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クラウドインフラ運用技術者の年次カンファレンス「Cloud Operator Days Tokyo 2022」が開幕

“泥臭い経験を共有する貴重な場”に

 クラウドインフラ運用技術者のための年次カンファレンスイベント「Cloud Operator Days Tokyo 2022(CODT2022)」が、5月31日にスタートした。今回のテーマは「運用者に光を!~変革への挑戦~」。参加は無料(事前登録制)。

Cloud Operator Days Tokyo 2022(CODT2022)

 CODTは、もともとOpenStack Days Tokyoの名前で開催されていたイベントの後継。CODTの名称で開催するのは3回目で、OpenStack Days Tokyoと合わせると10回目になる。

 イベントのメインとしては、6月27日から4週間、約70セッション(1本20分程度)をオンデマンド配信する。あわせて、5月31日にプレイベントを、7月27日にクロージングイベントを開催するという3部構成になっている。

 クロージングイベントは、リアルイベントとオンラインライブ配信のハイブリッド形式で開催予定。リアルイベントは御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターで行う。

 クロージングイベントでは江崎浩教授(デジタル庁Chief Architect/東京大学)が基調講演に登壇。OpenInfra FoundationのJonathan Bryce氏(Executive Director)・Mark Collier氏(COO)や、NTTドコモの秋永和計氏 (クロステック開発部 担当部長)、株式会社クレディセゾンの小野和俊氏(取締役(兼)専務執行役員CTO(兼)CIO)の特別講演も行われる。

 そのほかクロージングイベントでは、パネルディスカッションや、セッションを表彰する「輝け! クラウドオペレーターアワード」表彰式、スポンサー展示なども予定されている。

CODT2022開催概要
クロージングイベント

泥臭い経験を共有する「オペレータの集合知を作る場」

 記者説明会を兼ねたプレイベントにおいて、CODT実行委員長の長谷川章博氏(AXLBIT株式会社)は、“Cloud Operator Days”を開催する意義をあらためて説明した。

 長谷川氏は背景として、現在ではクラウドが国家の重要物資になっていること、企業などでクラウドの新技術の活用があまり進んでいないこと、CODT2021登録者へのアンケートで新技術への追随や人材不足が課題とされていることを紹介した。そして、Cloud Operator Daysとは、新プロダクトの紹介より、貴重な泥臭い経験を共有する、「オペレータの集合知を作る場」としてのイベントだと説明した。

 また長谷川氏は、今年追加されたメイントピックとして「CCoE(Cloud Center of Excellence)」を挙げた。企業によって異なり、クラウド専門家の集団だったり、クラウドのガバナンスをもたらす組織運営だったりするが、ノウハウを部署横断でシェアする動きだという。これをさらにCODTで横に共有していきたいとする。

 これを含め、CODT2022では、「大規模システム運用」「運用苦労話」「運用自動化」「CCoE」「社内基盤」「サービス・アプリケーション」「製品・技術トレンド」の7つのテーマを設け、7トラックでそれぞれ10前後のセッションが公開される。

 これらのセッションから、特に優れた取り組みや注目すべき挑戦を審査して「輝け!クラウドオペレーターアワード」を決定し、クロージングイベントで表彰する。また同様に、若手の取り組みについて「ヤングオペレーターアワード」も表彰する。

CODT実行委員長の長谷川章博氏(AXLBIT株式会社)
“Cloud Operator Days”を開催する意義
新しいテーマ「CCoE(Cloud Center of Excellence)」
7つのテーマごとに10前後のセッションが公開される
「輝け!クラウドオペレーターアワード」「ヤングオペレーターアワード」を表彰
CODT2022スポンサー

7トラックごとにセッションをピックアップ

 プレイベントでは、CODT実行委員の水野伸太郎氏(日本OpenStackユーザ会 会長/日本電信話株式会社)が、公開されるセッションを紹介した。なお、紹介時点では実行委員も内容を知らず、タイトルとアブストラクトだけの情報からの紹介だという。

 今回のセッションは、5月31日時点で計72セッション。前述のとおり7つのトピックごとのトラックに分けて公開される。

 今年の特徴としては、「運用自動化」が18本と多かった。次にこのイベントの特徴ともいえる「運用苦労話」が12本と続く。

 水野氏は7トラックそれぞれについて、概要と、私見でピックアップしたものを紹介した。

CODT実行委員の水野伸太郎氏(日本OpenStackユーザ会 会長/日本電信話株式会社)
7トラックの計72セッション

 「大規模システム運用」では、トピックどおり、大規模なクラウドオペレーターやサービス運用社が並んでいる。水野氏はその中から、ヤフー株式会社と楽天グループ株式会社それぞれによる、Prometheusの大規模利用のセッションを紹介した。

