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パナソニックが現場センシングソリューション事業を開始、“現場プロセスイノベーション”を支援

顔認証製品「KPAS」の機能強化も

 パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社は2日、現場センシングソリューション事業をスタートすると発表した。

 これまで別々に提供していた顔認証ソリューション、センシングソリューション、高性能エッジデバイスの3つの事業をひとつに統合。パナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)に、スマートセンシング事業センターを7月1日付けで新設し、現場プロセスイノベーションを支える事業のひとつに位置づける。

現場センシングソリューション事業

 スマートセンシング事業センターを中心に、営業部門、研究開発部門、デザイン部門、全国70カ所の保守部門を含め、約1200人体制で推進。現在、3部門合計で約400億円の売り上げ規模を、2025年度には1000億円の売り上げに拡大させる。

グループの総力で2025年度1000億円の売り上げを目指す

 パナソニック システムソリューションズ ジャパンの奥村康彦副社長は、「1000億円のうち、顔認証を含むソリューション事業で575億円、顔認証以外のセンシングソリューション事業が215億円、高性能エッジデバイスが217億円になる」とした。また同社では、顔認証・入退セキュリティ&オフィス可視化システム「KPAS」の機能を強化している。

パナソニック システムソリューションズ ジャパンの奥村康彦副社長

現場センシングソリューションは3点から事業を強化

 このうち現場センシングソリューション事業では、「エッジデバイスのさらなる進化」「AI画像センシング技術の先鋭化」「世界最高水準の顔認証技術の幅広い顧客への展開」の3点から事業の強化を図るという。

現場センシングソリューションの事業戦略

 「エッジデバイスのさらなる進化」では、「Future Craft(未来を丁寧に創り続ける)」と呼ぶ同社のデザイン哲学をもとに、直感的なユーザビリティを実現してきた家電のDNAを現場センシングソリューション向けデバイスにも展開。システム利用者や運用者にとって、使いやすさやわかりやすさ、安心感を提供するという。

 「法務省出入国在留管理庁で採用している顔認証ゲートは、国内6空港で、195台が稼働している。ここでは、説明なしで自然と、誰でも直感的に操作できるパスポートリーダーを実現している」(パナソニック システムソリューションズ ジャパンのパブリックシステム本部システム開発本部スマートセンシング事業センターの新妻孝文センター長)と、デザイン面からの成果を示した。

 またエッジデバイスの高機能化として、セキュリティカメラ本体の演算処理を向上させて、AI画像認識処理を実現。車両ナンバープレート認証では、カメラ内で撮影と同時に認証処理を行うほか、アプリケーションを導入し、用途に応じた最適なシステムを構築したりといった事例を示しながら、「エッジデバイスで処理することで、サーバーやネットワークへの負荷を低減させたり、導入および運用コストを削減したりできる。監視用途以外にも付加価値を提供でき、SIパートナーとの協業の幅を広げることもできる」などとした。

エッジデバイスのさらなる進化
事例:法務省出入国在留管理庁 顔認証ゲート

 「AI画像センシング技術の先鋭化」では、学習データを自動生成するデータオーグメンテーション(Data Augmentation)技術を活用。希少なサンプル画像から独自技術によって学習データを生成し、AI機能の高精度化を実現するほか、視覚的に区別が困難な事象部分を、異なる認証技術で補完するマルチモーダルセンシング技術の活用を挙げる。

 「事象発生がまれな異常時にも、少ない現場データからAIデータの高精度化が可能になる。また壁のひび割れを検知するには、画像による検知だけでなく、音の異常検知を加えることで、設備の状態をより正確に把握できるといったことも可能になる。複数のAIをつなぐことで、単体のAIでは困難な機能も構築できる。高性能なデバイスとの組み合わせで、より多様なアプリケーションを提供できる」などと述べた。

AI画像センシング技術の先鋭化
学習データを自動生成するデータオーグメンテーション技術

 そして「世界最高水準の顔認証技術を幅広い顧客への展開」では、アプリケーション提供プラットフォームを構築。現場課題を解決する自社アプリとパートナー企業へのAPI提供でさまざまなニーズに対応する考えを示した。

 「顔認証エンジンはクラウド上のサービスとして提供しており、実績のある認証技術を顧客のサービスに実装して利用できる。今後は受付や決算手段、来場スタンプ、なりすまし防止、欠席・点呼管理など、利用シーンにあわせた顔認証アプリケーションを用意。さまざまな機能をSaaSサービスとして提供する。非接触で、安心、快適、確実な本人認証が求められるユースケースに対応する」と述べた。

アプリケーション提供プラットフォームを構築
顔認証アプリケーション展開例

 さらに、これまでのエンドユーザーに対する提案だけにとどまらず、新たにソリューションパートナーやアプリケーションパートナーとの協業促進に向けて、サービスメニューの拡充にも乗り出す考えを示した。

