ニュース

営業利益では日立を牽引する存在になってきた――、德永俊昭副社長がITセクターの状況を説明

日立、エグゼクティブが事業戦略を解説する「Investor Day 2021」を開催

 株式会社日立製作所(以下、日立)は8日、機関投資家やアナリスト、メディアを対象にした事業戦略説明会「Hitachi Investor Day 2021」を、オンラインで開催した。

 同社の東原敏昭会長兼社長兼CEOや、6月23日付で社長兼COOに就任する小島啓二副社長のほか、各事業を統括する役員が、午前10時20分から午後5時までの1日をかけて直接説明を行った。

日立の成長を牽引するITセクターの取り組み

 この中で、ITセクターの取り組みについては、日立 システム&サービスビジネス統括責任者 社会イノベーション事業統括責任者の德永俊昭執行役副社長が説明した。

日立 執行役副社長 システム&サービスビジネス統括責任者 社会イノベーション事業統括責任者の德永俊昭氏

 德永副社長は、「ITセクターは、お客さまや社会の期待に応え、DX市場をリードするグローバルデジタルカンパニーを目指す。ITセクターが日立の成長を牽引することになる」と発言。

 2021年度のITセクターの売上収益は、2兆1000億円としていたものを2兆2000億円に上方修正。さらに、2021中期経営計画で掲げている、“2021年度にLumadaの売上収益1兆6000億円”の目標についても、「十分射程圏内に入っている」と述べた。

 ITセクターでは、2022年度の日立全社目標である調整後営業利益率10%の達成に向け、2けたの調整後営業利益率を維持することで貢献。2025年度に見据えている、日立全社でLumada事業の売上収益3兆円、調整後営業利益5000億円の実現に向けても、「ITセクターがリードする」との考えを強調した。

 ITセクターは、フロントビジネスとして、メガバンク、保険、証券、地域金融機関などに、ミッションクリティカルな基幹系システムを構築、運用、および新たな金融ソリューションを開発、提供する「金融BU」、公共、電力、交通分野などの社会インフラシステムの構築、運用、およびこれらで培ったノウハウと最新のテクノロジーを組み合わせて、安心、安全なサービスを支援する「社会BU」、業務システムの構築や、全国約300拠点を基盤としたシステム運用、監視、保守により、ITライフサイクル全域をカバーし、ワンストップサービスを提供する「日立システムズ」、製造、流通、通信業を中心に、最新テクノロジーを組み合わせたデジタルソリューションを提供し、導入から運用までワンストップで支援する「日立ソリューションズ」を持つ。

 またこれらに、日立全体のLumadaビジネスを横ぐしで支え、テクノロジーを集約し、高度なサービスを実現する共通基盤をデジタルソリューションとしてグローバルに提供する「サービス&プラットフォームBU」をあわせて構成されている。さらにITセクターのグローバル事業の中核として、Hitachi VantaraおよびGlobalLogicが位置付けられた。

各BUと主要グループ会社

 2020年度の売上収益は2兆487億円。調整後営業利益では、過去最高となる2694億円を達成。調整後営業利益率も前年実績を大幅に上回る13.2%となっている。またITセクターだけで、47の国と地域に事業拠点を展開し、国内外で7万2000人の従業員を擁しているという。

 「日立全体の売上収益の約21%を占めており、調整後営業利益では約53%に達している。これまでの構造改革やコスト削減の取り組みに加え、利益率の高いLumada事業が成長しているのが要因。コロナ禍の不透明な事業環境においても、ITセクターは2けたの調整後営業利益率を安定的に稼ぎ出せる事業体へと進化したと認識している。営業利益の面では、ITセクターが日立を牽引する存在になってきた」と述べた。

 ITセクターの売上収益のうち、64%がフロントビジネスであり、サービス&プラットフォームが36%。また、フロントビジネスの内訳は、金融BUが20%半ば、社会BUが20%後半、日立システムズが約30%、日立ソリューションズが10%後半の構成比だという。ITセクター全体の国内外の売上比率は、国内が75%、海外が25%。「今後、グローバルの事業拡大が課題であると認識している」と述べた。

事業構成

 また德永副社長は、「日立のIT事業は60年以上の歴史があり、列車座席予約システムや銀行オンラインシステムなど、人々の生活を支える社会基盤となる基幹システムと、それを構築するハードウェア、ソフトウェア、サービスを提供してきた。これらのミッションクリティカルシステムのSI技術はITセクターの基盤である」と振り返る。

