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クラウドインフラ運用技術者のための年次カンファレンス「Cloud Operator Days Tokyo 2025」の見所を紹介
7月15日から9月5日までオンライン、今年も最終日はお台場でのクロージングイベントを開催
2025年7月7日 06:15
クラウドインフラ運用技術者のための年次カンファレンスイベント「Cloud Operator Days Tokyo 2025(CODT2025)」が、7月15日から開催される。参加費は無料。
CODTは「OpenStack Days Tokyo」の後継で、2020年から現在の名称で開催されているイベントだ。2025年はOpenStackの15周年にあたる。
ちなみに今年は、OpenInfra Foundation(旧OpenStack Foundation)がLinux Foundation傘下になったことと、OpenInfra Foundation エグゼクティブディレクターのJonathan Bryce氏が、同じくLinux Foundation傘下のCloud Native Computing Foundation(CNCF)のエグゼクティブディレクターに兼任で就任したことも発表されている。
今年のテーマは「創る運用、遺す運用」
CODT 2025は、オンラインでのオンデマンド配信と、オフラインでのクロージングイベントからなる。目標参加者数は、オンラインが2000名、クロージングイベントが300名。
7月15日から9月末までは、各セッションがオンラインでオンデマンド配信される。参加費無料(CODTのWebサイトからの事前登録制)。参加登録は7月15日から受け付ける。なお期間終了後、10月以降にアーカイブ配信を開始する。
そして9月5日にはお台場の「docomo R&D OPENLAB ODAIBA」にて、完全オフライン形式でクロージングイベントを開催する。クロージングイベントの申し込みは9月5日10時まで。
今回も昨年に引き続き、2段階発表方式をとる。オンデマンド配信では全セッションを配信。その中から選ばれた22本について、クロージングイベントでリアルセッションが行われる。さらにその中から「輝け! クラウドオペレーターアワード2025」が選考され、クロージングイベントで表彰される。
クロージングイベントでは、リアルセッションと「輝け! クラウドオペレーターアワード2025」授賞式に加え、キーノートセッションと主催者企画セッションを予定している。
そのほか、運用技術者同士で膝をつきあわせて、その場でしかできない話をする「オペレータワークショップ」も開催される。
イベントの狙いについて、CODT2025実行委員長の長谷川章博氏(AXLBIT株式会社)が、7月3日に開催された、CODT 2025のプレス発表を兼ねたプレイベントで説明した。
テーマは「運用者に光を! ~創る運用、遺す運用~」。このうち「運用者に光を!」の部分が毎年共通のテーマだ。運用エンジニアは、システムが落ちると問題になるが、システムが正常に動いても褒めてもらえない立場にあることから、その運用エンジニアに光をあてようというものだ。
またCODTの3本柱として、「技術者の地位向上」「知的好奇心を高める」「若手エンジニアの育成」を長谷川氏は挙げ、それによってエンジニアコミュニティを支えると語った。
今年のテーマは「創る運用、遺す運用」だ。この意図として、クラウドネイティブやAIなどによって新しい運用が生まれていく「創る運用」の一方で、変えてはいけない部分・変わらない部分である「遺す運用」にも注目していこうというものだと長谷川氏は説明した。
8トラックごとにセッションをピックアップ
今年のオンデマンドセッションは50本超。その中から、応募アブストラクトのみを見てピックアップした注目セッションを、8つのトラックごとに三浦大樹氏(NTT株式会社)が紹介した。
まず、アブストラクトから抽出したキーワードをタグクラウド形式で見ると、「運用」が最も目立つ一方で、新しいキーワードとして「ai」が、イベントとしてなじみに深いキーワードの「kubernetes」や「openstack」も見えることを三浦氏は紹介した。
「運用苦労話(しくじり、トラシュー)」トラックは13セッション。このうち三浦氏は2本をピックアップした。
KDDI株式会社の「膨大な運用業務に苦労した2年間から得た教訓! 運用工数を90%削減したクラウドサービス運用者の道のり」では、1ユーザーで1000件以上のアラームを、90%削減した工夫が語られる。
株式会社ジェーシービーの「開発者の隣に座るSREが体験した成功と失敗談 -embeddedSRE の取り組み紹介-」では、サービス内部でSRE文化を仕込むembeddedSREの取り組みについて、試行錯誤の過程が語られる。
