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第3四半期決算に見る、パナソニック・Blue Yonderと日立・GlobalLogicの現在地

 電機大手各社の2021年度第3四半期決算が発表されている。そのなかで、パナソニックが買収したBlue Yonderと、日立製作所(以下、日立)が買収したGlobalLogicの2つの米IT企業が、早くも高い成果を上げていることが明らかになった。

 両社の決算発表から、Blue YonderとGlobalLogicの現在の状況を取り上げてみる。

右肩上がりで成長するBlue Yonder

 パナソニックが発表した2021年度第3四半期(2021年10~12月)の連結業績では、初めてBlue Yonderの業績が開示された。2021年9月に買収を完了し、2021年度第3四半期が買収後、最初の決算発表となった。

 これによると、2021年度第3四半期の売上高は前年同期比12%増の2億9300万ドル(約337億円)。第1四半期が2億7200万ドル、第2四半期が2億8600万ドルであり、四半期ごとに右肩上がりで成長している。

 また、売上高に占めるリカーリング比率は第3四半期には69.1%となり、2022年度以降はこの比率が伸長することになるとの見通しも示された。

 さらに、SaaS ARR(Annual Recurring Revenue)は、第3四半期実績で4億7500万ドルと、これも四半期を追うごとに右肩上がりで伸長。前年同期比で39%増という高い伸びをみせている。またSaaS NRR(Net Revenue Rate)は108%となり、第3四半期は若干下降したものの、5四半期連続で100%を超える成長を遂げている。

Blue Yonderについて
Blue Yonderの経営指標

 パナソニック 取締役専務執行役員兼グループCFOの梅田博和氏は、「Blue Yonderのリカーリング比率が想定を上回る形で推移しており、2021年度の着地点も、当初の見通しを少し上回る形を想定している」とする。

パナソニック 取締役専務執行役員兼グループCFOの梅田博和氏

 SCM領域において安定した経営基盤と、技術力を持つ世界最大のサプライチェーンソフトウェア会社であるBlue Yonderは、76カ国にビジネスを展開し、3000社以上の顧客基盤を持つ。SCMソフトウェア領域において、400件以上の特許を保有し、110人以上のデータアナリストが在籍。今後はAIを活用したオートノマスサプライチェーンの実現を目指している。

 Blue Yonderの新規連結により、コネクト部門(パナソニックコネクティッドソリューションズ社)の2021年第3四半期累計(2021年4月~12月)売上高は、前年同期比12%増の6481億円、営業利益は前年同期の146億円の赤字から426億円の黒字に転換した。

 一方で、第3四半期(2021年10月~12月)の売上高は、前年同期比11%増の2226億円となったものの、営業利益が前年同期から122億円減り、96億円の赤字となった。第3四半期には、Blue Yonder買収時の「資産・負債の再評価」に伴う影響があったのが原因だ。

Blue YonderのCEOが交代、3月1日よりマーク・モーガン氏が暫定CEOに

 なおパナソニックは、2月28日付で、Blue Yonderのギリッシュ・リッシCEOが退職し、3月1日付で、暫定CEOにBlue Yonderワールドワイドコマーシャルビジネス エグゼクティブバイスプレジデントのマーク・モーガン氏が就任するトップ人事を発表した。

 モーガン氏は、ソリューションアドバイザリーとしてBlue Yonderに23年間在籍しており、米国内外で戦略的リーダーシップのポジションを務めてきた。

 そのモーガン氏は、「23年間に渡って、Blue Yonderが食品や水、医薬品といった世界の必需品を、迅速かつ効率的に配達できるようにしてきたことを目の当たりにしてきた。この仕事に情熱を注いでおり、目の前には素晴らしいチャンスが広がっている。Blue Yonderをリードし、世界クラスのチームメンバーと協力し、幅広い顧客基盤にイノベーションと価値の提供を推進していけることを嬉しく思う」とコメントしている。

Blue Yonderの暫定CEOに就任するマーク・モーガン氏

 また退職するリッシ氏は、「直近の決算発表で証明されているように、Blue Yonderのビジネスはかつてないほど健全になっている。サプライチェーンの最適化は、世界中のすべての会議室で、会話の最前線にあり、Blue Yonderは、主要なエンドトゥエンドのソリューションプロバイダーとして重要な役割を果たしている。世界中のBlue Yonderの顧客の可能性を実現するために、今後も革新を続けることを確信している」と述べた。

 リッシ氏は2017年の入社以降、5年間に渡り、旧Blue YonderやYantriksなどの戦略的買収のほか、ソリューションポートフォリオのクラウドへの移行を主導してきた。

 Blue Yonderの取締役会議長であり、コネクティッドソリューションズ社のCEOである樋口泰行氏は、「ギリッシ(現CEO)は、過去5年間で、サービスのクラウド化やSaaSへの移行により、リカーリング比率約70%という安定した経営基盤の構築を主導し、パナソニックの株式取得においても卓越したリーダーシップを発揮した。深く感謝している。この経営基盤を引き継ぐマーク(暫定CEOに就任するモーガン氏)との連携により、Blue Yonderは、引き続き、オートノマスサプライチェーンの実現に向けて、これまで以上に取り組みを強化していく」と話している。

退任が決まった、Blue Yonderのギリッシュ・リッシCEO(左)。右はBlue Yonderの取締役会議長で、パナソニック コネクティッドソリューションズ社のCEOを務める樋口泰行氏(過去の記者会見より)

