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NEC、生成AI「cotomi」のエージェント性能強化を発表 AI活用例の紹介やAI事業の進捗説明なども実施

 日本電気株式会社(以下、NEC)は8日、AI事業の進捗状況について説明。そのなかで、生成AI「cotomi」の機能強化を図り、エージェント性能を強化したことを新たに発表した。

 対外的にはバージョンナンバーは付与せず、「性能強化」という表現をしているが、同社関連部門内では、cotomi v3と呼ばれており、2024年12月から提供を開始したcotomi v2の後継となる。なお、cotomi v2は高性能版のProと高速版のFastに分かれていたが、第3世代のcotomiでは再び一本化した。

 NEC Corporate SVP兼AIテクノロジーサービス事業部門長兼AI Research Officerの山田昭雄氏は、「cotomi v2とcotomi v3には、大きなアーキテクチャの変更はなく、AIエージェントの活用に、より適したAIモデルとして強化した。AIエージェントとして活用する際に、コンテキストを長くしないと不都合が生まれるケースがある。また、高速化し、インタラクションをあげる工夫もしている。これにより、ユーザーが依頼した業務に対し、cotomiが自律的にタスク分解して必要な業務プロセスを設計し、それぞれのタスクに最も適したAIやITサービスなどを選択し、業務を自動で実行することができる」としたほか、「新たなcotomiは、Fast並みの高速性と、Pro並みの性能が出ている」とした。

NEC Corporate SVP兼AIテクノロジーサービス事業部門長兼AI Research Officerの山田昭雄氏

 cotomiは、v1においては130億パラメーターであることを公表していたが、v2では非公開となり、さらに今回も非公開としている。「ベンチマークの数字を重視してもらいたい。サイズはこれまでとほぼ同じである」とした。

cotomiの性能を強化し、AIエージェントの活用を支援

 今回のcotomiの性能強化は3点ある。いずれもAIエージェントの活用を支援するものになる。

NEC開発の生成AI「cotomi」の強化とエージェントプロトコルへの対応

 ひとつめは、エージェント性能の向上だ。

 問題解決の過程に着目した学習を強化し、推論性能を高めることで、タスクプランニングやタスク遂行における適切なツール選択能力を強化。Agentic AIのタスク処理能力と処理速度を向上した。また、タスクを適切な粒度で分解して、最適なツールを選択でき、出力内容の誤りが減少し、回答品質の向上と速度の向上を実現している。

 2つめは、コンテキスト長の拡大だ。最大コンテキスト長(入出力トークン長)を、128Kへと大幅に拡大したことで、日本語では20万文字を超える長文にも対応できるようになった。AIエージェントに対する複雑な業務指示や、複数の制約条件を同時に伝えることができる。その結果、より的確かつ柔軟な業務対応が可能となり、幅広い領域でAgentic AIの活用が可能になる。

 「AIは丁寧に指示を出すほど正しい答えを出してくれるが、その一方で、対話していくうちに、以前のことを忘れてしまう傾向がある。長い文章で指示を出すことで、そうした欠点を補うことができる。AIエージェントに必要となる長文プロンプトは、AIが作り、利用することになる」としている。

 3つめは、エージェントプロトコルへの対応である。

 AIエージェントの実現には、業務自動化に必要なさまざまなAIや、外部サービスとの連携が必要となるが、それを実現するために、新たなcotomiでは、MCP(Model Context Protocol)仕様に準拠。企業内で利用されているサービス群との連携が容易になる。

 さらに、MCPを活用した外部サービスとの連携強化策として、Boxとのパートナーシップを発表。Boxが提供するBox MCPサーバーのベータプログラムにNECが参加することになる。同プログラムへの参加は、国内ISVパートナーとしてはNECが初めてとなる。

 また、「ユーザーの間では、セキュリティの課題があるのでオンプレスミスで使いたい、あるいはレイテンシーの課題を解決したいといった要望がある。こうしたユースケースにcotomiを活用してもらいたい」とし、「cotomiは、LLMとして優れたものになっているが、単にLLMととらえず、システムとしてとらえている。プロンプトを簡単にするためのエンジニアリングモジュールや、出力を信頼できるものにするためのチェック機構、社内データとAIをつなぐ仕組みなどの各種データ連携といったように、LLMを取り巻く周辺の領域までを含めてとらえていく」と述べた。

AIを売っているという感覚はあまりない、売っているのはDX

 NECでは、AIやセキュリティ、BluStellarをNEC変革のキードライバーと位置づけている。

 だがNECの山田氏は、「NECは、AIを売っているという感覚はあまりない。売っているのはDXである。DXにおいて、AIが役立つところにはAIを積極的に活用していく。cotomiが最適な場面にはcotomiを提案し、それ以外のAIがいい場合は、cotomiにはこだわらない。社内でもcotomi以外のAIを数多く活用している」とし、「AIが活用できるのは、従来のITシステムでは難しかった高度な専門業務における自動化の領域である。また、自動化においては、さまざまなシステムとの連携が求められるなかで、安全安心なAI活用環境を提供しなくてはならない。ここにNECのAI活用の基本姿勢がある」と語った。

安全・安心な環境を提供

 NECでは、価値創造モデル「BluStellar」において、業種業務特化の各種エージェントをBluStellar Scenarioとして提供し、顧客の専門業務の自動化を推進しており、これによって、業務プロセス改革を実現することを目指している。

