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NTT Com、2023年度にDX事業の売上高1000億円へ 丸岡社長が計画の1年前倒しを表明
2021年10月21日 06:30
NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)の丸岡亨社長は、10月20日からオンラインで開催している同社年次イベント「NTT Communications Digital Forum 2021」の基調講演を通じて、同社の事業戦略について説明。それを受けて、報道関係者の質問に応じた。
そのなかで丸岡社長は、2024年度を目標としていたDX事業の売上高1000億円を1年前倒しにし、2023年度に達成する計画を明らかにした。
事業ビジョン「Re-Connect X」
同社では2020年に、新たな事業ビジョンとして「Re-Connect X」を打ち出しており、それについて、「人と人、モノとモノ、人とモノをつなぐことを事業の柱とした。コロナ禍における社会生活、経済活動が大きく変容するなか、さまざまなものをもう一度つなぎなおして、新しい価値、新しい社会に適応し、サステナブルな未来につなげたいという思いを込めて策定した。NTTドコモ、NTTコムウェアとの連携を強化し、さらに一段高いDXを実現したい」と述べた。
また、景況感が改善していること、DX投資への意欲が拡大していること、コロナ禍においては、リモートアクセスへの取り組みを実施した企業が多いこと、DXで解決したい経営課題としては、新たなビジネスやサービスのためのプラットフォームが最も多いこと、インターネット接続サービスであるOCNのトラフィックがコロナ前に比べて2倍になっていることなどを示しながら、「事業に対する継続性の観点から投資を行っている企業が多く、アフターコロナを見据えた事業改革を進める気運が高まっている。また、在宅勤務や在宅学習の広がり、映像データの活用の増大といった動きもある。これはアフターコロナの時代になっても変わらないのではないか」との考えを示している。
社会と未来をつなぐ「Smart World」の取り組み
同社では、社会・産業DXに向けた事業を推進。具体的な3つの柱として、社会と未来をつなぐ「Smart World」、データと価値をつなぐ「Smart Data Platform(SDPF)」、安心、安全、柔軟につなぐ「ICTのトランスフォーメーション」を掲げている。
「これらの取り組みにおいては、データの利活用がテーマになっており、ICTのトランスフォーメーションによってデータを収集し、SDPFによってデータを蓄積、分析し、Smart Worldによって、分析した結果を世の中に還元していくことになる。そして、これらを実現するためには、データの共有、トラスト、共創という3点の要件が大切になる」と述べた。
このうちSmart Worldでは、同社が取り組む7つの領域のうち、スマートシティ、スマートファクトリー、スマートヘルスケアの3点から説明した。「この3つの分野は大きく成長する領域」と位置づけた。
スマートシティでは、人流、交通、CO2排出量、位置情報などを、センサーや認証、データ連携などを通じて収集、分析するSDPF for Cityを提供。「安心、安全で暮らしやすく、省エネルギーで環境にやさしく、ライフスタイル変革を創出できる街づくりに努めている」とした。
ここでは、名古屋市の久屋大通公園で実証実験を開始していることに触れ、「監視カメラなどを活用して、24時間リアルタイムで見守り、データを分析して、人々の安心、安全なまちづくりを進めるとともに、バーチャル空間に街をつくり、リアルとバーチャルの相互送客によるエリアの活性化、新たな顧客体験の創造にも取り組んでいる」とした。
また2021年4月には、東京・田町にCROSS LAB for Smart Cityを開設。スマートシティに関する知見や技術を持つパートナー企業との共創の場として活用しているという。
スマートファクトリーでは、SDPF for Smart Factoryにより、異常検知やマッチングAI、運転支援AIなどの技術を活用して工場内でのデータ活用を行うだけにとどまらず、サプライチェーン全体に展開。新たなモノづくりやサービスの加速、脱炭素社会や資源循環社会の実現が可能になるとした。「スマートファクトリーは、DXに関心が高い領域である。日本の製造業の強化にも貢献したい」と述べた。
