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NECの森田隆之社長が2021年を総括、「M&Aはビジネスのなかの自然な選択肢のひとつ」

2022年は「2025中計」を具体的なものとして形づくる年に

 日本電気株式会社(以下、NEC)の森田隆之社長兼CEOは、2021年の取り組みについて振り返り、「2025中期経営計画を策定し、より方向性を明確にできた」と総括。「2022年は、これらを具体的なものとして、形づくる年にしたいと考えている」と述べた。

 またM&A戦略については「今後3年間は、財務の健全性を維持した形で投資を実行することになる。中期経営計画がスムーズにいけば、過去3年間の5000億円規模と同等以上の資金が、M&Aに使えるようになる」と発言。「M&Aはビジネスのなかの自然な選択肢のひとつにとらえている」とも述べた。

NECの森田隆之社長兼CEO

新社長が就任、積極的な施策が相次いだ2021年

 NECは2021年4月から、森田隆之氏が社長兼CEOに就任。5月には2025年度を最終年度とする「2025中期経営計画」を策定し、「DG/DF(デジタルガバメント/デジタルファイナンス)」、「グローバル5G」、「コアDX」の3つを成長事業に位置づけたほか、社長直下の「Transformation Office」を設置し、社内外のDXを推進する体制を明確にするなど、積極的な施策が相次いだ。

2025中期経営計画の数値目標(発表時のオンライン会見より)

 NECの森田社長兼CEOは、「サプライチェーンが不安定であり、半導体不足などの懸念材料はあるが、ビジネスへの影響という意味では、新型コロナウイルスとの付き合い方はだいたい理解してきた」と前置き。

 「NECは2021年に『2025中期経営計画』を策定し、より方向性を明確にできた。また、具体的な施策や5Gへの取り組み、グローバルアライアンスによる成果にも進展があった。2022年度は、これらを具体的なものとして形づくる年にしたいと考えている。技術を未来につなげていくための提案活動や、ソートリーダーシップ(Thought leadership)による活動などにも取り組む」と述べた。

SmartWork 2.0によるデジタルワークプレイスの実現を進行

 2021年の取り組みのなかで特筆されるのが、Transformation Officeの設置だ。「最先端のDXや、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)のリファレンスとなるためのプロジェクト」と位置づけ、約150にわたる全社プロジェクトを実行している。

Transformation Officeを設置(発表時のオンライン会見より)

 森田社長兼CEOは、「社内向けDXとして、インフラ基盤のリフト&シフトや、SmartWork 2.0によるデジタルワークプレイスの実現を進めている」とし、SAP ERPをグローバルに社内展開し、1400システムを700システム強に半減。コスト削減とグローバルガバナンスの強化を実現するとともに、データを中心とした経営戦略へと移行する次世代基幹システムに変革する取り組みを加速。2022年からは新たなシステム構築に乗り出すことになると説明する。

 またSmartWork 2.0では、「働き方改革は、2020年夏過ぎからは新型コロナウイルスへの対策というよりも、中期的視点で、この仕組みをどう生かしていくのかというフェーズに入っている。NEC全体での出社率は40%であるが、工場や試験設備がある拠点では80%の出社率、オフィスワーカーであれば、10~20%の出社率で機能をしている。今後は、社員の心身の不安などにも対応しながら、社員の生産性向上や、創造的な仕事へのシフトといった点が重要になる」と述べた。

 このほか、「リアルなオフィスが果たす意味合いが変わってきている。いまは3つのオフィスの形態が考えられる」とし、「1つ目はコミュニケーションハブとしてのオフィス、2つ目が従業員同士や顧客・パートナーによる共創の場としてのオフィス、3つ目が、カフェや公園などを含めたロケーションフリーのオフィスである。オフィスにいないことを意識しないようなデジタルワークプレイスの実現を進めており、ここでは、Microsoftとのグローバルアライアンスによる成果も生まれている」などとした。

 SmartWork 2.0では、フロアの最適化と組織配置の再編によって、社内外の人が利用できる共創空間を8倍に拡大するとともに、部門単位でのオフィスを半減。NECグループ12万人の従業員が、MicrosoftのAzure Virtual Desktopを活用した、シンクライアントPC環境で業務を推進している。さらに、2022年度から週休3日選択制を導入し、働く時間の自由度を向上させるという。

Smart Work2.0の進化(発表時のオンライン会見より)

