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日本マイクロソフト、地方自治体をスタートアップ企業と支援する新プログラムを開始
デジタル庁向け専任チームも発足、グローバルと連携して政府のDXを推進へ
2021年11月18日 11:55
日本マイクロソフト株式会社は17日、政府や自治体向けDXの取り組みについて説明。新たな施策として、地方自治体のDX推進をスタートアップと支援する「Microsoft Enterprise Accelerator GovTech」プログラムを開始するほか、デジタル庁向け専任チームを新たに発足。グローバル部門との連携を通じて、日本発の政府DX事例の創出につなげていく考えを示した。
Microsoft Enterprise Accelerator GovTechは、全国1700以上の自治体を対象に、行政のデジタル変革や、地域のDXに取り組む自治体を支援するために、スタートアップ企業との協業により、人工知能などの最新テクノロジー導入支援を行うプログラムで、パートナーとの共同提案や共同マーケティングも推進する。
現時点では、MaaS Tech Japan、エーティーエルシステムズ、Momo、エムティーアイ、VOTE FOR、ヘッドウォータースの6社が参加。今後、参加パートナーを拡大していくという。
日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏は、「現場に近いところにいるパートナーやスタートアップ企業が、自治体を支援できるきっかけを作る。パートナーエコシステムの構築とともに、セキュアなクラウドサービスを自治体に提供することを目指す」と説明した。
またデジタル庁向け専任チームは、同社新年度がスタートした2021年7月に発足。マイクロソフトが持つ海外政府におけるDX事例やノウハウの展開、日本と米国本社によるサポート体制や開発体制の確立、AIやゼロトラストをはじめとした最新テクノロジーに関する技術ワークショップの実施、GitHubによる内製化支援やアジャイル開発支援を日本で展開していくという。
「製品ロードマップの提供やトラブルシューティングへの対応なども行っていく。また、米本社の研究開発部門と、デジタル庁がホットラインを結ぶといったつながりを作りたい。米本社側にも専任の担当者を配置するなど、デジタル庁からの要望を踏まえて柔軟な形で対応したい」と述べた。
このほか木村統括本部長は、「コロナ禍においては、中央官庁や自治体分野で、ウェブ会議やテレワーク環境が浸透し、Teamsはガバメント領域において、前年比3倍弱で利用者が伸びている。政府・自治体からは、アジャイル型開発とローコード開発がキーワードになり、迅速なシステム導入、迅速なアプリの提供が求められている。さらに、デジタル庁起点でのDX化が加速している」との現状を紹介。
その上で、「デジタル・ガバメント統括本部は、お客さまとともに、社会全体のデジタル変革を推進することをビジョンに掲げ、クラウドサービスやソフトウェアの提供だけにとどまらず、グローバルの知見を生かした提案を実施。公共サービスでありながらも最新のものを取り入れる姿勢や、DXを推進するためのデジタル人材の育成も支援していくことになる」とした。
あわせてデジタル・ガバメント統括本部の1年間の成果についても言及している。デジタル・ガバメント統括本部では、2020年11月に、手続きオンライン化と自動処理、自治体市場でのクラウド共同利用と“βモデル”への移行促進を行う「オンラインでの行政へのアクセス」、データ利活用のための連携基盤や、機関横断のコミュニケーション基盤を提供する「縦割り行政の打破のためのコラボレーション」、中央省庁の統合インフラやシステムプロジェクトへの取り組み、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への対応による「信頼されセキュアな環境の提供」の3点を注力ソリューション分野に挙げていた。
「これらの分野に引き続き注力していくことになる。Microsoft 365を中心に、Teamsをコラボレーションに活用するケースが増え、印鑑や紙、FAXをデジタルワークプレイスと連携し、一気通貫でオンライン化を進めることが次の課題になっている。またデータ活用に伴う可視化や、データ活用のための連携基盤、横断的なコミュニケーション基盤に対する関心も高まっている。ここにもマイクロソフトが持つセキュアな環境を生かすことができる。自治体とも多くの協定を結んでいるが、花火で終わらせるのではなく、継続的な支援を行っていく」と述べた。
なお日本マイクロソフトによれば、ISMAPの取得は、Microsoft 365で25サービス、Microsoft Azureで206サービスが完了しているほか、東日本リージョンの5つのデータセンター、西日本リージョンの5つのデータセンター、日本からの契約で利用が可能な全世界41リージョンでも取得が完了しているとのこと。
「日本で提供されているすべてのクラウドサービスが、日本のデータセンターだけで提供されていないのは確かで、デジタル庁や各省庁から、日本のデータセンターだけでサービスを利用したいという要望がある。基本的には、日本のデータセンターにすべてを持っていく形で、善処したいということを話している」との取り組みを述べた。