ここでは、双日や日商エレクトロニクスなどと取り組んでいる、廃棄プラスチックに関するサーキュラエコノミーの実証についても説明。SDPF for Smart Factoryをデータ分析基盤として再生資源循環プラットフォームを構築することで、企業が排出する再生資源の種類、量、場所を可視化。企業同士をマッチングして、取引に関する受発注も行えるようになるという。
また、欧州のデータ基盤であるGAIA-Xとの相互接続についても触れ、「GAIA-Xとの相互接続では、欧州の製造過程でのCO2排出量をやりとりすることになるが、より多くの企業に参加してもらい、どんな機能が必要なのかといった知見を蓄積したい。グローバルのサプライチェーンの課題を解決するためには、各国間のデータ流通が重要である。まだ入り口だが、取り組むべき大きなテーマであり、日本の製造業や、世界の製造業に貢献したい」とした。
3つ目のスマートヘルスケアでは、SDPF for Healthcareを提供。「医療分野においても、多くのデータを分析し、共有することが重要だが、センシティブな情報が含まれるため、抵抗を持つ人もいる。安心、安全に分析するための秘密計算技術『析秘(せきひ)』を開発し、これを活用した協業を、千葉大学病院と進めているところである。秘密計算にディープラーニングを組み合わせることで、患者個人の臨床研究データを秘匿したまま分析したり、AIによる学習で、新たな治療法の開発や、新薬の開発に生かしていける」と述べた。
また、メドレーおよびNTTドコモとの協業により取り組んでいる新型コロナ自宅療養者向けオンライン診療システムについても説明。「自宅療養者と医療関係者のやりとりは電話が中心だったが、患者の様子を映像で見られるようにした。同時に診療の効率化にもつなげることができる。今後も、この取り組みは積極的に進めたい」としている。
「SDPF」と「ICTのトランスフォーメーション」での取り組み
SDPFでは、これまでに挙げた3つのSmart Worldでの取り組みのほかに、スマートエデュケーション、スマートモビリティ、スマートカスタマーエクスペリエンス、スマートワークスタイルの領域にも取り組んでいる。
「SDPFでは、データを蓄積、分析するためのファンクションの充実に努めてきたが、これらの機能を結びつけ、Smart Worldに適用するための再構築を開始した。また、その裏には、トータルマネージド&セキュリティへの取り組みがある」などと説明している。
NTT Comでは、東京オリンピック/パラリンピックにおいて、ネットワークおよびセキュリティの運用を行ってきた実績があるほか、ゼロトラストに向けて社内のセキュリティを強化。ITに加えて、OTにおいてもセキュリティを確保する取り組みを進めてきたこと、Fixpoinrとの資本提携により、ITおよびIoTの統合監視および運用を強化したことを示しながら、「実践から得たノウハウをトータルマネージド&セキュリティとして提供する」と述べた。
3つ目の柱である「ICTのトランスフォーメーション」では、新たな取り組みとして、「Managed SDPF Edge」に触れた。「2021年10月以降、機能を拡充していくことになる。これにより、データが大容量化することで求められるネットワークインフラ拡充の課題や、遅延の課題、個人情報の漏えいリスクといった課題も解決できる」とした。
なお、ローカル5Gについては、「現時点では製造業への導入が多いが、複雑な建物の構造環境など、一定のエリア内で電波を届かせるという点ではローカル5Gのメリットがある。ローカル5Gとパブリック5Gの組み合わせや、そこに固定回線を組み合わせるといったベストミックスによる提案をしたい」と述べた。
また、丸岡社長は、2024年度を目標としていたDX事業の売上高1000億円を、1年前倒しとなる2023年度に達成させる計画も明らかにした。「DXへの投資意欲が高く、NTTドコモやNTTコムウェアとの連携も進められる。SmartWorldを推進することで、1年倒しにして、2023年度に1000億円以上を目指す」とした。
2030年にはデータセンターとネットワークのカーボンニュートラルを目指す