 そして、「これに加えて、近年はビッグデータやAI、IoTなどのデジタル技術への取り組みを加速。2016年にはLumadaをローンチし、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指して、社会課題と企業経営の課題の解決に取り組んでいる」と述べたほか、「OT×IT×プロダクトをパッケージで提供するLumadaにより、環境、レジリエンス、安心・安全の3つの領域に注力。社会の課題と企業経営の課題を解決し、価値起点での事業に取り組む。これによって、人々のQoLの向上、顧客企業の価値向上の実現を目指す」などとした。

 これまで2021年度のITセクターの売上収益計画は2兆1000億円としていたが、今回の説明会では、2兆2000億円へと上方修正。GlobalLogicの買収による償却負担が営業利益を押し下げる要因となるが、調整後営業利益率12.5%と2けた台を維持することを約束。「市場の伸びを超える成長を目指すという意志のもと、事業運営を進める」と宣言した。

 Lumada事業については、2020年度が1兆1100億円の売上実績に達したことに触れながら、その成長要因として、GlobalLogicやマレーシアのFusioTechといった「SaaS、デジタルエンジニアリング企業の買収」、LumadaアライアンスプログラムやLumada Innovation Hub Tokyoの開設による「顧客やパートナーとの協創拡大」、2020年度には100件以上となったLumadaソリューションの実績をもとにした「ソリューションの再利用する環境としてLumada Solution Hubを整備」の3点を挙げる。

 その上で、「Lumada事業は順調に成長を遂げている。2021年度にLumadaの売上収益1兆6000億円という目標についても、十分射程圏内に入っている。2021中期経営計画期間中におけるLumada事業の年平均成長率は24.2%となり、市場成長を大きく上回る。Lumadaは、事業成長フェーズに入ったと判断している」としたほか、「営業利益率についても、すでに10%を超える水準を確保しているが、GlobalLogicを取り込むことで、さらに高い利益水準を目指す」と語った。

Lumada事業の状況

ITセクターの事業ビジョン

 ITセクターの事業ビジョンについては、「世界中の顧客との協創、パートナーとのアライアンスを通じ、デジタルの力で社会イノベーション事業を牽引して、日立の成長を実現する」と定義。経営方針には「顧客DX支援の強化」と「グローバル事業の拡大」の2点を挙げている。

 そして、「DXは企業にとって、成長と持続可能性を左右する最も重要な経営課題となっている。顧客の経営課題に寄り添い、支援を強化することがITセクターの成長に直結する。企業や社会のDXに最適なソリューション、サービスを提供し、グローバルで、日立全社のLumada事業の売上成長を加速する。顧客のDXを支援するためには革新性と信頼性が必須である。顧客の経営課題を特定し、課題へのソリューションを提案し、提供するには革新性があるデジタルエンジニアリング力に裏打ちされた顧客協創の推進が必要不可欠だ。そして、DXを通じた経営変革にあたっては既存IT資産の活用や統合といったミッションクリティカルなSI力が必ず必要になる。日立とGlobalLogicとの融合により、ITセクターの成長の可能性は、極めて大きくなると認識している」とした。

 このほか、「国内における顧客DX支援の取り組みをグローバルにも展開することが、ITセクターの成長には不可欠であると強く認識している。GlobalLogicは、顧客との協創を加速するフロント力と、顧客課題を解決するソフトウェアのデリバリー力を有しており、ITセクターの成長に大きく寄与するドライバーになる」と位置づけている。

ITセクターの経営方針

GlobalLogic買収後の施策について説明

 GlobalLogicの買収についても説明した。

 德永副社長は、「GlobalLogicは、高度なエクスペリエンスデザイン力と、デジタルエンジニアリング力で、顧客の業務やビジネスを、デジタルで刷新するサービスを、グローバルで展開している企業であり、顧客のDXジャーニーを支援する企業である」と説明。2021年7月末までの完全子会社化に向けた進捗については、「専任チームを組み、日立が持つM&Aの実績や経験値をフル活用して、各種作業を予定通り進めている」と報告した。

 また、規制当局の承認手続きが予定通り進捗していること、最重要資産である人材については、キーパーソンを含む従業員のリテンションが順調に進んでいること、クロージング後の組織体制の検討やガバナンスの設計などの統合に向けた作業も計画通りであること、クロージング後の速やかなシナジー創出に向けた準備作業を着々と進行していることを示し、「GlobalLogicの社員からは、今回のM&Aを歓迎する声や、日立とのカルチャーフィットが高いという声が寄せられている」と話している。

