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NTT、次世代通信「IOWN」で超低遅延の100Gbps専用線サービスを提供へ

IOWNの第1弾サービスとして2023年3月から提供開始予定

 日本電信電話株式会社(以下、NTT)の島田明社長は、「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)」サービスの第1弾として、APN(オールフォトニクスネットワーク)サービス「IOWN 1.0」を2023年3月に提供開始すると発表した。100Gbpsの専用線サービスであり、ユーザーがエンド・エンドで光波長を占有できる。

 また、IOWNサービスの今後のロードマップについても説明し、2025年に開催される大阪・関西万博において、「IOWN 2.0」の商用化を発表する計画も明らかにした。さらに2030年以降には、「IOWN 4.0」として、電力効率が100倍、大容量化が125倍、遅延が200分の1という目標を達成することもあらためて強調した。

IOWNの性能目標

 これらの計画は、2022年11月16日~18日の3日間、オンラインで開催している「NTT R&Dフォーラム―Road to IOWN 2022」で行われた島田社長の基調講演「IOWN 1.0―IOWNサービススタート」のなかで示された。同イベントは、IOWNを中心としたNTTグループのR&Dへの最新の取り組みを紹介する内容となっている。

NTTの島田明社長

従来比200分の1の低遅延化と、光ファイバーあたり1.2倍の大容量化を実現

 IOWNサービスの第1弾として、2023年3月に提供を開始する「IOWN 1.0」は、100Gbpsの専用線サービスで、ユーザーがエンド・エンドで光波長を占有。光波長のまま伝送することで、既存サービスに比べて200分の1の低遅延化と、光ファイバーあたりの通信容量では1.2倍となる大容量化を実現した。

 「特に遅延については、IOWNの2030年の目標性能をクリアすることになる。IP/Etherサービスでは遅延が大きいときと小さいときがあるため、遅延の予測が難しく、細かい複雑な作業を遠隔で実施することは困難だった。IOWNでは遅延における揺らぎがなくなるため、予測が可能となり、さまざまなサービスに応用可能になる」とした。

 さらに、遅延の可視化と調整機能によって、遠隔地間での接続タイミングをあわせることが可能になるという。

IOWN 1.0サービスの特徴

 NTT R&Dフォーラム―Road to IOWN 2022において、「Road to IOWN―射光」と題した基調講演を行ったNTT 常務執行役員 研究企画部門長の岡敦子氏は、「現在の光ファイバーは、途中で多くの電気光変換を行っている。電車で乗り換えを行っているようなものである。これを光のダイレクトパスに変換するのがAPNサービスであり、直通電車に乗るようなものである」と比喩。「従来よりも大容量で、低遅延、セキュアなネットワークを形成でできる。また、光は波長を変えることで、1本のファイバーのなかに別々のネットワークを作ることができる。従来型のインターネットプロトコルと、医療専用プロトコルといったように機能や役割別のネットワークを作ることができる」と述べた。

IOWN 1.0サービスの概要

 IOWN 1.0による適用例も示した。遠隔医療の分野では、安定したロボット操作が可能になり、遠隔での手術の内容を拡大。すでに遠隔手術ロボット「Hinotori」で共同実験を行っていることを紹介した。

適用例1:遠隔医療

 スマートファクトリーの領域では、化学プラントにおける危険箇所でのロボットによる遠隔メンテナンスが、eスポーツ分野では、遠隔地のプレーヤー同士を結び、ストレスがなく、公平なプレイが可能になる環境が、それぞれ実現できるという。

適用例2:スマートファクトリー
適用例3:eスポーツ

 また、地域のデータセンターと、ハイパースケーラーのデータセンター間をAPNサービスで接続することで、ひとつのデータセンターとして扱うことも可能になるとのことで、すでにAWSジャパンが採用を検討しているとした。

 AWSジャパンの長崎忠雄社長は、「IOWNのAPNを活用することで、AWSのサービスのスピーディーな展開、品質の向上に期待しているほか、低消費電力化により、カーボンニュートラルの課題解決にもつながると期待している。AWSの次世代サービスの構築という点でも期待している」などと述べた。