 なお、ジョブ型人事制度についても言及。「すべての従業員にすぐに展開できないという課題もあるが、海外法人や子会社のアビームコンサルティングではすでにジョブ型を採用している。ジョブ型を主流にしないと、競争力を持った形で事業が展開できないと考えている」とする。

 加えて、「メンバーシップ型からの移行はマインドセットの変化を伴うため、丁寧にやる必要がある。まずは役員レベルを1年間の任期とし、2021年度はコミットメントによる手法を事業部長にまで広げた。2022年度は管理職全体に広げ、ジョブ型人事制度のベースを作っていくことになる。2023年度には、NECとしてのジョブ型人事制度を、法律が許される範囲で実行することを考えている」と述べた。

上流コンサルから一気通貫のビジネスが拡大できた

 Transformation Officeにおける社外向けDXの取り組みについては、「アビームコンサルティングとの連携や、NEC社内に200人の戦略コンサルタントを育成したことで、上流コンサルティングからの一気通貫のビジネスが拡大できた。また、NECの共通基盤であるNECデジタルプラットフォームにおけるオファリングの強化と、これに基づく提案活動、製品強化を進めた。NECデジタルプラットフォームは、毎年、更新バージョンをリリースすることを考えている」と説明。

 「ハイブリッドITによる提案や、MicrosoftやAWSとのグローバルアライアンスに加えて、データセンターの拡充なども進めている。顧客のDXの取り組みに十分な体制で対応していきたいと考えている。また、戦略パートナープログラムを顧客と進めており、日通、セブン-イレブン・ジャパン、大和ハウス工業とは、短期、中期、長期といった視点でDXに、共同で取り組んでいる」と話した。

 日通とはIoTを活用した倉庫オペレーションの効率化などを開始。セブン-イレブン・ジャパンとは顔認証や光彩を利用した決済システムの実験などを進めており、大和ハウス工業とは施工現場のデジタル化で協業している。

 さらにTransformation Officeと連動する形で、スーパーシティやスマートシティへの取り組みを加速させているという。NEC都市OSを活用する一方、NECが事業主体としていくつかのプロジェクトに参画していることも示した。「スーパーシティやスマートシティへの取り組みは順調に進んでいる」。

コロナ禍で非接触の顔認証技術も活用進む

 NECが強みのひとつにあげている顔認証技術については、「ワクチン接種や新型コロナウイルス感染拡大の水際対策でも有効な手段となっており、富士山では登山時に顔認証を利用してワクチン接種やPCR検査の結果を確認。ハワイの空港でも感染症対策ソリューションに顔認証を採用している。南紀白浜では街全体と連動した『IoTおもてなしサービス実証』への取り組みを拡大し、東京オリンピックでは、選手やスタッフら数十万人の関係者が、会場入場時の本人確認に利用した。多くの人に、効果があることや、生産性があがることを理解してもらっており、今後は活用の幅が広がるだろう。日本において、マイナンバーとの連動を進めたり、eKYCにおける活用促進、光彩も加えたエラーのない運用なども行いたい」としている。

 NECは、Gavi(ガビ)ワクチンアライアンスなどとの協業で、開発途上国における予防接種率向上を目的にした生体認証の活用に向けた取り組みを開始しており、1~5歳の幼児の指紋認証の実用化を目指しているのこと。森田社長兼CEOは、「この仕組みを利用して、大人になっても利用できる環境づくりにつなげたい」としている。

 または、顔認証技術によるプライバシー侵害の指摘についても触れ、「顔認証の技術は透明性が高い。問題は使い方である。NEC自らが、人権に対する考え方を明確にし、さらに技術の利用用途にまで責任を持ち、顔認証がどう使われるのかということを把握した上で、技術を提供していくことが大切である。顔認証は特徴量に基づいたデータであり、そのデータだけを見てもわからない。さらに、NECでは、データを分散し、照合のときだけ使うという仕組みも採用する。データのオーナーシップは個人が保有したまま、利便性を高めることができる」と、取り組みを進めていることを説明した。

 「NECでは、『未来の共感』という言葉を使っているが、NECが何を目指しているのかということを感じてもらうことで顔認証技術を広く利用してもらえる。ソートリーダーシップの活動が大切である。技術だけが先行しても、社会の制度や仕組みが伴わないと解決しないことも多い。未来に向けた発信や、啓発活動が社会的責任として重要である。そうした活動は積極的にやっていきたい」。

