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富士通、特化型生成AIモデルを自動生成可能な「エンタープライズ生成AIフレームワーク」を開発

次世代プロセッサー「FUJITSU-MONAKA」など新技術の紹介も

 富士通株式会社は4日、同社のAI分野への取り組みを中心とした研究戦略について説明。そのなかで、「エンタープライズ生成AIフレームワーク」を新たに発表した。同社のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のラインアップとして、2024年7月から、同フレームワークを構成する各技術の提供を順次開始する。

 富士通 人工知能研究所長の園田俊浩氏は、「富士通の生成AI戦略は、企業ニーズを満たす特化型モデルに注力し、企業における生成AI活用を牽引する『グローバルトッププレイヤー』を目指す」との基本方針を打ち出す一方、「特化型モデルを実現するには、企業が保有する多様で大量のデータへの対応や、モデルのカスタマイズ性、規則や法令への準拠といったテーマがある。これらに対応するのが『エンタープライズ生成AIフレームワーク』になる。膨大な企業データや法令への準拠を容易に実現し、企業ニーズに対応した特化型生成AIを自動生成できる」と述べた。

 エンタープライズ生成AIフレームワークは、「ナレッジグラフ拡張RAG」、「生成AI混合技術」、「生成AI監査技術」の3つの技術によって構成。多様で大規模な企業データからナレッジグラフを準備し、企業が保有するデータをクエリーにひもづけるほか、さまざまなAIを組み合わせて特化型AIモデルを構築できる。また、生成AIが規則や法令に準拠していることを確認し、それによって特化型モデルの最適な運用を可能できるとした。

富士通のエンタープライズ生成AIフレームワーク

 ひとつめの「ナレッジグラフ拡張RAG」は、製品マニュアルやログ、監視データなど、多様で大規模な企業データを逐次処理し、ナレッジグラフとして生成して、大規模データを効率的に処理できる環境を用意する。また、クエリーに応じてナレッジグラフから必要な情報を抽出し、生成AIの推論を補助することができるという。

 ナレッジグラフは、データ間の関係性を含めて情報を保持。AIと組み合わせることで、高速で正確な情報検索や推論が可能になるものだ。

 大規模なデータからナレッジグラフを生成するだけでなく、効率的に生成する技術も開発しており、問い合わせに応じて必要な情報だけをナレッジグラフから抽出することで、迅速かつ正確に対応できるようになるという。

ナレッジグラフ拡張RAG

 富士通 人工知能研究所長の園田俊浩氏は、「一般的なLLMでは、参照できるデータ量は数10万~数100万文字規模であったのに対して、今回の技術では1000万文字のドキュメントを扱い、全体を俯瞰(ふかん)して高精度に分析することができる。クエリー指向グラフスキーマにより、通常のRAGに比べて、回答に必要な情報だけを抽出し、提供する情報量を4分の1と最小限にしながら、生成AIに正しい答えを出せるように導くことで可能にした。HotpotQAでは世界1位の精度を実現している」と自信をみせた。

富士通 人工知能研究所長の園田俊浩氏

 説明会では、「ナレッジグラフ拡張RAG」に関して、3つの事例をデモンストレーションした。

 製品マニュアルQ&Aでは、複数のページにまたがる情報を適切に統合して最適な回答を得られるという。

 サポートデスクなどの現場では、顧客から製品に関する問い合わせがあった際に、数1000ページに及ぶ膨大なマニュアルから、最適な箇所を見つけることが難しいという課題や、回答が複数のファイルに散在する場合には、何度も検索しなければならないという課題があった。ナレッジグラフ拡張RAGを用いることで、大量の製品マニュアルを読み込み、情報を統合したQ&Aを作成し、迅速に回答ができるようになるという。

子供用ケータイから位置情報を検索する際の契約に関する問い合わせに対して、ナレッジグラフを活用した生成AIでは、契約方法だけでなく、別のマニュアルにある具体的な設定方法なども表示できる

 ネットワークログ解析では、117の異なる障害事例からナレッジグラフを生成し、原因候補を網羅的に列挙し、障害復旧を効率化するケースを紹介した。

 携帯電話の基地局を増設する際に、一部の通信が不通になる障害が発生した場合、障害原因を特定するには、大量の仕様書や障害記録の理解が必要だったという。一般的なRAGに対して障害を問い合わせた場合には、要因の候補が網羅的ではなかったり、どんな事象が発生するのかが具体的に示されていなかったりするが、ナレッジグラフ拡張RAGでは、これらの問題が解決される形で表示されるとのことだ。

