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日立のこれからの10年はグリーンとデジタルで成長する――、小島啓二社長兼COOが2022年の事業方針を説明

 株式会社日立製作所(以下、日立)の小島啓二社長兼COOは、2022年の事業方針について説明。「日立は、2022年から成長の10年に入ることになる。その中心となるのが、グリーンとデジタルであり、それによってLumadaの出番が増えることになる。次期中期経営計画では、Lumadaを基盤にしたソリューションを広げていくことが基本的な方向になる」とした。

 その一方で、「2021年に最も刺激を受けたのはMLBで活躍する大谷翔平選手。限界だとか、やれる範囲を決めないで、もっと高い可能性に挑戦している。社員にも『成長マインドセット』を持ってもらいたい」と発言。「日立は、ITとOTの二刀流で行きたい」とも述べた。

日立の小島啓二社長兼COO

2021年までは基礎工事の時期

 日立は、2021年度を最終年度とする「2021中期経営計画」を推進している。

 日立の小島社長兼COOは、これまでの取り組みを振り返り、「2021年までは基礎工事の時期であり、事業ポートフォリオの再編など、構造改革に取り組んできた10年間であった」と前置き。

 「基礎工事の最終年度である2021年度は、デジタル領域においては、買収した米GlobalLogicが7月から日立グループのなかでオペレーションを開始し、8月には鉄道の信号関連事業を行う仏Thales S.A.(タレス)の買収を発表した。鉄道事業をデジタルで強くすることを加速できる。一方、グリーンでは、2050年にバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを達成することを宣言し、11月のCOP26にプリンシパル・パートナーとして参加した。ここでは、日立エナジー(旧日立 ABB パワーグリッド)と欧州の鉄道事業部門が、さまざまな参加者と話し合いを行った。日立がグリーンに取り組んでいくというプレゼンスを高めることができた」と話す。

 その上で、「2022年からは成長の10年に入ることになる。そして、日立のこれからの10年はグリーンとデジタルで成長する」と語る。

 なお、2022年春に発表を予定している次期中期経営計画によって、その成長戦略が明らかになるという。

 「次期中期経営計画の基本的なコンセプトは固まり、大まかなデザインもできた」とした小島社長兼COOは、「次期中期経営計画は、デジタルとグリーンを掛けあわせた内容になる。デジタルとグリーンは、別々の取り組みではなく、むしろ、ほとんどのソリューションはデジタル×グリーンになってくる。そうなると、Lumadaの出番が増える。データを解析し、運用を効率化することは、グリーンにも貢献できる。デジタル×グリーンのソリューションをLumadaの基盤の上で次々と展開することが基本的な方向性になる」と語る。

大きく3つに集約されるLumadaの成長戦略

 Lumadaの成長戦略は大きく3つに集約されることになる。

 ひとつめは、エネルギーやモビリティ領域での活用だ。

 保守サポートなどのデジタル化をLumadaで推進する一方、EVの充電ソリューションなどがデジタル×グリーンの取り組みのひとつとなり、Lumadaによる提案を進めることができるとする。

「VRを活用して保守をリモートで支援するなど、デジタルを使ったチャンスが生まれている。またエネルギーでは、EVチャージャーが重要な領域になってくるだろう。太陽光を活用しながらも、さまざまな時間に活用できるEVチャージャーが求められ、ここではデジタルによる制御が必要になる。デジタルとグリーンを組み合わせ、日立エナジーが持つインストールベースへの提案も加速させたい」とする。

 2つめは、「一番伸びしろがある」とするインダストリー分野での展開だ。

 工場の生産性向上や、サプライチェーン全体の効率性向上、そして、カーボンニュートラルへの取り組みなどが含まれる。「特にカーボンニュートラルはビジネスオポチュニティが大きい分野であり、そこでいかにLumadaを展開するかがポイントになる」と語り、「工場のカーボンニュートラルを解決する際にも、日立エナジーが持つスキルと、デジタルのスキル、インダストリー分野のスキルを合体させることで初めて取り組むことができる」と、さまざまな分野での実績とLumadaの融合が、日立の強みを発揮することにつながることを強調する。

