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NEC、自らの強みを生かせる“コアDX事業”強化に本腰、成長のキードライバーに位置付け

 日本電気株式会社(以下、NEC)は9日、コアDX事業の強化に乗り出す方針を示した。

 NECでは、5月12日に発表した「2025中期経営計画」において、国内IT事業のトランスフォーメーションを行う「コアDX事業」を、「グローバル5G事業」、「デジタルガバメント(DG)/デジタルファイナンス(DF)事業」とともに、成長事業のひとつに位置づけている。2020年度には売上収益が1410億円、調整後営業利益率はマイナス3%だった実績を大きく改善。2025年度には、売上収益で3.5倍となる5700億円、調整後営業利益率で13%を目指すことを明らかにしている。

 またデジタル人材を、現在の5000人体制から20205年度には1万人に倍増する考えを新たに示した。

 NECの森田隆之社長兼CEOは、「顧客向けDX事業の中心を担うのが、全社横軸組織のデジタルビジネスプラットフォームユニットとなる。ここに、NEC社内で実践したDXの経験や知見、NECが持つ業種ノウハウ、NECが誇る世界レベルの研究所のコア技術を集約し、生きたナレッジとしてパッケージ化するとともに、DX人材の力を結集して、上流からDXの実現までをサポートしていく。さらに、市場からの声を常に取り込み、進化するエコシステムとして展開していく」と発言。

 「NECのすべての事業がDXに関わるものだが、NECの強みが生かせる上流からのワンストップアプローチや、ICT共通技術基盤などの領域をコアDXに位置づけ、成長のキードライバーに位置づける」とする。

NEC 代表取締役 執行役員社長兼CEOの森田隆之氏

 また、NECの吉崎敏文執行役員常務は、「日本においては、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)などのDX推進リーダーを設置する動きが積極化しており、63%の企業で設置している。しかも、その多くが役員であり、経営課題とデジタル課題を共通のものとしてとらえている企業が多い。だが、こうした組織や役職を作ったとしても、ロードマップがなかなか描けない、事業への展開が進まないといった課題がある。特に、人材不足は最大の課題であり、これはほかの国に比べも日本が最も多い課題だ。こうした課題解決の観点からNECはDX支援を進めていく。これまで取り組んできたDX推進の軸は変えないが、これを中期経営計画に乗せ、全社展開によって推進するという点で強化していくことになる」と説明した。

NEC 執行役員常務兼デジタルビジネスプラットフォームユニット長の吉崎敏文氏
国内DXの現状

3つの具体的な取り組み

 コアDX事業の強化の具体的な取り組みとして、「ビジネスプロセスに沿ったアプローチの推進とDXオファリングメニューの拡充(ビジネスプロセス)」、「NEC Digital Platformの強化(テクノロジー)」、「リーダーシップを持ってDXを進める人材育成(組織・人材)」の3点を挙げた。

DX推進に必要な3つの要素

 「ビジネスプロセス」では、過去1年間に獲得した7業種50社以上のDXリファレンスにつながるプロジェクトをもとに、ビジネス上流の構想策定から実装、実践、運用、アップデートまでのDXに関する戦略コンサル構想を策定。200人のNECのDX戦略コンサルタントが、NECグループのアビームコンサルティングと連携し、企業のDXをサポートするという。

顧客視点アプローチ(コンサルテーション)

 さらに、DXオファリングメニューについても、NEC自らのDXに関する経験を踏まえた働き方改革やモダナイゼーションに加えて、スーパーシティやデジタルガバメントなどのNEC Safer Cities領域にも拡充。これまではNEC Value Chain Innovationによる業種ごとの「企業と産業のDX」に加えて、NEC Safer Citiesによる「社会と暮らしのDX」にも取り組む考えだ。これにより、全社規模でDXを提案するオファリングメニューへと拡大することになる。

 ここでは、グローバル標準の都市OS基盤「FIWARE」を活用して、スマートシティでは13自治体、スーパーシティでは17自治体に事業主体としてNECが取り組んでいることや、新たに官庁向けクラウドサービスを提供して、行政の迅速なデジタル化に貢献していく姿勢を示した。

DXオファリング

 また、東京2020 オリンピック・パラリンピックでは、40以上の競技場や選手村などでの大会関係者の入場時に、顔認証による本人確認システムを導入し、数十万人が利用した実績も紹介した。

