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NTT東日本の澁谷新社長が会見、非回線事業による収益構造への転換をいっそう推進へ

新たな事業分野の成長により、2025年度には回線収入を50%以下にする目標を示す

 東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)の新社長に2022年6月17日付で就任した澁谷直樹氏が、6月28日に会見を行った。

 NTT東日本の澁谷社長は、「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業を目指す」と基本方針を打ち出し、「その実現に向けて、共感型DXコンサルティングの実現、フィールド実践型エンジニアリングの強化の2点に取り組む」とした。

地域と向き合う新たな経営スタイル

 さらに澁谷社長は、「従来の経営は、生産性向上への取り組みを通じて、企業の利益の最大化を図ることが目的であったが、これからの経営は、事業を通じて、多様な生態系の保存、さまざまな文化の維持や継承に貢献するなど、さまざまな形で社会に貢献することが求められている。企業の利益と効率性に加えて、社会への貢献と多様性を両立させる経営が重要になっている。そこに挑戦していく」と述べる。

 また「日本は、少子高齢化や後継者不足、社会インフラの老朽化、地球温暖化対策など、さまざまな課題を抱えている。これらの課題を解決するだけでなく、持続可能な価値を創造する取り組みが必要である」とも話した。

 さらに、「NTT東日本は、今後、非回線による収益構造にどう転換していくかが鍵になる」と述べ、「2025年度には、新たな事業分野の成長によって、光を含めた回線収入を50%以下にしたい。セキュリティ、Wi-Fiサービスなどの中小企業向けの高付加価値サービスや、法人部門によるシステムインテグレーションやBPOサービスの強化に加えて、ソーシャルイノベーション型ビジネスによる地域を支える事業の成長に取り組む」との意気込みを示した。

地域と共感しながら課題を解決していく

 澁谷社長が掲げた「共感型DXコンサルティングの実現」では、「従来型の課題分析、提案、実行といった答えありきのアプローチではなく、地域のお客さまと向き合い、地域そのものに飛び込み、ともに考え、試行錯誤しながら実行に移すことで、地域と共感しながら、課題を解決していくことになる。地域密着企業であるNTT東日本ならではの経営スタイルを磨いていく」とした。

NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員の澁谷直樹氏

 澁谷社長は、これまでの地域課題の解決手法では、限界があるとも指摘する。

 「人手不足という課題に対しては、デジタルを活用した自動化などの方法があるが、これでは、一度は課題を解決できるものの、人口減少や産業衰退などの根本的な課題は残ってしまう。今後は、持続可能でサステナブルな仕組みを作り上げる必要がある。具体的には、地域資産の価値を再発見し、デジタルの力で拡張することにより、新たな産業や雇用を生み出す、といったことがあげられる。循環型の仕組みを地域に導入し、持続可能な地域の仕組みを作るソーシャルイノベーション型の取り組みが求められている。ここにNTT東日本の役割がある」とする。

 東日本地域で、数万人の営業、技術の社員が活動し、ICTとデジタルの技術を持っているという点では、「NTT東日本はオンリーワンの企業である」と自信を見せる。

 文化や土地が持つ価値を、DXで標準化するのではなく、デジタルで再定義して伸ばしていく考えを示す。「地域の価値があがり、収益があがり、その一部をシェアしてもらう」のが、NTT東日本が目指すビジネスモデルだ。

 もうひとつの「フィールド実践型エンジニアリング」では、地域の価値創造のために必要となる産業の育成、文化の継承、エコな街づくりなどに対して、一元的に取り組む姿勢を示し、「実フィールドで価値を実現できるエンジニアリング力と、電気通信で培った技術力をベースにして、この取り組みを強化していく」と述べた。

 ここでは、地域の価値創造に向けて2つの事例を示した。

 ひとつは、アートのデジタル化により、地域の資産価値を新たに創造した事例だ。

 長野県小布施にある岩松院の葛飾北斎の天井画をデジタルアーカイブとして保存、発信したり、バーチャルリアリティによる新たな鑑賞体験を実現したりといったことが可能になる仕組みを構築。「現地に行かなくても作品を近くで見ることができ、実際に触れることもできるという、デジタルならではの新たな価値を創造できた。だが、それだけにとどまらず、現物を見るために、リアルの旅行者の数が増加しているという効果も生まれている。地域に人を呼び、街が活性化し、文化遺産や伝統技術を保存、発信することに貢献できる」とした。

