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富士通、AI基盤「Kozuchi」をAIサービスとして商品化 Uvanceと融合したビジネスの展開を図る

 富士通株式会社は14日、AI戦略について説明。AIプラットフォームとしていた「Fujitsu Kozuchi」を、AIサービスとして商品化し、Fujitsu Uvanceと融合したビジネスを展開することになるという。具体的には、クロスインダストリーの4分野を対象に22のオファリングを中心にAI機能を実装し、順次、提供を開始することなどを発表した。

富士通のAIビジョンと戦略

 また、富士通のAIの強みとして、「独自の生成AIとトラスト技術」、「世界最高レベルのAI技術と世界最速レベルの計算技術の融合」、「7000件以上のAI導入実績」の3点を挙げた。

富士通AIの強み

 富士通 執行役員SEVP CTO、CPO兼システムプラットフォームビジネスグループCo-Headのヴィヴェック・マハジャン氏は、「AIを私たちの『バディ』と位置づけ、信頼でき、一緒に動いて業務の課題を解決する関係になることを目指す」とコメント。富士通 執行役員SEVP グローバルビジネスソリューションビジネスグループ長兼全社Fujitsu Uvance担当の高橋美波氏は、「Uvanceオファリングのなかに、必ずKozuchiを入れていくことになる。これにより大きな差異化ができる。Uvanceでは、2025年度に7000億円の売上高を目指しているが、これを達成するコアコンピタンスがKozuchiになる」と述べた。

富士通 執行役員SEVP CTO、CPO兼システムプラットフォームビジネスグループCo-Headのヴィヴェック・マハジャン氏(左)と、富士通 執行役員SEVP グローバルビジネスソリューションビジネスグループ長兼全社Fujitsu Uvance担当の高橋美波氏(右)

 Fujitsu Kozuchiは、先端AI技術を試せるAIプラットフォームと位置づけていたが、今回の発表により、AIサービスとして商品化。Generative AI、Predictive Analytics、XAI、AI Trust、AutoML、for Text、for Visionの7つの領域の技術を組み合わせて提供することになる。

 同社の調査によると、顧客の約4割がGenerative AIに関心を持ち、for Visionが3割、AutoMLが1割を占めているとのことで、まずは、これらのサービスを中心に提供するとした。

Fujitsu Kozuchiと7つの領域

 またUvanceにおいて、Vertical領域とするSustainable Manufacturing、Trusted Society、Consumer Experience、Healthy Livingのクロスインダストリー4分野において、22のオファリングに、AI機能を実装して提供する。

 Trusted Societyでは、AIによる需要予測とSCM強靭化を実現するSCMソリューションを提供。地震などによる災害発生時に、災害情報と調達計画、生産計画、販売予定の情報などを統合。部品の代替策などについて、生成AIとの会話を通じて立案することができるという。すでに、大手製造業では、能登半島地震の2日後に損益インパクトを把握するとともに、300種類の部品ごとの予測モデルの構築ができたという。

 Consumer Experienceでは、AI映像解析による店舗のスマートストア化を実現するRetailソリューションを紹介。人物検知や年代推定による安心安全な店舗運営、プライバシーに配慮した高い精度の映像分析などを通じて、リアルタイムでのパーソナライズされた体験を提供できるという。すでに約30%増の売上改善効果を実証している。

 Healthy Livingでは、生成AIによる治験文書作成のプロセス変革を行うHealthcareソリューションを、2024年4月から提供する予定だ。生成AIを活用することで治験業務を加速させ、必要な患者に迅速に新薬を届けることができるようになるほか、Healthy Living Platformの提供により、クラウド上で、電子カルテデータとバイタルデータを統合し、利便性を高めることができるという。

 このほか、Horizontal領域においても20数オファリングでAIを実装していくという。

UvanceオファリングへのAI実装を加速

 さらに、生成AIや画像解析、予測検知、AutoMLなどを提供するFujitsu Kozuchiと、企業や業種を超えたデータ連携とトレーサビリティを実現するブロックチェーン技術のFujitsu Track and Trust、これにPalantirやMicrosoft Azure、AWSなどのデータ基盤を組み合わせた新たなプラットフォーム「Fujitsu Data Intelligence PaaS」を発表。Fujitsu Uvanceのオファリングのひとつとしてサービス化し、国内向けには2024年3月末から提供を開始する。海外でも4月末から提供を開始する予定だ。

 ここでは、テクノロジーコンサルティングサービスと組み合わせて提供。PaaSの開発には数百人規模の体制を敷くほか、コンサルティングサービスでは、国内において50人の体制を敷くことになる。

