ニュース
持続可能かつ高収益な事業体への成長を目指す――、パナソニック CNS社の樋口泰行社長
2019年12月16日 12:21
パナソニック株式会社 代表取締役専務執行役員 兼 コネクティッドソリューションズ(CNS)社長の樋口泰行氏は9日、同社の事業戦略を説明。「営業利益率5%超は、2016年度には2事業部だけだったが、2018年度は全事業部で5%以上を達成した。2019年度もすべての事業部で、5%以上の営業利益率を達成することになる。今後、サスティナブルで高収益な事業体へ成長していくことを目指す」とした。
パナソニックの津賀一宏社長は、営業利益率5%を継続事業の条件のひとつにしており、CNS社のすべての事業がそれをクリアしていることになる。
なお本稿では、11月22日に行われたIRDayの内容も含めて、CNS社の事業戦略をお届けする。
CNS社の業績
パナソニック株式会社の社内カンパニーであるCNS社の業績開示事業は、航空機内エンターテインメント/通信システム、サービス、リペアを行う「アビオニクス」、チップマウンターや電子部品挿入機、溶接機器、FPDボンダーなどを提供する「プロセスオートメーション」、プロジェクターや業務用ディスプレイ、音響機器、空間総合演出ソリューションの「メディアエンターテインメント」、PCやタブレット、決済システム、サプライチェーンソリューションの「モバイルソリューションズ」、国内における各業界向けソリューション、システムインテグレーションなどの「パナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)」で構成される。
2019年度の通期見通しは、売上高が前年比1.6%減の1兆1100億円、調整後営業利益が同16.0%減の840億円、営業利益は同13.1%減の820億円。減収減益の見通しだが、調整後営業利益率は7.6%、営業利益率は7.4%となっている。
「プロセスオートメーションの実装機などを中心に、中国での投資需要が低迷。アビオニクス分野では、優良顧客である一部エアラインの投資抑制、為替影響などが響き減益となった。収益性の高い領域で影響を受けており、10月に下方修正を発表している。CNS社全体として利益回復を狙っていく」とした。
具体的には、「コモディティ化が進むハードウェア事業領域においてパワーゲームをし、規模を追うビジネスモモデルだけでは勝てない。中韓台の企業と直接競争する領域は避け、システム売りやソリューション売りを推進し、顧客のパートナーになれる分野、上位ソフトウェアレイヤーが存在する領域で元請けインテグレータになって、参入障壁を高めることができる分野、ソフトウェアや保守などの高収益分野をポートフォリオと有している領域にフォーカスする」という。
また、「利益率やROICといった数値はその時のスナップショットであり、過去の数字である。大切なのは、今後3年~5年にかけて、この事業がどうなっているかという点。定性的な事業立地の尺度を持つことが大切で、立地が悪く、利益を生み続けることが困難な事業は随時見極めを行い、もぐらたたきのように、もぐらがいればすぐにたたく。いまは中長期的な目指すべき姿に向かって、選択と集中を推進するフェーズにあり、それに向かって不退転の決意で取り組む」とする。
現場プロセス事業にいっそうフォーカス
特に、「プロセス変革ニーズが高まる市場環境の変化と、生産技術だけで1400人を擁し、100年に渡るモノづくりの経験があるパナソニックの強み、アナログ的なすりあわせや保守ビジネスの領域が分厚いという戦略的意義による、3つの掛け合わせによって、現場プロセス事業を推進する」と述べ、重点事業として、現場プロセス事業に注力していることを示す。
そしてパナソニックの強みについて、「バーチカルデータを持っているのはわれわれの特徴であり、テックジャイアントにはないもの。現場に寄り添うメンタリティもパナソニックの特徴である。部品実装機や溶接機、半導体装置などの精緻、精密な加工領域におけるファインプロセスと、モノをつくる、運ぶ、売るというサプライチェーンにフォーカスして、現場プロセス事業を推進していくことになる。ここが生きる道である」と強調した。
