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NECが「NEC Innovation Day」を開催、AIやデジタルツインなどの分野で研究開発の最新状況を公開

約170億円規模の新ファンド設立も発表

 日本電気株式会社(以下、NEC)は17日、同社の研究開発の最新状況について公開する「NEC Innovation Day」を開催。そのなかで新たにNEC Orchestrating Future Fundを設立したことを発表した。

 NEC Orchestrating Future Fundは、NECが中心となって外部資金を投入する新たなファンドで、約170億円規模を予定。「5G/6G」、「スマートシティ」、「デジタルガバメント/デジタルファイナンス」、「DX」、「ヘルスケア・ライフサイエンス」、「カーボンニュートラル」の6領域に注力投資する。

 NEC 取締役 執行役員常務兼CTOの西原基夫氏は、「NECに関係が深い事業領域を対象にし、スタートアップ企業などと一緒にソリューションを開発していくことになる。アーリーステージに加えて、レイトステージのスタートアップへの投資を通じて、共創およびエコシステムの形成を行う」と述べた。

NEC Innovation Dayが開催されるのは4年ぶりだ
NEC 取締役 執行役員常務兼CTOの西原基夫氏

3つの技術ビジョンを打ち出す

 一方、NECの「技術ビジョン」として、実世界とサイバーの融合を支える基盤を提供する「未来を共創・試行するデジタルツイン」、人が信頼できるAIや人が納得できるAIを提供する「人と協働し社会に浸透するAI」、アプリやIT、ネットワークを融合した基盤となる「環境性能・高信頼・高効率を可能にするプラットフォーム」の3つの軸で取り組んでいくことを初めて打ち出した。

 「技術ビジョンは、個別のテクノロジーで語ることから、目的をベースにして、群としてテクノロジーを語る方向に変えたものになる。デジタルツインの場をつくり、それに向けた最適化技術として人と結びつけるAI、それを可能にするプラットフォームで構成している。社会価値創造に向けた取り組みを、オープンに推進していくことになる」と位置づけた。

社会価値創造を牽引するNECの技術ビジョン

デジタルツインでは3分野の取り組みを紹介

 「未来を共創・試行するデジタルツイン」では、生体認証を通じて個人に最適なサービスを提供している取り組みを紹介。顔認証と虹彩を組み合わせることで、100億人を見分けることができるマルチモーダル生体認証を開発したという。「離れた場所からの個人認証ができるもので、地球の全人口70億人を超える人の数を見分けることができる。暗号化したままでの照合も可能であり、個人情報や顔情報が漏えいしない仕組みとして提供できる」とした。

生体認証を通じて個人に最適なサービスを提供

 さらに、センシング技術を活用した提案を行っていることも示した。ここでは、いくつかの技術を紹介した。

 通信用光ファイバーをセンサーに利用した光ファイバーセンシングでは、特殊な信号処理により、既設された数百kmに渡る距離の光ファイバーであっても、振動や温度などをメートル単位で高感度にセンシングし、超広域の地震分布や、自動車の移動などの交通流を可視化できる。

 また、あらゆる地表変化を検知する複数衛星画像解析技術では、従来は衛星の周期にあわせて2週間ごとに特定地点しか検知ができなかった環境を改善。SAR衛星や光学衛星などのさまざまな観測画像を自在に統合することで、夜間や嵐などの悪天候条件でも、任意の地点での地表変化を、最短で1時間単位の高頻度で検知できるという。これにより、災害状況や混雑状況などを確認可能になったとのこと

 このほか、液中の微細混入異物を高精度に即時検出する動きパターン認識技術では、動画認識によって、50μm程度の異物や泡を識別。ガラス瓶の薬液などの検査工程での目視検査の削減と、検査品質の均一化を実現するという。現在、小野薬品工業と共同で研究を進めているとした。

見える化による安全・安心な社会を実現

 加えて、インバリアント分析・時系列データモデルフリー分析の事例も示した。NASAの有人宇宙船「オリオン」の開発においては、機体に取りつけた約15万個のセンサーから220億種類の関係性を見つけ、数時間で通常動作モデルをAIにより生成することにより、宇宙船の設計、開発、製造、試験段階における異常検知を実現した。