ナレッジグラフ拡張RAGを活用すると障害要因を網羅し、どんなログが出力されるかが具体的に示されている
ナレッジグラフによって障害要因の因果関係を構築し、結果から原因が追跡できるようにしている

 映像による作業分析では、富士通オーストラリアで実証実験している様子を紹介した。富士通の映像認識AI技術を活用して、監視カメラの映像をもとに人やモノを検出。作業員とフォークリフトが接近した場合を検知したり、作業員の身体的負荷が高いことを理解したり、といったことが可能だ。これらのデータをナレッジグラフによって格納。生成AIと組み合わせることで、映像を分析できる。自然言語による問い合わせで、直近3カ月間で事故リスクがあった件数を具体的に表示したり、リスクの原因を特定したりといったことが可能であり、働く現場をさらに深堀をした検証も可能だ。

富士通オーストラリアの倉庫で検証している様子
映像データをもとに直近3カ月間で事故リスクがあった件数を具体的に表示できる

 2つめの「生成AI混合技術」は、特化型生成AIや既存AIモデルを、部品のように組み合わせることができる技術であり、現場のニーズを満たす最適な構成を自動で生成。企業ニーズに柔軟に対応しながら、カスタマイズがゼロという環境で、生成AIを利用できるようになる。

 具体的には、プロンプトエンジニアリングやファインチューニングといった顧客によるカスタマイズが不要となり、効果が高い特化型生成AIを、容易に自動生成。クエリー特性とモデル特性から、タスク実行に必要な生成AIモデルを自動的に選択したり、混合利用できたりする。適切なAIモデルがない場合には、必要なAIモデルを自動生成することができる。一般的に生成AIは、数値計算や最適化処理、予測といった点が不得意とされるが、これらの部分には、それに適した既存AIと混合することができる。

 「さまざまなAIを部品のように組み合わせて、企業のさまざまなユースケースに対応し、特化した生成AIの統合ができる。カスタマイズがなく、きめ細やかで、企業が必要とする生成AIを提供できる」とした。

生成AI混合技術

 Fujitsu Kozuchiでは、約50種類の生成AIをカバーしているほか、必要に応じて、汎用的なAIや、NECのcotomiやNTTのKozuchiなど、他社の生成AIにも対応。そのなかから必要な機能や目的に応じて、生成AI混合技術が自動的に組み合わせを判断するという。企業が求めるコストにあわせた生成AIを選択することもでき、将来的には生成AIのライセンス管理や課金モデルとも連動させることになる。

 作られた特化型生成AIは、映像検知のベンチークにおいて、GPT-4Vと同等の性能を達成していたという。また、生成AI混合技術は、マイクロソフトのSemantic Kernelと連携することを発表しており、現場に対して、より迅速に最適な生成AIを提供していくことができるという。

 ここでは、2つの活用事例を紹介した。

 ソフトウェアの契約書順守チェックでは、ソフトウェアライセンスの利用状況にライセンス違反がないかをチェックするために生成AIを活用。GPT-4ではライセンス管理に関する情報を提供してくれたのが、生成AI混合技術では、Fugaku-LLMおよび契約書LLMを活用して、ライセンスチェック機能を持つ特化型生成AIを構築。社内のライセンス情報を用いて、実際にライセンス違反があるものを指摘してみせた。この事例では、ソフトウェアライセンスに関する工数が30%削減できたという。

生成AI混合技術により、ライセンスチェック機能を持った特化型生成AIを用意。ライセンス違反を2件発見した
GPT-4だけではライセンス違反のチェック手順などが示されるにすぎない

 サポートデスクの効率化では、寄せられたインシデントを、5人の担当者に割り振るという作業において、さまざまな生成AIやツールのなかから、Auto MLとデジタルアニーラを活用することが最適であると、生成AI混合技術が判断。データをServiceNowから読み込み、Auto MLで予測し、Opt AIで最適化し、実行できるようにしたという。コードの生成のほか、専門家しかできなかった形式化も生成AI混合技術で自動化できるという。

 インシデントの内容と、それぞれに経験が異なる5人に対して最適な割り当てを行え、作業効率は25%向上したとした。

生成AI混合技術により、ServiceNowからデータを読み込み、Auto MLで予測し、Opt AIで最適化し、実行することができる
5人の担当者にインシデントを割り当て、それぞれが時間内に最適な対応が行えるようにした