さらに、「2022年4月以降に、大規模なガバメントクラウドの調達があるという話を聞いている。デジタル庁との対話を粛々と進めており、技術面、契約面で対応できるようにしたいと考えている。ISMAPの年次更新をしっかりと進めていくことに加え、今後明らかになる技術項目に対して、万全に対応をしたい。また2021年10月に発表されたガバメントクラウドの会見では、牧島かれんデジタル大臣が、『直接契約を行うことでコスト削減を行った』とコメントしたが、日本マイクロソフトは創業以来、パートナービジネスを展開しており、直接販売は一切行っていないという経緯がある。2022年4月の調達に向けては、直接契約に関してデジタル庁と丁寧に対話をしながら、課題に対応していかなくてはならないと考えている」と述べた。
なおデジタル庁は10月26日に、政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」に、Amazon Web Servicesと、Google Cloud Platformを選んだと発表している。この選定は、2021年度中が対象になっている。
政府・自治体での事例を紹介
今回の会見では、政府・自治体における具体的な事例についても説明した。
ひとつめは、経済産業省のgBizFORMである。これは行政手続きの電子申請のためのプラットフォームで、そこにPower Platformを活用しているという。Power Appsを使用し、ローコード開発により成果物をいち早く提供し、短期間でのサービス開始につなげるという実績が少しずつ出ているという。
経済産業省 商務情報政策局総務課情報プロジェクト室の伊東あずさ室長補佐は、「年間20億件の手続きのうち、ひとつで1万件以上の手続きが発生するのは、手続き種類で見ると4.1%に過ぎず、これで全体の99%を占めている。また、手続き件数が年間0件や不明なものが76%に達している。また、政府全体では14%の手続きがオンライン化されているにすぎないが、手続き数が多いものからオンライン化しており、手続き件数全体の79%がオンライン化されている」と、現状を説明。
「今後はすべての手続きをデジタル化していく必要がある。手続き数が多いものはウォーターホール型での開発が行えたが、少ないものにもひとつひとつ税金を使って開発をしていくことは許されない。また、これからの行政サービスは、法律が決まってから1年後に制度が開始するといった重厚長大なものだけでなく、迅速なサービスが求められる社会情勢になっている。gBizFORMでは、Power Platformによりアジャイル型で開発していくことになる。これにより、サービスや制度もアジャイルに変化させていくこと、職員による内製化によって利用者に使いやすいサービスを提供できるようになり、職員に意識改革にもつながること、得られたデータをもとにした政策立案や行政サービスの提供につなげることが可能になる」などとした。
2つめは、国土交通省の事例だ。国交省関東地方整備局では、HoloLens2やMicrosoft Teamsを活用した遠隔支援ソリューションを提供。遠隔臨場を実現して、遠隔地から専門的なアドバイスを受けることができるようにしたという。
さらに、ある省庁では、紙と印鑑中心の従来のフローから、アドビのAdobe SignとPower Apps、Power Automateの連携によりワークフローをデジタル化。署名までを含めた形で、ドキュメントプロセスの生産性向上と法的有効性の両立を実現したとのこと。
なお、ガバメント分野におけるパートナーとの連携提案も進んでおり、NECネクサソリューションズが、Microsoft AzureのPaaSの強みを生かした独立行政法人向けERPコアシステムを提供。すでに多くの引き合いが出ていると説明した。同社は、Microsoft Japan Partner of the Year 2021のGovernmentアワードを受賞している。
一方、地方自治体でも、クラウドを活用したDXが増加しているほか、デジタル人材の育成に向けた取り組みも加速しているという。
会見では、さいたま市や由利本荘市、福井県での事例に触れたほか、2020年11月に包括連携協定を結んだ金沢市のDX推進人材育成の取り組みについて時間を割いて説明した。金沢市が設置した有識者会議には、日本のマイクロソフトの伊藤かつら執行役員がアドバイザーとして参加。金沢市のデジタル戦略を支援している。
金沢市の山野之義市長は、「2021年3月に金沢市デジタル戦略を策定し、誰ひとり取り残さないデジタル戦略都市・金沢を目指している。その実現に向けては、職員一人ひとりの情報リテラシーを高めることが大切である。金沢市の一般職員2000人を対象に、2年間に渡り、デジタル研修を実施し、そのうち20~40代を中心とした100人に約200時間のデジタル行政推進リーダー育成研修を実施。初年度は20人を各部署のデジタル行政推進リーダーに市長が任命した。さらに、DXアドバイザー、DXスペシャリストといった専門職員も育成していくことになる」と述べた。
なお日本マイクロソフト デジタル・ガバメント統括本部インダストリーアドバイザーの藤中伸紀氏は、「金沢市では、将来目指すべきデジタル人材像を策定することからスタートし、デジタルスキルだけでなく、変革コンピテンシーを持った人材を育成することも目指している。さらにサービスデザイン思考により、住民目線で行政の課題を再定義し、部門横断で取り組めるアイデアをプロトタイプにして、実証を行うという取り組みも開始している」と説明している。
ローコード・ノーコード開発したプロトタイプとして、「セーフティ通学路マップ」、「町会マッチングシステム」を、職員が半年間で完成させたという。
日本マイクロソフトでは、この金沢市での実績を、ほかの自治体にも展開していく考えだ。