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NTT東西、超低遅延ネットワーク「IOWN1.0 APN」を3月16日より提供開始
全区間で光波長を専有するオールフォトニクスネットワーク
2023年3月3日 06:00
東日本電信電話株式会社(NTT東日本)および西日本電信電話株式会社(NTT西日本)は、「APN IOWN1.0」サービスを、2023年3月16日から提供を開始する。
APN IOWN1.0は、IOWN構想の実現に向けた最初の商用サービスであり、通信ネットワークの全区間で光波長を専有するオールフォトニクスネットワーク(APN)として提供する。また、APN IOWN1.0上での遅延の可視化と、遅延調整機能を備えた端末装置である「OTN Anywhere」の販売も開始する。
100Gbpsを提供するAPN IOWN1.0の1契約あたりの料金は、月額198万円(税込)。別途、工事費用などがかかる。3月2日から事前受付を開始する。
日本電信電話株式会社(NTT)では、APN IOWN1.0を活用したビジネス実証や、新たなビジネス創造に取り組むことを明らかにした企業および団体として、アマゾンウェブサービスジャパン、グーグル・クラウド・ジャパン、オラクル、エヌビディア、理化学研究所、国立情報学研究所、渋谷区、東急不動産、日本取引所グループ、三菱商事、メディカロイド、吉本興業を挙げた。
NTTの川添雄彦副社長は、「いよいよ構想が現実になる」とし、「NTTは、光を利用して情報を伝送するだけでなく、端末やサーバーで光を利用して情報処理を行うことを同時並行で進めてきた。2019年5月にIOWN構想を発表し、限界打破のために、光を利用した新たなイノベーションを推進してきた。当初は2030年を目標としてきたが、さまざまな要望があり、ステップを分けて、できるところから出していくことにし、今回の発表に至っている」と語った。
IOWN構想は、NTTが推進している、光を中心とした技術によるネットワーク・情報処理基盤構想。高速大容量通信を実現するとともに、これまでの情報通信システムを変革し、現状のICT技術の限界を超えた新たな情報通信基盤の実現を目指している。
IOWNは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、ネットワークから端末までのすべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入する「オールフォトニクス・ネットワーク」、実世界とデジタル世界の掛け合わせによって未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング」、あらゆるものをつないで、その制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション」で構成している。2020年1月にスタートしたIOWN Global Forumには、欧米やアジアの企業など117社が参加。今回、新たにKDDIが参加したことも明らかにした。
APN IOWN1.0は、Point to Pointの専有型100Gbps回線を提供する「高速・大容量」、光波長専有により、ほかのトラフィックの影響ゼロおよびゆらぎゼロを実現し、端末部分を含めてエンドエンド遅延で200分の1を実現する「低遅延・ゆらぎゼロ」、拠点の遅延測定結果をOTN Anywhereにより可視化し、1マイクロ秒単位での遅延調整できる「遅延の可視化・調整」、日本全国において提供する「広範囲な提供エリア」の4点を特徴とする。
「特に、低遅延のメリットを活用してもらいたい。VR連携やロボットの遠隔操作、自動運転の普及には、低遅延が重要なファクターになる。VR酔いをしないためには20msec以下が必要であり、それを大幅に超える低遅延化が可能だったり、低遅延ネットワークを利用して、クラウドで処理することで高い経済性を実現したり、といったことが可能になる。デバイスの小型化、低価格化、低消費電力化にも貢献でき、各種サービスの高度化にもつなげることができる」などと述べた。
具体的な事例のひとつとして、2月10日に実施した「未来の音楽会Ⅱ」を挙げた。東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールと大阪、神奈川の会場を接続し、分散した場所から演奏者が参加して同時演奏を行ったという。「約700km離れた東京と大阪との遅延は4msec。これに映像、音声の入出力が加わって8msecの低遅延で結んだ。これはオーケストラのステージで3メートル離れたときに発生する遅延時間と同じである。光速によって、700km離れていても、同じステージで演奏しているような体験を実現できた」とする。
また医療機関では、手術支援ロボット「hinotori」を活用した遠隔手術の実証実験を開始しており、「低遅延とともに、遅延ゆらぎがない通信の特長を生かし、患者の8K映像を見ながら、遠隔操作が可能な双方向型の環境を実現した。現場の医師からは、同じ手術室にいるのと遜色(そんしょく)がない環境が実現できているという声が出ている。日本全国のさまざまな地域で遠隔手術が可能になる」とした。
