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NECの顔認証エンジンが“マスク対応”、社内評価では99.9%以上の高精度を実現

 日本電気株式会社(NEC)は24日、マスク着用時でも高精度な認証を実現する顔認証エンジンを開発したと発表した。マルチモーダル生体認証サービス「Bio-IDiom(バイオイディオム) Services」として、10月上旬から販売を始める。

 新型コロナウイルスの影響から、全世界でマスクをする人が増えており、「マスクをしたまま顔認証ができないのか?という要望が増えていた」(顔認証技術の開発を担当する、NECフェローの今岡仁氏)という。

 今回、マスクをしたまま顔認証を行うエンジンを搭載したBio-IDiom Servicesを発売することで、今岡氏は「商談が進むようになるのではないか」と期待する。

NECフェローの今岡仁氏

 リアルタイム顔認証とサーマルカメラと組み合わせて導入すれば、入退時の体表温測定業務に利用できるなど、コロナ禍で活用できるメリットもあることから、さまざまな場面での導入を進めていく計画だ。

マスク対応のため、主に3つの改善を実施

 NECは今回、マスクに対応するため、(1)AIを活用した新技術により、マスク着用顔を精度良く検出する「顔検出精度向上」、(2)マスク着用という限定された領域からでも本人の特徴をとらえて照合する「顔照合精度向上」、(3)マスク着用時でも、マスクをしていない時でも最良の照合方法をセレクトする「照合方法の最適化」という、主に3つの改善を実現した。

マスク対応を実施

 今岡氏は「マスク対応については、世界中から要望が多かった。NECはNISTの最新ベンチマークで1位を獲得するなど、世界で顔認証技術を提供している。顔認証技術のスペシャリストとしては、マスクを着用している場合でもきちんと結果を出して、世界中の人に安心して使ってもらえることをアピールする必要があると考えた」と述べ、顔認証分野で世界ナンバー1を獲得しているからこそ、マスク対応する必要があったことをアピールした。

 通常の顔認証フローでは、新たに取得された照合画像を、あらかじめ登録されていた登録画像とつきあわせて検出する。次にそれぞれの画像の顔の位置と大きさを合わせる正規化を行う。各パーツの位置などの特徴を数字化する特徴量抽出を行って照合することになるが、特徴量が高いほど照合スコアは高い値となる。

顔認証における処理の流れ

 マスク対応顔認証の場合は、顔検出処理の後で、「マスクあり」か「マスクなし」かを判定する。マスクなしの場合は通常の顔認証となるが、マスクありの場合はマスク対応顔認証を行う。この処理はマスク対応顔認証であっても1秒以内で検出する。

 「顔認証は認証にかかる時間が遅いでしょ?と言われるが、実際には1秒以内で認証する。速さが自慢でもある」(今岡氏)。

マスク着用・非着用時の顔認証プロセス

 通常の顔認証は、目、鼻、口などの位置、大きさなどさまざまな特徴点を抽出して行う。「特徴点抽出に大きなノウハウがつまっている。ディープラーニング技術を使い、特徴抽出を行っているが、これは当社だけでなく各社が切磋琢磨(せっさたくま)し取り組んでいる分野でもある。特徴点を最大限に強調するアルゴリズムによって、似ている他人との違いを発見する」(今岡氏)。

 しかしマスクをしている場合は、従来は特徴点として活用されていた鼻、口がマスクで覆われ利用できないことから、目だけで認証精度をあげるためのアルゴリズム変更が行われた。

 マスクで覆われていない部分、目の周辺などに重点を置いて特徴点を抽出・照合するが、その結果、NECの社内評価では1:1認証での認証率として99.9%以上の高精度を実現したとのことで、「誤って他人を本人としてしまう確率は、10万人に1回となる」と今岡氏。

 また、マスクについても以前は白がほとんどだったが、最近では白以外のマスクも多いことから、さまざまな柄のマスクをしている場合でも抽出できるようになっている。

さまざまな柄のマスクをしている場合でも抽出可能に

 NECの本社ビルでは、9月末から、新しいエンジンを搭載した顔認証システムによるタッチレス入退を本社ビル1階の入退場ゲートを使って実施するなど、利用テストを進めていく。

 なお、新たなエンジン採用によってどれくらいの売上増を見込んでいるのかについては、「2021年度までに生体認証事業全体で1000億円という売上目標を掲げているが。今回の新エンジンはその一環」(今岡氏)と説明した。

 NECでは生体認証事業において、マルチモーダル(複数のコミュニケーションモードを活用した)認証実現を目指し、さらに空港や鉄道など交通機関、ホテル、店舗、自動車、サイネージなどさまざまな場所を結びつけるコネクト、利用者の個人情報に応じた活用を可能とするパーソナライズの実現を目指すとしている。

 顔認証に対しては、海外ではプライバシー問題から否定的な自治体、メーカーも出てきている。これに対しNECでは、「当社では常にプライバシー問題に対しては配慮を行っている。NECとして人権、ポリシーを表明しており、このポリシーにのっとって事業を進めていく」(今岡氏)とプライバシー問題に配慮しながら、生体認証事業を進めていくことを強調した。