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NEC・森田隆之社長が就任1年目を総括、「想定通りの施策が打てた」

 日本電気株式会社(以下、NEC)の森田隆之社長兼CEOは、共同インタビューに応じ、2022年度の方向性や、中期経営計画の進捗状況などについて説明した。

 森田社長兼CEOは、2021年4月の社長に就任して以来の1年間を振り返り、「ここにきてコロナ禍が落ち着き始めているが、中国のゼロコロナ政策の影響や、ウクライナ・ロシアの問題など、不透明性は消えていない。だが、1年目は想定通りの施策が打てたと考えている。中期経営計画の達成に向けた努力を続ける」と語った。

NEC 代表取締役執行役員社長兼CEOの森田隆之氏

 社長就任1年目となる2021年度は、2025年度を最終年度とする「2025中期経営計画」の1年目でもあった。2025年度には売上収益で3兆5000億円、調整後営業利益で3000億円、調整後当期利益で1850億円、EBITDAで4500億円、ROICは6.5%といった経営指標を掲げている。

2025中期経営計画 目標

 森田社長兼CEOは、2021年度の取り組みを振り返り、「デジタルガバメント/デジタルファイナンス(DG/DF)は、買収した欧州3社(NEC Software Solutions UK、KMD、Avaloq)が、これまでに約10社のボルトオン買収を行い、体質を強化した。ボルトオン買収はこれで打ち止めではなく、これからも実施していく。2021年度は、それぞれの会社において、継続的に成長させる事業や効率化を求める部分はどこかといったことを理解し、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)についても絵が描けた」と自己評価した。

 またグローバル5Gでは、米国におけるBlue Danube Systemsの買収によって、通信事業者向け4G/5G基地局装置の無線機(RU)の開発力強化や、CU/DUの自社ソフトウェア製品の開発が進んだことを2021年度の成果に挙げる一方で、「2021年度には、欧州で商用案件を獲得し、2022年度にはOpen RANの基地局システムを稼働させる予定である。いよいよインプリメンテーションのフェーズに入ることになる。2022年度には欧州での追加的な新規受注も確実に獲得できるだろう。さらに、米国、アジアにおいても、5Gの商用化に向けた活動が活発化していくフェーズに入り、2023年度には、グローバル5G事業での単年度黒字化を計画している」などと述べた。

 欧州向けの出荷は2022年度第3四半期から開始する予定であり、これが計画通りに進めば、2023年度にグローバル5Gの黒字化が達成できると見込んでいる。

 「2023年度に黒字転換するシナリオだが、顧客は数年間に渡る展開計画を持っており、出荷量や出荷時期が変化したり、部材調達の問題が影響したりといったことも想定しなくてはならない。また、組み合わせて利用するほかのベンダーの製品の出荷状況も影響するほか、商用化に向けたSIビジネスの貢献時期も関係してくる」と慎重な姿勢をみせた。

 一方で、「グローバル5Gは、国ごとに周波数のライセンス時期の違いがある。欧州ではある程度、スケジュールが固まっているところが多く先行することができる。だが北米とアジアは、商用化の時期や入札の時期がまだ流動的である。販売活動は行っているが、いつ実るのかといった時期がまだ見えていない」とした。

 先ごろ日本で行われた日米豪印によるクアッドの首脳会合において、5Gネットワークの構築に向けたサプライヤーの多様化、Open RANの普及促進などの方策について、議論が行われたことに関しては、「Open RANは、オープン化と仮想化により、1社の寡占的競争状況を崩し、プレーヤーを増やし、イノベーションを活性化するものになる。日米政府により、市場導入を加速化するために環境整備を進めることはありがたい」とし、「NECは、基地局のRU(無線部)およびCU/DU(制御部)、SIによるシステム構築や運用、コアネットワークシステムなどを提供できる。パートナーとの連携によって、Open RANのフルターンキーを提供できる存在になれる」と述べた。

 また、「日本では、NTTドコモや楽天での実績があるが、海外ではまだ実績がない。商用レベルでの実績が積みあがり、インテグレーションや運用といったオープンシステムでの問題がクリアされ、有用性が認識されることで、ビジネスを加速できる」とした。

 DG/DFやグローバル5Gとともに、成長事業領域に位置づけているコアDX事業では、AWSやマイクロソフト、SAP、ServiceNow、Salesforce.comの主要ITベンダーと、グローバルアライアンスを相次いで結んだことや、SCSKとは千葉県印西市のデータセンターを共同運営するジョイントベンチャーであるSCSK NECデータセンターマネジメントを設立したことなどを、2021年度の成果にあげた。

 だが、「日本では、地方都市や中小企業は景気の戻りが弱い。力強さに欠けている」との課題感を示したほか、「コアDX事業に限らず、短期的には、部品不足やサプライの課題も気になっている」と述べた。

 コアDX事業は、2025年度に売上収益5700億円、調整後営業利益率13%を目指している。

NECの成長モデル

 こうした2021年度の実績を振り返り、森田社長兼CEOは、「2025中期経営計画の1年目として、必要な施策やアクションが取れ、ある程度の自信ができた」と総括。「これらの施策の成果が、2022年度には徐々に数字に表れていく。2022年度は、1年目の打ち手の成果や実績を示す年となり、アウトカムにつなげていくことになる」と位置づけた。