 「生成AI監査技術」は、ナレッジグラフで生成AIの挙動を制御し、企業規則や法令に準拠していることを判断する技術だ。判断根拠の説明性を付与しており、世界初の技術と位置づけている。

 映像をもとに、道路交通法に違反しているかどうかを生成AIに判定してもらう事例では、自転車が車道の反対側を通行していることや、ヘルメットをかぶらずに車道を通行していることなどを指摘したAIが、なぜ、この判断をしたのかという根拠を検証。なにを見て判断したのか、どのソースをもとに判断したのかといったことを示し、そこに矛盾がないことをチェックする。

 なお、ナレッジグラフ活用における研究開発は、経済産業省のGENIACプロジェクトに採択されており、ノウハウのコミュニティへの公開やトライアル版の公開が行われる予定だ。

ハルシネーション判定LLMが判断根拠を示す。どこを見て判断したのか、なにを根拠に判断したのかを示し、ハルシネーションではないことを監査する

次世代プロセッサー「FUJITSU-MONAKA」

FUJITSU-MONAKA

 一方、次世代プロセッサー「FUJITSU-MONAKA」についても説明した。

 富士通 先端技術開発本部長の新庄直樹氏は、「富士通は、日本で唯一、ハイエンドプロセッサーを開発している企業であり、FUJITSU-MONAKAは、NEDOの国家プロジェクトの支援を受けて、高性能/省電力プロセッサーとして開発をしている。ArmアーキテクチャーであるArm V9-Aの採用とともに、世界最先端の2nmテクノロジーを世界で初めて採用する予定であり、Arm SVE2にも対応している。また、144コアを持ち、AIやHPCに必要な高速なデータ処理基盤を提供できる」とした。

富士通 先端技術開発本部長の新庄直樹氏

 富士通独自の超低電圧技術により、省電力と高性能を両立。Confidential Computingアーキテクチャーにより、高度な信頼性とセキュリティを提供。DDR5やPCI Express 6.0に対応し、空冷方式とすることで使いやすさを実現する。2027年にリリースする予定だ。

 「FUJITSU-MONAKAは、すでにさまざまな用途での活用を目指し、各種分野での共創を開始している。主要市場は、データセンターになるが、安全保障分野やテレコム領域にも提供する。データセンターで高まるAI需要に応えるために、AI性能の追求、AIソフトウェアの拡充を進めている」とした。

さまざまな用途での活用を目指し、各種分野との共創を開始

 機械学習や深層学習、ビッグデータアナリティクス、データセキュリティといったAIおよびHPCを中心とした広い領域のソフトウェアをカバーするとともに、オープンソースコミュニティとの連携により、FUJITSU-MONAKAの性能を引き出すソフトウェア群を整備するという。

 「ハードウェアを出荷する前から、ソフトウェア整備に向けた活動を行うことで、出荷した時点で、すぐに広い分野で活用してもらうことができる」と狙いを述べた。

 富士通は、さまざまなCPUやGPUを、単一ソースコード活用可能にするUXL foundationの発足メンバー企業であり、この取り組みをリードしているほか、oneDALのArm Enablementに世界で初めて成功し、Armのソリューション開発基盤の構築に貢献していることも強調した。

 「FUJITSU-MONAKAと、その上で最適化されたソフトウェア群は、幅広い領域で活用可能なAIインフラ基盤として、Fujitsu Kozuchiを支え、お客さまの課題を解決する」と語っている。

導入障壁を下げるソフトウェア技術開発例

富士通の研究戦略

 富士通の研究戦略については、富士通 執行役員EVP 富士通研究所長の岡本青史氏が説明した。

 同社では、Fujitsu Uvanceを支える5つのキーテクノロジーである「Converging Technologies」、「Computing」、「AI」、「Data & Security」、「Network」にフォーカスし、研究開発を推進しており、各技術領域において、世界トップクラスの技術を開発していることを強調してみせた。

富士通の研究戦略

 富士通研究所の岡本所長は、「AIを軸に、これらの技術領域を融合することによって、富士通にしかできない新しい価値を創出し、サステナブルな社会を構築することに貢献する。これが富士通の新たな研究戦略である」と宣言した。