GlobalLogic買収の進捗

 今後の成長戦略については、「成長に向けたITセクターのトランスフォーメーションを段階的に推進。GlobalLogicの獲得により、顧客や社会のDXをグローバルで支援する事業体に進化させる」という方針を打ち出した。

 日立のITセクターでは、国内で展開してきた「ミッションクリティカルの業務アプリケーションの強み」をベースに、HitachiVantaraの設立や、Pentahoの買収による「高信頼なIT基盤のグローバル提供」と、Lumadaの活用やデジタル人財の継続的強化による国内での「協創型SIの拡大」へと、2つの方向に事業を広げてきた。

 これに加え、GlobalLogicの買収により、「グローバルへの協創型ビジネスへの拡大」という新たな方向への事業拡大が可能になるとし、「Lumadaのグローバル展開を加速することが可能になる。また、日立が持つアセットを活用しGlobalLogicのさらなる成長につなげることができる。日立のITセクターのトランスフォーメーションに向けた大きな一手がGlobalLogicの買収になる」とした。

 日立のアセットを活用したGlobalLogicのグローバル展開では、日立の顧客に対するGlobalLogicのアプリケーションの提供、あるいはGlobalLogicの顧客にミッションクリティカルSIを強みとする日立の業務アプリケーションを提供する「クロスセル」、1000件超のLumadaのユースケースを、Lumada Solution Hubで横展開し、ソフトウェア資産活用型ビジネスをGlobalLogicがグローバルで拡大する「既存ソフト資産活用」、日立のプロダクトをGlobalLogicのデジタルエンジニアリング力で高付加価値化し、顧客との協創を強化して社会インフラのDXを促進する新たなLumadaソリューションの開発に加え、北米および欧州市場で、Hitachi ABB Power Grids(エネルギー)やHitachi Rail(運輸)、JR Automation(製造)との連携を強化し、高成長領域で、日立全社のLumada事業を伸ばす「新ソリューション開発」の3点を挙げた。

 「クロスセルは、早期に成果が刈り取れる領域であり、クロージング直後から、積極的に活動を展開する。OT、IT、プロダクトを融合した新たなLumadaソリューションも開発できるだろう。北米では日立が多くのアセットを持っている。北米は一番注力する市場になる」などとした。

成長戦略

 さらに、社会インフラのDXで強みを発揮する「ミッションクリティカルIoT」に力を注ぐ考えを示した。

 德永副社長は、「ミッションクリティカルIoTをコアにして、社会インフラのDXを加速。日立全社のLumada事業を拡大する」とし、「社会インフラをデジタルで最適化するプロダクトから、DXアプリケーションまでをトータルに提供し、サイバーフィジカルシステム(CPS)全体をサポート。これによって、日立全社のLumada事業を拡大する。ここでは、日立の幅広いプロダクト群を活用し、フィジカルスペースからサイバースペースへとデータを収集でき、GlobalLogicによって、課題解決のためのアプリケーションを提供できることが強みのひとつ」とする。

 もうひとつの強みについては、「さらなるアウトカムの向上を実現するため、データ分析結果に基づき、リアルタイムにフィジカルスペースを制御する知見と能力がある点でも強みがある。CPSの形をミッションクリティカルIoTと名づけ、OTとITのナレッジ、信頼性と革新性の開発力が求められる社会インフラのDX市場で、競争優位な事業ポジションの獲得を狙う。社会インフラのDXプレーヤーを目指す」と説明した。

 このほか、ミッションクリティカルIoTの実績として、製造業の生産現場をデジタルツイン化するLumadaソリューションの「IoTコンパス」を紹介。フィジカルスベースの4M(マシン、マテリアル、メソッド、ヒューマン)データを、サイバースペース上に再現し、工場全体の最適化を実現できるという。「IoTコンパスをさらに進化させ、事業環境の急変など、想定外の事態にも対応可能なレジリエンスを実現し、顧客に対して、日立ならではの価値を提供する」と述べた。

ミッションクリティカルIoT

 なお日立では、2030年にカーボンニュートラルの達成に取り組んでいるが、ITセクターではデジタルを活用したCO2削減に取り組んでいることを説明。同社大みか事業所では、電力需要の可視化や再生可能エネルギーの活用に取り組んでいること、タイ政府が主導するSmart Grid Development Master Planの実証プロジェクトにおいて、日立がシステムベンダーとして選ばれ、電力需給バランスの最適化により再生可能エネルギー導入を促進している例などを示した。