 さらに、「ホップ、ステップ、ジャンプでいえば、1年目でホップの部分はできた。これからの2年間は、これを実績につなげ、追加的施策をさらに実行していく。同時に、アクセルを踏む部分はどこか、ブレーキを利かせるところはどこかといったことを整理していく期間にもなる」とする。2022年度と2023年度の2年間を「ステップ」の時期とし、2024年度、2025年度の2年間を「ジャンプ」のフェーズに位置づける考えを示した。

 また、森田社長兼CEOは、2025中期経営計画を、「5000億円規模のM&Aを行える内容になっている」と言及してきたが、今回の説明では、「DG/DFは適正な価格で買収ができる領域であり、機会をとらえて投資をしていく。また、NEC Software SolutionsやAvaloqによるボルトオン買収は継続的に実行していくことになる。だが、NEC本体としての買収は、5000億円をはるかに超える案件リストはあるものの、積極的に買収するという動きは現時点ではない」と発言。さらに、「グローバル5Gについては、テクノロジー領域において、make or buyといった観点での買収判断や、Blue Danube Systemsのようにリソースを獲得するための買収になる。いずれも買収金額としては小規模なものになるだろう。だが、欧州では商用化の段階に入るため、リソースの増強は不可欠であると考えている」などと述べた。

 R&D投資についても言及し、2020年度の研究開発投資が売上収益比で3.8%であったものを、2021年度には4.2%へと拡大し、約120億円増加させたことに触れながら、「2022年度は4.3%を計画している。研究開発投資を増加させたことでR&Dの裁量度が広がり、可能性や価値も広がったと考えている。これを中期的には5%レベルにしていきたい。NECの中長期的な競争力につなげることができる」とした。

NECの研究開発費

 R&Dの対象領域としては、AI、ネットワーク、先端的コンピューティングの3つの領域をあげ、先端的コンピューティングでは、量子コンピュータや、ベクトル型スーパーコンピュータによるHPC領域も対象になる。「量子コンピュータは他社との連携により、冷却装置やハードウェア、ソフトウェアの進化に取り組み、そのなかでNECが主導的な役割を果たしたい」と述べた。また、「AIでは、イネーブラーとなり、価値が出しにくいことが多かったが、AI創薬分野においては、事業領域に踏み込む形で挑戦している。農業や建設など、AI含めた価値を、社会価値へと転換できる確信がある領域には、事業分野にまで入っていきたい。2022年度中には、新たな取り組みを発表できる」とした。

 NECが得意とする生体認証技術については、「国ごとに、政府や関連団体などとの連携が必要な領域であり、普及においては、社会貢献という側面も強い」としながら、「GaviやWFPなどと取り組んでいるのは、IDを持たない人に対するさまざまな支援や救済活動において、生体認証を活用するという取り組みである。NECの顔認証や幼児指紋判別技術は、他社が持っていない水準の技術であり、社会貢献できる領域が大きい。国際機関などとの連携を深める一方で、今後は、ビジネスとしても拡大させていきたい」と述べた。

 一方、NECでは、課題事業として、社会公共やエンタープライズ、システムプラットフォームなど、複数のセグメントに渡る形で16事業に達することを明らかにしている。「継続的に7%の営業利益率を創出できる事業でなければ、ジョイントベンチャーや事業譲渡、ほかの事業との統合などを検討していく。その見極めを2022年度中に行う予定である」とし、「これまでにも、エネルギー事業はLG Energy Solutionに、ディスプレイ事業はシャープに、それぞれ株式を譲渡。ワイヤレス事業の見直しにも取り組んできた経緯がある。その成果からも、課題事業の再編における成果は信用してもらえるだろう」と述べた。

 そのほか、「トラスト(信頼)は、あらゆるところでNECのベースになる」と発言。「NECの強みは、ミッションクリティカルシステムを開発、構築、運用したきた実績をもとにした信頼である。また、AIと人権についての考え方を、いち早く発表した経緯もあり、これもトラストにつながる活動である。これからの時代はトラストとオープンを両立する時代である。政府のデジタル化においてソブリンクラウドの考え方が広がり、それを支えるネットワークも同様に信頼性が求められている。スマートシティにおいても、NECは都市OS基盤であるFIWAREを活用することで、トラストとオープンを実現することができる。FIWAREにより、政府が推進するデジタル田園都市構想の実現にも貢献できる」などとした。

 また、「NECは毎日、相当数のサイバー攻撃を受けている」としながら、「サイバーセキュリティに関する診断をしてほしいという要望が増えている。NECがホワイトハッカーとして疑似攻撃を行い、セキュリティの耐性における問題点を診断し、その対応を提案している。従来は、保険のような形でセキュリティを考えていた企業が多かったが、いまは、実害が増えており、公表されていないものを含めると、それがかなりの数に達している。実害への対処も必要であり、いまは必要なコストとしてとらえている企業が多い」などと述べた。