 日本製鉄などの大規模プラントでは、異常予兆をセンサーによって自動検知。異常発生トラブルによる稼働停止や、設備不良による製品の品質劣化を未然に防ぐという。

インバリアント分析・時系列データモデルフリー分析の事例

データサイエンスの民主化などに取り組むAI分野

 2つめの「人と協働し社会に浸透するAI」では、データサイエンスの民主化に取り組んでいる事例を示した。すでに、AIによるデータ意味理解、予測分析といった分析業務における自動化を達成。さらに、従来は困難であった熟練者の判断をAI化。また、環境変化によるAIの劣化要因を分析し、精度を自律的に維持するAIモニタリングの研究を開始しておりこれが、実用化に近いレベルに到達していることを示した。「コンサルティング、分析業務、デリバリーといった領域を自動化し、誰でも使えるデータ分析環境が実現できる」と述べた。

 また、意思決定をAIで自動化する最適化技術の導入支援サービスの提供を開始したことに触れ、「AIが得意としている見える化や分析に加えて、社会価値を生むためには、対処や最適化が必要である。人材配置やレコメンドの最適化、配車計画、ダイナミックプライシング、鉄道のダイヤ修正などをAIが行えるようになる。量子アニーリングの技術もここで活用されている」とした。

誰でも使えるデータ分析へ ~データサイエンスの民主化~
最適な対処で社会を効率化&グリーン化へ

 さらにAIでは、人と協調して動く搬送単機能ロボットについて説明した。数百台のロボットを施設内カメラと無線ネットワークで結び、クラウドによる制御を行うことで、複数の搬送ロボットが連動してモノを運んだり、人と衝突しない動きが可能になったりするという。

 同様の技術を活用して、大林組との協業で建機を活用したリモート制御を実用化しているほか、NEDOによる稚内市での地域実証事業では、ドローン同士をAIで連携させている。この事例では、AI間交渉技術を利用してドローンが相互に交渉し、効率的かつ安全な運行を支援しているとのこと。また、複数のドローン運行者やサービス事業者によるドローン運航サービスの事業化に向け、取り組んでいることにも触れた。

次世代の通信技術や量子技術などを紹介

 3つめの「環境性能・高信頼・高効率を可能にするプラットフォーム」では、AIと通信、コンピューティングの融合に取り組んでおり、具体的な事例として、地球上のあらゆる場所で使え、衛星間の4万kmの距離でもギガビットクラスの通信を可能する、ビヨンド5Gのキーテクノロジーともいわれる「衛星・HAPS」のほか、従来比2桁以上の低遅延、低電力を目標としている「オールフォトニクスネットワーク」、O-RAN装置のリソースの最適化、広域分散MIMO、海底光伝送などの技術を紹介した。

 「NECでは、4コアの海底光ファイバーケーブルを開発に成功し、マルチコアでの世界初の長距離伝送を実現した。これはNECしか実用化できていない。メタバースやビヨンド5G、6Gにも活用できる。これまでは太平洋が主要市場であったが、マルチコアの技術が認められ、大西洋の敷設案件も獲得している」という。

AI×通信×コンピューティングの融合

 さらに量子技術として、従来比300倍となる高速ベクトルアニーリングサービスを提供していること、D WaveのLeap Quantum Cloud Serviceの販売を開始していることに加えて、2023年の実用化に向けて、量子コンピューティング素子を開発しており、100倍の量子干渉時間の実現を目指していることを示した。

 「これはブレイクスルーになる技術であり、実用化できれば、次のステップとして、プラットフォームの開発を進めていくになる」と、NECによる量子コンピュータの実現にも意欲をみせた。

 また量子暗号通信技術では、2022年には重要基幹システム向け長距離伝送技術を商用化。さらに、2024年には廉価版となるCV-QKD既存ファイバー重畳技術を商用化する考えも明らかにした。

次世代を先導する量子技術

 NECの西原CTOは、「NECの研究実績は世界トップレベルであり、グローバルにオンリーワン、ナンバーワンのものが多い。機械学習難関学会での論文採択数では日本の企業として唯一ベスト10以内に入り、GAFAと伍している。顔認証技術の国際特許の出願数では世界1位、AIや映像分析を含めても世界一。ネットワークやセキュリティでも高い競争力を持っている。特に顔認証、虹彩認証、指紋認証といったバイオメトリクスの技術は圧倒的である。生体認証のブランド想起率でも1位である」と、自社の実績をアピール。

 さらに、「人の価値観や生活スタイル、働き方、社会のあり方、地球環境への対応が大きく変化するVUCAの時代において、NECは2030年ビジョンを掲げた。そのなかで、未来の共感とテクノロジーの掛け算がキーコンポーネントになると考えている。社会課題の解決には、大胆なデジタルシフトが必要になる。デジタルファーストでの最適な姿を考え、それにあわせたフィジカルサポートを行い、そして同時に、社会的なコンセンサスを築くことにも力を入れていく」とした。

