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日本オラクル・三澤智光社長が会見、「2026年度はモダナイゼーションビジネスをより加速」
パートナーにもナレッジを展開、日本全体でクラウドモダナイゼーションを推進へ
2025年7月9日 06:00
日本オラクル株式会社は8日、同社2026年度(2025年6月~2026年5月)の事業戦略について説明。2026年度の重点施策として、「日本のためのクラウドを提供」「お客さまのためのAIを推進」の2点を掲げた。この施策を掲げるのは、今年で3年連続となる。
日本オラクルの三澤智光社長は、「日本オラクルはすごく良い仕事ができている。だが、2つの重点施策を本当の意味で実現するには、まだ時間がかかる。この施策をしつこく続けていく」と前置き。
「2026年度は、モダナイゼーションビジネスをより加速する。クラウドリフトのビジネスは、これまではオラクル自らが中心に行ってきたが、蓄積したこれらのナレッジをパートナーにも展開し、日本全体でクラウドモダナイゼーションを推進していく」と述べた。
ミッションクリティカルシステムのクラウド移行では、メインフレームによる超大規模案件や、大規模UNIXサーバーからの移行、VMware関連ビジネスなどが進捗しているほか、幅広い業種でのクラウド移行、小規模案件でのクラウド移行なども進んでいることを強調した。
OCIを活用したクラウドリフトの大規模な事例として、ビデオメッセージを寄せたKDDI 執行役員専務 CTO コア技術統括本部長の吉村和幸氏は、「システム老朽化への対応と、コスト改善、開発アジリティの向上という目的からモダナイゼーションに取り組んだ。2024年末までに9つのシステムをOCIに移行し、2025年度以降には数1000万人を対象にした顧客サービスを支える基幹システムのクラウドリフトを実現する。KDDIは、ビジネス戦略やシステム資産、可用性、堅牢性、コストを判断軸としてプラットフォームを選択しているが、OCIは、KDDIが求める判断基準を満たしている。現行アーキテクチャーを踏襲した移行も可能であり、サービスレベルを維持できる点も、OCIを選択した大きな理由のひとつである」とした。
現在、KDDIでは、44システムを対象に、OCIにクラウドリフトを行っており、さらに合計60システムにまで拡大するという。
2026年度のクラウドビジネスの強化では、モダナイゼーションによる「ミッションクリティカル」に加えて、「AI」、「専用クラウド」、「マルチクラウド」、「アプリケーション(SaaS)」も挙げた。
Agentic AIの実現に向けては、AIを支えるデータプラットフォームビジネスを本格化するほか、あらゆるハイパースケーラ向けに展開するマルチクラウド事業を本格化。アプリケーション領域では、国内におけるERP SaaSのリーダーとしての地位を獲得したことを強調しながら、「クラウドネイティブのSaaSから、AIネイティブのSaaSに生まれ変わる1年になる。SaaSユーザーのAI適応を大幅に引き上げる」と意欲をみせた。
Oracle Fusion Cloud Applicationでも幅広い業種で利用が進んでいることを示す。「金融分野ではデファクトの地位が取れた。また、他社が強かった商社の領域にもOracle Fusion Cloud Applicationが導入されている。さらに、本田技研工業では、年間7000億円規模の間接購買において、年間200億円のコスト削減効果が視野に入っているところだ」と事例を紹介した。
三井住友フィナンシャルグループ 経理業務部 部付部長の山本慶氏は、ビデオを通じて、「経理業務の効率化ではなく、企業価値の最大化のために、Oracle Fusion Cloud ERPを中核に据え、業務の標準化、自動化、統制強化を推進した。これにより、リアルタイムでの経営判断が可能になるデータ整備と仕組みづくりを実現した。業務を標準にあわせるFit to Standardを推進することで、大きな成果を早期に実現した。Oracle Fusion Cloud ERPは、経営戦略を実行するための武器であり、従業員は創造的で、より高度な業務に集中できるようになった」と述べた。