 そして、3つめが、GlobalLogicとの連携である。

 「ITセクター全体においても、最も重要になるのはGlobalLogicとの連携。スタンドアロンの会社としての成長に加えて、日立グループとのシナジーも重要な要素になる。GlobalLogicは動きが速い会社であり、すでに日立ヴァンタラと共同で受注したり、日立エナジーと共同で提案したりといった実績が生まれている。またGlobalLogicは、フロント側のデジタルエンジニアリングで成長する会社である。これにバックエンドのクラウドマイグレーションやクラウドサービスにつなげると、さらに成長し、利益率を高めることもできる。ここでは、日立ヴァンタラとの連携が鍵になる。GlobalLogicと日立グループ各社との連携は、欧米を中心に海外でシナジーを生み出しはじめている」とする。

 だが、GlobalLogicに関する課題も挙げる。「課題を挙げるとすれば、日立の顧客が多い日本での展開である。いろいろと準備はしているが、新型コロナウイルスの影響によって遅れが出ている。国内でどう展開するのかというプランだけを作っても、人が会って議論をしないと、前に動かない部分もある」という。

 GlobalLogic幹部との対面での連携ができないことは、小島社長にとっては課題のひとつになっているとのこと。また、コロナ禍でのコミュニケーション不足はGlobalLogicに限らない課題でもあるとも指摘する。小島社長は、2021年6月に社長に就任して以降、対面でのあいさつ周りがほぼできていない状況であり、国内で感染者数が激減しているこの時期に、精力的に日本全国を訪れているようだ。

 小島社長は、「私自身、2年近く海外には行っていない。すべてテレビ会議である。GlobalLogicが典型的だが、フェイストゥフェイスでは会ったことはなくとも、オンラインでは顔見知りという状況があちこちで生まれている」としながら、「直接対面で話をしたり、食事をしたりしないと、どこかに不安がある。直接会って、直接議論することがとても重要で、対面でもう少し突っ込んだ議論をしたり、笑いあいたったりしたい。コロナが終息し直接人に会うことができるようになると、もう少しコンフィデンスレベルがあがるだろう。世界中を飛び回って、人とネットワークをつくるというモードに早く入りたいと思っている」とする。

中西元社長の想いやビジョンを本当の意味で実現していく10年に

 2021年6月27日に逝去した中西宏明元社長についても答えた。

 「中西さんが日立に残した最大のものは、『社会イノベーション事業』というコンセプトとビジネスモデルである。それまでの日立は、さまざまな事業機会を得て、そこに進出し、それぞれが大きくなり、それぞれの事業分野で自律的に運営し、成長していく企業であった。アメーバのように広がって大きく成長してきたが、その結果、会社の数も増え、複雑になるという課題が生まれた。また、それぞれの事業が徐々にコモディティ化し、成長が鈍化。そこにリーマンショックがあり、すべての状況が悪くなった」と、当時の状況に言及。

 「その時に川村さん(=川村隆 元会長)が止血する一方、中西さんが新たな方向性として打ち出したのが、それぞれの事業が大きくなるのではなく、すべて事業がひとつの目的に向かうということであった。これが社会イノベーション事業である。将来こうなりたいではなく、この問題を解きに行くという意志の経営が根本にあり、すべての事業ポートフォリオはそのためにあるべきだと考えた。その方向性のなかに入っていないものは外に出していったのがこの10年間であり、中西さんが決めた会社の形を追い続けている。2021年は、そのための基礎工事が終わった。2022年からは、その事業コンセプトのもとで、社会課題の解決に取り組み、成果をあげていく10年になる。中西さんの想いやビジョンを本当の意味で実現していく10年になるともいえる」と述べた。

 日立は大胆な構造改革を推進してきたが、依然として総合力を発揮する企業体質を維持している。ソニーやパナソニックが持ち株会社制を採用したり、東芝が分社化を図ったりといった動きとは一線を画したものである。