適用例4:データセンター間接続

光電融合デバイスの開発状況を説明

 また今回は、光電融合デバイスの開発状況についても説明した。

 光電融合とは、光回路と電気回路を融合させ、小型化、経済化、高速化、低消費電力化を実現する技術。ネットワークだけでなく、コンピューティングの世界にまで適用することで、大幅な電力削減を図ることも可能になるという。

 島田社長は、「IOWNの最大の特徴は電力効率の向上であり、光電融合デバイスは低消費電力化に貢献するキーとなるデバイスである」と説明。2023年度にネットワーク向けの小型・低電力のデバイスを商用化すると説明した。「従来は複数のデバイスで構成していたものを同一のパッケージに組み込み、大幅に小型化することで、低電力化を図れる」(島田社長)。

 2023年度には400Gbpsのデバイスを投入するほか、2025年度には800Gbpsのデバイスを商用化する計画で、「デバイスを小型化するため、伝送装置などのネットワーク装置の小型化も実現できる。運用の簡素化も可能になる」と、そのメリットを説明した。

 また、2025年度にはボードとボード間、ボードと外部インターフェイス間の接続に光を利用できるボード接続用デバイスを商用化。これを第3世代の光電融合デバイスと位置づけている。「これにより、いよいよコンピューティングの利用が可能になる」という。

 2029年度には第4世代とて、ボード内におけるチップ間を光電融合技術で接続。2030年度以降には、第5世代としてチップ内での光接続を可能にする。

 島田社長は、「光電融合デバイスを、APNサービスやサーバーにも適用することで、IOWNの高度化を図ることができる」と述べた。

光電融合デバイスのロードマップ

 NTTによると、2023年度には、ネットワーク向け小型/低電力デバイスをAPNサービスに適用。APNサービスの電力効率を向上させるという。また2025年度からは、第3世代の光電融合デバイスを活用することで、IOWN 2.0を提供。ボード接続用デバイスを、APNサービスだけでなくサーバー分野に利用し、適用範囲の拡大を図るとする。

 島田社長は、「2026年度には、光電融合デバイスを搭載した低消費電力サーバーが商用化できるだろう。光電融合デバイスに加えて、波長技術や光ファイバー技術の向上により、IOWN 2.0では、電力効率がAPN部分で13倍、サーバー部分では8倍となり、大容量化は6倍になる」とした。

 さらに2029年度には、チップ間の接続が可能なデバイスにより、IOWN 3.0を提供。2030年度以降にはチップ内を光化することでIOWN 4.0を提供し、消費電力の大幅な削減を図る。

 「IOWN 3.0では、125倍の大容量化を達成し、電力効率はサーバー部分で20倍程度に向上する。IOWN 4.0では、電力効率が100倍、大容量化は125倍、遅延は200分の1という目標を達成する」と述べた。

光電融合デバイスの展開

 一方、岡常務執行役員は、「光の通信は、コンピュータのなかに入り、カートレベルを光の導波路でつなぐことでサーバーの筐体が取り払われる。光の線は距離減衰が極めて小さいため、従来よりも大規模な並列演算や、メモリの共有ができるようになる。さらにボード内の導波路を光化することで、ボードの壁を撤廃し、強力なコンピューティングシステムを作ることができる。これを光ディスクアグリゲーテッドコンピューティングと呼んでいる」と述べた。

NTT 常務執行役員 研究企画部門長の岡敦子氏

 岡常務執行役員によると、IOWN構想の検討が開始されたのは、2019年4月に発表した光トランジスタの実現がきっかけになっているが、1988年には電気学会が発行する100周年記念特集号にNTTの研究者が寄稿した記事が掲載されており、この時点で、IOWN構想で実現する光インターコネクションやコヒーレントイジングマシンであるLASOLV、光電融合、光ニューラルネットワークなどにつながる技術が紹介されているという。

 また岡常務執行役員は、IOWN構想の発表以降、IOWNグローバルフォーラムのメンバーなどとユースケースを検討し、必要な技術要件を議論していることに触れ、すでにIOWN方式に準拠した装置がメンバー企業から発表されて、本格的な実証フェーズに入っていることを示した。

