ニュース

富士通とCohere、プライベート環境で利用できるエンタープライズ向け日本語強化版LLMを共同開発

AIサービス「Fujitsu Kozuchi」を通じて、グローバル市場へ独占的に提供

 富士通株式会社は16日、Cohereと企業向け生成AIの提供に向けた戦略的パートナーシップを締結し、Cohereの大規模言語モデル(LLM)をベースとした日本語強化版LLM「Takane(高嶺)」(仮称)を共同開発すると発表した。

 プライベート環境で社内データを安心して利用できる企業向け日本語LLMとなり、富士通は2024年9月から、自社のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」を通じて、グローバル市場向けに独占的に提供することになる。また、富士通はCohereに出資したことも発表した。出資額については明らかにしていない。

 富士通 執行役員副社長 CTO、CPOのヴィヴェック・マハジャン氏は、「Takaneは業務特化型LLMになり、エンタープライズでLLMを活用したいというニーズに応えることができる。富士通とCohereの組み合わせによって、1+1が3になる」と述べた。

Cohereとは

 また、Cohereのエイダン・ゴメスCEOは、「Cohereは、セキュリティやプライバシーを優先したLLMを開発しており、エンタープライズでの利用を想定したものである。日本語対応は重要であり、英語と同じような性能を発揮できるように富士通と協力をしていく。富士通との関係は深いものになる」と語った。なおGomez氏は、深層学習モデル「Transformer」の開発者の1人としても知られている。

(左から)富士通 執行役員副社長 COOの高橋美波氏、Cohereのエイダン・ゴメスCEO、富士通 執行役員副社長 CTO、CPOのヴィヴェック・マハジャン氏

エンタープライズ向けLLM「Takane」(仮称)とは

 Takaneは、Cohereの最新LLM「Command R+」(コマンドアールプラス)をベースに、富士通が持つ、日本語特化のための追加学習技術およびファインチューニング技術、Cohereが持つ企業向けに特化するための技術を組み合わせて開発する。

エンタープライズ向け大規模言語モデル「Takane」(仮称)

 「Command R+」は、RAGの性能を引き出すことができ、ハルシネーションを軽減するほか、10カ国語に対応していること、一から独自のデータを用い学習を行っているため、安全性と透明性に優れている点が特徴だという。LLMを利用する際に企業データを適切に参照できる、Embedと呼ばれる埋め込み表現を生成するモデルや、Rerankと呼ばれる世界トップクラスのRAG技術を保有しており、Takaneでもこれらの技術を活用する。

 富士通では、セキュリティ面を担保するとともに、同社が蓄積している業種や業務に関する知見を活用。Cohereの業務特化型言語モデルを開発するノウハウを組み合わせることで、金融、官公庁、R&Dなどの高いセキュリティが必要となる顧客向けにサービスを提供する。

 具体的なサービスとしては、富士通が持つナレッジグラフの研究開発成果をもとに、企業が持つ大規模データをナレッジグラフに変換して、LLMに参照させる「ナレッジグラフ拡張RAG」を2024年7月から提供。企業や法令などの規則に準拠した生成AIを実現する「生成AI監査技術」を2024年9月から提供することになる。

 また富士通では、2024年8月から、Fujitsu Kozuchiを通じて、「生成AI混合技術」を提供。Takaneに、さまざまな領域の特化型モデルや既存の機械学習モデルを組み合わせて、企業の業務に適した特化型生成AIを自動生成することができるようにする。

 Takaneは今後、クラウドベースのオールインワンオペレーションプラットフォームのFujitsu Data Intelligence PaaSのほか、Fujitsu Uvanceの製造業向けオペレーションマネジメントや、パーソナライズマーケティングを支援するオファリングを通じてサービスを提供することになる。Cohereとの協業により、プライベートクラウド環境への提供も行う。

 富士通のマハジャン副社長は、「富士通のAI戦略は、エンタープライズ領域にフォーカスしている。Fujitsu Kozuchiでは7つの機能を搭載しており、そのうちのひとつが生成AIになる。だが企業では、企業が保有する多様で大量なデータを扱えないという課題や、業務ノウハウやプロセスに特化したモデルを迅速に生成できないといった問題、企業における規則や法令に準拠させることが困難であるという課題がある。それらを解決するために、エンタープライズ生成AIフレームワークを用意した。ここでは、ナレッジグラフ拡張RAG、生成AI混合技術、生成AI監査技術を提供するほか、Cohereとの協業によって、新たにエンタープライズLLMを開発することになる。富士通はさまざまなパートナーと組みながら、お客さまにいち早く、優れた技術を提供することになる。Cohereとの協業もそのひとつであり、今後もグローバルにおいて、企業とのパートナーシップを検討していく」と語った。