 これも、中西氏が敷いた社会イノベーション事業を推進するための体制づくりにほかならない。

 「パーパスでも標ぼうしているように、日立は、社会課題を解決することを目指す会社である。そのために必要な能力をしっかりとそろえていく。いまの体制が、社会課題を解決するための基本的なケイパビリティであり、これから重要になるカーボンニュートラルへの取り組みにしても、水素やパワーグリッドといった基本的能力とITを組み合わせないと、課題を解決できない。そうしたことをやる企業が、世の中で必要になると信じている。そのためのケイパビリティを磨くのが、日立の基本的な考えである。大切なのは社会に必要とされる会社になることである。これが一番大事である」とする。

 そして、こんな言い方もする。

 「社会イノベーション事業に対する社会の認識が変わってきた。中西さんが、社会イノベーション事業を打ち出した時には、社会課題の解決に対する関心度はそれほど大きくはなかった。だが、それが変化し、いまでは、SDGsに代表されるように、世界中の企業が世界中の課題の解決に向き合っている。社会課題の解決のために、企業は必要な能力を備え、それぞれが解決する課題に立ち向かう時代に入ってきた」とする。

 日立が兼ね備えているのは、100年を超えるモノづくりの歴史のなかで培ってきた制御、運用技術である「OT」、日本の社会インフラ、企業の基幹システムを担い、50年以上に渡って取り組んできた「IT」、そして、5馬力モーターの製造から事業を開始し、さまざまな社会課題を解決してきた「プロダクト」の3つである。

 「OT×IT×プロダクト」という日立が持つ強みを生かして、顧客との協創によって課題を見つけ、Lumadaによって課題を解決するというのが、社会イノベーション事業における勝利の方程式となる。

日立のビジョン

ITとOTの“二刀流”を目指す

 小島社長に、2021年に最も刺激を受けたことを聞いてみた。

 まず返ってきたのが、エンゼルスの大谷翔平選手の大活躍だ。

 「このインパクトは大きかった。ここで限界だとか、やれることはここまでだということを決めずに、もっと高い可能性に挑戦する姿勢を感じた。このマインドセットは日本人が失いかけているもののひとつではないか」とする。

 「日本は、ほかの地域に比べて、成長しないのではないかという先入観がある。それが、日本の停滞感にもつながっている。もっと成長マインドを持たなくてはならない。例えば、カーボンニュートラルは、いいきっかけになる。自分の身に迫っている解決しなくてはならない問題であり、多くの人が自分事としてとらえることができるからだ。日本には、みんなで成長していくという「成長マインド」づくりが必要である。そして、日立のなかには、チャレンジできるように、ジョブ型の仕組みを作りたい。これも次期中期経営計画のなかで準備をしているもののひとつだ」とする。

 そして、大谷選手の二刀流になぞらえて、こんなことも語る。

 「大谷選手は、二刀流というありえないことをやってのけた。専業にしないと価値が上がらないというのは思い込みであり、大谷選手の二刀流を見ると、『コングロマリッドはありだ』と思わないこともない。日立は、ITとOTの二刀流で行きたい。大谷選手の二刀流が認められたように、いまの日立のやり方も、株主からも理解してもらえる時代になるだろう。それに向けたコミュニケーションをしていくことになる」と述べた。

 「ITとOTの二刀流」は、今後の日立を象徴する言葉になるのかもしれない。

 もうひとつ、小島社長が刺激を受けたのが、パラリンピックだったという。「パラスポーツの競技を、テレビでずっと見るのは初めての経験だった」としながら、「インクルージョンという概念は頭のなかにはあっても、ハンディキャップを持った選手たちが、成長するための強い意志を持って挑戦していることはインパクトだった」と述べた。

 そして、「日立では、次の10年は成長の10年であると言っているが、会社が成長する時には、すべての社員が成長しようと思うことは大切であることをあらためて感じた。パラリンピックには感動し、そこから学びたいと思った」と語った。

2050年からバックキャストをして考え、投資を行う

 日立では今後3年間で、1兆5000億円の研究開発投資を行う考えを示している。

 「一番強化しなくてはならないのがグリーンである。3年間累計の1兆5000億円の大部分がグリーンになる」とし、「カーボンニュートラルがドライバーになって、モノの作り方が変わっていくことになるだろう。中長期的には、グリーンの領域に気をつかっていく必要があり、そうしないと大きな事業リスクになる。ただし、ここには大きなオポチュニティもある」とする。

