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NEC次期社長の森田隆之氏が会見、「R&Dやエンジニアリングの力を稼ぐ力へ変えていく」

 日本電気株式会社(以下、NEC)は11月30日、2021年4月1日付で、森田隆之副社長兼CFOが、社長兼CEOに就任するトップ人事を発表した。新野隆社長兼CEOは、代表取締役副会長に就く。遠藤信博会長はそのまま取締役会長の職にとどまる。

 11月30日午後3時からオンラインで行われた会見で、森田次期社長は、「グローバルレベルで次々と革新をリードし、日本を代表するテクノロジーカンパニーに変革し、2020年4月に打ち出したNEC Wayやパーパスで掲げた『安心、安全、公平、効率』といった社会価値の創造、誰もが人間性を十分に発揮できる、持続可能な社会の実現に向けて、全力で努力をしたい」と抱負を語った。

 また、「R&Dの力やエンジニアリング力を、稼ぐ力に変えていくための事業開発力の強化を進めていく」とも述べている。

 なお、森田次期社長体制で推進することになる2021年度からの中期経営計画は、これまでの3カ年から5カ年の期間へと変更し、「中期経営計画2025」の名称で現在、策定中であることも明らかにした。

次期社長に就任する森田隆之 代表取締役 執行役員副社長 兼 CFO(右)と、新野隆 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO(左)

価値を価格に転換して顧客に喜んでもらう

 森田氏は、1960年2月5日生まれの大阪府出身。1983年3月に東京大学法学部卒業後、同年4月、NECに入社。海外事業部門でキャリアをスタートした。文系出身の社長としては、1999年に社長に就任した西垣浩司氏以来となる。

 「1990年に米国駐在時に、NECとしては初の本格的M&Aである独シーメンスから私設交換機(PBX)事業の買収にかかわったことが、数々のM&Aに携わるきっかけになった」と振り返る。

 帰国後も、M&Aやジョイントベンチャーに携わり、PC事業におけるレノボとのジョイントベンチャー、半導体事業のルネサスエレクトロニクスとの合弁、アビームコンサルティングへの投資、米ネットクラッカーの買収、海底ケーブルにOCCの買収なども手掛けた。

 2002年に事業開発部長を経て、2006年4月に執行役員に就任。2011年に執行役員常務に就任。赤字事業の改善やセーファー事業の立ち上げ、海外事業の立て直しにもかかわってきた。

 2016年からはCGO(チーフ・グローバル・オフィサー)を兼務。成長のためのM&A戦略の立案、投資実行のための体制強化に着手。2018年4月に代表取締役 執行役員副社長、2018年6月からはCFOを兼務し、2020中期経営計画の達成に向けたM&A戦略の実行、構造改革、収益改善に取り組んできた。

 海外経験が長いものの、CFOに就任するまでには経理畑の経験がなく、NECとしては異例の人事だった。これについては、新野社長が本誌のインタビューで、「NECが変わり、攻めていき、グローバルに出ていくときに、経営のノウハウを持ち、打って出るマインドを持った人材が経理・財務部門には必要」として、森田氏を起用した経緯に触れていた。

 「絶対に踏み外さない、絶対にこけないことを前提とした守りの経理・財務体制から脱皮する」という目的のもと、新野社長が2018年に打ち出した「NEC 119年目の大変革」を支えた重要な人事だった。

 その後、NECは、海外を中心に積極的なM&Aを推進。大胆な構造改革にも着手してきた。

 森田次期社長は、「今年秋に『次期社長候補として指名報酬委員会に推薦するので、準備をするように』と言われた。歴代社長を見ていたので、正直、大変だなと思っていた。『2025中期経営計画』の策定が佳境に入るなかで、その実行を、責任を持ってやる立場になることについては意義を感じる。目標の実現に向けて全力で向けてやっていく」と語った。

 「趣味らしい趣味はないが、挙げるとすれば乱読。また、NECの将棋部の部長をやっており、たしなむ程度にはやっている。いまは見る方が多い」と語る。

次期社長に就任する、森田隆之副社長兼CFO

 森田次期社長は、「2020中期経営計画については、全社員の不断の努力もあり、営業利益率5%が視野に入ってきた。また、海外の3つの大型M&Aで4500億円の投資を実施し、5Gにおいては、NTT、楽天とグローバル展開を見据えた提携を行った。また、カルチャー変革や制度および仕組みの刷新により、社員の意識に変化が起こっていることは、エンゲージメントスコアの改善でも明らかであり、収益構造の改革、成長の実現、実行力の改革といった3つのテーマで成果が上がっている。2020中期経営計画は、収益構造の改革を起点に大きく前進をした3年間であった」とする。

