大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

日立とパナソニックによる海外ソフトウェア企業の大型買収、その狙いは?

日立のGlobalLogic、パナソニックのBlue Yonder、それぞれの買収を解説する

Chip-to-Cloudに対応したデジタルエンジニアリングサービス企業、GlobalLogic

 一方、日立製作所が買収した米GlobalLogicは、Chip-to-Cloud(チップからクラウドまで)に対応できるデジタルエンジニアリングサービス企業だ。

 2000年9月に設立した企業で、米カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、世界14カ国に約2万人以上の従業員を擁する。50%以上がシニアエンジニアで、インドや東欧の開発拠点に多くの人材を抱えているという。

 Chip-to-Cloudに対応する高度なソフトウェアエンジニアリング技術に加えて、エクスペリエンスデザイン力や多様な業界に関する専門知識を有しているのが特徴であり、通信や金融サービス、自動車、ヘルスケア・ライフサイエンス、テクノロジー、メディア・エンターテインメント、製造など、幅広い産業において、400社を超える強固な顧客基盤を持ち、継続率は9割以上という安定性がある。

 幅広い業界の専門知識や顧客の協創実績をもとに、エクスペリエンスデザインを行うデザインスタジオを全世界8カ所に有しているほか、アジャイル開発を促進し、デジタルエンジニアリングの実装を加速するためのエンジニアリングセンターを30カ所に設置している。

 2020年度の売上収益は9億2100万ドル、調整後EBITDA率は23.7%に達しており、2021年度見通しは売上収益で約12億ドル、調整後EBITDA率も20%超を見込む。

GlobalLogic社の強み

 日立の東原敏昭会長兼社長兼CEOは、「GlobalLogicは、非常に成長をしている企業であり、その成長を継続させたい。2025年度に3000億円弱の売上収益になるだろう。利益率も25%の水準で伸ばしていくことになる」と、今後の成長性にも意欲をみせる。

 買収の狙いについて東原会長兼社長兼CEOは、「2025年を想定したときに、CPS(サイバーフィジカルシテステム)がどんな形になるのか、そのときに日立が足りないのはどこかという観点から見て、最もフィットする会社がGlobalLogicであった」と説明。

 さらに、「デジタル化が進展すると、クラウド、エッジ、デバイスがリアルタイムでつながることが増え、現場の情報が経営判断に使われ、経営判断が現場の仕組みを変えることが普通になる時代がやってくる。そうした時代において、GlobalLogicは、チップからクラウドまでをつなぐ力に長けていること、自動車や医療をはじめ、さまざまな産業分野での開発ノウハウや経験を持っていること、日立と補完できる部分が多く、シナジーを発揮できると判断した。特定領域に強みを持っているのではなく、幅広い産業でノウハウと経験がある点も、決め手のひとつになった」とする。

日立 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏

 また、日立 執行役副社長 システム&サービスビジネス統括責任者の徳永俊昭氏は、「GlobalLogicは、顧客との協創活動を重視している企業であり、協創活動で浮かび上がった課題を、自らの開発の力を使って解決できる企業である。現場からクラウドまでの一気通貫でのデータ活用の提案が可能であり、お客さまに深く入り込んでいる。それは、日立の手法と同じである」と、両社のビジネススタイルの親和性を示す。

日立 執行役副社長 システム&サービスビジネス統括責任者の徳永俊昭氏

 現在、日立は社会イノベーション事業でグローバルリーダーになることを目指している。

 その実現に向けて、同社が持つIT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフの5セクターと、オートモティブシステム事業を行う日立Astemoとのシナジーを創出することで、企業のDXだけでなく、鉄道、エネルギー、ヘルスケアなどの社会インフラ領域においても、世界規模でDXを加速できるとしている。