 また、「2050年からバックキャストをして考え、次に向けて大きな破壊的イノベーションになりそうなところへの投資を強化する。具体的には、水素、細胞、量子の3つの分野への投資である。これらの分野では、基礎研究に近いフェーズのものも含めて投資を強化していくことになる」とした。

イノベーション力の強化

 日立製作所は、2021年11月に、創業の地である茨城県日立市に、「日立オリジンパーク」をオープンした。日立の福利厚生施設である「大みかクラブ」「大みかゴルフクラブ」の敷地内に、展示施設として、「小平記念館」と「創業小屋」を新たに建設。日立の創業の精神やこれまでのあゆみなどに触れることができる。

 「日立オリジンパークでは、なぜ、日立が社会貢献を重視しているのか、ITおよびOTにどう取り組んできたのかといった、日立の原点を学び、それを大切にすることを目的に作った」とし、「いま、日立は原点に戻らなくてはならないと考えている。その最大の理由は、すべてがグローバルになってきた点にある。従業員の半分以上が外国人。ダイバーシティは進んでいるが、インクルージョンが次の課題になっており、日本人と外国人が一緒に仕事をして、成果をあげていくことがテーマである。インクルージョンを実現するには、共通の考え方はなにか、日立はどこからきて、どこに行くのかということを共有することが大切である。社内の様子を見れば見るほど、オリジン(原点)が大切になる」とした。

オリジンパーク全景
小平記念館
創業小屋

 一方で、全国を訪問していることに触れながら、「日立の社員が変化してきていることを感じる。支社に行って話をすると、少し前ならば『これからはグローバルだ』といっても、みんなしらけた顔をしていた。それがいまでは、GlobalLogicや日立エナジーと、どうやって一緒に仕事をして、結果を出していくべきか、ということを真剣に考えるようになった」とする。

働き方改革と人材育成

 次期中期経営計画では、新たな働き方改革にも取り組む。

 小島社長は、「働き方は重要なテーマである。地域ごとに、従業員の意見をしっかりと聞くことが必要なフェーズに入ってきた。また、本社部門などと、工場やフィールドとは働き方が異なり、職種ごとにも最適な仕組みを考える必要がある。新型コロナが終息した時に、どんな働き方をしたいのか、それに対して会社はどうサポートできるのか。こうしたことが、次期中期経営計画では重要な課題のひとつになると考えている」という。そして、「重視したい指標はエンゲージメントである。特定の地域や、特定の職場でスコアが悪いということにならないように、全体としてあげていくことが大切である」とした。

 また、人材育成についても触れた。

 研究所出身の小島社長は、「研究は人で決まる部分がある。そのために、人を採るのも大切だが、人を育てることも大切である。いい経験をさせて、いいモチベーションを持たせると、すばらしいポテンシャルを発揮する研究者が多い。人を育てることに力を注ぎたい」とする。

 さらに、「人材の争奪戦が起きているのは、デジタルの領域である。即戦力のデジタル人材を採ろうという動きが世界中で激しくなっている」としながらも、「デジタル人材は、OT人材を育成することで確保できる。デジタルは、人材をシフトすることが有効な分野である。会社のなかで十分なトレーニングやスキルシフトを行える仕掛けを作ることが大切である」と述べた。

 2022年から、成長の10年に入ることを宣言している日立。「2021年は半導体不足や部材の高騰が大きく影響した。しかし、濃淡はあるものの、半導体不足は少し収まってきている感触がある。2022年半ばまで尾を引くものが出てくるが、サプライチェーンは正常化していくだろう」と予測する。

 その一方で、日立のITセクターの調整後営業利益率は、2021年度見通しで12.0%となっており、「アクセンチュアなどのベンチマークの対象とする企業が14~15%であり、もうひといきでキャッチアップできるところまできた。クラウドサービスの拡大によってさらに利益率を改善できる」などと述べた。

 2022年春には、具体的な数値を伴い、中期経営計画が発表されることになる。成長戦略を軸にした次期中期経営計画の内容が注目される。

新しい日立の姿を次期中期経営計画で示すという