 このほか、NTTの国内研究所と、NTTグループ各社が所有するデータセンターをAPNで接続し、光ディスクアグリゲーテッドコンピューティングと、データ共有を可能にするデータハブ、最新セキュリティ技術などのIOWNの成果を順次導入。大規模で実践的な環境での検証を通じて、サービス開発を加速していることも紹介した。

 「現在、データセンターのトレンドは大型化であるが、土地の確保や電力確保が問題となっている。大規模データセンターは、再生エネルギーだけで大量の電力をどう賄うことができるのかといった問題にも今後は直面することになるだろう。IOWNによって、データセンターの分散化が可能になり、APNで接続した中小規模のデータセンターがひとつのデータセンターのようにして稼働できれば、電気を遠くに送る非効率性を解決でき、エネルギーの地産地消も可能になる」とした。

 データセンターの分散化を実現する技術として、光ファイバーの伝送容量を1波長あたり1.2Tbpsで伝送できる「デジタルコヒーレント信号処理回路」と、ブラガブルトランシーバー向けの「400Gbpsコパッケージ」の開発の成功を挙げた。

 「デジタルコヒーレント信号処理回路は、研究室レベルでは2Tbpsを達成しているが、まだまだ伸びしろがある。また、800Gbpsコパッケージの実現に向けた研究開発も進めている。データセンターの省エネ化にも貢献できる」とした。

 岡常務執行役員は、「IOWNの光がともり、IOWNを届けられる状況になっている。射光という言葉がイメージできる」とした。

デジタルツインコンピューティングの展開についても紹介

 島田社長の基調講演では、IOWN構想のなかで重要な技術に位置づけているデジタルツインコンピューティングについても触れた。

 IOWNのフレームワークは、APNとサーバー基盤、光電融合デバイスのほかに、あらゆるものをつなぎ、それを制御するコグニティブファウンデーション、実成果とデジタル世界の掛け合わせ未来予測や最適化を実現するデジタルツインコンピューティングの技術によって構成されている。

IOWNのフレームワーク

 「デジタルツインコンピューティングは、現実のヒト、モノ、コトのさまざまなコピーを、サイバー空間で表現した上で、データ分析や未来予測などのシミュレーションを行い、その結果に基づいて最適な方法や行動を現実空間にフィードバックし、現実空間のプロセスの改善などにつなげることができる」とし、アーバンネット名古屋ネクスタビルにおいて、デジタルツインコンピューティングを利用した街づくりの実証実験を行っていることを紹介。「これらの実証実験をもとに、空調制御とフードロスについては商用化することになる。今後、サービスを拡充し、さまざまな街で展開していく」サービス

デジタルツインコンピューティング

 島田社長は、IOWN構想が今後重要な役割を果たす背景についても説明した。

 「データドリブンの社会が訪れ、膨大なデータを扱うようになり、さらに、データ処理に必要となる電力消費量大幅に増加する。これに対応するのがIOWNになる」と語る。
 ハイビジョン動画スムーズに視聴するには、1.5Gbps程度の回線スピードが必要であるのに対して、16Kの映像ではその約750倍のスピードが必要になること、今後、メタバースの普及が予測されるなかで、2次元データが3次元データになることで、必要となるデータ量は30倍に増加。IoTによる接続が増え、2017年には270億個だったデバイス数が、2030年には1250億個にまで増加することなどを示す。

 そして、「これに伴い消費電力も増加することになる。予測によると、データセンターの消費電力は、2018年には、日本で14TWh、世界で190TWhであったが、クラウド化のさらなる進展に伴い、2030年には日本で約6倍の90TWh、世界では13倍の2600TWhまで増加することになる。さらに、VRやAR、ドローンやロボット、自動運転を普及させるためには、さらなる低遅延化が求められている。例えば、VRは20ms以下でないと人の動きよりも映像が遅れて見えてしまうため、VR酔いしてしまう。データ量の増加、消費電力の増加、ネットワークの遅延などの問題をIOWNで解決していくことになる」と語った。

課題をIOWNで解決