「大規模システム運用」のセッション。ヤフー株式会社と楽天グループ株式会社のセッションを紹介

 「運用苦労話」では、運用者にとって切実なテーマや“あるある”なテーマが並んでいる。水野氏はその中から、GMOペパボ株式会社のオンコールを減らす取り組みと、ヤフー株式会社の現場で起きてしまう事故に組織でどう向き合ってきたかのセッションを紹介した。

「運用苦労話」のセッション。GMOペパボ株式会社とヤフー株式会社のセッションを紹介

 「自動化」では、それぞれさまざまなツールの名前がタイトルに出ており、気になるキーワードを探して学べると思うと水野氏はコメントした。氏はその中から、あえてツールでないものとして、Red Hatによる自動化への上司の理解に関するセッションを紹介した。

「自動化」のセッション。Red Hatのセッションを紹介

 「社内基盤」では、オブザーバビリティや監視というキーワードが見てとれる。水野氏はその中から、レッドハット株式会社によるSRE導入に関するセッションと、LINE株式会社によるベアメタルに近い性能を持ったVMの提供に関するセッションを紹介した。

「社内基盤」のセッション。レッドハット株式会社とLINE株式会社のセッションを紹介

 「Cloud CoE(CCoE)」のセッション数はまだ少なく、今回はKDDI株式会社、東日本電信電話株式会社、株式会社日立ソリューションズの3社のセッションが予定されている。水野氏は、3社3様のアプローチや切り口を紹介した。

「Cloud CoE(CCoE)」のセッション。KDDI株式会社、東日本電信電話株式会社、株式会社日立ソリューションズのセッションを紹介

 「サービス・アプリケーション運用」では、SBOM(ソフトウェア部品表)や、カオスエンジニアリングにおけるGameday、SDGsなど、比較的新しいキーワードが目立つ。水野氏はその中から、株式会社ジェーシービーが、GCPでマイクロサービスアーキテクチャを採用してクラウドネイティブに開発し、Gremlinというツールでカオスエンジニアリングを実際に実施していることを紹介するセッションを紹介した。

「サービス・アプリケーション運用」のセッション。株式会社ジェーシービーのセッションを紹介

 「製品・技術トレンド」では、インテル株式会社が4セッションで、そのほかNew Relicと日本ヒューレット・パッカード合同会社が予定されている。水野氏はその中から、インテルによる消費電力の把握などに関するセッションを紹介した。

「製品・技術トレンド」のセッション。インテル株式会社のセッションを紹介

運用者が新規事業の利益の源泉となる3つの要素

 プレイベントの基調講演として、岐阜大学客員教授/Design for ALL Co-founder/株式会社デンソーの成迫剛志氏が講演。「運用こそが利益の源泉」と題して、経営者層側の視点から運用者に光をあてる内容を語った。

 成迫氏は、デジタルとクラウドを前提にした新規事業を題材とした。経営者にとって新規事業もビジネスなので、持続可能な利益が必要となる。「利益=売上-コスト」であることから、利益を増やす方法として「いかにコストを減らすか」「いかに売上を増やすか」「いかに初期費用を抑えるか」の3つについて論じた。

岐阜大学客員教授/Design for ALL Co-founder/株式会社デンソーの成迫剛志氏
新規事業で利益を上げるには

 1つめは「いかにコストを減らすか」。これについて成迫氏は、日本の製造業や小売業の強みの1つである「カイゼン」を取り上げた。「カイゼン」では、現場スタッフ1人1人が考えて内製で現状を改善し、それを継続的に行う。これによって、例えば同じものを作り続けても原価を低減させる努力をしてきた。

 成迫氏は、DevOpsも内製部隊のDevOpsチームが自ら問題に気付いて「カイゼン」し続ける活動だと説明。そして、運用チームの「カイゼン」により、品質の維持向上とコスト削減を両立させ続けると語った。

日本の製造業や小売業の「カイゼン」
運用チームの「カイゼン」によりコストを削減

 2つめは「いかに売上を増やすか」。成迫氏は、従来のモノ売りでは、価値は購入時点が最高ですぐに陳腐化が始まるのに対して、サービスでは常に現時点が最高であり、常に進化をし続けないと競合に負けてしまうと指摘。これを狩野モデルで、差別化要因となる「魅力的品質」であるとした。

 そして、これまでの運用は「当たり前品質」を守るのであったのに対して、これからの運用は「魅力的品質」を向上させるものだと成迫氏は述べる。そのために、運用がオペレーションを通じてユーザーの利用状況を開発にフィードバックし、継続的な魅力的品質向上のための開発に結びつけることで、売上を向上させると語った。