グローバル社会のDXを行うのは日立である。と言われるようになりたい

 Hitachi Investor Day 2021の冒頭にあいさつした、日立の東原会長兼社長兼CEOは、「2021中期経営計画では、IT、インダストリー、モビリティ、エネルギー、ライフの5セクターでの構造改革を実施した。コロナ禍でも、5セクターでは営業利益率が8%以上を確保できる状況を作れた。さらに利益ができる構造にしたい。また、多くのアセットを取り込み、日立が社会イノベーション事業のグローバルリーダーになるための骨組みができた。さらに強靱(きょうじん)な日立を作る」とコメント。

日立 執行役会長兼執行役社長兼CEOの東原敏昭氏

 さらに、「2016年にスタートしたLumadaは、最初は顧客起点で課題を解決することからスタート。顧客協創方法論であるNEXPERIENCEを通じて、課題や手法を共有し、その成果が有効であればLumada上に構築することで、顧客起点のビジネスモデルを定着させた」と、成果を説明する。

 その一方で、「だが、この数年を見ると、環境やレジリエンス、安全・安心といった社会課題の解決に、パートナーとともに取り組むことが増えた。2020年11月には、Lumada Alliance Programを開始した。Lumadaをオープンプラットフォームにし、エコシステムを構築するアプローチであり、すでに数十社が参画。社会課題を解決する価値起点のビジネスモデルにシフトしようとしている。製品のイノベーション、顧客起点、価値起点が、今後のLumadaのアプローチになる。そのためにはセクターをまたいで統率するリーダーシップが必要である。小島新社長がその役割を担う。GlobalLogicと各セクターとのシナジー創出を加速する必要がある。期待してほしい」と述べた。

 また、経済産業省と東京証券取引所が選定するDX銘柄 2021において、「DXグランプリ2021」に選ばれたことにも触れ、「Lumadaを活用したDXを、顧客に展開するだけでなく、日立全体の構造改革につながげたことが評価されたものである。今後も継続し、『グローバル社会のDXを行うのは日立である』と言われるようになりたい」とした。

構造改革により、さらなる成長に向けた基礎工事が完了

 小島次期社長は、日立の経営戦略の方向について説明した。

 「2021中期経営計画では、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指す。Lumada事業については、協創型SIの拡大に続き、新たなVantaraを発足し、グローバルに拡大するためにGlobalLogicを買収し、段階的に事業体制を強化してきた。一方、OTおよびプロダクトの事業ポートフォリオの強化では、JR Automation、日立ハイテク、日立ABBパワーグリッド、日立Astemo、アルチェリッキなど、テクノロジーと顧客チャネル、必要なスケールといったアセットをM&AやJVで獲得してきた。これらの構造改革の結果はゴールではない。さらなる成長に向けた『基礎工事』の完了である」との現状に触れた。

日立 執行役副社長 ライフ事業統括本部長の小島啓二氏
2021中期経営計画の取り組み

 また小島次期社長は、日立の目指す方向性として、「デジタルで成長する企業」、「ESG経営の深化」、「利益の還元」の3点を挙げ、「パンデミックのなかでも、安定して1兆円超の営業利益を稼ぎ出し、その半分をLumadaが稼ぐ形を作る。また、ダイバーシティ&インクルージョンや環境経営、コーポレートガバナンスで、世界トップクラスと認知される企業になる。そして、従業員や株主にとって、さらに魅力的な企業になりたい。イノベーションを加速するために、R&D投資を拡大することになる」などと述べた。

さらなる成長に向けて

 2022年度からスタートする次期中期経営計画に関して、「社長としてやり遂げなくてはいけない責務」と位置づけて語ったのが、「大規模M&Aで獲得したアセットを、企業価値の向上に確実に結びつける」ことだった。

 小島次期社長は、「そのためには、経営の質をさらに改善する必要がある」とし、アセット特性の近い事業をまとめて経営することや、事業特性により、競合ベンチマーク企業を明確化する「経営のシンプル化」、GlobalLogicが持つ顧客協創力の活用や、クラウドを活用したサービス型ビジネスの拡大による「経営のデジタル化」、伸びる地域で確実に成長するために、日本起点の経営から脱却する「経営のグローバル化」に取り組むという。

次期中期経営計画での重点施策

 また、現在のR&Dに加え、2050年に想定される将来の産業予測からバックキャストし、それをもとにして、オープンイノベーションに対して投資する考えも示した。

 小島次期社長は、「日立の使命は、社会イノベーション事業を通じて、データとテクノロジーで社会インフラを革新し、人々の幸せを支えることである」とし、「今回は方向性だけ発表したが、来年春に予定している次期中期経営計画の発表では、次の日立の姿を具体的に、定量的に描くことになる」と述べた。