現在、CNS社の売上高の58%を占める、6400億円の事業規模である現場プロセス事業を、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって厚みのあるソリューションを提供できる事業と位置づけたわけだ。
また、「米国や中国の大手企業が、面倒くさくて入ってくることができないラストワンマイルの場所が、現場プロセス事業」とも語り、2025年度には、現場プロセス事業比率を75%に高める考えを示した。現場プロセス事業の営業利益率も7.5%から10%以上に高めるという。
ここでは、「サスティナブルで持ちがいい事業にしていく。お客さまとの関係が緊密で、参入障壁が高いということがキーワードになる。そして、今後は大胆なこともやっていく」と説明。「コンサルティング、要件定義、システム構築といったコンピュータのシステムインテグレータに近いことをやっていく。上位コンサルティングは、外部人材も活用し、劇的な能力向上も図る。現場の課題を起点にしたシステムインテグレーションを行うことになる」と位置づける。
一方で、システムインテグレータと比べると、ラインリーダーや作業者といった現場の視線でアプローチをしており、そこにノウハウが生かせることを強調。「現場プロセス事業では、ライバルといえる企業はない」とした。
さらに市場環境においては、現場業務の複雑化、ECの発展による物流分野の成長、労働力不足、AIとIoTの普及などにより、顧客のプロセス変革ニーズが高まっていることを指摘。
「こうした課題に対して、製造業で培ったノウハウや差別化技術をテコに、倉庫、流通、小売などの領域を中心にプロセス改革に貢献していくことになる。食品事業者との出荷仕分けシステムや、GMS事業者との在庫可視化ソリューションをはじめ、現在、20以上のお客さまとプロジェクトを進めている。コンサルティングの段階から、現場に深く入り込んでソリューションの提案や実施を行っている。ようやくメソドロジーも確立できた。横展開し、スケールすることも目指している」などとした。
なお現場プロセス改革においては、JDAとの戦略的提携により、合弁会社のJDAパナソニックビジネスソリューションズを設立しており、「AIや機械学習を活用し、サプライチェーンソリューションで高い実績を持つJDAとの連携によって、パナソニックが苦手としていたSIや上位レイヤーにおける領域を補完できる。元請けの形で事業を推進することができる」と述べた。
ここでは、「すでに4つのジョイントソリューションを開発したが、これだけ短期間に、これだけの成果が出たことは、私のなかでも初めての経験である。同じ思いを持ち、補完的なソリューションを持つ会社同士を同じバケツのなかに放り込むと、結構つながるものだと感じた」などと述べた。
セキュリティ事業やアビオニクス事業での取り組み
またセキュリティシステム事業については、「パナソニックだけでは限界がある。パナソニックの強みや外部の力を掛け合わせて事業価値を最大化することが大切である」とし、ここでは、ポラリス・キャピタル・グループとの連携について説明した。
「従来の考え方では再生ができない。ポラリスが持つ事業成長のノウハウ、幅広い知識と経験、経営面でのリソースを活用して、事業成長につなげていく。これまでにもセキュリティシステムは利益率が高いが、さらにそこに上乗せをしていく。90日プランを推進しているが、同じ人員でありながら、すでに新たな息吹が出始めている。戦略的資本提携でいっそうの飛躍を目指すという手法は、日本の企業における再生のやり方のひとつ。なんとしてでもこのやり方を成功させたい」。
監視カメラをはじめとしたパナソニックのセキュリティシステム事業を承継するために、新たにパナソニックi-PROセンシングソリューションズを設立しているが、ここではポラリスが80%を出資し、パナソニックが20%を出資する体制としている。
アビオニクス事業については、「CNS社は、ずっとこの事業の利益に支えられていたが、ここ数年で依存体質からの脱却を狙った」と前置き。
