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NECが生体認証・映像分析事業を強化、デジタルフレームワークとデジタルHubを整備
2019年6月24日 06:00
日本電気株式会社(以下、NEC)は21日、生体認証・映像分析事業を強化すると発表した。同事業の売上高において毎年2けた成長を目指すとのことで、2021年度までにグローバルで1000億円に成長させるという目標を掲げている。
また、全社横断型のデジタルビジネスプラットフォームユニットを新設。デジタルビジネスの推進役として、吉崎敏文執行役員が担当する。なお生体認証技術の推進役には、同社最年少フェローである今岡仁氏が就き、NEC全体でのデジタルビジネスを推進することになるという。
吉崎執行役員は、「人間は究極のデバイスであり、生体認証はデジタルの入り口である。NECは長年にわたって生体認証に取り組んでおり、NIST(米国国立標準技術研究所)によるベンチマークテストでは世界ナンバーワンを4回獲得。その技術の高さが証明されている。ここに映像分析技術を加えることで、特定した人の動作や状況を理解し、傾向や類似状況との相関から過去を理解して、未来を予測することができるようになる。これによって、高度な付加価値を提供できる」などとした。
生体認証・映像分析を通じたデジタルビジネスを加速
NECでは、生体認証・映像分析事業のデジタルフレームワークおよびデジタルHubを整備。まずは、生体認証・映像分析統合プラットフォームを2019年7月から北米で提供し、生体認証・映像分析を通じたデジタルビジネスを加速させる。
デジタルフレームワークは、NECが持つアセットと、ノウハウや知見といったナレッジを最大限に活用するための枠組みで、さまざまなユースケースをビジネスフレームワークとして体系化。個々のユースケースを実現するための実装モデルをシステムフレームワークとして定義する。
これにより、顧客ニーズや課題に最適な提案や、高度な価値創出を可能にするという。
また、「デジタルHub」は、個別案件を支援するソリューションコア機能と、事業戦略の構築および実行を支援するビジネスコア機能で構成。デジタルHubが中心となってデジタルフレームワークを活用することで、顧客の課題解決に向けて、NECのノウハウや知見を生かしたソリューションを迅速に提供する。
ソリューションコアは、オファリング高速化機能となり、ビジネス/ITレビューなどのアセスメント、提案ツール、ナレッジ、エキスパート人材の紹介などを提供。ビジネスコアでは、事業戦略立案および実行機能を提供することにより、事業ロードマップの策定、育成計画の作成、製品/ソリューション体系の整備、アライアンス推進などを支援する。
「業種、業界横断で、市場ニーズの収集とオファリングを提供。研究開発部門や社外パートナーとの連携によるエコシステムを形成する」という。
一方で、生体認証・映像分析統合プラットフォームは、システムフレームワークのひとつとして、生体認証・映像分析技術を活用できるようにするもの。クラウド、ネットワーク、エッジにまたがり、生体情報や映像データを、リアルタイムでセキュアに分析できるという。2019年7月から北米で提供を開始するほか、生体認証・映像分析機能のマイクロサービス化を進め、2019年内の国内展開を目指すとした。
人を特定する技術である生体認証は、顔、虹彩、指紋、掌紋、指静脈、声、耳音響といった複数の技術を、マルチモーダルに組み合わせることで、精度および利便性が向上。さまざまな利用シーンにおいて、身体の鍵や存在証明などに利用できる。
これに映像分析技術を組み合わせることで、生体認証で特定した人の動作や周辺状況を理解できるようになる。
NECでは、パブリックセーフティ領域での利用のほか、地域活性化などのさまざまな社会シーンに生体認証・映像分析技術が活用し、社会の安全、安心、利便性の向上を進めるという。
NEC フェローの今岡氏は、「AIは、米中に代表される激しい戦いの真っただ中にあり、顔認証はその中心的な部分にある。顔認証は日本が世界に誇れる技術であり、この技術が普及期に入ってきている。従来では難しかった決済などの高信頼性が要求される分野での利用も増えている」と前置き。
その上で、「NECの技術は、世界最高の認証技術による信頼性と、第三者評価による客観性を重視している。当社の生体認証技術は、99.99%という本人正解率、1秒間に1億5000万件という検索速度の高速化、正面の顔を登録しただけで、マスクやサングラス装着時や横顔認証にも対応できる認識精度の高さがある。この技術は現在、NISTで実施されている最難関ベンチマークテストであるFRVT2018に参加しており、いい成績を残している。近いうちに結果を公開できる」と、自社の強みをアピールする。
さらに、「NECは複数の生体認証技術を持っており、これを組み合わせて利用できるのが強み。認証技術の提供だけにとどまらず、生体認証IDによって、あらゆる産業の壁を越えてサービスを提供するコネクト、ユーザーのタイプ、行動から、ユーザーごとに特別な体験を提供するパーソナライズの世界での活用を目指していく」と述べた。
同社では、生体認証・映像分析の領域において、約70カ国で、約1000システム以上の導入実績を持つ。
東京オリンピック/パラリンピックでは、全会場の関係者エリア入り口において、約30万人の大会関係者を対象にした顔とIDカードを組み合わせた本人確認を実施するほか、成田空港では、チェックインから手荷物預け、保安検査場入り口、搭乗ゲートを本人認証で通過できる事例を紹介。さらに、南紀白浜空港および周辺施設では顔認証を利用した決済を可能にしていること、LINE Payでは、安全・安心な本人確認を実現していることを示した。
NECのデジタルビジネスに関しては、第1ステップを「立ち上げ」として、生体認証・映像分析を起点にデジタルフレームワークを策定。第2ステップを「拡大」と位置づけ、デジタルHubを統合し、AIやクラウド、セキュリティへと順次拡大する。
その後、第3ステップでは「加速」を目指し、全社横断でのビジネスを加速して、オファリングの高度化を進める。
「市場の変化に応じて、組織、機能を高度化することで、ビジネスの加速に向けたギアチェンジを行う。2019年10月には、第1ステップ、第2ステップの戦略の進ちょくについて説明したい」(吉崎執行役員)と述べた。
日本IBMより移籍した吉崎執行役員がNECのデジタルビジネスの加速を担う
なお、吉崎執行役員は、日本IBMの執行役員を2019年2月14日付で退任。2月28日にNECが発表したリリースでは、4月1日付で執行役員(コーポレートエグゼクティブ)に就任することが発表されていた。1985年に日本IBMに入社して以来、30年以上にわたって同社に在籍しており、今回がNECに移籍して初めての会見となった。
日本IBM時代には、ibm.comセンターやスマーター・シティー、クラウドなどの新規事業領域を担当。2019年2月までは、執行役員として、ワトソン&クラウドプラットフォーム事業を担当し、IBMの中核となるAIおよびクラウドビジネスの成長を日本市場でけん引した。NECでは、生体認証・映像、AI、クラウド、サイバーセキュリティの事業責任者として、NECのデジタルビジネスの加速を担うことになる。
会見で吉崎執行役員は、「長年、外資系企業にいた立場としては、この3カ月間でギャップを感じている部分もある。だが、こうすればグローバルに戦える新たな日本の企業のビジネスモデルが構築できるのではないか、と思える部分もある」とコメントした。