地域の価値の再発見

 2つめが、地域循環型への変革と位置づける畜産、酪農業でのサステナビリティへの取り組みである。

 乳製品加工業との連携により、牛から良質な生乳を生産するだけでなく、大規模施設園芸事業者などとの連携により、糞尿をグリーンエネルギーやたい肥に活用し、発生した熱を利用してマンゴーやメロンなどの高付加価値の作物を育ているという。

 「持続可能な循環型エコシステムを地域内で実現することで、広い農地が持つポテンシャルを最大限に生かし、新たな価値を創造し、産業を育て、環境にも優しいソーシャルイノベーションが実現することになる。カーボンニュートラルの実現にも貢献できる」とする。

 こうした取り組みは、次世代型園芸にも進化させることができるという。デジタルデータを活用した生産性の向上、病虫害に強い品質への改良支援といった取り組みのほか、デジタル空間における仮想市場の構築により、産直販売の実現、販売ルートの拡大、CO2排出量の削減などにも貢献できる。「仮想化による流通改革も支援していきたい」と述べた。

地域循環型への変革

 澁谷社長はアイデア段階であることを示しながら、「アウトドアとデジタルを組み合わせてなにかできないか。あるいは、満天の星を見ながら、テクノロジーを活用してまちおこしができないか、といったことも考えたい」とした。

 さらに、澁谷社長は、「今後、重要な取り組みテーマが2つある」とし、「ひとつはエネルギーを核とした循環型の仕組みの構築であり、もうひとつは地域の価値創造に取り組むデジタル人材を増やしていくための人材の循環である」と述べた。

 「NTT東日本は、政府のデジタル田園都市構想にも数10人のデジタル人材を送り込んでいるほか、地域に人材を派遣し、育成環境も提供し、デジタル人材の育成カリキュラムも提供している。デジタル人材の育成という点からも、地域を支援したい」とした。

 ここでは、「NTT東日本は、通信分野の現場力や使命感はピカイチであり、どこも負けない。だが、デジタル分野の技術力では、NTTデータなどに遅れていると感じている。2025年に5000人のデジタル人材を育成する目標を掲げてきたが、リスキリングをしながら、地域にも人を送り、フィールドにおいて、実践型で活躍できるデジタル人材を早期に育てたい」と述べた。

2025年度には、回線収入を全体の50%以下にしたい

 今回の会見で示したのが、2025年度に回線収入を50%以下にするという目標だ。

 「過去には、電話による収入が減るなかで、光回線を増やすことに力を入れてきた時期もあった。だが、これからはフレッツを含めて、回線に頼らない非回線による収益構造にどう転換していくかが鍵になる。2025年度には、回線収入を50%以下にしたい。そのために新たな事業分野を伸ばす」とした。

 新たな事業分野の取り組みにおいては、ソーシャルイノベーション型ビジネスの成長が重要だという。

 「これまでは、回線の卸モデルから、地域に役立つ会社に変わることを掲げ、商材を売るのではなく、困りごとを聞きに行くという活動を行ってきた。地域には、後継者不足の課題解決、循環型社会への取り組み、まちおこしなどによる地域の活性化などにも取り組んできた」とし、「今後も、課題解決型事業には取り組んでいくが、それだけでは、人手不足の解消を先送りするにすぎない。地域に産業を呼び込んだり、価値が創造できるものを発見したりといったことに、地域と一緒になって取り組む」とした。

 その一方で、「NTT西日本に比べると、連結業績では元気がない。NTT東日本グループ全体で伸びていけるように、地域に役立てるサービスを展開していく」とも述べた。

 澁谷社長は、NTTの副社長兼CTOとして、NTTが推進しているIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)を牽引してきた経緯がある。