エンタープライズ生成AIフレームワーク

 富士通 執行役員副社長 COOの高橋美波氏は、富士通のAI戦略やUvanceの取り組みについて説明。「富士通では、AIが私たちのバディ(相棒)になることを、AIのビジョンとして発表し、Uvanceのすべてのオファリングに順次AIを搭載していくことを宣言した。独自開発を行うだけでなく、世界中のさまざまなパートナーと連携することで、世界最先端のAIを市場に投入していく」と述べた。

 Fujitsu Data Intelligence PaaSを通じた画像解析や需要予測の精度の向上、自社開発のAutoMLの提供、Cohereとの戦略的パートナーシップによる世界最先端AIをオファリングに展開するほか、富士通が得意とする混合技術を生かした生成AIへの適用、最適なコストや高い精度、高いセキュリティ環境でのAIの提供を進めるという。

Fujitsu Uvanceにおける生成AI適用の事業方針

 また、「Uvanceは社会課題の解決だけでなく、ビジネスの課題を解決し、企業の成長を促していくことが提供価値になる。これを実現するにはデータとAIが重要である。AIをレーシングカーに例えると、その性能を最大限に発揮するサーキットが必要であり、その役割を果たすのが、統合したデータやリアルタイムデータ処理、高度な分析機能を備えたデータ基盤となる。データとAIがもたらす高度な意思決定であるデータインテリジェンスによって、ビジネスを社会的インパクトの課題解決を図るのがUvanceであり、富士通はデータとAIを提供する唯一の会社といえる。Uvanceのオファリングは進化を続けることになる」と述べた。

 Uvanceで提供しているダイナミックサプライチェーンマネジメントでは、在庫管理や製造管理、物流管理に対応した機能を持ち、ひとつのプラットフォームから提供。ある企業では、20の情報システムを統合するとともに、富士通のデータ統合力を活用して、取引先3000社、取り扱い部品数20万種類などのデータ統合を数週間で実施し、在庫管理や需要予測など、30の業務変革アプリケーションを1年間で構築することにより、業務量を5割削減できたという。また、統合したデータをFujitsu Kozuchiに学習させることで、300品目の需要予測モデルを2カ月で完成させ、生産、販売、在庫計画を精緻化できたとした。

 そのほか、約1年間に渡って稼働させた製造業大手では、年間10億円の改善効果があったという。さらに、能登半島地震が発生した際には、2時間後には、欠品や物流の状況の確認とともに、損益インパクトまで把握でき、リカバリー対策を打つことができた企業もあったという。

Uvanceで提供しているダイナミックサプライチェーンマネジメント

 一方、関西電力送配電では、10万件のスマートメーターから30分ごとに電力の使用データを取得するとともに、天候情報などのデータを組み合わせて、関西エリア全体の電力利用を推定。これをもとに、遠隔アンペア制御のポテンシャルや実運用に向けての課題も明らかにできたという。

 さらに、東京海上ホールディングスの事例についても紹介。独自の自然災害データを活用したサプライチェーンのリスク評価や、有事に備えた対策からの立案、サプライチェーン途絶の未然防止を目的とした予防保険のオファリングを提供する「Fujitsu Supply Chain Risk Visualization Service(SCRV)」を共同で開発していることを紹介した。

 東京海上ホールディングス 専務執行役員 グループデジタル戦略総括の生田目雅史氏は、「富士通が持つデータ統合力を活用し、当社が持つデータの能力を高め、価値を抽出できるようになった。今後は、SCRVのグローバルでの事業開発を共同で進めていきたい」と述べた。

東京海上ホールディングス 専務執行役員 グループデジタル戦略総括の生田目雅史氏

 そのほか、買収したGK Softwareによる小売業界での事例、病院における導入事例など、海外での取り組みについても紹介した。

 なお、富士通が世界15カ国800人のCxOを対象に実施した調査では、88%の企業がAIへの投資を加速すると回答。82%の企業が顧客対応などにとどまらず、商品やサービスの機能強化や意思決定にもAIを活用すると回答しているという。