 そして、「新社長として期待されているのは、この流れを止めることなく、これまでの経験を生かし、さらなる高見を目指すためにNECをリードしていくことであると認識している。次期中期経営計画では、NECが持つグローバルレベルのR&D、技術力を、事業収益につなげる事業開発力を強化することで重要であり、成長を起点にして収益構造のレベルアップを図りたい。デジタルガバメント、デジタルファイナンス、5G、AIといった領域で、グローバルレベルで革新をリードする会社になり、日本全体のデジタル化に貢献したい。これらの改革をリードするのは人である。人に投資し、社員が生き生きと活躍できる場をつくり、挑戦を求める社員にふさわしい会社になる。そうした組織に変えるために、私自身も変革を続けたい」と述べた。

 また「営業利益率5%がNECの実力として見えてきたが、これは、世界的に見れば普通の会社になったということ。これからは世界に伍(ご)していける会社を目指す。注力領域に特化して世界で戦い、日本ではDXのリーディングカンパニーを目指す。それを実現するには3年では短い。5年の中期経営計画のなかで取り組んでいくことになる。R&Dの力やエンジニアリング力を、稼ぐ力に変えていくための事業開発力の強化を進める。ここでは人に対する投資が重要になる」と述べた。

 ここでいう「エンジニアリング力」については、「技術や製品、サービスの品質や信頼性、そして、どんなことがあっても最後までやり切る力のことを指す」と定義。

 また「事業開発力」は、「エンジニリアリング力を、顧客の価値に翻訳して示していくことである」とし、「NECは、R&D領域において、有効な技術を持っている。AIやネットワーク、バイオメトリクスといった得意な技術領域があり、そこでグローバルの強みを発揮したい。日本を含めたグローバルにおいて、競争力がある領域で事業をするのがあるべき姿。その方向で買収した会社とのシナジーを強化したい。年間1100億円をR&Dに投資し、グローバルに見てもユニークで一流の技術を持っている。AIではトップ10のなかで、エンタープライズ系の会社はNECとIBMだけである。技術的に優位な領域を持っている」と語る。

 だが、「価値が利益という形に表れないとすれば、価値として認められているとは言えない。価値を価格に転換して顧客に喜んでもらう。これが、NECが強化する部分である。中核にある技術のベースは、NECは十分持っている」とした。

M&Aは、なんでもかんでも都合よくいくものではない

 一方で、森田次期社長が取り組んできたM&Aの考え方についても触れた。

 「M&Aは特殊なものではなく、ひとつの手段として考えるものだ。M&Aは、NECの強い領域を、いち早く立ち上げるためのマーケットアクセス、カスタマーリーチの部分と、その領域におけるナレッジを獲得するものである。スピードを買うという意味でもメリットを得られる。適切なところで、適切な形で、M&Aをやっていくことが大切である」という。

 その上で、「だが、M&Aは、なんでもかんでも都合よくいくものではない。アベイラブルであること、アクショナブルであること、適切な価格で買えるかということ、そして、買収した事業のコアは人であるため、人がNECの文化にあうかどうかといったことを総合的に判断して実行していくことで、初めてM&Aが有効に働くことになる」と述べた。

 また、「M&Aを通じて学んだのは、長期的視点での収益の最大化である。そうした視点で物事を組み立てる訓練をしてきた。立場が違えば物事が違って見えるということも理解した」とも話している。

 こうしたM&Aの経験のなかで一例として挙げたのが、2011年に行ったレノボグループとのPC事業のジョイントベンチャーだ。

 「レノボと合弁した際には、NECは国内PC市場ではナンバーワンのシェアを持っていたが、利益は厳しい状態だった。当時はマイノリティのジョイントベンチャーを日本で考える会社はなかったが、レノボがマジョリティを持つ合弁を進めた結果、NECとしてもいい形でPC事業を継続でき、工場もそのまま活用し、いまでも日本のモノづくり力を生かし、グローバルの生産拠点として活躍している。レノボにとっても、日本の事業は収益性が高いものとなっているし、NECのPC事業に携わっている人も、新たな活躍の場が広がっている。Win-Win-Winの形ができたと思っている。こうした経験をもとに、いろいろな仕組みや形でM&Aを実行していくことができる」とした。

フォーカスした領域における売上高、利益の最大化が最も重要

 さらには、「長期利益を最大化するための施策を取ることが大切である。ピーク時には約5兆4000億円規模であったNECの売上高は、現在、3兆円規模になっている。だが、2019年度は過去最高の最終利益になっており、ネットキャッシュでもプラスに転じつつある。成長をし、長期的な価値を高めるには、グローバルで勝ち抜くための投資余力を持ちながら戦う必要がある。単純な足し算としての売上高ではなく、フォーカスした領域における売上高、利益の最大化が最も重要である」と、自らの経営に対する考え方を示した。

 なお、現在のNECについては、「120年の歴史を持つNECは、これまでにも何度か危機があったが、2011年度に大幅な赤字を計上し、大規模な構造改革に取り組み、いまが第3の創業の過程だと考えている。会社は人が動かしている。だからこそ、人の活力が大切である。活力を組織のなかで生かしていくことは難しい仕事であるが、これができるとすごい力を発揮する。NECは、わくわくするような会社になれると思う。成長できる会社になれる。そうなるだけの力はある」とした。