注目されているのがデータセンターへの活用だ。
現在は、大規模データセンターが主流となり、多くの電力を使用し、それに伴う電力供給設備が必要になっているが、APN IOWNを利用すると、各地域のデータセンターを結んだ際の遅延がなくなることから、全国各地に分散したデータセンターを連携した活用が可能になる。
「今日は北海道が晴天のため、クリーンエネルギーを利用しやすいということになれば、北海道のデータセンターのCPUやGPUなどのリソースを中心に活用するといったように、その日のクリーンエネルギーの調達量によって、データセンターを切り替えて利用できる。コンピューティングとエネルギーを組み合わせた柔軟な活用ができる」と述べた。
NTT東日本およびNTT西日本では、今回のAPN IOWN1.0のサービス開始にあわせて、端末装置である「OTN Anywhere powered by IOWN」も発売する。
APN IOWN1.0のネットワークサービスにおける遅延の可視化と遅延調整機能を備えた端末装置で、OTU4のインターフェイスを追加。既存装置などから、10GbE、100GbEの光信号を受信して、OTU4に変換して出力できる。拠点の遅延測定結果を、OTN Anywhereのログとして出力して可視化でき、1マイクロ秒単位での遅延調整が可能になる。
APN IOWN1.0のサービスと同様に、3月2日から事前受付を開始し、3月16日から販売を開始する。価格は645万7000円(税込)からとなっている。なお、同端末装置がなくてもAPN IOWN 1.0のサービスは利用できる。
また、APN IOWN1.0を利用するためのネットワーク装置も、富士通、NEC、三菱電機、Cienaから提供されていることも示した。
APN IOWN1.0の料金が月額198万円(税込)、端末装置が645万7000円(税込)となっていることについては、「大変高価であることは認識している。だが、インターネットが初めて商用化されたときのネットワークも高価であった。その後、サービスが広がるのにあわせて、新たな技術が生まれ、ビジネスモデルが変わり、低価格化が促進された。同じことがIOWNでも起きる」と述べた。
今後の展開としては、パートナーや顧客とともに、具体的な利用シーンの創出に取り組む考えを示し、遠隔合奏や遠隔レッスン、eスポーツのほか、4Kや8Kの映像信号を圧縮および復号することなく、リアルタイムで高画質映像のまま伝送し、スタジアムなどの現場から映像編集拠点に配信できるリモートプロダクションなどにも活用。実験計測機などの機器の遠隔操作や、データセンター間の緊密な連携などでの活用を推進するという。
また、2025年に開催される大阪・関西万博において、低遅延に加えて、低消費電力化を実現するIOWN2.0サービスを発表することを明らかにしており、それに向けて、APN関連技術の高度化に向けた研究開発を進めていくとのこと。
さらに、2030年に向けては、これまでのベストエフォート型から脱却し、定めた速度でサービスを提供する「ギャランティード型ネットワークビジネス」や、光電融合技術を活用することで新たな価値を提供する「装置・デバイス・ソフトウェアビジネス」のほか、4Dデジタル基盤やDTC、コグニティブ・ファウンデーションなどの「プラットフォームビジネス」に取り組む考えを示した。
「新型コロナウイルスをはじめとして人類が直面している課題の解決には、まだテクノロジーが足りていないと感じている。ここにIOWNが貢献できる。新たな価値を提供することで、社会や地球に貢献したい」と述べた。
サービス開始にあわせて、APN IOWN1.0を活用したイベントも予定している。
NTT東日本の子会社であるNTT e-Sportsは、3月19日に、東京・渋谷のMIYASIHTA PARKと、東京・秋葉原のeXeField Akibaを、APN IOWN1.0で接続した「Open New Gate for esports 2023~IOWN が創るeスポーツのミライ~」を開催。Apex Legendsを用いたプロ選手によるエキシビションマッチや、プロコーチによるダンスレッスンを実施する。
NTT西日本では、3月20日に、「未来のお笑イブ supported byよしもと」を開催し、大阪・京橋のQUINTBRIDGE、大阪・難波のよしもと漫才劇場、大阪・梅田のLINKSPARK OSAKAを結んだ遠隔漫才、バンド演奏を行う。
eスポーツの競技プレイヤーは、オンライン大会では、プレイ環境の不十分さや、ばらつきを懸念して、参加をちゅうちょしている傾向があるが、APN IOWN1.0により、こうした課題を解決。複数拠点でのeスポーツ大会の開催や観客者の拡大、地方における大規模大会の開催が可能になるという。また、空間を超えて、演者や観客が一体感を得る新たなエンターテインメント体験の提供も可能になるとしている。