 GlobalLogicが、幅広い業種をカバーする企業であることは、幅広い事業領域をカバーできる総合力を発揮したい、日立の狙いとも合致する。

 そして日立とGlobalLogicが一緒になることで、日立の顧客に対して、公共サービスや社会インフラのDXを加速する一方、GlobalLogicの顧客に対しては、日立が強みとするOT×IT×プロダクトを組み合わせて、ミッションクリティカル領域まで製品やサービスを提供することができるようになる。

 また、GlobalLogicが持つ組み込みソフトからクラウドアプリケーションまでの開発力と、日立が持つミッションクリティカルシステムの開発力を組み合わせることで、社会インフラからクラウドまでをカバーし、顧客協創を強化し、グローバルにおけるアプリケーションのサービス提供を強化できるのだ。

Lumadaを進化させてグローバル展開を加速させる狙い

 日立がGlobalLogicを買収した最大の狙いは、Lumada事業の加速である。

 日立の東原会長兼社長兼CEOは、「GlobalLogicの買収は、Lumadaを進化させてグローバル展開を加速させることが狙い。別の言葉でいえば、『世界のLumada』にするための買収である」と断言する。

 Lumadaは、データから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための日立独自プラットフォームであり、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーで構成。社会の課題や企業経営の課題を、事業領域の知見や、協創、デジタルで解決することを目指している。2016年の提供開始以来、国内外を含めて、1000社以上への導入実績を持っている。

 東原会長兼社長兼CEOは、「日立の今後の成長のドライバーは、Lumadaを中心としたデジタル技術を用いた社会イノベーション事業」と位置づけた上で、「GlobalLogicは、Lumadaの成長エンジンになり、成長を加速できる。ポジティブなサイクルを生むことができ、社会イノベーションカンパニーへと日立を進化させる上では、今回の買収は、最もよい手であると考えた」とする。

 Lumada事業の2020年度売上収益は1兆1100億円。これを2021年度には42%も成長させ、1兆5800億円に拡大する計画を打ち出している。さらに、東原会長兼社長兼CEOは、「私のイメージでは、2025年にはLumadaの売上収益は2兆数千億円になる」と予測する。

 GlobalLogic買収によるLumada事業拡大では、いくつかのポイントがある。

 ひとつはLumada事業のグローバルでの拡大だ。

 GlobalLogicが持つデジタルエンジニアリングのケイパビリティと、強固な顧客基盤を獲得するとともに、米子会社である日立ヴァンタラとの連携により、Lumadaのグローバル展開におけるデジタルポートフォリオを強化し、海外事業を加速することができるからだ。

 Lumada事業は、現在、海外売上比率は約3割となっている。日立全体の海外売上比率は52%であり、それに比べると、Lumadaが国内偏重型となっているのがわかる。

 しかも東原会長兼社長兼CEOは、「経済環境などを考えると、今後は、国内よりも、海外にシフトすることになり、海外売上比率が高まっていくことになる。2021年度は57%の見込みだが、将来的には60%、70%、80%と増えていくことになる」と、全社の海外売上比率を拡大させる姿勢を示す。

 逆算すれば、日立の成長ドライバーであるLumadaは、全社の海外売上比率の拡大以上のスピードで、海外事業を拡大する必要がある。

 日立 執行役専務 CFOの河村芳彦氏は、「今回の買収をきっかけに、Lumadaの海外比率が高まり、将来は逆転することも考えられる」としている。まずは、早い段階で、Lumadaの海外売上比率50%突破が求められる。ここには、GlobalLogicの貢献が不可避だ。

 2つめは、ITセクターをはじめとする5セクター(IT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフ)およびオートモーティブ事業を行う日立Astemoの事業拡大に向けた加速器としての役割だ。

 東原会長兼社長兼CEOは、「GlobalLogicの買収により、Lumadaを軸としたグローバルデジタルプラットフォームを構築し、これによって、日立の各ビジネスユニットの成長戦略を強化していくことになる」とコメントする。