Fujitsu Data Intelligence PaaS

 加えて、生成AIのうそを見破るハルシネーション対策や、フェイクニュースを見破るディスインフォメーション対策、詐欺URLを見破るフィッシングURL検知技術により、安心安全に生成AIを活用できる環境を整備するという。

安心安全に使えるAIを

 富士通の高橋氏は、「Kozuchiを活用することで、Uvanceオファリングを、より便利に、使いやすくし、さまざまな社会課題を解決していけるようになる。また、AIを自由に使いこなせるPaaS基盤を提供するとともに、コンサルティングサービスも提供することで、使いたいものを使いたいだけ、自由に使ってもらえる環境が実現する。さらに、安心安全にAIを使える環境も提供していくことで、お客さまのデジタル化をサポートしていくことができる」などと述べた。

富士通のAIの3つの強み

 富士通のAIの3つの強みについては、次のように説明した。

 ひとつめの「独自の生成AIとトラスト技術」では、富士通独自の特化型生成AIと、ハルシネーション抑制技術、独自のナレッジグラフ技術によって、生成AIにおけるトラストを実現し、お客さまのビジネスを支えることができることを強調した。

 具体的には、クリエイター向けに独自生成AI技術を活用した作画支援により、クリエーターの意図に合う色付けを実現したり、製造業においてはPLMを活用した効率化に加えて、CO2排出量削減のための提案をAIが行ったりする事例があることを示す。

独自生成AI技術によるクリエーター向け作画支援

 富士通のマハジャン氏は、「MITとの5年に渡る共同研究によって、富士通独自の特化型生成AIに加えて、OSSの生成AI、他社の生成AIを混合させて、カスタマイズや再学習ができる生成AIモデル混合技術を開発しており、業務全体を対象にした生成AIモデルを構築することができる」とした。

 独自の特化型生成AIでは、GPT-4VやHuggingGPTをはじめとした生成AIモデルと同等以上の精度を有することを確認しているほか、複数の生成AIモデルを効率良く組み合わせられる生成AI混合技術を持つことが富士通のAIの特徴であり、これによって、社会解決の課題につなげることができることも示した。

 「富岳を活用したLLMの並列計算学習手法の研究開発に加えて、オープンLLMをベースに追加学習およびチューニングを実施することで、日本語性能を追求した特化型モデルを2023年12月に発表している。ベンチマーク性能ではトップレベルを達成しており、独自のナレッジグラフ技術により法規制や社内ルールに準拠できることも強みになる」と述べた。

 富士通では、生成AI混合技術や生成AIトラスト技術、ローカルな環境でセキュアに利用可能なLLMを、Fujitsu Research Portalを通じて、2024年4月から順次、無料で提供する予定だ。

複数モデルを束ねる「生成AIモデル混合技術」

 2つめの「世界最高レベルのAI技術と世界最速レベルの計算技術の融合」においては、スーパーコンピュータ「富岳」での実績や、64量子ビットを実現する量子コンピュータといった世界最先端の計算機技術と、ヒューマンセンシング技術や因果発見技術などの世界最高レベルのAI技術を融合。「大規模ヘテロジニアスグラフAIでは、富士通のコンピューティングパワーとAIの融合によって、ひとつの店舗における顧客行動の分析にとどまらず、サプライチェーン全体に及ぶ数十億ノードの分析が可能になる。また、都市全体の車両の動きをはじめとして、時間によって変化する動きをリアルタイムでとらえることができるストリーミングAIを提供している。富士通独自のグラフAIによって、社会まるごとデジタル化していきたい」と述べた。

 Fujitsu Kozuchiでは、独自の生成AI技術に基づいた創薬技術を、2023年10月から提供しており、タンパク質の形状を低次元でとらえることで立体構造と連続変化を定量的に予測。標的タンパク質に結合する薬剤の設計過程の革新が期待されている事例を紹介した。

独自の生成AI技術に基づく創薬技術

 3つめの「7000件以上のAI導入実績」としては、30年以上に渡り、世界中のあらゆる業種でAIを展開し、そこから得られた顧客の意見やフィードバックをもとに進化を遂げてきた実績や、富士通グループの約12万4000人が生成AIを活用していること、コンサルティングから開発、実装、運用までをエンドトゥエンドで支援できる点を挙げ、「Fujitsu Kozuchiは、2023年4月の発表以降、国内外の約500社と協業している。プロジェクトを推進したり、導入したりといった事例が出ている。国際体操連盟では、世界で初めて採点競技に、AIによる判定を採用。Zero-Annotation 3D Data Generatorにより、精度向上に有用な学習データを人工的に大量に生成してアノテーションレスを実現している」などとした。