グローバル5G分野での取り組みとNECの強み

 一方、グローバル5Gの取り組みについても触れた。

 「NECが持つ5Gの強みは、Open RANという新たなオープン化の流れにおいて、優位性が発揮できる点である。これは、ITの世界で1990年代に経験したものと同じである。産業構造が変わり、プレーヤーが変わった。また無線通信分野でも、2G、3G、4Gと進化するにしたがって、プレーヤーが変わり、競争環境が大きく変化した。5G時代の到来は、大きなチャンスである。しかも、過去に比べて、日本の通信事業者が先行している領域である」と前置き。

 「特にNECは、5G領域において、エンドトゥエンドですべてを提供できるケーパビリティがある。O-RU(Open Radio Unit)では、信頼性、電力消費、軽量化などで競争力が高く、評判もいい。CU/DU(Central Unit/ Distributed Unit)の充足化を図り、RIC(RAN Intelligent Controller)やSMO(Service Management and Orchestration)といったソフトウェア領域でも差別化できる。5GのOpen RANが進展すればするほど、ビジネスの領域が広がる。これがNECの強みであり、この分野に積極的に出る理由である」と、自社の強みをアピールしている。

 また「NECは、NTTドコモや楽天に対して、テクノロジーパートナーとして貢献しており、これらのパートナー企業が、グローバルに広がることに強い関心と意欲を持っている。これもNECがグローバル5G事業の拡大に取り組むことを後押ししている」とも述べた。

 現在NECでは、テレフォニカと商用導入に向けたOpen RANプレ商用実証に合意し、スペイン、ドイツ、英国、ブラジルの4カ国で、800サイトの商用導入を見据えたパイロットプロジェクトを推進しているが、「2022年度には20サイトでのプロジェクトが実施される。計画通りにできれば、次に大きな展開ができるようになり、次のフェーズに向けた議論が2022年度には実施できるだろう」とした。さらに、「商用案件は手元に2桁の件数がある。今年度中に、新たな会社との案件が発表できるだろう」と述べた。

M&Aにも積極的に取り組む

 M&Aの考え方についても語った。

 森田社長兼CEOは、「過去3年間で5000億円規模のM&A投資を行い、DG/DF、海外におけるプラットフォームが形になり、成長に向けた基盤ができた」としながら、「今後3年間は、財務の健全性を維持した形で投資を実行する。中期経営計画がスムーズに実行されれば、同等以上の資金をM&Aに使えるようになると見ている」とコメント。

 さらに「M&Aは、ビジネスのなかのひとつの選択肢である。通常の施策と平等に考えている。M&Aが適切な手段であると考えたら、自然に実行する。中計を進めれば、投資余力が出てくる。過去3年間の5000億円の投資規模が可能になる」などとした。

 M&Aの対象領域としては、「5Gでは開発や製造におけるリソース獲得、技術獲得、人を獲得するためのものであり、事業を取得するためのM&Aは考えにくい。またDG/DFの領域では、買収した欧州3社(旧Northgate Public Services、KMD、Avaloq)が、それぞれに補完関係や相乗効果を発揮しており、その周辺領域でオポチュニティを探すことになる。DX分野におけるM&Aは、5G分野と同じアプローチになるだろう。ここでは、MicrosoftやAWSとのグローバルアライアンスのような形で、十分に目的が達成できる場合もあり、そうした取り組みも視野に入れている」と語った。

 その一方で、社長就任前のCFO時代に感じていたこととして、「R&Dへの投資が4%前後であり、自由度がなさすぎると思っていた」と発言。「そこで0.5ポイント増やし、約200億円を追加した。5G市場が立ち上がりつつあるなかで、その市場を急ピッチで立ち上げることに加えて、顔認証などのDigital IDプラットフォームや、DXを推進するためのNEC Digital Platformといった共通技術基盤を早急に立ち上げるためのスタートダッシュにつなげたい。投資した分は、2022年度以降の利益の増加分で相殺していく」とした。

 また、同様に「CFOになったときから問題意識」としたのが、社内インフラへの投資だ。

 「NECは、2008年からGlobal Oneプロジェクトを推進し、基幹システムの刷新に取り組んできたが、そこには残された課題があった。そこで、Transformation Officeを設置して、NECのインフラを変えていくことに取り組んでいる。ITシステムだけでなく、業務システムの改革、制度の改革も含めて実施している。これまでのIT投資額に加えて、追加投資を進めており、大きな成長のための基盤を作るという意味で大切な強化である」とした。