インタビュー

AIデータセンターに必要とされる設計・製品とは、シュナイダーエレクトリックのニルパ・チャンダー氏に聞く

 AI活用が拡大し、AI向けデータセンターの需要が高まっている。これに伴い、電力使用量が拡大し、脱炭素や持続可能性との両立が課題となっている。シュナイダーエレクトリックでは、エネルギーとサステナビリティの課題に対するソリューションを発表しているが、その考え方について、同社のインターナショナルリージョンにおける「セキュアパワー&データセンター」部門シニア・バイスプレジデントのニルパ・チャンダー氏に聞いた。

シュナイダーエレクトリックのニルパ・チャンダー氏

AIデータセンタープロジェクトを迅速化

 よく知られるように、AIデータセンターにはこれまでのデータセンターとは異なる要件がある。データセンターは、一般企業・組織向けのハウジングやエンタープライズ向けのコロケーションから、クラウドサービス用高集積サーバー向けへと変化した時、給電能力やそれに伴う冷却能力の要件がかなり拡大した。AI向けとなると、必要な電力はさらに10倍になると、チャンダー氏は言う。

 ただし、技術の進展が速すぎることもあり、AIデータセンターは標準化されていない。このため、コンポーネントとして何を選べばいいか分からないし、建設やリノベーションのコストがどのくらい必要か分からないという状況が発生する。

 シュナイダーエレクトリックでは、そうした場合に参考にできる資料となる参照設計(リファレンスデザイン)を、NVIDIAと共同で開発して公開している。これは、いわゆるマーケティングドキュメントではなく、専門のシステムエンジニアによる検証済みのデータセンター設計であり、電気、機械、ITスペースシステムをカバーする物理インフラシステムの構成と配置方法を示している。新規構築や改修、あるいはコンテナDC構築などのデータセンタープロジェクトの出発点となり、プロジェクトの迅速化を図るのに有用なツールだ。

 一方、GPUの性能が上がることによって、データセンターに必要な設備は変化する。物理インフラは一度作ってしまうとそう簡単に変更できないが、GPUの進歩にできるだけ対応できるようにするために、GPUのベンダーと物理インフラのベンダーが緊密に連携することは重要だ。シュナイダーエレクトリックと、GPUベンダーの中でもトップシェアを誇るNVIDIAの連携は、AI活用の進展にとって意味がある。

 「NVIDIAを中心に、業界の開発スピードがとても速いので、既存のインフラがどんどん時代遅れになってしまう。そこで、技術提携することで、将来にわたってAIのインフラストラクチャの技術革新を進めていく」(チャンダー氏)

受電から排熱まで一貫したアプローチ

 AIシステムの需要が高まることで電力と持続可能性の問題が加速している。電力を大量に使うAIデータセンターでは、電気をできるだけ無駄なく効率的に使わなければならない。

 まず、系統電源から供給された電力を効率よくチップまで届ける必要がある。また、チップで発生した熱をいかに効率よく外部に排出するかがもうひとつの課題だ。シュナイダーエレクトリックでは、この2つの課題について「Grid to Chip, Chip to Chiller(電力網からチップまで、チップからチラーまで)」というアプローチで、製品ポートフォリオをそろえている。

 例えばGrid to Chipでは、受変電設備からUPS、バスダクト、ラックマウントPDUなどをラインアップしている。

Grid to Chip

 最近では、同容量の製品では業界で最もコンパクトかつ高密度な無停電電源装置(UPS)である「Galaxy VXL」を、2024年12月に発売した。これは、AIデータセンターをはじめとする大規模電力ワークロード向けに設計され、業界平均と比較して52%の省スペースを実現している。コンテナDCにも対応可能だ。

 一方、Chip to Chillerの分野は、DLC液冷却技術のソリューションベンダーMotivair Corporationを2025年2月に買収し、コールドプレートやマニホールドなど、コールドプレートやマニホールドまで含めてポートフォリオが完成した。

Chip to Chiller

AIによる効率化で消費電力を抑制

 シュナイダーエレクトリックといえば、物理的な製品だけでなくデータセンターインフラストラクチャ管理(DCIM)のベンダーという側面も強い。「EcoStruxure IT」は、マルチベンダー対応のDCIMソリューションで、ひとつのITラックから大規模なIT、オンプレミス、クラウド、エッジに至るまで、安全な監視、管理、計画、モデリングにより、事業継続性を確保する。

 さらに2025年3月には、NVIDIAとETAPの技術的なコラボレーションにより、設計・運用面でGrid to Chipの効率化を図る最先端デジタルツインを発表した。

 ETAPは電気設備の設計、解析、監視、運用、自動化のソリューションで、シュナイダーエレクトリックのクラウドベースのプラットフォームに統合されている。NVIDIAが提供するNVIDIA Omniverse クラウド APIにETAPが持つ電力領域の高度なデジタルツインテクノロジーを統合することで、AIデータセンターの電力使用をエンドツーエンドでシミュレーション可能なデジタルツインを構築した。

 これにより、AIデータセンターの設計や運用改善において、効率、信頼性、持続可能性を向上できるという。AIによる消費電力の増加で電力不足が懸念されているが、「AIデータセンター自体をAIにより最適化することで、消費電力を削減できると考えている」とチャンダー氏は言う。またSchneider Electric Research Instituteは、「2026年から2030年までに、インフラのエネルギーロスを減らすことで3.6%、さらにコンピュータ処理の効率を上げることで14.4%、合わせて17%の電力使用量削減が可能」というレポートを出している。

 チャンダー氏は、「AIの成長のために、我々のようなテクノロジープロバイダーが電力供給と冷却の双方でNVIDIAと協力することは重要」と強調する。さらに日本市場については、「テクノロジーの受け入れ状況も進んでいるし、政府方針としてAIの優先度が高い。各国からの投資も集まっている。日本市場は伸びていくだろうと期待している」と述べた。