富士通 執行役員EVP 富士通研究所長の岡本青史氏

 その上で、AIと、それ以外のキーテクノロジー領域を組み合わせた新たな技術をいくつか紹介した。

 「Computing」においては、AI Computing Brokerを初めて公開した。

 GPUでモデル計算すべきジョブを、AIを活用して事前に分析し、動的に割り当てることで、GPUリソースをフル活用。データセンターの消費電力の劇的な削減や、AIコストの削減を実現。GPUが確保できずにAIの開発が進まないといった課題も解決できる技術だとしている。

 岡本所長は、「2030年には、地球の全電力の10%が、データセンターで消費されると予測されており、その消費の多くの割合を占めるのがAIである。AIは社会課題を解決するキーテクノロジーだが、AI自身が地球規模の電力問題を引き起こすことになる」と指摘。「AIにおける計算資源の大部分がGPUであるが、GPUの演算効率が悪く、各種効率化方策をとっているTSUBAMEでもGPU利用率は30%程度にとどまっている。富士通は、GPUを100%フル活用する技術を開発し、AIワークロードに対するGPUの数を半減できる。これにより、データセンターの電力量を半減できる」とした。

 AIの計算機リソースを縮小することで、年間10TWh以上の削減が可能であり、これは、日本の約2400万世帯の年間電力消費量に相当するという。

左のPCにはGPUを2台搭載し、右のPCにはGPUを1台搭載。2つのアプリケーションを同時に動作させたデモンストレーションの様子
2GPU搭載PCで処理した2つのアプリケーションはいずれも20fps以上で動作
AI Computing Brokerを活用すると、GPUが1基でも、2つのアプリケーションが20fps前後で動作する
2GPU搭載PCの起動率を見ると山と谷があるのがわかる
AI Computing Brokerでは谷の部分がほぼ見られない。これによって2台分の性能を発揮する

 「Security」では、世界初となる真偽判定統合分析システムの構築を発表した。インターネット上の偽情報を統合分析し、審議判定を行い、その根拠も説明する。

 「世界経済フォーラム2024では、AIがもたらす偽情報や誤情報は、最大のグローバルリスクであるとの発言があった。AIが生み出すコンテンツや情報が社会的リスクをもたらしており、富士通では、偽情報対策技術の開発とともに、ルールメイキングにも取り組み、G7広島AIプロセスや政府のAI事業者ガイドラインといった取り組みに沿って、国際ガバナンス形成の議論に参加していくことになる」と述べた。

ルールメイキングと偽情報対策技術の開発

 「Converging Technology」においては、環境、社会、経済におけるトレードオン施策を立案する世界初のソーシャルデジタルツインを実現。モビリティ、エネルギー・環境、防災・防犯、ウェルビーイングといった領域での社会実装を、世界各地で実施しているという。

 ここでは、1台の単眼カメラで、リアルタイムに都市の3Dツインが作れる「リアルタイム3Dツイン生成」技術を公開。人が動いている様子を再現し、現場の人たちからはどう見えるのかといったことを確認し、理解しやすくしているという。

 例えば、鉄道料金を下げたり、特定の場所の駐車料金を変更したりといった施策を推進することによって、街に人が増えるのかどうかといった検証とともに、人が増えた場合には、改札口の混雑や道路の状況はどうなるのかといったことや、歩行者の視点からどう見えるのかといったことを、デジタルツイン上にてリアルタイムに表示し確認できるようになる。バスの運転手からは増えた歩行者がどう見えるのか、人が横断歩道以外の場所を横切り、安全性が下がる可能性がないのかといったことも運転手視点から確認できる。

 ここには、人文・社会科学の知見を活用しており、ミクロとマクロの2つの視点から、価値観の異なるステークホルダーの合意ポイントを推定することができ、意思決定を加速することにつながるという。「AIだけでは複雑な社会課題を解決できないと考えている。人文・社会科学との融合が必要であり、富士通はConverging Technologyの開発に取り組んでいる」とした。

 現在、米国ピッツバーグでは、都市交通の安全化において、リアルタイム3Dツイン生成技術を活用した実験を開始。欧州やインドでも、移動の効率化と脱炭素社会の両立を目指した取り組みへの活用を検討している。日本では、山形県において、地域医療の再編において活用しているという。自治体などの導入のほか、鉄道会社やデベロッパーなど、都市開発に関連する企業からの関心も高いという。

