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パナソニック、Blue Yonderを中核としたSCM新会社の上場準備を発表

 パナソニック コネクトが展開するサプライチェーンマネジメント(SCM)事業を統合し、株式上場させる計画が明らかになった。

 パナソニック ホールディングス株式会社の楠見雄規グループCEOや、パナソニック コネクト株式会社の樋口泰行CEOなどが5月11日、オンラインで会見を行い、サプライチェーンマネジメント事業の株式上場準備の開始を決定したことを発表した。

パナソニック ホールディングス株式会社の楠見雄規グループCEO
パナソニック コネクト CEOの樋口泰行氏

決定していない事項が多いなかでの異例の発表

 会見に出席した楠見グループCEOは、株式上場時期については「明確にはできない」としたほか、上場会社の規模についても「最適な形を検討していくことになり、規模は変わっていくことになる」と発言。上場市場に対しても「日本や米国などを視野に入れて検討する」とコメントするなど、まだ決定していない事項が多いなかでの異例の発表となった。

 これに関して楠見グループCEOは、「今回は、SCM事業の株式上場を検討する準備があることを発表した。この分野はスピードが要求されており、できるだけ早くやる必要がある。詳細が決まっていない段階で発表するのは、プロセスを進める上での法的リスクを回避したり、断片的な情報で記事化されたりすることを避ける意味がある」と述べた。

 また、「過去には周到に準備をして、準備に準備を重ねた上でないとコミュニケーションをしないということがあったかもしれない。今回の件については、パナソニック コネクトからの要請があり、それをパナソニックホールディングスで検討し、ここに至っている。つまり、全員が腹くくりをしている」。

 「腹くくりをしたのであれば、やりやすい形でコミュニケーションをした方がいい。詳細を決めていく上でも、この話は内緒にしてほしいと言わずに、さまざまな人に知恵を借りることができる。検討を速く進めるためにも発表した。世の中に対して、スピード感を持ってやっていくことを示し、それをコミットし、進めていく。もしこれが、世間のスピード感にあっていないのであれば、もっと加速しなくてはならない。そうした認識でいる」などと話している。

 このほか楠見グループCEOは、「2022年4月にスタートした事業会社制(持株会社制)では、各事業会社が、事業環境や競合環境の変化に適応した成長に向けて、グループの資本政策を柔軟に選択できるようにしている。各事業会社が戦略を研ぎ澄ませるなかで、より速く、より大きなお役立ちを果たすための成長戦略を明確化しており、その筆頭が、サプライチェーン全体のムダや滞留を撲滅し、使用エネルギーの削減を通じた環境負荷軽減を目指すSCM事業であった」と説明。

 さらには同事業について、「コロナ禍でサプライチェーンが複雑化するなかで、対応するソリューションの需要が拡大している。その分野に向けて、競合企業や参入企業が活発に投資を行っており、ソフトウェア人材の流動性も拡大している。クラウド移行率はまだ10%であり、今後、拡大する余地が大きい。そのビジネスチャンスを生かすために、スピード感のある投資によって、社会へのお役立ち領域を拡大できると考えている。資本市場の力を借りて、グローバル成長を加速させるため、SCM事業の上場準備を開始する。事業の新規上場の狙いは、非連続の成長が必要な事業が、誰にも負けない競争力を早期に獲得することである」と述べた。

サプライチェーンマネジメント(SCM)事業の競争力強化に向けて

 また、「上場する事業は、パナソニックグループの柱として位置づけるため、パナソニックホールディングスが、議決権比率のマジョリティーを持つことを前提にする。SCM事業はパナソニックグループにとってコア事業である」としたものの、「現時点では非連結化などの考えはないが、10年・20年が経過するうちにソフトウェア業界が大きく変化し、多額の費用で買収したものを組み合わせなくてはならないことが発生するかもしれない。基本的な考え方は、パソナニックグループが持っているSCMが、世界最高のものであり続けるためにはどうすべきかであり、それをベースに是々非々で考えればいいと思っている」とも語っている。

事業単位での新規上場の考え方

Blue Yonderを中核に、現場ソリューションカンパニーや技術研究開発本部の機能を組み合わせる

 今回の発表では、上場する企業の単位は、Blue Yonderを中核とし、パナソニックコネクトのなかで、Blue Yonderと密に連携する現場ソリューションカンパニーの機能や、技術研究開発本部の機能を組み合わせたものになると説明された。

Blue YonderとパナソニックによるSCM事業の価値最大化を図る

 パナソニック コネクトの樋口CEOは、「サプライチェーンの価値を最大化するのに必要であり、さらに、最適な範囲でその対象を検討していく。その単位とすることで、経営スピードを上げるための自主独立性と、パナソニックグループとの相乗効果の両方を実現する形で、株式上場を行うための検討に入ることになる」と語る。

 楠見グループCEOも、「Blue Yonderだけに投資すれば成長できるというものではない。Blue Yonderだけでなく、SCM事業をやっている部門と組み合わせることで、『専鋭化』していくことができる。投資を加速していかなくてはならない時期にきた」とした。

 具体的には、Blue Yonderのエンドトゥエンドのサプライチェーン統合プラットフォームである「Luminate Control Tower」と、パナソニック コネクトが持つセンシング技術、ロボティクス技術、さらには、両社で取り組むAIコンピューティングといった強みとする領域を掛け合わせて、「つくる」、「運ぶ」、「売る」といったそれぞれの領域における最適化を実現。さらに、サプライチェーン全体での最適化に取り組む体制を整えるという。