 「これまで3つにわかれていた事業を統合したことで、顧客提案におけるメリットも生まれ、パートナーとの連携においても、統合的にソリューションを提供することができる。当社、パートナー、顧客にとってメリットが大きい」(パナソニック システムソリューションズ ジャパンの奥村副社長)とした。

3つの顧客ゾーンをカバーできる体制とソリューション群をラインアップ

 また奥村副社長は、現場センシングソリューション事業の狙いについて説明。「パナソニックは、監視カメラや認証機器といった高性能なデバイス事業と、それらを活用してシステム化したセンシング事業、そして、顔認証の機器/システム事業によって、60年以上に渡って、社会や企業の課題解決してきた。新たな現場センシングソリューション事業は、高性能なエッジデバイス、世界最高水準の顔認証技術、画像解析を中心としたセンシング技術を融合し、顧客の現場課題の見える化や、現場対応の効率化をサポートするものになる。ソリューション提案構築、システム開発、アフターサービスまで、エンド・トゥ・エンドで提供。ニューノーマル時代の課題解決に挑む」とした。

ニューノーマルにおける現場センシングの貢献

 一方で、同社の現場センシングソリューション事業の強みは、「家電のDNAを生かしたユーザーエクスペリエンスと、60年に渡って顧客の現場に寄り添い、課題解決に取り組んできた共創する文化と知見、世界最高水準の顔認証技術と運用実績にある」と発言。

 これまでの具体的な事例として、鉄道事業者向けにホームや車両内の混雑状況を把握したり、ホームからの転落を駅員に知らせるソリューション、高速道路での異常走行車両を画像処理や深層学習で検出するソリューションを挙げた。

 また三井不動産やSAPジャパン、point0では、オフィスエントランスで顔認証を導入し、1日1万回利用しているほか、東京電力パワーグリッドでは、社会インフラを維持するためのクリティカルな運用管理を構築している。さらにNTTコミュニケーションズで、リアルタイム人物トラッキングシステムを開発した例などを紹介した。

共創から生まれた現場センシング
共創の事例

 会見であいさつしたパナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長は、「現場の状態をセンスし、感知し、認識するソリューションが。現場センシングソリューションになる。これを事業として定義し、推進していく体制を整えた。コネクティッドソリューションズ社は、現場の困りごとを解決し、お役立ちする現場プロセスイノベーションをビジョンに掲げている」と前置き。

 「新型コロナウイルスの感染拡大により、現在の課題はより複雑になってきている。ソーシャルディスタンスを維持して、密を回避し、社員や顧客の安全を確保することが最優先であり、その上でビジネスを止めないことが求められている。そこでは、リモートで何かを行うニーズや、非接触のニーズが高まっている。顔認証ソリューションなどが果たす役割が大きくなっている。強みを持つ画像認識技術を統合的に活用することで、直面している喫緊の課題を解決し、必要とされる企業であり続けたい」と述べた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

顔認証・入退セキュリティ&オフィス可視化システム「KPAS」を機能強化

 一方、顔認証・入退セキュリティ&オフィス可視化システム「KPAS」を機能強化を発表。顔検出率や顔認証率が大幅に向上させた。

 具体的には、逆光などで顔が暗く映る場合や、マスクで顔が隠れている場合の認識率を向上。顔検出率は従来比で3.1倍、顔認証率は2.2倍向上させたほか、パナソニックの統合型セキュリティシステム「eX-SG」と連携。外部システムと連携するための KPASのWeb APIを用意し、柔軟な入退室管理ができるようになる。

 「来客会議室エリアでは顔認証によるストレスフリーな入退室を可能とし、執務室エリアではICカード認証と顔認証の組み合わせで高セキュリティを実現できる」(PSSJの新妻センター長)とした。

 さらに、スマートフォンなどの顔写真では顔認証しなかったり、共用廊下のような暗い場所でも、新たな照明をせずに導入が可能になるため、非接触でストレスフリーな顔認証を容易に導入できるとした。顔画像の登録は最大3万人で、大規模オフィスにも導入できる。一括での顔登録に加え、KPASレジスターでは顔と名刺の同時登録を最短15秒で完了させることができる。

 パナソニックシステムソリューションズジャパン パブリックシステム事業本部システム開発本部ビジネスデザイン室の古田邦夫室長は、「検温や勤怠記録との連動も想定しているほか、エレベータとの連携、OA機器との連携の要望にも対応していく。検温や勤怠記録との連動は、現在、プロトタイプの開発を行っており、年内から来年度に実用化したい。オフィスだけでなく、さまざまな空間でも利用できるようにすることで、三密を回避したいというニーズにも活用できる」とした。

 ここでは、新型コロナウイルスの感染者が発生した場合にも、映像をもとにした行動検出によって数日前から行動を確認。濃厚接触者を特定したり、どの場所に立ち寄ったのかを迅速に検出できるという。

 PSSJの新妻センター長は、「人の行動をトレースするためのソリューションを強化しており、アプリケーションやAI技術を増やすための技術者の増加に取り組んでいる。今後は、ニューノーマル時代のオフィス入退室システムとして進化させたい」とした。