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NEC・森田隆之社長、「2023年は結果を出すためにスパートをかけはじめる年に」

 日本電気株式会社(以下、NEC)の森田隆之社長兼CEOは、共同インタビューに応じ、2022年の成果を振り返るとともに、2023年の事業方針などについて説明した。

 森田社長兼CEOは、2022年を振り返り、「NECは為替に対してはニュートラルなポジションだが、短期間では急速な為替変動は、さまざまな影響を及ぼし、経営力を問われるものになった。また、米中貿易摩擦や中国ロックダウン、ウクライナ情勢を背景にしたサプライチェーンの問題が発生している。汎用的な半導体や電子部品の品不足は落ち着いてきたが、個別の部品ではタイトな状況が続いており、戦略的在庫も継続する必要がある。デュアルソースを確保するなど、リスクへの対応は深く考えていく必要がある。さらに、欧州では、価格高騰が顕著で、ドイツでのエネルギー価格は2023年には2~3倍になるとも予想されている。景況感が悪化することは覚悟しておかなくてはならないだろう」と、NECを取り巻く環境を指摘。

 その一方で、「だが、多くの企業において、DXに対する優先度が高いことを感じる。かつては、景気が悪くなると、まずはIT投資を削減するといったこともあったが、いまはDXで出遅れると、事業競争力が維持できないという意識が強い。DXに対する投資意欲という点では心配していない」と述べた。

NEC 代表取締役執行役員社長兼CEOの森田隆之氏

 また2023年については、「2025中期経営計画の中間年度になる。これまでの2年間は、パーパス、戦略、文化における取り組み、技術と信頼を中核にした成長モデル、NEC自らのDXや、顧客および社会のDXを推進していくための枠組みを作ってきた。この方向性は正しいという実感があり、成長の手応えもある」とした。

 一方、「2025年度に向けて重要なのは実行力である。2023年は、2025年の目標として掲げたゴールに向けて、結果を出すためにスパートをかけはじめる年になる。そのための体制を固めることにも力を注ぐ1年になる」と述べたほか、「DG(デジタルガバメント)/DF(デジタルファイナンス)、グローバル5G、コアDXが成長事業であり、自社のCX(コーポレートトランスフォーメーション)、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)、社会のSX(ソーシャルトランスフォーメーション)にどう取り組んでいくのか、といったステップを明確に示したい」と語った。

NECの成長モデル

 受注が好調な海底ケーブル事業に関しては、「国際通信における海底ケーブルの役割は重要であり、全体の90%以上を占め、さらに増加していくだろう。これまでは通信事業者が対象だったが、いまは、GAFAMなどのクラウド企業が対象となっている。通信機器やケーブルの技術開発を継続的に進め、マルチコアケーブルを開発したほか、グーグルとともに、AIを活用することでエラーを少なくする技術も開発している。NTTとも共同で研究開発を進めている。この分野においては、技術的には世界トップクラスであると自負している。またケーブルの生産についても、北九州の工場で生産能力を拡大し、敷設船の長期契約も行った。事業拡大に向けて体制を強化している」と述べた。

 研究開発投資については、5Gや次世代量子技術、スーパーコンピュータの拡張などに投資し、中期的には売上収益比で5%の水準にまで引き上げる考え方をあらためて強調。「研究開発を加速することで、NECの可能性を広げられることを実感している。NEC Digital Platformにおいては、AI、セキュリティのほか、IOWNやBeyond 5Gなどの通信領域にも投資を進めていく」とする。

 NECも出資する次世代半導体企業のRapidusについては、「Beyond 2nmの最先端プロセスの実現を目指す取り組みであり、この技術は、日本の半導体製造設備メーカーなどが支えていくことになる。同時に、半導体産業における人材確保が重要であり、海外に流出した人たちを呼び戻すとともに、新たな人材を育成することも大切だ。そして、設計ルールを含めた準備をどうするのか、アプリケーションをどうするのか、対応する領域はどこにするのかを明確にし、そこに先端半導体の競争力をビルトインする仕組みや仕掛けが必要である」と発言。

 「NECは、ユーザーの立場として、通信の先端領域、ハイパフォーマンスコンピューティング領域における競争力向上に向け、最先端プロセスを活用した半導体を安定的に供給してもらえる点がメリットになる」と語った。

 一方、政府の防衛費の拡大の動きに関しては、「政府には、経済安全保障の観点から、一定の範囲で国産の製品を確保しなくてはならないという意識があり、先端技術や重要な防衛技術を育成するという姿勢も出てきた」前置きし、「NECでは、サイバーセキュリティでの貢献のほか、宇宙、コンピューティング、暗号、センサー、電磁波などの領域での貢献ができる」と語った。

 さらに、Open RANが経済安全保障の観点からも有効であることを強調。「Open RANはインターフェイスが明確に定義されており、オープン化した環境であるため、最も信頼できるベンダーから通信システムを調達できるという選択肢がある。それに対して、特定ベンダーがエンドトゥエンドで通信システムを構築するSingle RANでは、ブラックボックスが作られてもわからないという課題がある。オープンに環境下にあるOpen RANは、セキュリティという観点からも安全性を担保しやすい」と述べた。

 なおNECでは、全社員を対象としたジョブ型人材マネジメントの導入を目指している。

 「ジョブ型人材マネジメントの導入は、法的規制や労働組合との話し合いも必要あり、丁寧な対応が必要である。2023年度は、全社的な展開を想定した上で、非組合員、特に幹部層を中心にしたジョブ型人材マネジメントの導入を進めることになる。2024年度には全社への展開を進める」とし、「狙いは優秀な人材を確保し、支援していくことである。外資系企業と競争しているコンサルティング人材の獲得などにおいて、同等の競争力を実現し、採用される人材に対しては魅力的な処遇を提供したい」と語った。

 また、NECでは、2021年度に総人件費を3%アップし、2022年度も同規模の上昇を想定していることを示しながら、「基本的な考え方は総人件費をあげることであり、スキルや仕事にあわせて、マーケットに対応した処遇をしていくことになる。長期的に見ると、インフレ手当やベアは、こうした動きと反することになると考えている。スキル、成果、市場での評価をもとにきちっと処遇し、全体として総人件費を高めていくことになる」と語った。

 人材のリスキリングについても言及。2025年までに1万人のデジタル人材を育成する計画に触れながら、NEC DXアカデミーを通じて、SEを対象にクラウドエンジニア、データサイエンティスト、DX戦略コンサルタントなど、DXを推進するための人材へとリスキリングしていることを説明した。NECでは、この2年間で約300人のDX戦略コンサルタントを育成。また、DX Innovators 100として、顧客のDXを成功に導くためのプロフェッショナル集団として、100人を選定する取り組みを行っており、さまざまな業種や業界での高い専門性を生かして、企業を支援しているという。

 また、人事や経理部門においても、専門性を高めて、ビジネスパートナーとなれるように育成を行っているも紹介。「経理部門においても、数100人を対象に、オンラインを通じて6カ月間に渡るプログラムを実施し、学びなおしを行っている。学び続けることが大切であり、そのために、会社として、学びの機会を用意することも重要だ」とした。