環境戦略についても説明。2030年には、データセンターとネットワークのカーボンニュートラルを目指していることを示しながら、自社のサプライチェーンを通じたCO2排出量を削減していること、また、データセンターにおけるグリーン電力の調達、IOWNをベースにしたオールフォトニクスを、データセンター内やデータセンター間に展開すると述べた。
加えて、グリーン電力のメニュー化の拡大、顧客のサプライチェーン全体のCO2排出量の見える化なども進め、「サステナビリティトランスフォーメーション(SX)を、社会および産業のDXによって実現していきたい」と述べた。
IOWNデータセンターとして、IOWN技術を積極的に活用。オールフォトニクスネットワークとデジタルツインコンピューティングをデータセンターに導入することで、顧客への利用を促進。同時にオープンイノベーションも推進していくという。
自社のワークスタイル変革も進める
ワークスタイル変革では、「制度・ルール」、「環境・ツール」、「風土・意識」の3点から取り組み、同社では、80%以上のリモートワーク率を実現したことに加えて、社員の満足度も高まっていること、紙の削減やCO2排出量の削減でも効果が出ていることを示した。
「当初は従業員の安全性確保のために、フィジカルディスタンスを前提としたリモートワークであったが、これからのワークスタイルは、従業員一人ひとりが場所や時間にとらわれない働き方を自ら選択できるほか、リアルの場で出会う価値の見直しがはじまっており、今後、オフィスの在り方が変化してくることになるだろう。オフィスの効率化とともに、共創の場として活用する取り組みを開始したい」と述べている。
なお同社では、「クリエイション」、「コラボレーション」、「チェンジ」の3点からワークスタイル変革を推進しているという。また、今後も継続的に7割のリモート比率を維持したいと述べたほか、介護などにより、遠隔地に転居しても勤務ができるようなケースが十数例あると説明した。
10月20日からは、Smart Worldの実現を加速する事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」を開始。事業共創を促進するため、顧客やパートナーが交流できるコミュニティー「OPEN HUB Base」の提供や、オウンドメディア「OPEN HUB Journal」によるビジネストレンドおよび先進事例の紹介に加えて、2022年2月を目標に、大手町プレイスの29階にイノベーションを創出するワークプレイスも開設する。
社内外200人のカタリストが参加し、新たなビジネスを生むための取り組みを行うカタリストプログラム、コンセプトを創る最先端の技術や知見の共有、仲間をつなぐリアルとバーチャルの場の提供を行い、OPEN HUBが提供する「人」「技」「場」を活用しながら、組織や分野の垣根を越え、遊ぶように自由に発想し、試行を繰り返すことでSmart Worldの実現を目指すとのこと。
NTTドコモによるNTT ComおよびNTTコムウェアの子会社化について言及
一方、丸岡社長は、NTTドコモによるNTT ComおよびNTTコムウェアの子会社化について言及。「両社と連携を深めていくという方針は変わらず、できる範囲での検討を進めている。公正競争を確保することを念頭に置きながら、3社での協業を進め、一段高いDXを志向する」と話す。
ただし、「まだ現場での協業は始まっていない」としながらも、「NTT Comがこれまで提供してきたのは、オフィスの拠点間を結んだネットワークを中心にしたICTであったが、リモートワークが当たり前になるなど、社員が自宅にいたり、サラライトオフィスにいたりといったさまざまな働き方を支えるICTの提供へと変わらなくてはならない。DXを推進する顧客企業においても、IoTを中心に分散し、クラウドを活用しながらビジネスを推進する環境になっている。固定系ネットワークでは足りないのが実情であり、NTT Comの顧客に対して、モバイルの提案を行うことで、より高い価値を提供できる。NTTドコモとのリレーションを取っていく必要がある。『ドコモとNTT Comがリレーションを取るとこんなことができるんだ』という理解も進めたい。また、NTTコムウェアのアジャイル開発のノウハウを活用して、新たな価値を提供できるようになる」と述べた。