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Pure Storage、QLCを採用し容量・性能・電力効率を倍にした新ストレージ「FlashBlade//S」

新しいサブスクリプション「Evergreen//Flex」も提供

 米Pure Storage(ピュア・ストレージ)は8日(現地時間、日本時間6月9日)に、「Pure//Accelerate techfest22」と題した同社の年次イベントを、米国カリフォルニア州ロサンゼルス州にあるL.A. Liveの特設会場で開催する。

 6月8日 午前9時(日本時間6月9日 午前1時)からは開幕基調講演が行われる予定になっており、Pure Storage 会長 兼 CEO チャールズ・ジャンカルロ氏などの同社幹部が、同社のソリューションなどを説明する予定になっている。

記者向けの説明会でスピーチするPure Storage 会長 兼 CEO チャールズ・ジャンカルロ氏

 それに先だってPure Storageは報道発表を行い、同社のAI/ML、アナリティクス、Hadoopなど向けのスケールアウト用ストレージ「FlashBlade」シリーズの最新製品となる「FlashBlade//S」を発表した。FlashBlade//Sは、QLC NANDを利用してTLC NANDベースの従来製品よりも容量・性能を大きく向上させた製品となる。また、そうしたFlashBalde//Sと、NVIDIAがAI用スーパーコンピュータ「DGX」シリーズを組み合わせたAIRI//Sの提供開始も発表された。

【お詫びと訂正】
  • 初出時、FlashBladeをスケールアップ用ストレージと記載しておりましたが、スケールアウト用ストレージの誤りです。お詫びして訂正いたします。

 さらにPure Storageは、同社製品のサブスクリプション型契約モデルとなる「Evergreen」に、以前から提供してきたEvergreen//ForeverとEvergreen//Oneに加え、その2つの長所を兼ね備えた新しいプランEvergreen//Flexを追加することを明らかにした。

ソフトウェアにより定義されたフラッシュストレージを提供するPure Storage

 米国のストレージベンダーであるPure Storageは2009年に創業したベンチャー企業だが、当時としては珍しい、フラッシュメモリを利用したストレージをエンタープライズなどに提供するベンダーとしてスタートした。近年ではシェアを伸ばし続けており、注目を集めているストレージベンダーの1つだ。

 Pure Storage社の特徴は、NAND型のフラッシュメモリのみを利用したストレージを提供していること、そして「Purity」と呼ばれるソフトウェアによるさまざまな制御が可能になっており、言ってみればストレージを一種のソフトウェアサービスとして提供することが最大の特徴となっている。

 ジャンカルロ会長 兼 CEOは「われわれの競合他社はストレージをコモディティ製品として扱っており、価格競争力を重視している。それに対してPure Storageはデータを次世代の石油だととらえており、データをより効率よく扱えるストレージを顧客に対して提供している。それが違いだ」と述べ、Pure Storageのビジネスモデルは、業界トップのDell EMCなどの競合他社とは大きく異なっていると強調している。

 Pure Storageのハードウェア製品には、大きく言うと、スケールアップ型の「FlashArray」とスケールアウト型の「FlashBlade」の2つの製品がある。いずれもNVM Express(NVMe)のNAND型フラッシュメモリに基づいたストレージで、前者は低レイテンシを重視した設計になっており、仮想マシン環境やデータベースなどにスケールアップして使うことを意識した製品、後者はレイテンシよりも一度に展開できるデータ量などを重視するユーザー向け製品で、スケールアウトして使うことを意識した製品となる。

 Pure Storageがユニークなのは、そうしたストレージ製品の導入方法で、一般的な買い切りももちろん可能だが、同社が「Evergreen」と呼んでいるサブスクリプション型の契約方法でも導入可能になっていることだ。Evergreenには、オンプレミス向けの「Evergreen//Forever」、SaaS型のストレージサービスとなる「Evergreen//One」という2つのプランが用意されており、顧客が自社のニーズに応じて選択することが可能になっている。

 また、「Pure1」というソフトウェア(SaaS)を利用すると、オンプレミスにあるPureのストレージと、AWS(Amazon Web Service)、Microsoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)などが提供するストレージサービスとを組み合わせて利用することができる。

 このように、Pure Storageはオンプレミスのストレージからクラウドストレージまで、PurityやPure 1などのソフトウェアツールを利用して、管理や運用などを統合的に扱うことが可能になることが最大の特徴と言える。

Pure Storageの製品群

1つの5Uシャシーで最大約2PBを実現する新しいFlashBlade//S

 そうしたPure Storageは、6月8日(米国時間)に年次イベント「Pure//Accelerate techfest22」を開催している。「Pure//Accelerate」は、2019年にテキサス州オースティンで開催されたイベントの後、2年間はパンデミックの影響で実イベントは開催されておらず、実イベントとしては3年ぶりの開催となっている。

 なお余談だが、会場となっているL.A. Liveでは、同時期に米州首脳会議(Summit of the Americas)という、北米・南米大陸の国家首脳が集まって行われる首脳会談が開催されており、アメリカのバイデン大統領も首脳会議に参加するため同地を訪れている。このためイベントは、厳しい警備体制の中で行われているのだ。