大きな成長を遂げているGlobalLogic

 一方で日立は、2021年7月にGlobalLogicの買収を完了しており、今回の第3四半期決算でもその成果を示してみせた。

 第3四半期のGlobalLogicの売上収益は前年同期比51%増の376億円、調整後営業利益は前年同期から29億円増の85億円となっている。

 「米ドルベースでも売上収益は39%増となり、調整後営業利益率は22.5%、EBITDAマージンも23.6%と高い収益性を維持している。戦略的事業が大きな成長を遂げていることを示した」(日立 執行役専務CFOの河村芳彦氏)と語る。

GlobalLogicの実績

 またGlobalLogicの買収影響は、第3四半期累計では、売上収益で720億円の増加、調整後営業利益では160億円の増加となっている。

 日立によると、GlobalLogicは、大手欧米企業を中心にデジタルソリューションの新規案件を獲得。さらに、日立エナジーとのグリーンデジタル市場での事業拡大に向けた取り組みや、鉄道システム事業との連携により、予防保全などの鉄道サービス事業の高度化に向けた取り組みなどの成果が上がっており、「日立グループの各セクターとのシナジー創出が加速している」という。

 米国における日立ヴァンタラとの協業や、国内における協創活動も始まっているとした。

 なおGlobalLogicは、情勢が懸念されるウクライナに数千人規模の開発拠点を持つが、「現時点では影響はない」としている。

 GlobalLogicの取り込みにより、ITセクターの業績も拡大している。

 ITセクターの第3四半期累計業績は売上収益が前年同期比4%増の1兆4954億円となった。だが、調整後営業利益は前年同期比32億円減の1706億円の減益となった。なお、GlobalLogicの買収に伴う無形資産等の償却費として、年間で90億円を見込んでいる。

ITセクターの業績

 また、GlobalLogicの買収効果は、Lumadaの事業拡大にもつながっている。

 Lumada事業は、第3四半期累計の売上収益が、前年同期比40%増の1兆600億円となっている。オーガニックでの成長率を見ると15%増にとどまっており、GlobalLogicやパワーグリッド事業の買収によって、Lumadaが大きく成長していることがわかる。

 また、Lumadaでは、公共分野での大口案件の獲得や、DX需要を取り込んでいるほか、エナジー部門やライフ部門との連携も増加。Lumada事業のセクター別構成比も変化しており、前年同期には3%だったエネルギーの構成比が7%に、ライフも6%から12%に拡大している。「幅広いセクターにLumadaが広がっている」とした。

Lumada事業の現状

4月1日付で事業体制を強化

 今後、注目しておきたいのが、2022年4月1日付で実施する事業体制の強化だ。

 IT分野で注目されるのが、北米に拠点を置く日立デジタルである。

 「日立デジタルは、米シリコンバレーの日立グローバルデジタルホールディングスを前身にしているが、従来は投資のための役割を果たしていた。新会社ではデジタル事業を行う会社にキャラクターを変え、Lumadaの世界展開の拠点をここに置くことになる。これまでLumadaは東京を中心にやっていたが、日立デジタルは100人規模の体制でスタートし、さらにリソースを投下していく。戦略的意図を持った会社になる。これにより、日立グループのグローバルでのデジタル戦略を、横断的に策定し、成長戦略を推進していくことになる」(日立 執行役専務CFOの河村芳彦氏)とした。

日立 執行役専務CFOの河村芳彦氏

 日立デジタルの会長には、デジタルシステム&サービス部門を統括する執行役副社長の德永俊昭氏が就任。CEOには、現在、家電事業を担当する日立グローバルライフソリューションズの社長を務める谷口潤氏が就任し、米国シリコンバレーに常駐する。

 谷口氏は、家電事業を担当する以前は、制御プラットフォーム事業のDX推進をリードしていた経験を持つほか、家電事業では德永氏からバトンを受け取る形で社長に就任しており、德永氏と谷口氏によるタッグによって、日立デジタル社のかじ取りが行われることになる。49歳という若さにも注目が集まる。

日立デジタルの会長に就任する、日立 代表執行役 執行役副社長の德永俊昭氏
日立デジタルのCEOに就任する、日立グローバルライフソリューションズ 取締役社長の谷口潤氏
2022年4月1日付の事業体制

 さらに、デジタルシステム&サービス部門の経営陣に、GlobalLogicのシャシャンク・サマントCEOと、日立ヴァンタラのガジェン・カンディアCEOが加わることになる。

 GlobalLogicのサマントCEOは、GlobalLogicのデジタルエンジニアリング力を活用して、引き続き、日立全社の顧客協創とデジタル事業を牽引するとともに、德永氏のエグゼクティブアドバイザーも兼務。日立グループ全体のデジタル事業の成長戦略の策定に参画する。

 また、日立ヴァンタラのカンディアCEOは、デジタルシステム&サービス部門のChief Digital Transformation Officer(CDXO)を兼務。日立ヴァンタラの強みであるクラウドの活用や、データ活用の知見を、日立グループのサービス事業の拡大に生かし、グループ全体をデジタルソリューションプロバイダーへと変革させる役割を担うことになるという。

GlobalLogicのシャシャンク・サマントCEO
日立ヴァンタラのガジェン・カンディアCEO

 これらの新たな体制により、GlobalLogic や日立ヴァンタラの強みを生かしながら、Lumada事業をグローバルに拡大。DXによる成長を加速させる狙いとした。

 日立のITセクターでの成長戦略がさらに加速することになりそうだ。