「運用自動化(Dev/Ops、CI/CD、IaC)」トラックは12セッション。このうち三浦氏は2本をピックアップした。
NTT東日本株式会社の「新入社員が挑戦!アナログ業務を約6か月で自動化した秘訣」では、新人のチャレンジについて、「自分でもできそう」と思ってもらえるような体験談が語られる。
LINEヤフー株式会社の「Custom Controllerで実現するベアメタルサーバ向けNova Computeデプロイの最適化」では、数千台のベアメタルーバーの課題をカスタムコントローラーで解消した話が語られる。
「監視・ログ・オブザーバビリティ」トラックは4セッション。このうち三浦氏は、クラウドエース株式会社の「仮想マシンをクラウド環境へ移行する際のシステム監視 ~既存の監視運用って簡単に変えられないよね~」をピックアップした。仮想マシンのクラウド移行において、監視をどう移行するかが語られる。
「OpenStack」トラックは3セッション。このうち三浦氏は、AXLBIT株式会社の「VMwareからのOpenStack移行戦略:virt-v2vによる実践と運用基盤構築のポイント」をピックアップした。VMwareからOpenStackへの移行について、ツール「virt-v2v」を使った移行プロセスが語られる。
「チーム作り/人材育成」トラックは6セッション。このうち三浦氏は、KDDI株式会社の「俺たちの障害対応訓練 - チーム全員が動ける!障害対応フロー作成と訓練の実践」をピックアップした。auの顧客向けサービスの基盤運用において、チームメンバー全員が障害発生時に能動的に動けるための訓練が語られる。
「パブリッククラウド運用(AWS,Azure,GCPなど)」トラックは3セッション。このうち三浦氏は、株式会社エーピーコミュニケーションズの「OracleCloudInfrastructure(OCI)で特定ユーザーのMFAを回避させる方法」をピックアップした。特定ユースケースでのOCIの権限設定の方法が語られる。
「AI Ops」トラックは9セッション。このうち三浦氏は、3トラックをピックアップした。
株式会社ジェーシービーの「クレジット関連サービス稼働中のGKEにおいてクラスタ情報抽出AIツールによる本番障害対応高速化の紹介」は、JCBのGKE基盤のGKEアップグレードにおいて、アップデート前後の本質的変更を抽出して要約する生成AIツールについて語られる。
クラウドエース株式会社の「「さらばアラートノイズ!」AIエージェントでインシデント対応を自動化する」では、アラートを評価して必要なものだけ通知するAIエージェントについて語られる。
ユニアデックス株式会社の「去りゆく匠の知を仕組みに変える:生成AIが支えるIT運用の世代交代」では、運用チームのノウハウをもとにした生成AIによる自動化が、機密データの取り扱いなどもまじえて語られる。
働き方を扱う「ワークハック」トラックは2セッション。このうち三浦氏は、NTTドコモビジネスの「働く部屋を快適に!k8sで構築する環境モニタリングシステムと実践ダッシュボード運用術」をピックアップした。働く部屋を快適するために、温度、湿度、CO2濃度をモニタリングするシステムをKubernetesクラスタで動かしている話が語られる。
OpenInfra FoundationのJimmy McArthur氏、世界のインフラの問題に対するオープンソースの役割を語る
プレイベントでは、講演も行われた。
OpenInfra FoundationからはJimmy McArthur氏(Director, Business Development)が登壇。日本の「2025年の崖」を含む世界のデジタルインフラの課題と、それに対するオープンソースによるインフラの役割について語った。
日本の「2025年の崖」は、日本企業が労働力とデータセンターの近代化に遅れたことで年間12兆円を失うとして経産省が2018年に発表したレポートだ。そのほか、AIデータセンターの構築や、VMwareなどのライセンス料問題、デジタル主権、ハイパースケーラーによるデジタル赤字といった日本の課題も、McArthur氏は取り上げた。
「これは日本だけの問題ではない」とMcArthur氏は言い、世界中で直面する問題として「デジタル主権」「ライセンス問題」「AIによるインフラの再定義」の3つを挙げた。
これらの課題に対して、オープンソースのインフラの重要性をMcArthur氏は提唱。そしてOpenInfra Foundationが、OpenStackをはじめ、CI/CDやエッジクラウド、軽量コンテナなどのプロジェクトを推進していると紹介した。
デジタル主権については、国連がOpenStackなどのオープンソースソフトウェアを使って独自のクラウド「UNIQ Cloud」を構築したことを紹介した。