 「これにより、ソフトウェアだけをやっている競合企業には、決してまねができないハードウェアとの組み合わせが可能になり、競争力を持った唯一無二のソリューションを提供でき、圧倒的なポジションを築くことができる」(パナソニック コネクトの樋口CEO)と述べた。

 さらに、上場で得た資金などを活用して、R&Dの強化やM&Aの推進を、積極的に実行する考えも示す。

 具体的には、R&D投資として、顧客ニーズに柔軟に対応できる複数のマイクロサービスを拡充し、他社サービスとの連携を強化。エンドユーザーへのeコマースサービスなどのラストワンマイル領域、AI精度向上のためのサプライチェーンネットワーク領域の強化を図る。

 「Blue Yonderは、さまざまなコンポーネントがそろっているが、ミッシングパーツといえる抜けているコンポーネントがいくつかある。最近買収したオーダーマネジメントのYantriks(ヤントリックス)もそのひとつであった。eコマース分野やサプライチェーンネットワーク分野などを対象に、ボルトオン投資によって補充していくことになる」とした。

 また、Luminateの競争力を維持するために、機器間や機能間の自動連携、現場への効果的なフィードバックをはじめとする各種実行機能の開発を強化。加えて、機器組み込みソフトウェアを含む領域での開発を強化することにより、取得するデータの質と量を向上させ、AIやML、DLによる高度化を実現。現場に的確なフィードバックを行ったり、現場での自律的動作を行えるロボティクス技術への応用を図ったりするという。

 パナソニック コネクトの樋口CEOは、「これらの強化によって、Blue Yonderの競争力をさらに高め、欧米市場においてSaaSビジネスをさらに強化していく。SaaSベンダーとして成功するための投資を進めていくことになる。目指しているところは、ServiceNowであり、Workdayであり、Salesforceであり、Office 365である」と話す。

M&A・R&D投資を強化する領域

 このほか、「パナソニックグループの技術力により、現場データとの連携を強化。SaaSの高付加価値化を図る。パナソニックコネクトが持つセンシング技術や製造業で養ってきたインダストリアルエンジニアリング、現場最適化ソリューションで得られる精度の高い現場データを、Blue YonderのSaaSプラットフォームに取り込み、リアルタイムに現場への実行指示が行えるフィードバックループを構築する」とも述べた。

 あわせてパナソニック コネクトの樋口CEOは、「パナソニックグループへの導入や、日本の顧客への展開を通じて、数多くの現場経験をもとに、Blue Yonderソリューションを徹底的に磨き上げ、日本からグローバルへ横展開し、スケール化していく。特に日本市場は、Blue Yonderにとってはホワイトスペースである。パナソニックグループが持つ顧客基盤やブランド力、人材、資本を活用して、SaaSソリューションのさらなる拡大を図る」と、国内での展開拡大にも意欲をみせた。

グローバルでの成長ストーリー

 ガートナーの予測によると、SCMソフトウェア市場は、2026年までに年平均成長率14.3%という高い伸びを示すという。さらに、SCM分野は、オンプレミス比率が約9割を占め、SaaSビジネスの拡大が見込める領域とのこと。

 パナソニック コネクトの樋口CEOは、「成長市場であるため、多額の資金が流入している状況であり、その結果、短期間に買収価格が上昇したり、人材確保が難しくなったりするのではという懸念がある。いまの時点から速く走らなければならない状況にある」と、SCMを取り巻く状況を指摘。

 そして、「Blue Yonder事業に携わって感じたのは、業界の変化や進化が極めて速く、経営や意思決定のスピードも速いことである。言い換えれば、クラウド型SaaSビジネスではタイムリーに正しい意思決定を行えば、大きく成長でき、企業価値の向上が可能である。それを強く実感している」としたほか、「Blue Yonderは、技術力、顧客基盤、IP、リカーリング比率の高さなど、いいポジションにある。また、AIやMLを駆使して高度化したエンドトゥエンドでのサプライチェーンの最適化の手法を持っており、これに対するニーズが高まっている。高度なサプライチェーンの最適化のためには、リアルタイムの情報に基づき、短いリードタイムで、短いライフサイクルの製品を、カスタマイズしてオーダーにあわせ、個別に配送するモダンサプライチェーンへの質的変化が必要である。Blue Yonderは、オートノマスサプライチェーンの実現を目指しており、そこに向けた成長戦略を加速することができる」とした。

モダンサプライチェーンへの対応
SCM事業の目指す姿 ~オートノマスサプライチェーン~

 一方、パナソニック ホールディングスの楠見グループCEOは、「今回の取り組みは、自主責任経営による競争力強化の加速に向けたものである。戦略とオペレーション力の両輪で競争力を強化し、それぞれの事業が向かい合う業界でのお役立ちを果たすために、競争力を徹底的に強化することで、キャッシュを創出し、そのキャッシュを用いて自らの成長に投資をするのが事業会社の役割となる。だが、急速な市場変化や競争環境に変化が起き、競合が仕掛ける成長に対して、自己成長軌道では間に合わない場合には、事業会社の自己投資余力を超える非連続成長を促すために、グループ戦略投資や外部資本の活用を含めて、パナソニックホールディングスが戦略的に成長投資を実行していくことになる。競合環境の変化に適応した成長を促し、実現する未来の確度を高めることが大切である。その際に、ひとつの資本施策に限定していると、競合に対して劣後にまわることがある。蓋然(がいぜん)性が高いものには投資を加速する手段は柔軟に選ぶべきである」と述べた。

(右から)パナソニック ホールディングス グループCFOの梅田博和氏、パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏、パナソニック コネクト CEOの樋口泰行氏、パナソニック コネクト CSOの原田秀昭氏