 また日立の徳永副社長は、「日立は、業種アプリケーションを武器に、信頼性が重要なミッションクリティカルの受託型開発に強みを持ち、基幹系領域で事業を拡大してきた。だが、グローバルの顧客と協創するという能力やGlobalLogicが持つクラウドアプリケーションの開発力が不足していた。GlobalLogicの買収により、アジャイルやクラウドをベースにした協創型企業へと進化することができ、高い成長を、日立のITセクターのなかに取り込むことができる」としたほか、「日立のITセクターがカバーする領域を拡大できるということは、変化したITセクターのノウハウを、ほかのセクターが活用するといったことで、Lumadaの強化につなげることができる。また、日立の研究開発の成果などと組み合わせることで、GlobalLogicは引き続き高い成長を維持できると考えている。2~3年後には、見える形で十分なシナジーを出したい」と語る。

 GlobalLogicは2028年度に、調整後EBITDAで、10億ドル(約1080億円)超の達成を目指すという。

高成長市場へのポートフォリオ拡大を図る

 そして、3つめがGlobalLogicの顧客や、新規領域の顧客ら、日立の事業を広げていくことができるメリットだ。

 徳永副社長は、「GlobalLogicとの協創によって、日立にとっては新規領域となる顧客層に対して、日立の強みである高信頼の基幹系システムを提供するというサイクルを生みたい」とする。東原会長兼社長兼CEOも、「日立とGlobalLogicが一緒になることで、日立の顧客に対して、公共サービスや社会インフラのDXを加速することができるのに加え、GlobalLogicの顧客に対して、日立が強みとするOT×IT×プロダクトを組み合わせ、ミッションクリティカル領域まで製品やサービスを提供することができるようになる」とする。新たな顧客基盤に対して、グローバルでアプローチする体制を構築できるというわけだ。

 日立のITセクターの2020年度の業績は、過去最高となる調整後営業利益率13.2%を達成するなど、体質改善の効果が出ているが、GlobalLogicとの連携によって、グローバル規模で、新たな顧客に対してビジネスが行えるように、もう一段、体質改善を進めることになりそうだ。

日立のデジタル化の中核を担う企業として期待

 日立は、2021年度を最終年度とする「2021中期経営計画」を推進。このなかで、2兆円~2兆5000億円の投資計画を打ち出している。

 GlobalLogicの買収においては、96億ドル(約1兆円)という大規模な投資を行ったほかにも、2020年7月には、エネルギーソリューション事業を行う日立ABBパワーグリッドを設立し、80.1%を出資。これに伴うABBからの事業買収額は、68億5000万ドル(約7400億円)に達し、2023年以降には、残りの19.9%の株式を取得して完全子会社化する予定だ。

 さらに、2021年1月には、ホンダ系自動車部品企業3社を統合し、オートモーティブ事業を行う日立Astemoを発足する一方で、上場子会社であった日立化成や日立金属の売却といった大規模な事業ポートフォリオの変革を実施してきた。今後は、日立建機の事業再編が注目されている。

 東原会長兼社長兼CEOは、「資産の入れ替えはかなり進んできた。私のイメージでは、9割5分は終わったと考えている」と語り、「日立はデジタル化の方向に進んでおり、その流れとは異なるバランスシートで成長していくものは連結から外すことにした。これが基本的な考え方である」とする。

 裏を返せば、GlobalLogicは日立のデジタル化の中核を担う企業であり、だからこそ投資をしたというわけだ。

 東原敏昭社長兼CEOは、今回の国内電機企業として過去最大の買収となることについて、「96億ドルという金額は大きいが、妥当だと思っている。この買収は成功すると確信している」と自信をみせる。

 ちなみに、日立ABBパワーグリッドも大規模な買収だが、ここでもLumadaやGlobalLogicとのシナジー効果が見込まれるほか、同社が持つERPを、日立全社のオペレーション基盤に導入。2025年度までに、共通ERPの構築、活用に向けて300億円を投資し、1000億円のコスト削減を見込み、差し引きで700億円の効果を期待しているという。

 日立ABBパワーグリッドでは、外に向けたビジネス拡大効果だけでなく、内部からのデジタル変革の効果も見込んでいることになる。