 また「NECでは、テクノロジーを社会に実装するには、マーケットインテリジェンス、技術開発、ビジネス開発、社会受容の4つのポイントがあると思っている。それを実現するために、オンリーワンやナンバーワンの技術を軸にしたR&Dにおける共創拡大、社会にインパクトのある新事業領域への挑戦、そして、社会受容を醸成するためのソートリーダーシップが大切である」とも述べている。

 NECでは、研究開発部門の体制を刷新。2021年度からグローバルイノベーションユニットを設置。「R&Dと新事業開発、知財部門に加えて、新たな事業を創出するフューチャーマーケットインテリジェンス本部、デザインを担当するコーポレートデザイン本部といった本社側の組織と連動。新たな挑戦を進めている」と述べる。

グローバルイノベーションユニットを設立

7研究所に加え、3つのビジネス拠点を持つNEC

 NECは、全世界7拠点で研究開発を行っているほか、スタートアップの立ち上げを支援するNEC X、日本発の共創型R&D事業のBIRD INITIATIVE、最先端AIを用いて個別化医療に取り組むAI創薬事業の3つのビジネス拠点を持っているのが特徴だ。また、これらの研究活動は、NECの共通基盤であるNEC Digital Platformの上で展開しているという。

 「技術を事業につなげていくためには、技術とマーケットの2つの軸から取り組むことが大切である。その取り組みのひとつが、エコシステムによる新事業開発である。技術を外に出して、外部の資金や人を組み合わせて、より速いイノベーションの実装を進めていくことになる。2018年には、dotDataを設立し、シリコンバレーにはNEC Xを設立したほか、BIRD INITIATIVEやAI創薬でも成果が生まれている」などと述べた。

グローバルの強みを活かし研究開発と事業開発の機会を拡大

 BIRD INITIATIVEは、2021年度の売上高は前年比7倍に拡大。2022年度中に2つのプロジェクトがカーブアウトする予定で、現在、デジタルツイン、ドローン、SCMなどの領域で共創型R&Dが進んでいるという。

 またNEC Xでは、これまでに3つの会社をスピンアウト。2022年までに複数社のスピンアウトが予定されている。「NECの技術を理解したベンチャー投資家や起業家ネットワークが拡大しており、新事業の開発を強化していくことができるようになっている」とした。

 大手企業や大学との取り組みでは、NTTと情報通信インフラにおけるサプライチェーンセキュリティリスクへの対策技術を開発。大阪大学とはNEC Beyond 5G協働研究所の設置を発表している。

世界に類を見ない日本発の共創型R&D事業
ベンチャー投資家・起業家ネットワーク拡大で新事業開発強化

 新事業領域の成果としては、dotDataおよびNECのデータドリブンDX事業部において、データを起点とした新たなビジネスを創出。dotDataの技術を活用した有償サービスを70社以上に提供したという。またAI創薬では、最先端AIを用いた個別化がん免疫療法の開発に取り組んでおり、2021年11月にはTransgeneとの協業で、第1相臨床試験において良好な予備的データを報告できたとのこと。

 「AI創薬では、2025年の事業価値3000億円に向けて着実に事業成長を遂げている」と自己評価した。さらに、ヘルスケア・ライフサイエンスでは、BostonGeneとの協業により、AIを活用した創薬のほか、がん患者向けの個別化治療を実現するための支援も行っている。

 そのほか、カーボンニュートラルへの取り組みでは、産業、政府、都市の全領域をまたぐサプライチェーン全体での最適化によって、グリーン基点の社会インフラの構築、産業革新につなげていく取り組みを開始したという。

 一方、ソートイニシアティブへの取り組みでは、欧州でのFIWAREやGAIA-Xへの参画のほか、社会に対する情報発信、AI倫理の強化に取り組んでいることを示し、「FIWAREの規格策定ではNECがリードしてきたが、GAIA-Xにおいても深く関与し、NECがリードする立場になりたい」とした。

 高度人材の拡大と育成においては、2019年度から、上限のない報酬水準を処遇する選択制研究職プロフェッショナル制度を導入し、これまでに累計20人を登用。2018年度に開始した事業開発職高度専門職制度では、AI創薬などに続き、2021年度から新たにデータドリブンDX領域で、Executive Analytics Consultant Leadという新たなポジションを設置し、高度人材を社内外から登用する考えも示した。

高度人材の拡大と育成