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NISTから顔認証で1位を獲得できた理由は? NECの開発者が紹介

 「深層学習(ディープラーニング)を使っているというと、どれも一緒でしょ?と言われますが、違うんです」――。

 NECは10月3日、米国国立標準技術説明所(NIST)が実施した、最新の顔認証技術ベンチマークテスト「FRVT2018」で第1位を獲得したことを発表した。今回で5回目の1位獲得だが、どんな点が評価されたのか、利用している深層学習について、どんな点がNEC独自技術となっているのかなどを、NECフェローである今岡仁氏自身が紹介した。

NECの顔認証技術の“顔”が自社技術の特徴を説明

 今回、発表を行った今岡仁氏は、最年少でNECフェローとなり、顔認証技術をはじめとした研究開発に取り組む、NECの顔認証技術の“顔”ともいうべき存在だ。

 NEC自身がどのように顔認証に取り組んでいるのか、NISTのベンチマークとはどんなものなのかを紹介した。

NECの顔認証技術の“顔”である、フェローの今岡仁氏

 まずNECの顔認証技術については、前述のように「深層学習を使っているというと、どれも一緒でしょ?といわれるが違うんです」とアピール。深層学習を活用しながらも、NEC独自方式によって他社との違いがあると強調した。このNEC独自方式では、「特徴量空間」を設けて、「本人」と「似ている他人」の違いを最大限に強調する。これが、深層学習を用いながらも、NECの独自性を生む部分となっているようだ。

NECの顔認証アルゴリズムの特徴

NISTのベンチマークコンテストとは?

 NECが第1位となったNISTとは、技術革新や産業競争力を強化するために設立された機関で、IT関係、特にセキュリティ関連の取材をしていると、「NISTで第1位」というフレーズをよく目にする。

 NECが1位を獲得したFRVT2018は「Face Recognition Vendor Test2018」の略で、世界中のベンダーの中から、48企業と1つの研究機関の、合計49組織が参加している。前回の参加が16組織だったことから、大幅に参加組織が増えているという。

 参加は任意で、今回の参加組織の顔ぶれを見ると日本ではNEC以外には東芝、グローリー、Ayonixの4社が参加している。米国は11組織が参加し、Microsoftの名前もある。中国は米国と同じ11組織が参加しており、急速に参加組織が増えているようだ。そのほか、ロシアも8組織が参加している。

 任意ではあるが、NECでは、FRVTに参加し評価が高くなると「技術への信頼性が増すことから参加している」(今岡氏)とのこと。

FRVT 2018とは
FRVT 2018の位置付け
FRVT 2018の参加組織

 なお質疑応答では、「例えばGoogleなども顔認証に取り組んでいるが、ここに参加していないのはなぜか?」といった質問も飛んだ。今岡氏はこれについて、「あくまで任意の参加なので、顔認証に取り組む企業すべてが参加しているわけではない。他社が参加しない理由はわからないが、多くのデータをつぎ込むなど、どこも本気で取り組んでいると思う。今回の参加企業でも例えばMicrosoftはデータも大量に持っているし、AIの巨人でもある。中国企業も頑張っているし、日本では東芝の技術力が高く、意識してきた相手でもある」とコメントした。

FRVT 2018でのテストのやり方

 テストにあたっては、参加する組織が自ら行った評価をNIST側に送るのではなく、プログラムを送付し、それをNIST側がテストするやり方のため、ベンダーにとっては厳しいやり方ということになる。特にFRVT 2018は従来とはやり方が変わってきていることもあって、同時期に実施されるテストの中では最難関だという。

 具体的には、数千万人規模の大規模静止画データにおける認証精度と処理速度が評価された。使われた評価画像では、登録用画像として1200万人分の静止画像が登録され、照合画像としては未登録人物33万人分、登録人物15万人分が利用されている。

 未登録人物を受け入れる割合を「誤受入識別率」、登録人物が拒否される割合を「誤拒否識別率」とすると、これらの2つの指標はトレードオフの関係となる。

 またスコアの数が多くなると処理速度は遅くなり、さらに似た人の数が増えてくるために認証精度も低下するが、データ量が多くなっても誤拒否識別率、誤受入識別率がともに低い検索結果をしきい値として判定するといった、実用的で厳しい基準が設けられている。

FRVT 2018評価概要

 この評価を受けた結果、NECは認証制度で第1位となった。エラー率は0.4%で、2位が1.2%であるのに対し、かなり低いエラー率となった。「エラー率が低いほど、決済など高信頼性が求められる用途でも有効性が高いということになる。いろいろな国が参加している中で、われわれも頑張って成果を出すことに成功した」(今岡氏)。

 認証制度と検索速度の比較についても、2.3億件/秒というアルゴリズムを実現。「検索しなければ認証速度は速くなる。しかし実用を考えると、認証精度と検索速度の両方がそろう必要がある。NECの技術は、高信頼性と速度の両面を実現するという点が強み」(今岡氏)と説明している。

認証精度の比較
認証精度と検索速度の比較

 このほか、「経年変化に対する認証制度の推移」「登録人数に対する認証制度の依存度」に関する個別評価も行われた。

 経年変化は、実用面では重要な要素だ。NECは経年変化が起こってもエラー率が低い。「パスポートは最大10年。10年前の写真でもきちんと本人と認識することが求められる。経年変化があるので毎年写真を取り換えることになれば、それだけコストがかかることになる。経年変化が起こっても精度の高い、長く使える技術を提供することは、コスト的に強みがある技術を提供できるということになる」(今岡氏)という。

 登録人数も、人数が増えればそれだけ似た人も増えていくので認証が難しくなる。NECの技術に対しては、1200万人登録時の認証エラー率が0.5%。「人数が増えてもほぼエラー率が変わらない。登録人数に依存しない認証精度を実現していることで、大規模システムへの適用が可能となる」(今岡氏)。

 こうした評価に対し、「1社を持ち上げようと書かれている評価ではないが、NECは高い評価を受けることができた」と強い自信を見せた。

経年変化に対する認証精度の推移
登録人数に対する認証精度の依存

 活用場面についても、「今後、生体認証、行動理解などとの組み合わせと、社会受容性が向上していくことで、顔認証は社会のインフラ技術として社会のすみずみまで展開できるようになる」と利用場面拡大の可能性を示唆した。

 今後の技術の進展については、さらにエラー率を低く抑えるといった強化とともに、これまでは不可能とされてきたことも可能になりつつある、といったことも明らかにされた。

 「NISTの評価とは全く関係がないスライドを紹介させていただきたい。これは現在29歳の当社の研究所のスタッフの写真だが、0歳の時からの経年変化を比較したもの。本人が0歳の時と、本人のお兄さんが0歳の時の写真を比較しているが、従来は、0歳児の写真からの経年変化の認識はできないと当社でも言ってきた。それに対して、今も100%できているとはいわないが、普通は他人となるものから共通性を引っ張り出して、これは本人だと言えるようになっている」とした。

参考資料として表示された0歳児時代と大人になってからの同じ人物と認められた画像

 また、マスクなど顔を隠した人物をどう認証していくのかも課題の1つだという。「サイエンスとしては、どこまで顔を隠して顔認証ができるのか?は重要なテーマ。あらゆる状況で顔認証ができないかなど、やるべきことはまだまだ多い」と述べ、顔認証技術のチャレンジはこれからも進んでいくと話している。