「地球上で最後に残された物体である飛行機も、いよいよインターネットにつながるようになる。コネクトされた飛行機において、機内エンターテインメントの楽しみ方は変わってくる。デジタルサービスを含め、今後どうしていくのかを考えていく必要がある。また、つながる仕組みへと転換すると、価格プレッシャーが高まることになる。どう価値や利益に転換していくのかを考えることが必要である。構造的な変化に対応しなくてはならない」とした。
なおパナソニック・アビオニクスのCEOに、ボーイングでデジタルサービス事業を担当していたKen Sain氏が11月19日付けで就任しており、「今後変化する環境に向けた戦略づくりを一緒にやっていく」とした。
一方で、ファインプロセス事業では、日本IBMと協業を発表したことにも触れ、「半導体製造工程のモノづくりをAIやデータ分析を活用してスマート化し、品質安定化、設備稼働率向上を目指している」と語った。
過去2年間に渡り、パナソニックを正しい方向に向かわせることに取り組む
またCNS社の樋口社長は、これまでの2年間の取り組みを振り返り、「CNS社のなかでは、2016年度には営業利益率で5%を超えていたのは2事業部であったが、2017年度には4事業部に拡大。2018年度は全事業部で5%以上を達成した。2019年度もすべての事業部で5%以上の営業利益率を達成する形で推移している」と前置き。
「過去2年間に渡って取り組んできたのは、パナソニックを正しい方向に向かわせること。具体的には、各事業のオペレーションの効率化を推進し、利益率を健全化すること。これを一番に考えた。また、すべての土台となるカルチャー&マインド改革を徹底し、大企業病から脱することを目指した。正直、ここはビハインドになっていた部分だ。製品、地域、顧客セグメントといったあらゆる側面から徹底的に収益にこだわり、収益の出る事業にフォーカスした」とする。
また、内向き仕事を減らすることにも取り組んだことをアピール。「内向き仕事のコストを製品コストに転嫁するのは、松下幸之助の水道哲学に反するという言葉を聞き、ハッとした。その考え方に基づいて内向き仕事の削減に取り組んでいる」などとした。
このほか、「2017年10月にカンパニー本社を東京に移転し、お客さまの近くで、情報が集まる場所で、お客さまと共創活動を推進できるようにした。さらに技術やデザイン、事業部、営業、SE、本社スタッフが同じ場所で、フリーアドレスで仕事をするようにすることで組織間連携を強化。役員室を廃止し全員が個室から出た。ドレスコードを廃止し、Face to Faceを最大化しながら、ICTを活用したコミュニケーションの強化と意思決定の迅速化を実現している。風土改革は100%完成してはいないが、思っていた目標に対しては8合目まできている。コミュニケーションも活発化している」などと、変革の成果について述べた。
加えて、「日本の企業は忖度(そんたく)文化であり、良くも悪くも、トップの思いにトーンセッティングしてしまう部分がある。一方で、経験がないものをデザインしてもそれを理解しにくい部分がある。このぐらいは行けるというデザインをして、そこに至るまでのステップをデザインできなくてはならない。単に、外国人を連れてきても、それは劇薬すぎてついていけない場合もある。ただしスポーツでも、将棋でも、優れた人を知り、その人を目指すことで進化する。こんな人がいるということを知り、さまざまな生態系を経験することで、未来をデザインできるようになる」とも語る。
一方で、パナソニックが課題とすることについて、「パナソニックが置かれた環境は、次に開発するものが決まっている時代が長かった。テレビが、ブラウン管やプラズマ、液晶といった技術変化と、モノクロからカラー、フルHD、4Kといった放送方式にあわせて進化してきたのがその最たる例だ。また、多くの製品がスタンドアロンの箱として存在していた。そのため、工場や実験室にこもっていても開発できた。しかし、いまではそれが通用せず、さらに、さまざまなディスラプターが存在している。事業部を基点とした戦い方では勝てなくなってきている。視野を広く、景色を広くみないと勝てない。また、ビジネスモデルに対するセンシビリティをあげなくてはならない。この力が不足している。ここを強めていく必要がある」などと指摘している。