ライセンス問題については、VMwareのライセンス変更にOpenStackの開発者コミュニティがすばやく反応したことを紹介した。
AIについては、ベトナム最大のIT企業であるFPTの子会社でAI中心のクラウドサービスを提供する「FPT Smart Cloud」をOpenInfra Foundationの会員として紹介。同社がSBIホールディングスとともに日本で「FPTスマートクラウドジャパン」を設立したことも取り上げた。
そしてMcArthur氏は、これらが、187カ国の700以上の組織からの11万人が参加するOpenInfra Foundationのグローバルコミュニティによるものだと説明した。そして、今回Linux Foundationと組んだことにより、ますます強くなったと語った。
2024年受賞者が、受賞のその後や、「創る運用、遺す運用」についてパネル
前回のCODT 2024で「輝け! クラウドオペレーターアワード」を受賞した3名が、受賞後のできごとなどを語るパネルディスカッションも開催された。
登壇したのは、田村大樹氏(日鉄ソリューションズ株式会社)、角田潤也氏(ダイキン工業株式会社)、平松淳也氏(株式会社ジェーシービー)。モデレーターは、CODT2025実行委員長の長谷川章博氏。
まずは3人が、受賞した発表内容とその後について紹介した。
田村氏が受賞したのは、金融機関の本番システムでOSスケジューラーのレイテンシーを観測するために、Linuxカーネル内でプログラムを動かす仕組みである「eBPF」ベースの計測ツールを目的に合わせて改造した話だ。
田村氏は受賞後の反響として、自身の社内でのプレゼンスが向上したことや、会社の採用や新サービス露出に寄与したことを紹介した。
角田氏が受賞したのは、AWS上のシステムが社内ルールに準拠しているかどうかを自動チェックするために、CloudFormation Guardのカスタム設定を作り込んだ話だ。
角田氏は受賞後の取り組みとして、開発者に実際に自動チェックを実行してもらうためにダッシュボードを作ったことを紹介した。さらに、開発者にダッシュボードを使ってもらうために、社内チャットやハンズオンで粘り強く働きかけていくと説明し、受賞したことで社内でも注目度が上がったことをうまく利用していくと語った。
平松氏が受賞したのは、GKEのKubernetesをアップグレードするのにあたり、影響を小さくするために、こまめなアップデートや自動化、チーム間コストの削減に取り組んだ話だ。
その後も継続して運用中で、GKEの利用規模は拡大したが基本工数は変わらずに済んでいる、あるいは減ったという現場の声を平松氏は紹介。さらに、アップデート前後の本質的変更を抽出して要約する生成AIツールも開発し、それをCODT 2025で発表すると語った。
パネルディスカッションの1つめのテーマは、今年のCODTのテーマ前半にからめて「運用の現場で『創った』ものとは」。
これについて田村氏は、カナリアリリースの仕組みとして、サービスメッシュを使わない簡単な仕組みを発案して実際にリリースのハードルが下がったことを紹介した。
平松氏は、今回のGKEを使ったプロジェクトについて、すべてゼロベースで作っていったことを挙げた。
角田氏は、自らの属する製造業で、製造現場ではフェイルセーフが言われるがITではあまり言われないことから、それに取り組んだことを回答。さらに、システム管理の立場でフロントエンドアプリケーションをあまり作ることはなかった中で、ダッシュボードを作り、学びがあったと答えた。
2つめのテーマは、テーマ後半にからめて「どんな運用を『遺そう』としているか?」。
これについては3名とも、利用者や、運用に後から参加する人に向けて、意図や事情などを記録しておく必要性を語り、ドキュメントや、IaC(Infrastructure as Code)としてコードにして残すことなどを挙げた。
3うめのテーマは「運用者の価値をどう高めていくか?」。
これについて田村氏は、世の中の運用のイメージは定型的な作業でAIに取って代わられそうというものだが、AIが言っていることをそのまま実行することはまだなく、運用者はこれからも学んで吸収していく力が求められるのではないかと語った。
平松氏は、これまでITでは、オンプレミスからクラウドや、生成AIなど、移り変わりがあって進化が速い中で、運用者に限らずそれぞれの時代に合わせていける人が活躍していると思うと語った。
角田氏は、上層部や新人などに説明するときに、相手に刺さるように説明するのはまだ生成AIには難しく、そのコミュニケーションが運用者の価値となるだろうと語った。
これらを受けて長谷川氏は、3人の答えに共通するのは、人間の意思、こうしていきたいという気持ちが大事ということだとまとめた。そして、CODTを通じて、そういう思いを持った人をつないでいきたいと語った。