 マーケティング、製造・開発、営業、企業経営などの領域において、業務強化や業種特化のScenarioを提案。「Agentic AIを活用した開発が進んでいる段階であり、現時点で示すことができる業務強化Scenarioの約半分は、社内外においてテストフェーズに入っている。2025年度には、これらを出荷することを目指す」との計画を示した。

 マーケティング施策立案では、「BestMove(ベストムーブ)」のブランドで展開。NEC独自のAI技術を10個活用して、マーケティング施策立案プロセスをAgentic AIが自動化する。「自社製品のプロモーションをどうすればいいのか、どれぐらいの効果を得られるのかといたことを検討する際に、特定の人の経験や勘に頼った意思決定をするのではなく、Agentic AIが立案する。マーケッターを不要にするのではなく、一人のマーケッターが行っていた作業をAIが伴走することで、10人のマーケッターが答えを出すような多様性を生かした判断が可能になる」とした。

NEC独自AI技術を10個活用した「BestMove(ベストムーブ)」を提供開始。

 また、セキュリティの領域における活用についても紹介した。生成AIやAgentic AIを活用したセキュリティサービスの販売を開始しており、専門家の知見を持つAIが、顧客のセキュリティ業務全体の高度化、効率化を伴走支援する。「攻める方もAI、守る方もAIになっている。セキュア開発、セキュリティ経営、セキュリティ運用といったフェーズにおいて、AIの力を活用していく」と述べた。

生成AIやAgentic AIを活用したセキュリティサービスを販売開始

 高度な専門業務における自動化においては、すでに実績をあげた先行事例として、コエドブルワリーにおけるAIクラフトビール「人生醸造craft」を挙げた。cotomiに蓄積されたデータを使い、世代ごとのペルソナを作成。20代、30代、40代、50代の各世代の特徴や価値観を表現した4種類のクラフトビールを共同で開発した。Agentic AIが、社内外のレシピデータを検索および翻訳して提案し、職人と対話しながら改良を加えることで、色や味、香りの違いによって、世代ごとのビールを作り上げた。商品開発プロセスの自動化を実現することで、商品開発の工数を40%削減することができたという。

 「生成AIは、なにかを聞けば返してくれるが、それは検索システムとしての使い方と変わらない。Agentic AIは、答えを出すAIではなく、自律的にやるべきことを考えるAIであり、さらにそれを実行し、結果を出すことになる」と述べた。

Agentic AIとビール職人が協働し、AIクラフトビール「人生醸造craft」第2弾を発売

 安全安心なAI活用環境の提供に関しては、Ciscoとの協業によるAIガバナンスの強化について説明。AIガバナンスの戦略策定から定着化までのコンサルティングメニューを提供する予定であることを示した。NECのコンサルティングサービスとシスコのAIセキュリティソリューション「Cisco AI Defense」を組み合わせたもので、2025年秋から提供を開始する。「AI導入の初期段階から、リスクへの対策を講じることができる。利用中に発見されたリスクについても、その場で修正することができるようになる」としている。

Ciscoとの協業により、AIガバナンスの取り組みをさらに強化

 またNECの山田氏は、「AIの変遷を振り返ると、顔認証に代表されるような現実世界を理解するCognitive AI、自らの見解を述べるGenerative AI、自律的に業務を推進するAgentic AIへと活用が変化してきた。それに伴い、求められるセキュリティレベルは高くなっている。Agentic AIでは、機密となっていた社内データを活用するケースが多く、情報流出の被害が、これまでとは比べられないほどに大きくなる。NECは、自らの責任のもとで、AIオペレーションにおけるリスクに対応していくことになる」とした。

今後においても、増加するリスクに対応し、専門業務へのAI活用を支えていく

 悪意を持った攻撃などからAIを保護し、不正なアクセス、改変、破壊、漏えいを防ぐ「セキュリティ」と、意図された通りにAIが動いたとしても、万が一、人や環境に危害を与えることを防ぐ「セーフティ」の両面から、包括的な取り組みを進めるという。

「AIガバナンス」に求められる取り組み

 さらに、生成文と原文を比較し、抜け漏れや齟齬(そご)を抽出し、複数のAIが相互チェックすることで、短時間にハルシネーションのチェックを行う機能をNEC Generative AI Service Menuとして提供したり、顧客が求めるデータセキュリティレベルに応じて、LLM環境を設置する場所を柔軟に設定できたりするなど、AIガバナンスを強力に推進し、業務遂行支援による生産性向上に貢献していることも示した。

NECはこれまでもAIガバナンスを強力に推進してきたという

 このほか、製品提供の観点から、NECのAI事業の進捗についても報告した。PLMソフトウェアである「Obbligato」に生成AIとの連携機能を搭載し、提供を開始したほか、生成AIを活用して輸出入品の税番の特定を支援する「AI税番判定サポート」の提供を開始。大塚商会との連携により、デスクサイドに設置した生成AI専用サーバーを利用できる「美琴 powered by cotomi」の提供も開始した。

 またNVIDIAとの協業により、エンタープライズ対応の推論を加速するマイクロサービス「NVIDIA NIM」において、cotomiが利用できるようになり、cotomiの推論速度が最大2倍も高速化し、推論完了までの応答時間が最大で約50%短縮したことを示した。

 今後の方向性として、NECの山田氏は、「2025年度は、個社データや特化型Agentを活用して、プロセスをまるごと変革するといったことに取り組んでいる。人が行っているプロセスにAIが支援に入るのではなく、AIが行うプロセスのなかに人が支援に入ることで、AIを活用した自然にプロセスを構築しようと考えている。また、2026年度以降は、複数Agentを連携させて、ビジネスそのものを変革したい」と語った。