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あらゆる空間で“顔パス”によるセキュリティを実現――、パナソニックの顔認証ソリューション戦略
入退セキュリティシステムをオフィス向けに拡大、今後は小売や街空間なども視野に
2019年3月7日 06:00
パナソニック株式会社は5日、顔認証ソリューションの取り組みについて説明した。これまでの空港、アミューズメントパークに続いて、新たにオフィス向け顔認証ソリューション「KPAS(ケイパス)」の受注を、2019年4月から開始することを2月21日に発表しているが、さらに、小売店舗やMICE/IR施設、ホテル、街空間へと対象範囲を広げていく考えを示した。
一方で、パナソニック コネクティッドソリューションズ社が掲げる事業ビジョン「現場プロセスイノベーション」についても説明。米JDAとの連携や、子会社であるベルギーZetes Industriesのソリューションを活用することで、サプライチェーン全体にわたるトータルソリューションを提供できる強みを強調している。
なお、これらの主要ソリューションについては、2019年3月5日から8日まで、東京・有明の東京ビッグサイトで開催されている「リテールテック JAPAN 2019」および「SECURITY SHOW 2019」のパナソニックブースで展示している。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社の山口有希子常務は、「リテールテック JAPAN 2019のパナソニックブースは前年比3倍強のブースに拡大し、SECURITY SHOW 2019では、イベント最大規模となる40小間のブースで出展。現場プロセスイノベーションと顔認証をはじめたとした各種セキュリティソリューションを展示している」と語った。
オフィスでの利用にフォーカスした顔認証ソリューション
KPASは、顔認証技術を採用した入退セキュリティ&オフィス可視化システム。これまでパナソニックが顔認証ソリューションのターゲットとしてきた「空港」「アミューズメントパーク」に続く、3つめのターゲット「オフィス」にフォーカスした製品だ。
顔登録にかかる時間は最短で15秒、日常の顔認証にかかる時間は1秒以内であり、世界最高レベルの精度と高速性を持つ顔認証エンジンを活用することで、認証時における利用者への負担が少ないのが特徴としている。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社イノベーションセンターの古田邦夫室長は、「従来の顔認証システムでは、社員1人の登録に3分かかり、1万人の企業では登録だけで60日間も要した。しかも、退職者や新規採用者に伴う更新作業にも時間がかかってしまっていた。しかしKPASではそうした負担がない。短時間での登録のほか、管理者による一括登録ができるため、大規模なオフィスビルへの導入も可能となっている」とする。顔登録は最大で3万人まで行えるという。
また、来訪者のゲストカードの発行も省力化可能で、カード発行の待ち時間を大幅に短縮できるほか、独自の深層学習(ディープラーニング)技術の応用により、顔特徴の変化に強く、10年程度までの経年変化、サングラスを含むメガネやマスク、メイクなどの変化にも対応した顔認証が可能とのこと。
そのため、利用者が認証のためにメガネやマスクを外したりする手間がいらなかったり、両手が荷物でふさがっていても認証できたりするなど、利用者のさまざまな状況に対応できるとする
さらに、顔登録時に名刺情報を同時に登録することで、社内のポータルサイトに来訪者の顔写真入りの「デジタル名刺」を表示できることから、一度名刺交換をした人の顔と名前が一致しない、といったことの解決にも役立つ。
このほか、入退室で使用した顔情報を使って、オフィス内の人脈相関図として可視化可能なこと、施設稼働率の分析、働き方改革の設定指標に対する達成度の確認などにも活用できることなども特徴としている。
ちなみに「KPAS」の名称は、昨今、顔認証によって手ぶらで入場できることを「顔パス」と表現することがあり、それになぞらえて、顔の頭文字である「K」を使い、同オフィス向け顔認証ソリューションの名称にしたという。
KPASは、2019年4月26日から受注を開始する。パナソニック コネクティッドソリューションズ社イノベーションセンターの古田邦夫室長は、「東京を中心に、新たなビルの建設が増えており、これにあわせて、顔認証ソリューションを導入する事例や、働き方改革の推進に伴うオフィスのリニューアルによって、顔認証ソリューションを導入するなど、新しい動きが出ている。オフィスにおける顔認証ソリューションに対する需要が高まっている」と、昨今のトレンドを紹介。
その上で、「オフィスの顔認証導入における課題は、人物の風貌変化への対応が難しい、照度や逆光などの環境での認証が難しい、認証に時間がかかってしまいウォークスルーで利用できない、なりすましなどへの考慮ができていないといったことがある。また、大規模導入を考慮していない、システム連携や拡張性に限界があるという点も挙げられる。KPASであれば、こうした課題をすべて解決できる」と述べ、自信を見せる。
これまでの実績を生かしてオフィス向けに反映、小売などへも拡大へ
またパナソニックは、これまで導入を進めてきた「空港」および「アミューズメント施設」への導入ノウハウを、オフィス向け顔認証ソリューションの開発に反映させた点も強調する。
「空港では、出国および帰国の手続き用顔認証ゲートを開発し、羽田空港、成田空港、中部空港、関西空港、福岡空港に導入している。初めて使用する人や、高齢の人でも使いやすいゲート装置として開発し、限られたスペースでも最適な配置ができるデザインを採用した」と、空港での採用事例を紹介。
アミューズメントパークについては、「2018年7月に富士急ハイランドに導入。入園ゲートに36台、各アトラクションの入口に52台の合計88台のチェッカーを導入したが、小学生以上のすべての入場者が登録して利用する仕組みは世界初である」とする。
