ニュース

NTTとNEC、データセンターエクスチェンジの実現に向けAPNを活用した光波長パス設定技術を確立

 日本電信電話株式会社(以下、NTT)と日本電気株式会社(以下、NEC)は13日、通信需要に応じたデータセンター間の大容量低遅延接続の実現に向け、IOWN Global Forumでアーキテクチャの制定が進んでいる、APN(All Photonics Network)を活用した光波長パス設計技術を確立し、トリノ工科大学、コロンビア大学、デューク大学、ダブリン大学と共同で、National Science Foundation(NSF)のCOSMOSテストベッドを用いてフィールド実証を行ったと発表した。

 この成果により、これまで熟練作業者が2~3時間以上かけて行っていた光波長パスの設計・設定を、自動化により数分で実施できたと説明。これは、NTTやNECなどがIOWNで提唱している、必要な対地間をオンデマンドに光波長パスで接続し、分散されたデータセンター間で大容量低遅延通信を行うデータセンターエクスチェンジ(DCX)サービスの実現に大きく貢献するとしている。

 開発実証結果に関しては、スコットランドで開催された、光通信技術に関するヨーロッパ最大の国際会議(49th European Conference on Optical Communications(ECOC))で報告し、Best Paperに選出され、スペインで開催されたTelecom Infra Project Fyuz eventで紹介した。

分散されたデータセンター(DC)間で大容量低遅延通信を行うDCXサービス

 NTTでは、AIを活用したサービスの普及に伴い、データセンター需要が急増しており、また光伝送の分野では、デジタルコヒーレント技術やシリコンフォトニクス技術などの技術革新を背景に、DWDMトランシーバーの大容量化・小型化・省電力化が急速に進んでいると説明。この潮流は、コヒーレントDSPとシリコンフォトニクスが一つのパッケージに実装された、Coherent co-packaged deviceなどの光電融合技術によりさらに加速すると考えられ、DWDMトランシーバーを用いた莫大な数の光波長パスを設定するための自動設計・設定技術が求められているという。

 一方、コンピューティングリソースを収容するデータセンターの建設・運用の分野においても、これまで都市部に集中していたデータセンターに対し、電力やインフラスペースが豊富で災害リスクを分散できる郊外への移転が進んでおり、遠隔地を高速・低遅延に接続する光波長パスの必要性が高まっていると説明。しかし、従来のデータセンター間通信(DCI)は一対一のシンプルなトポロジーで、かつ単一ベンダー・単一伝送モードで装置を構成するのが一般的であるため、規模拡張性に乏しく、データセンターの分散化を大規模に進めることが困難だったという。

 そこでNTTは、IOWN Global ForumメンバーであるNECと連携し、都市部に分散している多数のデータセンター間を光ファイバーで直接接続するデータセンターエクスチェンジ(DCX)のサービス実現に向け、技術検証を行ってきた。DCXは、面的に展開した多対多のデータセンター拠点間において、光波長パスを用いて需要に応じて迅速に接続する構成となる。従来のDCIとは異なり、ユーザーアクセス区間・キャリア区間にまたがって複数ベンダーの装置を制御し、リンクの光信号品質に適したさまざまな伝送モードでオンデマンドに光波長パスを設定する必要があるため、DCXの実現には新たな技術開発が必要となっていた。

従来のDCIとDCXの違い

 オンデマンドにエンド・ツー・エンドの光波長パス接続を提供するには、ファイバー伝搬や光アンプ・光伝送装置・光スイッチのノイズによる光信号品質の劣化を、短時間で算出する必要がある。

近年、トリノ工科大学が提案したガウシアンノイズモデルにより、長距離伝送時の光ファイバー非線形光学効果に起因する光信号品質劣化を短時間で計算できるようになり、多くのオペレーターによってその精度が証明されてきた。一方で、DCXが対象とする100~200km程度の短距離区間においては、長距離伝送とは光信号品質劣化の支配要因が異なり、光伝送装置などこれまでに十分に考慮されていなかったノイズの影響を加味したモデル化が必要だったという。

 NTTはこの課題解決に向け、ガウシアンノイズモデルのコンセプトを応用し、短距離区間にも適用可能な光信号品質の計算アルゴリズムを確立するとともに、複数のユーザーアクセス区間・キャリア区間にまたがる場合や多種多様なWDMトランシーバーを利用した場合でも、最小限のプローブ光を通すだけでオンデマンドにエンド・ツー・エンドの光波長パスを設計・設定可能な手法を提案した。そして、トリノ工科大と、ファイバー非線形光学効果と光伝送システム商用実装の知見を持つNECとともにその検証を行った。さらにNTTは、これを実現するためのユーザー拠点端末と通信事業者機器が連携・協調するアーキテクチャおよびコントロールプレーンのプロトコルを考案してきた。

 NECは、NTTが考案したオンデマンド光波長パス設定手法を、IOWN Global Forum, OpenROADM MSA, Telecom Infra Project(TIP)により制定された、オープンなインターフェイスアーキテクチャツールを適用した、Linuxベースのオープンプラットフォーム(ハードウェア、ソフトウェア、規格)を活用して実装した。

 オープンプラットフォームの構成要素として、TIPでオープンに仕様化されたトランスポンダーであるPhoenix, TIPでオープンソースとして開発された、「トランスポンダーを抽象化し、ベンダー間の差異を抽象化するインターフェイス」であるTransponder Abstraction Interface、同じくTIPでオープンソースとして開発されたNetwork OS(NOS)であるGoldstoneをベースとしたNEC NOS、OpenROADM MSAで標準化された伝送モード、IOWN Global Forumにてオープンに規定されたAPN機能アーキテクチャなどを活用した。

 また、NTTとNECは、コロンビア大学・デューク大学・ダブリン大学の協力のもと、NSF出資による米国の学術網「COSMOSテストベッド」で、同手法のフィールド検証実験を行った。COSMOSテストベッドはニューヨーク市に構築された学術網で、マンハッタンに敷設されたフィールドファイバー(BoldynとCrown Castleにより提供)や、光アンプ・光ファイバースイッチ・光波長スイッチ(ROADM)を備えている。このCOSMOSテストベッド上にDCXを模擬した、ユーザーデータセンターとキャリア網、それらをつなぐアクセスファイバーから構成される実験系を構築した。

 NTTとNECが実装した、光信号品質の計算アルゴリズムおよび光波長パス設定手法により、短距離と長距離のルートについて、光信号品質の計算結果をもとに適切な光伝送装置の伝送モードを設定し、約6分で光波長パスの設計・設定が自動的に完了することと、同方式をDCXサービスに適用した場合の誤差が十分小さいことを確認したという。

 今後は、ダブリン大学・デューク大学が推進する、転送学習を使った光アンプ特性推定などの新規機能との連携や、トリノ工科大学が推進しているオープンな伝送設計ツール「GNPy」との連携など、さらなる性能向上および標準化活動を推進すると説明。また、Orangeや中華電信などIOWN Global Forum内の海外キャリアと協力し、光伝送ネットワーク制御のためのオープンなコントローラであるTransport PCEも活用して、IOWN Global Forumにおける機能アーキテクチャへの反映と他団体への普及・標準化活動を通じて、APNの普及・商用実装を推進していくとしている。