の業績

セグメント別の業績

 セグメント別業績では、社会公共事業の売上収益が前年比11.1%減の4251億円、調整後営業利益は前年から51億円増の394億円。消防・防災は堅調に推移したが、医療向けや地域産業向けの減少に加えて、ビジネスPCの更新需要の一巡によって減収となった。

 社会基盤事業は売上収益が前年比2.1%増の6929億円、調整後営業利益は前年から48億円減の594億円。GIGAスクール構想を背景とした教育機関向けパソコンが寄与し増収となった。

 エンタープライズ事業は、売上収益が前年比8.5%減の5031億円、調整後営業利益は前年から39億円減の482億円。前年大型案件の減少やビジネスPCの更新需要の一巡に加えて、製造業や流通・サービス業におけるIT投資抑制により減収。調整後営業利益は不採算案件の抑制や費用節減に取り組んだが減益となった。

 ネットワークサービス事業は、売上収益が前年比11.6%増の5388億円、調整後営業利益は前年から106億円増の412億円。5G導入に伴う移動ネットワーク領域や、固定ネットワーク領域が増加した。

 グローバルは、売上収益が前年比8.7%減の4500億円、調整後営業利益は前年から107億円増の75億円。海洋システムの増加に加え、Avaloqの新規連結によってセーファーシティが増加。だが、ディスプレイ事業の減少などが影響して減収になった。

 その他事業は、売上収益が前年比6.9%減の3842億円、調整後営業利益は前年から167億円減の77億円となった。

 また、2020年度の国内受注状況は全体では前年比2%増。内訳は、社会公共が12%減、社会基盤は10%増、エンタープライズは横ばい、ネットワークサービスは13%増、グローバルは7%増となった。

2021年度業績は増収減益を想定、成長に向けた戦略的費用の投入のため利益源を見込む

 2021年度(2021年4月~2022年3月)通期業績見通しは、売上収益が前年比0.2%増の3兆円、営業利益は22.0%減の1200億円、調整後営業利益は13.0%減の1550億円、当期純利益は45.6%減の900億円とした。

 「売上収益は、5Gの拡大とAvaloqの新規連結により増加するものの、GIGAスクール特需の反動と、ディスプレイ事業の非連結化による減少が影響して前年並を計画。調整後営業利益は、長期利益の最大化に向けた戦略的費用の投入のため減益を見込んでいる」。

業績予想サマリー

 セグメント別業績見通しは、社会公共事業の売上収益が前年比2.4%減の4150億円、調整後営業利益は前年から84億円減の310億円。社会基盤事業は売上収益が前年比4.7%減の6600億円、調整後営業利益は前年から26億円増の620億円。

 エンタープライズ事業は、売上収益が前年比9.3%増の5500億円、調整後営業利益は前年から48億円増の530億円。ネットワークサービス事業は、売上収益が前年比3.0%増の5550億円、調整後営業利益は前年から62億円減の350億円。

 グローバルは、売上収益が前年比2.2%増の4600億円、調整後営業利益は前年から145億円増の220億円。その他事業は、売上収益が前年比6.3%減の360億円、調整後営業利益は前年から77億円減のブレークイーブンとする。

セグメント別業績見通し