そして、「これらの空港やアミューズメントパークでの実績をもとに、オフィス現場での使いやすいを追求した。UXデザインとの融合により、かんたん、便利に使えるようにし、オフィスの入退室を、安心・快適で、効率的に運用できる」とアピールした。
顔認証を行う「KPASチェッカー」は、各企業のオフィス環境に合わせて、壁掛けタイプやスタンドタイプ、据え置きタイプなどを用意。ゲート型の「KPASゲート」は、アダプタによって他社製品への組み込みを可能にしたほか、導入先の独自デザインのゲートとして提供することもできるという。
「現場の声を反映してデザインを検討してきた。登録などを行う『KPASレジスター』は第3世代のデザインで商品化。壁掛け型のKPASチェッカーは第4世代のデザインで製品化した。スタンド型のチェッカーは現在、第2世代のプロトタイプまで開発をしており、今後製品化することになる」。
パナソニックでは、これまでの空港およびアミューズメントパークと、今回新たに投入するオフィスをターゲットとした展開に続いて、小売店舗やMICE/IR施設、ホテル、街空間にも展開する姿勢をみせる。
小売店舗では、顔認証を利用した冷蔵庫のセルフ販売、在庫や顧客行動分析、手ぶら決済などに利用。MICE/IR施設では顔パスでの入場管理や、顔認証を活用したサイネージへの情報表示、翻訳サービスを想定。ホテルでは顔パスチェックインでの利用を実現するという。
また、これらの取り組みをベースに、街全体にも顔パスソリューションを展開。あらゆる空間で顔パスによるセキュリティを実現する考えだ。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社の山口常務は、「顔認証ソリューションは、2019年3月から統合マーケティングプロモーションを開始した。『いこう、顔認証あたりまえ時代―それはあなたにやさしい未来―』というキャッチコピーで、顔認証があたりまえになる時代に、パナソニックがお役立ちをさせてもらいたいと考えている」とした。
自社の製造現場での改善ノウハウを生かしたソリューション
一方、「現場プロセスイノベーション」では、パナソニック コネクティッドソリューションズ社現場プロセス本部 総括の一力知一氏が説明した。
「パナソニックはグローバルに300以上の生産拠点を持っており、100年にわたって、製造現場での改善を続けてきている。約2年前から、ここで培ったノウハウをもとに、倉庫や店舗といったサプライチェーンの各現場の業務効率化や、現場感を横断したデータ連携によるプロセス改善に貢献するB2Bソリューションを提供している。これが現場プロセスイノベーションであり、パナソニックはここでお役立ちができると考えている」と語る。
また、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の山口常務も、「流通業界には様々な課題がある。製造業として長年培ってきたノウハウや技術を使って、モノを作り、モノを運び、モノを売るというサプライチェーンの現場でお役立ちをしたい」と語る。
一力氏は、「製造業には、表の競争力と裏の競争力という言い方がある。表の競争力とは、テレビの画像がきれいであるといった商品の強みであり、裏の競争力とは、その商品のコスト競争力やリードタイム、品質保証といった製造現場での強みになる」としたうえで、「これを小売業に当てはめると、表の競争力は商品の魅力や接客といった、お客さまに見えているところである。これに対して、裏の競争力とは在庫コントロールやオペレーションであり、いかに迅速に商品を探し出したり、人手をかけずに商品を補充したりといったことになる。裏の競争力が、表の競争力を支えることになる」と説明。
「今回のリテールテック JAPAN 2019では、今回はバックヤードにフォーカスしており、小売業界における裏の競争力強化を目指したものになる」とした。
また、「現場の課題が経営の課題に直結する場合が増えている。パナソニックは、品質、コスト、納期の観点から課題を抽出している。そこで重視しているのは、測ることができる現場であり、標準に対してどれぐらい差があるのかという観点から、改善を行う製造業のノウハウを活用している。このノウハウは、物流・流通領域にも展開できると考えている。現場の課題を発見して、真の課題を抽出・見える化し、データから解決策を導き出すところまでを提供できる」とパナソニックの価値をアピールした。
具体的な例としては、「製造現場を見ると、人が足りないというように見えるが、作業者の労働力を分析すると、待ち時間があったり、明確に目的がなく立っていたり、歩いていたりという時間が多いことがわかる。これがわからずに増員していくと生産性が落ちるだけになる。一方、現在のロボットは動きが遅いが、タクトに余裕があるときには、これを活用して、コスト削減に反映できる。製造業のノウハウを持ち、システムやロボティクスまでを一元的に提供できるのがパナソニックの強みになる」と紹介した。
パナソニックは、1月に米国ニューヨークで開催されたイベント「NRF」において、米JDAとの連携を発表。JDAの「JDA Luminate」を活用して、パナソニックの「荷仕分支援システム(Visual Sort Assist)」「欠品検知システム」「マルチモーダルセンシング技術」「顔認証技術」などとの連携による倉庫シリューションや店舗ソリューションの提供を開始することを発表している。
また、子会社化したZetesとの連携により、「配送見える化ソリューション」などを製品化。自動搬送ロボットの活用にも乗り出している。レッツノートの製品を行うパナソニック神戸工場にも、今後、Zetesを活用したソリューションを導入する予定だという。
2019年1月には、コネクティッドソリューションズ社の東京・浜離宮のカンパニー本社に、「カスタマーエクスペリエンスセンター」を設置。同センターを通じて、「現場プロセスイノベーション」の実現を、顧客やパートナーとともに、加速および推進させていく体制を整えている。