環境、社会、経済におけるトレードオン施策を立案する世界初のソーシャルデジタルツインを実現した
運転者の視点という現実に近い形でも検証を行うことができる
さまざまなステークホルダーの立場で分析し、合意ポイントを推定することができる

 また、量子コンピュータとの融合では、世界最高速となる量子CNN(畳み込みニューラルネットワーク)技術や、量子ノイズ除去し、量子オートエンコーダを用いてデータを復元する世界初の技術など、富士通が、量子機械学習技術で数々の世界初の技術を開始していることを示しながら、「量子とAIの両方の領域で、強い技術を持っているのは富士通だけである。今後もこの領域におけるブレイクスルーとなる技術を開発していく」と述べた。

常時認証技術など、初公開となる3つの技術を紹介

 説明会では、このほかにも、初公開となる技術を3つ紹介した。

 「常時認証技術」は、プライバシーに配慮したマルチカメラトラッキングシステムで、2024年3月にFujitsu Kozuchi for Visionとして製品化されている。

 一度生体認証によって本人確認をすると、カメラやセンサーで人物追跡を行い、一度死角に入っても、全身の特徴などによって再照合し、追跡を再開できる。富士通では、カメラ映像の人物の特徴量を高精度に抽出する技術を持っており、これを活用したという。背格好や服装などの全身の特徴をAIで精緻に抽出するため、人が多い場所でも検出ができ、その精度は、Multi Object Trackingで世界1位を獲得したという。

 さらに、3Dレーザースキャナー(LiDAR)で取得した空間位置情報を用いて、点群による人物追跡も可能としており、プライバシーに配慮した形での常時認証も可能にしている。

 今後は、空港などをはじめとした公共空間での不審者の追跡や、迷子ゼロの実現、工場作業員の業務可視化や効率化、利用者客にパーソナライズした購買体験の提供、介護施設での見守りなどの用途を想定。すでに空港施設での実証実験がスタートしているという。

マルチカメラトラッキングの概要
多くの人を一度に追跡することができる
LiDARを用いて点群による人物追跡も可能にしており、プライバシーに配慮した活用ができる

 2つめの「次世代ゲノミクスAI」は、世界最高精度で、がんのサブタイプ分類を可能にしたAI技術となる。検査データやゲノム情報など、形式が異なる医療データを組み合わせて、個別化医療を推進することになる。

 ナレッジグラフを活用しているのが特徴で、検査データとゲノム情報をいずれもナレッジグラフ化し、世界で初めて、自動で各グラフを接続して知識を統合。サブタイプを判定する。統合する際に足りないデータはAIで補足し、精度を高めることができ、実験では90%以上の精度を達成したという。

 例えば、乳がんの場合にはサブタイプが4種類あるが、次世代ゲノミクスAIを活用して判定を支援できれば、医師の判断が早まり、サブタイプにあわせた最適な治療を早期に開始することできると見ている。今後、医療機関との連携により実証実験を進めることになる。

ナレッジグラフ化したデータ。乳がんの検査データとゲノム情報とを統合し、判定に貢献している

 3つめは「ミリ波センシング」である。ここでは、プライバシーに配慮しながら、心理特性を理解したり、介入したりするデモンストレーションを実施。高齢者への還付金詐欺の仮想体験を題材に、AIとの会話を通じて、詐欺電話がかかってくる様子を体験した。

 ここでは、ミリ波センシングにより、心拍数や呼吸数をリアルタイムで計測し、それをもとに詐欺リスクを判定。犯罪心理学者のアバターによる指導を行い、納得感を持った形で行動変容につなげるという。

 犯罪心理学とAIを組み合わせたConverging Technologyの研究事例のひとつとも位置づけている。この技術を活用して、コールセンターでのカスタマーハラスメント対策に向けた疑似体験や、健康分野や教育分野での応用も検討しているとのことだ。

富士通のミリ波センシングを行う機器
ミリ波センシングによって心拍数や呼吸数などを計測する
詐欺リスク判定結果とともに、専門家のAIアバターからアドバイスを受けることができる

 なお、5月23日に発表したFujitsu Technology and Service Vision 2024についてもパネル展示を行った。AIを中心としたテクノロジーを駆使して、環境、経済、ウェルビーイングにおいて、より大きな価値を提供し続ける新たな企業の形などである「Regenerative enterprise(再生型企業)」へと変革するための具体的なアクションを示している。

Fujitsu Technology and Service Vision 2024のパネル展示