東京2020大会での顔認証活用

 NECの吉崎執行役員常務は、「DXにおいて、なにを目的にして、なにを変え、どう取り組んでいくかを、顧客視点のアプローチと、DXオファリングを通じて提案することになる。DXの目的は、イノベーション創造、顧客接点改革、業務改革の3点に集約される。NECが持つ経験、知見をプリセットし、オファリングに変えて提供し、スピーディーに課題を解決し、変化をチャンスに変えていく。また、アビームコンサルティングをグループ内に持つことは、NECの大きな強みになる。さらに、NECには、ITとネットワークに関わってきたエンジニアがおり、これらのエンジニアを上流の構想策定の領域に活用していく新たな取り組みを開始する」などとした。

 「テクノロジー」では、NECの強みである世界ナンバーワンの精度を持つ顔認証技術や虹彩認証技術、5Gネットワークなどのコアアセットを、NEC Digital Platformに集約うする。さらに、Amazon Web ServicesやMicrosoftなどのハイパースケーラーとのパートナー協業によって、グローバル市場への展開を強化。日本を含むグローバルのユーザーニーズに対して、柔軟に、スピーディーに対応する。

NEC Digital Platform

 Microsoftとの協業では、両社の約40年間のパートナーシップをもとに関係を強化。世界12万人のNEC社員がMicrosoft Azureを活用し、そのノウハウをもとに顧客のDX推進を支援するとのことで、NECグループ全体で、マイクロソフトの技術に特化したデジタル関連人材を倍増させるという。

 またAmazon Web Services(AWS)との協業では、9月8日に新たにパートナーシップの内容を強化したと発表。デジタルガバメントとグローバル5Gに協業領域を拡大し、グローバルでの官公庁をはじめとした業種特有のレギュレーションに対応したマネジメントサービスを提供したり、NECの基幹システムの移行事例の活用、ハイブリッドクラウドを実現するオファリングメニューの提供などを行う。

 なお、2022年度までに、NECグループにおいてAWS認定資格保有者を3000人に倍増させるという計画は順調に進んでおり、現在、2000人の認定者がいるとした。

 AWS セールス・マーケティング担当のマット・ガーマンシニアバイスプレジデントはビデオメッセージを送り、「NECは、戦略的パートナーであり、同時に顧客でもある。両社の経験をもとに、企業や政府機関がクラウドによってDXを推進できるように共同で取り組んでいる。協業拡大により、顧客を支援できることを楽しみにしている」と述べた。

Microsoftとの協業
AWSとの協業

 また、NECの吉崎執行役員常務は、「2021年度には、NISTによる評価で顔認証と虹彩認証のダブルで世界トップを獲得した。強い技術を持っていることは差別化になる。航空会社が加盟するスターアライアンス向けに、顔情報と搭乗券、パスポート情報を紐づけ、搭乗手続きは顔を見せるだけで可能になる環境を提供。世界の約50空港で、非接触で、安全、安心な人の移動をサポートすることができている。また、ハワイの5空港では、オファリングを活用することで、ウォークスルー体温検出ソリューションを約1カ月で導入した」などと述べた。

 そして、3つめの「組織・人材」では、DX人材育成プログラムを再定義するとともに、再整備することで、社内人材のデジタルシフトを実践。デジタル人材を2025年度までに1万人に倍増する。

 デジタル人材には、コンサルタント、サービスデザイナー、アーキテクト、ビジネスデザイナー、アジャイルエンジニア、データサイエンティスト、クラウド系人材、生体認証・映像分析人材、サイバーセキュリティ人材などが含まれる。

 また、社内で実践している人材育成プログラムを「NECアカデミー for DX」として、外部の企業にも提供。ビジネスとテクノロジーの両面でDXを実現する人材を強化し、社会全体のデジタル人材の育成強化にもつなげるという。

 吉崎執行役員常務は、「AI、セキュリティ、クラウド、デザイン思考で培った育成ノウハウを集結し、デジタル時代に必要となるDX人材の育成をワンストップで提供する。また、スペシャリストとしてユーザーに提供できるNEC社内の人材を、NEC DX innovators 100として順次発表していく。ビジネスリードとテクノロジーリードにわけており、まずは16人を発表している」などとした。

NECアカデミー for DX
NEC DX innovators 100

 NECでは、今後のDXを支える技術として、量子コンピューティングや量子暗号などの量子技術、Beyond 5Gや6Gなど最先端の技術、高度AIなどを活用した先進的個別化治療への取り組みなどを挙げ、社会全体のデジタルシフトを推進する考えも示した。
NECの森田社長兼CEOは、「NECは、2019年度からDXの推進を本格化しており、仕組み作りや、DX支援を進めてきたが、コアDX事業を強化することで、2025中期経営計画の達成と、さらなる成長に向けて、DXの取り組みを進化させる」と述べた。