 また、今後は海外事業の成長が重要になるが、現在約25%の海外売上高比率については、「日本がオリジンである会社が持つひとつの目線としては、半分を海外事業にすることが健全な形である見ている。ただ、比率にはこだわりはない。今後は、国内成長と海外成長を両立する」とした。

2019年の会見での森田隆之氏

海外事業で経験を持つ森田次期社長の手腕に期待

 一方、新野社長兼CEOは、今回の社長交代について、「次期中期経営計画では、グローバルで真の成長を目指すフェーズに入る。その実現には、経営資源の確実な投資、裏付けのある計画を策定し、スピーディーに実行していくことが大切だ。デジタル化の加速により、経営環境には激しい変化が見込まれる」と前置き。

 「次期中期経営計画においては、成長の実現に向けた実行力が重要になり、CFOをはじめとする豊富な経験、戦略性やけん引力に長けた森田副社長こそが、これを実行するのに最もふさわしい人材であると判断した。企業は代を経るごとに強くなることが必要である。新社長が社内に新たな風を吹き込んでくれると期待している」と述べた。

 また、「これまで付き合ってきた人のなかで、一番頭のいい人である。考え方が論理的でありスピーディーに結論を出す。そして最近では、人の話をよく聞くようになってきた。CFOに就任してからは、攻めのCFOとして、周りを巻き込んで実行していく力が素晴らしい」と、森田次期社長を評した。

 このタイミンクで社長交代を発表したことについては、「中期経営計画の区切りの時期であること、ニューノーマル社会に向けて、新たな体制でやるのはいいタイミングだと考えた」とし、「NECの課題は、事業の核をきちっと作り、買収した会社を中心に、グローバルで成長させることである」と述べ、海外事業で経験を持つ森田次期社長の手腕に期待を寄せた。

2019年の会見での新野隆氏

 さらに、会見で新野社長兼CEOは、2016年4月からこれまでの社長在任期間を振り返り、「社会ソリューション事業を軸に、NECを成長軌道に回帰させることを目指してきた。2020中期経営計画では、収益構造の改革、成長の実現、実行力の改革の3つのテーマに注力してきた」としたうえで、「収益構造の改革では、SGA(人件費、経費削減)の削減、不採算事業の見直し、生産拠点の再編など、やると決めたことはやり切った。SGAの比率を20%以下にしたかったという気持ちもあるが、グローバルで戦うために必要な営業利益率5%以上という実力は、ほぼついてきた」とする。

 2つ目の成長の実現については、「デジタル領域におけるサービス事業の拡大に向けたプラットフォームや事業戦略の整備、ソフトウェア事業の拡大に向けたデジタルガバメント、デジタルファイナンス領域でのM&A、5G分野でのパートナーリングにより、グローバルで成長するための核はできた。数字としての刈り取りは来年度以降になる」と説明。

 そして実行力の改革は、「社長として最も重要だととらえていたものであり、社員自らが考えて、挑戦し、最後までやり切るカルチャーへの抜本的改革に向けて、さまざまな制度や仕組みづくりを行い、トップダウンとボトムアップの両方で活動を続けてきた結果、社員の意識は、ここ数年で着実に変化してきた。2018年から、Project RISEを推進してきたが、NECがグローバルで成長していくためには、11万人のグループ社員一人ひとりがモチベーションを持って、自分たちの能力を最大限に発揮するカルチャーが大切である。ここは、新社長も理解してくれている。新社長には、現場ともっと対話をしながらエンゲージメントを高めてもらいたい」とした。

 このほか、「次期経営計画のスタートダッシュを成功させるには、現在の中期経営計画の達成がなによりも重要である。残り4カ月間、この達成に向けて、全力をあげて取り組む」として、「スムーズな移行と次期経営体制に必要なサポートを行うという観点から、当面の間、代表権を持つ副会長となり、次期中期経営計画の策定、企業価値の最大化に向けて寄与したい。当面というのは1年ぐらい。1年後の状況を見て、NECにとっていい方法を採りたい。また、道半ばであるNECグループのカルチャー変革やダイバーシティの推進など、コーポレートガバナンスの強化については、継続的に取り組んでいく」と述べた。

 また、「遠藤会長が行う会長職は、対外的な活動はますます重要になるだろう。一方で、新社長は、グローバル対応に相当な時間が費やされることが想定され、日本の販売店、重要顧客とコミュニケーションをする時間が取りにくくなる。コロナ禍で、次期体制に移行するということを考えても、新社長を支援することが重要になってくる。新たな体制を整えるために、私自らが副会長職を提案して用意した」という。その上で、「業務執行の責任はCEOにある」と述べた。

 NECの副会長職は、金杉明信氏が病気を理由に社長を退いて就任した2006年4月以来、15年ぶりとなる。