 また、NTT東日本での在籍期間が長く、東日本大震災の発生時には、福島支店長を務め、2017年にはNTT東日本において、東京オリンピック・パラリンピック推進室長、2018年にはビジネス開発本部長などを歴任。持続可能な畜産・酪農業の実現と地域活性化を目指したビオストックの設立に携わったり、NTT e-Sportsの社長に兼務で就任したりといった経験も持つ。

 「日本は人口減少や経済規模の縮小など、明るい未来が描きにくい状況にある。通信ネットワークの視点から、NTT東日本ならではの取り組みで貢献したい」と前置きし、「都市部への集中という効率性を重視した集中モデルも選択肢のひとつであるが、この方向では地域が持つ特色ある文化や、多様性が失われてしまう。そこで、分散しながらも、多様性と効率性を両立させるような分散型ネットワーク社会を目指したい」と語る。

分散型ネットワーク社会の実現

 分散型ネットワーク社会の実現を支えるのが、NTTグループが取り組む低遅延、低消費電力のオールフォトニクスネットワークのIOWNと、NTT東日本が導入を進める地域エッジのREIWA(Regional Edge with Interconnected Wide-Area network)プロジェクトの組み合わせだという。

 「IOWNとREIWAによって、分散型情報ネットワーク基盤を構築することができ、リモートワークが当たり前の社会、地産地消型の分散型社会を支えていくことができる」と述べ、「分散型ネットワーク社会では、データ駆動型の効率的な社会の仕組みを実現する必要がある。これは、持ち株会社であるNTTが、データをつなぐ会社になると言っていたのと同じ考え方である。NTT東日本が、それぞれの地域で保有する通信技術、通信設備といったアセットや、デジタルのノウハウを最大限に生かし、データ駆動型基盤には標準化したものを活用。地域のお客さまのデータは暗号化などによって安全な形で保管。データを囲い込むことなく、オープンに活用することを前提とし、さまざまなデータをつなぐことで、地域社会の価値創造に貢献できる」とする。

 IOWNは、2022年度から2024年度にかけて、導入を開始できるようになるという。「NTT東日本は先行して導入することになる」と意欲をみせた。

いろいろな取り組みを仕掛けて日本の地域を元気にしたい

 澁谷社長は、自らの強みを「親しみやすくて、元気で明るい」とする。だが、その一方で、「沈黙に弱い」と語って笑いを誘う。趣味はアウトドア。「海や山に行き、自然と向き合うことで気分転換する」という。

 そして、働き方改革は「筋金入り」と称する。

 「35年前に、船橋、上尾、鎌倉、八ヶ岳で実施したサテライトオフィス実験に自ら挑んだが、当時はISDN回線であったために、あえなく失敗した。苦節35年、やり遂げようと思っていたことが、コロナ禍で大きなチャンスが訪れた」とする。

 その上で、「働き方改革はDXとして考えたい」とし、NTT東日本グループでのオンサイト業務やコールセンター業務などに、テレワークの導入を推進する考えを示す。

 「GPSやドローン画像などを活用して、現地に行かずに劣化診断ができるようになっている。これをやることで、危険作業や現地の作業を減らしながら、リモートで行える仕事を増やすことができる。また、コールセンターでは個人情報を利用するため、テレワークには課題があったが、使用する端末に他人が写り込むと画面が消えたり、デバイスにはデータが残らない環境を整えたりすれば、家でもできるようになる。エッセンシャルな業務もリモートワークにできる。これは私のテーマである」と語った。

 さらに、「NTT東日本の社長となり、熱い情熱で、この会社を引っ張っていけるのは望外の喜びである。いろいろな取り組みを仕掛けて日本の地域を元気にしたい。産官学の垣根を越えて、多くの人たちと連携し、社会にインパクトがあるような大きな取り組みにしていきたい。人は頭ではなく、心で動く。心の経営をやりたい。地域に溶け込みながら悩みを聞いていきたい。困りごとから入らないと、隠れた価値を再発見できない。課題解決ではなく、共感をもとにしたソーシャルイノベーション企業として、地域の価値創造に取り組んでいく」と抱負を述べた。