狩野モデル
運用チームが開発にフィードバックして魅力的品質を上げ、売上を向上

 3つめは「いかに初期費用を抑えるか」。成迫氏は、従来の製造業でのアプローチは、最初にとにかく考えられる機能を作った全部入りとし、後からニーズのあるものだけを残す「満艦飾アプローチ」だったと指摘。それに対して、VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)と言われる現代では、動く最小限のもの(MVP)から作っていく「リーンスタートアップ」や、要件・設計・実装・テストを小さい単位で回す「アジャイル」が採用されるようになってきたとする。

 しかし「アジャイルでも、運用や、運用に必要な非機能要件を忘れているのではないか」と成迫氏は疑問を投げかける。非機能要件や運用の話が後回しになって、運用にしわよせが来ることにより、「あたりまえ品質」すら守ることが難しくなる可能性があると氏は言う。

 この問題に対して最近、いくつかの会社で、Engineering能力を身に着けた運用チームであるSREチームが立ち上がるようになってきた。

 しかし成迫氏は、DXにおいてSREだけでは足りないのではないかとして、企画・要件定義の段階から運用が参画する「E-SRE(Extended SRE)」という独自概念を提唱した。ビジネス企画段階から、業務要件に必要なSLO/SLAを考えるというものだ。これによって、売上を向上させ、コストを削減することにつながるという。

アジャイルでも、運用や、運用に必要な非機能要件が後回しにされる可能性
SREからE-SREへ
運用チームがE-SERとして、売上を向上させコストを削減

 以上のように、成迫氏は経営者層側の視点から運用者の重要性を語り、最後に「CODTにぜひマネジメント層や経営層の人も参加してほしい」と呼びかけた

ヤングオペレーターアワード受賞者が新人としての経験などを語る

 プレイベントでは、CODT2021の「ヤングオペレーターアワード」受賞者によるパネルディスカッションも開かれた。

 パネリストは、ヤフー株式会社の高橋陽太氏、東日本電信話株式会社の坂齊史奈子氏、株式会社サイバーエージェントの源波陸氏。モデレータはCODT実行委員長の長谷川章博氏。長谷川氏や視聴者の質問に答える形で進行した。

左から、モデレータの長谷川章博氏、ヤフー株式会社の高橋陽太氏、東日本電信話株式会社の坂齊史奈子氏、株式会社サイバーエージェントの源波陸氏

 1つめのお題は、「セッション申込みしたきっかけ。受賞して変わったこと」。特に、受賞して変わったこととして、高橋氏は「社内のカンファレンスやテックブログの依頼がくるようになって自分のモチベーションアップにつながった」と回答したほか、坂齊氏も「社内の人などに見たと言われてモチベーションになった」と回答した。また源波氏は、「コンテナ基盤をやっていたが、ほかも任されるようになった」と答え、長谷川氏が「実力が認められた」とコメントした。

お題「セッション申込みしたきっかけ。受賞して変わったこと」

 2つめのお題は、たまたま3人とも2020年入社だったことから、「コロナ入社1期生として、どのようにキャリアを積んだか?」。高橋氏は、リモートでは自律性が大事だとして、そのために「あまり自分の専門を狭く考えず、与えられた仕事を楽しむ」ことを勧めた。

 また坂齊氏は「意思疎通がとれないなと思ったらすぐ会議を開始することを意識した」と回答。源波氏は、最初からなので特に違和感はなかったとしながらも、「家で成果を出すのが苦手なタイプなので、がっつりやりたいときは出社した」と答えた。

 これに関連して、これから身につけたいスキルについても質問が出た。

 高橋氏は、KubernetesやOpenStackを触っていて、その下のOSなどのレイヤーの重要さを感じるようになったと回答した。

 坂齊氏は、AWSの知識に加えて、HTMLやJavaScript、Reactといったフロントエンドの知識も身につけて、困っていることを相談されたときに「こういうシステムを作って解決できるのではないか」と答えられるようになりたいと語った。

 源波氏は映像配信の技術がまだ遅れていると感じていると語り、映像伝送のモダナイズに興味があると答えた.

お題「コロナ入社1期生として、どのようにキャリアを積んだか?」

 最後のお題は、「これからエンジニアを目指す学生さんに一言」で、3人それぞれ自身の経験からアドバイスを語った。

 高橋氏は「このイベントを学生のうちに見ている人はハイレベルだと思うので、あまり言うことはない」としながら、自身の経験として「バズっている技術に興味を持つのも大事だが、その基礎になる技術も学んでおけばよかったと思う」と語った。

 坂齊氏は、「大学は機械系だったので、ITやコーディングのスキルがなかった」としながら、「まわりに支えてもらい、自分でも勉強しながらやってこれた。興味があるけど知識がないという人も、ぜひ挑戦してほしい」と語った。

 源波氏は、「コンピュータサイエンスの基礎を学ぶといいと思う」と回答し、「仕事しながらでも学べる部分多い。基礎を固めておくと、実務についてからでもうまくやっていけることが多いと思う」と語った。

お題「これからエンジニアを目指す学生さんに一言」