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NTT東日本、IOWN構想の実現に向け音楽コンサートによる高速・低遅延伝送技術の実証実験を実施

本会場と離れた会場との一体感を実現

 東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)は、IOWN構想の実現に向けて、音楽コンサートによる高速・低遅延伝送技術の実証実験を行った。

 2022年11月7日に開催した「第179回 NTT東日本 N響コンサート」において、会場となる東京・初台の東京オペラシティと、東京・成城のドルトン東京学園の2カ所を低遅延通信技術でつなぎ、約10km離れた両会場での演奏と観客の反応を、双方向で配信。アンコール曲である「ラデツキー行進曲」の演奏をリアルタイムで、東京オペラシティからドルトン東京学園に配信するとともに、ドルトン学園ではスネアドラムの演奏者が現地から演奏に参加。さらに行進曲にあわせて沸き上がったドルトン東京学園の会場での手拍手を、オペラシティに低遅延で配信することで、両会場をあわせて約1600人の手拍子がひとつになり、本会場と離れた会場との一体感を実現した。

実証イメージ
ドルトン東京学園の会場の様子

 IOWN構想は、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTグループが取り組んでいる次世代コミュニケーション基盤構想だ。情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上を目指す「オールフォトニクスネットワーク」、サービスやアプリケーションの新しい世界を実現する「デジタルツインコンピューティング」、すべてのICTリソースの最適な調和を行う「コグニティブファウンデーション」の3つの主要技術分野で構成。2024年の仕様確定、2030年の実現を目指して研究開発を進めている。

 特に、すべてを光で伝送するオールフォトニクスネットワークでは、フォトニクスベースの技術を活用し、現行のインターネット技術に比べて、電力効率で100倍、伝送容量で125倍、エンドトゥエンドの遅延では200分の1に短縮することを目標とし、低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現する。

IOWNとは?
IOWNオールフォトニクス・ネットワーク(APN)のめざす目標と可能性

 一方、NTT ArtTechnologyは、文化芸術分野に特化した企業として、NTT東日本が2020年10月に設立。ICTを活用した文化財の保護や新たな文化芸術鑑賞方法を提案するとともに、場所や時間を超えて、あらゆる人が鑑賞に耐えうる環境を実現し、文化、芸術を楽しむことができる「分散型デジタルミュージアム構想」を打ち出している。地域の価値ある文化や芸術をデジタル化して保存することで、後世に継承するほか、ネットワークで配信して、デジタルを活用した新たな鑑賞方法を提案。地域の活性化につなげるとともに、日本の文化を世界に発信する役割も担うという。

株式会社NTT ArtTechnology
分散型デジタルミュージアム構想

 2022年6月には、東京・新宿のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で、「Digital×北斎」特別展を開催。長野県小布施町の岩松院本堂天井絵「鳳凰図」をデジタル化して、6.3×5.5メートルの実物大で展示した。

 また2022年3月には、東急文化村とともに、「Innovation×Imagination 距離をこえて響きあう 未来の音楽会」を開催し、東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールと、東京・新宿のICCを低遅延通信技術でつないで、サテライトコンサートを行っている。このコンサートでは、演奏者の一部が、約3km離れたICCから演奏に参加。IOWN構想のオールフォトニクスネットワーク技術を活用したリアルタイム・リモート演奏を実現している。演奏者からは、遅延を感じずに、実用化に耐えうる水準に達しているという評価を得たという。

 今回のN響コンサートでの実証実験では、オールフォトニクスネットワークの低遅延伝送技術と、低遅延映像処理技術の2つの技術を用いている。

 低遅延伝送技術では、ルータやレイヤ2スイッチなどの電気処理を主体する通信装置をなくし、非IP方式のレイヤ1通信パスをエンド・エンドに設定することで、物理的極限に迫る短時間の遅延で伝送できるようにした。オールフォトニクスネットワークの端末装置をユーザー拠点に設置することで、ユーザーの手元では100Gbpsを超えるレイヤ1パスを提供し、低遅延を実現したという。

 また低遅延映像処理技術では、伝送される映像を入力された順番に画面配置を制御しながら分割表示することを実現。各拠点の映像を1画面に分割表示する処理を10ミリ秒以下にしたという。これにより、複数拠点の映像を短時間で出力し、離れた会場が一体となった映像を視聴できる。

IOWN技術適用による遅延削減のイメージ
低遅延伝送技術
低遅延映像処理技術

 NTT東日本 経営企画部 IOWN推進室 担当部長の薄井宗一郎氏は、「Web会議などで利用している通常のインターネット通信環境では、数百ミリ秒程度の遅延が発生するため、離れた場所を結んだ演奏はできない。低遅延伝送技術では、ルータやレイヤ2スイッチによる遅延をなくすとともに、非圧縮映像によるコーデック遅延を削減した。さらに、カメラやモニターにもできるだけ低遅延な製品を選定している。コーデックやネットワーク、映像処理、カメラやモニターの低遅延化によって、全体で20ミリ秒以下の低遅延を実現している」という。

 また、「低遅延で音を伝送し、離れていても同じ場所にいるような双方向性を実現することで、遅延によって発生するハウリング対策も容易になる。また、演奏者が感じるリアリティに大きく影響するスピーカーを設置する位置などにも工夫を凝らすことで、演奏者が自然に演奏できる音響環境を構築した」という。

 なお今回の実証実験においては、IOWN Global Forumにおいて検討されているアーキテクチャを採り入れながら、NTT IOWN総合イノベーションセンタで開発している試作品などの技術や、現時点で実現可能な技術も用いているとした。

NTT東日本 経営企画部 IOWN推進室 担当部長の薄井宗一郎氏

 一方、NTT ArtTechnologyの国枝社長は、「今回の取り組みは文化、芸術に対して、かなり大きな発展をもたらす成果になる。音楽だけでなく、ほかの無形文化財のジャンルにも適用可能である」とし、「今回の成果をもとに、アンコールでの演奏だけでなく、メインパートの演奏でもリアルタイム・リモート演奏が成立できるように、技術の適用範囲を拡大したい。また3地点、4地点といった多地点間協奏や、東京・大阪間といったような数100km離れた場所での協奏にも挑戦したい。さらに、音楽コンサート以外の文化芸術分野における応用、遅延がクリティカルとなるeスポーツ分野への適用などを通じて、事業化につなげたい」と述べた。

NTT ArtTechnology 代表取締役社長の国枝学氏

 コロナ禍において、遠隔コミュニケーションへの心理的ハードルが下がり、音楽コンサートのオンライン配信が増加するといった動きが増加している。だが、これまでの通信技術では、音声、映像の合成による遅延が発生し、ひとつの音楽として成立しづらいといったことも課題となっている。今回の実証実験を通じて、これらの課題も解決できるようになり、配信サービスの高度化や、適用範囲の拡大などが期待される。