 そのPure//Accelerate techfest22の開催に合わせて、Pure Storageは同社の新製品などに関する報道発表を行った。

 まずは、同社のFlashBlade シリーズの最新製品となる「FlashBlade//S」だ。FlashBladeは、同社のストレージ製品の中でも、スケールアウト(InfiniBandやイーサネットなどを利用して複数のノードを接続して数を増やしていくこと)向けの製品となっている。

FlashBlade//S

 これまで提供されてきたFlashBladeはTLC(1つのセルに3ビットのデータを格納できる)ベースのフラッシュメモリを採用してきたが、今回発表されたFlashBlade//SはQLC(1つのセルに4ビットのデータを格納できる)ベースのフラッシュメモリに変更されており、「容量、性能も、電力効率も倍になっている」(Pure Storage CTO ロブ・リー氏)と、Pure Storageは説明している。つまり、容量が増え、大きく性能が向上し、それに合わせて電力効率も改善しているということだ。

性能、容量、電力効率がすべて倍になっている

 Pure Storageによれば、FlashBlade//Sは、ブレードサーバーのシャシーを完全に新設計にして、4Uから5Uへと高さをやや高くし、10個のブレードを内蔵できるように変更されたとのこと。従来は15ブレードだったので、10ブレードに減らされたことになる。

完全に新設計のシャシー

 それぞれのブレードには、Ice Lake世代のソケットベースのIntel CPUとDRAMが搭載され、1つのブレードに最大4つのDFM(Direct Flash Module)と呼ばれるモジュールを挿入して利用することができる。つまり、1つのシャシーで40個のDFMを搭載することができる。1つのDFMは最大48TBの容量を実現しているとなるので、1つの5Uシャシーで約2PB(正確には1920TB)の容量を実現可能になる。ただし、Pure Storageが推奨している初期設定では、7つのブレード、それぞれに1つのDFMを搭載する形が性能面では有利だと説明している。

 Pure Storageによれば、FlashBlade//Sは、よりハイパフォーマンスで圧縮率の低いS500と、性能は抑え目で圧縮率も高いが、1TBあたりの価格性能比が優れているS200という2つのグレードが用意されており、顧客が目的に応じて選択できるようにしているとのこと。

 なお、FlashBlade//Sの広範囲な一般提供は、2022年第2四半期(=Pure StorageのFY23 Q2、会計年度2023年 第2四半期)中が予定されていると、Pure Storageでは説明している。

S500とS200が用意されている
FlashBlade向けのPurityもバージョン4に進化

NVIDIAのAIスーパーコンピュータDGXと組み合わせて提供するAIRI//S

 Pure Storageは、そうしたFlashBlade//SとNVIDIAのAI用スーパーコンピュータ「DGX」とを組み合わせた製品として「AIRI//S」を発表した。

 このAIRI//Sは、DGXとFlashBlade//Sを、イーサネットなどを利用して接続してスケールアウトし、年々パラメーターなどが巨大化してデータサイズが非常に大きくなっているAIモデルを学習するような、研究室やエンタープライズなどに対して提供される製品となる。それらをセットとして提供することで、FlashBlade//Sの大容量で高速なQLCという特長を生かしながら巨大なモデルを利用したAI学習の演算に活用することができる。

AIRI//S

 なお、現状は現行製品となるNVIDIA A100を搭載したDGX-A100との組み合わせで提供されるが、NVIDIAが既にGTCで発表し、第3四半期から提供を開始することをアナウンスしているNVIDIA H100を搭載したDGX-H100がNVIDIAから提供開始されれば、そちらを選択することも可能になるとPure Storageは説明している。

AIRI//Sの詳細

オンプレミスストレージ、クラウドストレージの良いところ取りをしたサブスクリプション「Evergreen//Flex」を提供

 Pure Storageはそうしたストレージの導入方法として、一般的なハードウェア、ソフトウェアの買い切りのほかに、サブスクリプション型の契約モデルも用意している。そのサブスクリプションのブランドが「Evergreen」で、これまではハードウェアとソフトウェアへの初期投資を自社のデータセンターなどにした後、アップグレードなどが提供される形のEvergreen//Forever、ハードウェアはPure Storageが所有権を持つものが提供され、SaaSのようなサービスとして提供されるEvergreen//Oneという2つのEvergreenプランが提供されてきた。

Evergreen//Forever、Evergreen//Flex、Evergreen//Oneの違い

 今回のPure//Accelerate techfest22では、新しいプランとしてEvergreen//Flexが追加されたことが発表された。Evergreen//Flexでは、セキュリティリスクなどに敏感なエンタープライズのニーズなどに配慮する意味もあり、ハードウェアは初期投資として、必要になる容量の70~80%程度を顧客所有にしてもらうが、ソフトウェアやサービスなどはサブスクリプションとして提供され、ユーザー企業がニーズに応じて使っただけを払うという形になる。

 初期投資として購入したストレージが足りなくなったときには、Pure1を利用して、Pure Storageのデータセンター経由で提供されるクラウドストレージを利用することも可能で、こちらも使っただけ支払う形になる。

 それにより、企業は多大な初期投資をしなくてもストレージを利用することができ、同時にセキュリティの観点からストレージそのものの所有権は保持できるという、ForeverとOneの良いところ取りのようなプランになる。

Evergreen//Flexの仕組み