加えて、ガバメントクラウドについては、全国1741自治体のうち、2025年度中に移行が完了する自治体は、1000~1100自治体になると試算。そのうち、500自治体以上でOCIを採用しているという。「ガバメントクラウドの領域では、全国の地方自治体を支えてきたパッケージベンダーとも連携して、OCIを広げていく」と語った。
さらに、日本オラクルの三澤社長が強調したのが、ミッションクリティカルシステムにおけるモダナイゼーションで、顧客の懸念点を払拭する実績が積み重なっているという点だ。
「AWSのアーキテクチャにあわせて全面的にアプリケーションを書き換え、インフラ構成を見直すプロジェクトがあるが、成功例はほとんど聞かない。また、オンプレミスからオンプレミスへの移行でも、スケジュール通りに進まないとか、赤字プロジェクトになっているケースが数多くみられる。いまでは、クラウドリフトから、クラウドシフトした方がいいということが世間の常識になってきた」と発言。
その一方で、「日本の基幹システムの7割以上でOracle Databaseが採用されており、日本オラクルは数多くの基幹システム移行プロジェクトを経験している。日本オラクルが関わったクラウドリフトの代表的事例のすべてが、スケジュール内に完遂し、コストオーバーランを起こさずに、カットオーバー後も安定稼働している。基幹システムの移行は、オンプレミスからオンプレミスではなく、オンプレミスからクラウドリフトの方が、圧倒的にメリットがあることを証明している」と自信をみせた。
一方、「日本のためのクラウドの実現」のための具体的な施策として新たに発表したのがJOC(Japan Operation Center)の稼働である。
JOCは、Oracle Alloyのパートナー企業を、24時間365日の体制でサポートし、日本のデータ主権、運用主権、ソブリン要件に対応したクラウドを提供することになる。2024年に米Oracleが発表した、日本における80億ドルの投資の一環に位置づけられている。
また、国内では日本最大となる10リージョンを展開していることに加えて、AWSやGoogle Cloud、Azureで、Oracle Databaseのマルチクラウド展開を行い、エコシステムによるリージョン拡大を本格化。さらに、Oracle Fusion Cloud ApplicationsがISMAPに追加登録されたこと、生成AI-ビスもOracle Database@Azure もISMAPに適合したことを報告した。
日本オラクルが、「日本のためのクラウド」を実現するための一丁目一番地となるOracle Alloyについては、「2026年度から、いよいよ日本企業によるソブリン要求を満たしたクラウドサービスがスタートする。そのテクノロジーをオラクルが提供することになる」と宣言した。
すでに、野村総合研究所および富士通が、Oracle Alloyを東西リージョンで稼働しており、2025年12月にはNTTデータがサービスを提供する予定だ。
ビデオメッセージを寄せた富士通 執行役員専務 プラットフォームビジネスグループの古賀一司氏は、「富士通にとって、クラウド分野におけるオラクルとの取り組みは重要な戦略となる。Oracle Alloyによる富士通のクラウドサービスは、日本企業が提供するハイパースケーラと同等の機能性を持ち、経済安全保障リスクへの対応が可能になる初のソブリンクラウドである。富士通の要望で構築されたJOCとともに、データ主権や運用主権といったお客さまの要望にも柔軟に、確実に対応できる。クラウド環境のアップデートやパッチのタイミングも富士通が主導してコントロールできるなど、運用の透明性も確保している」とコメント。
さらに、「今後は富士通が有する業種別ノウハウ、各種サービスと組み合わせて、AI領域におけるソブリニティ(Sovereignty)な付加価値の提供、ミッションクリティカル領域のマイグレーションを進める。日本のお客さまにとって、真に信頼できるクラウド基盤の実現を目指す」とした。
もうひとつの重点施策である「お客さまのためのAIを推進」では、アプリケーションへのAI実装を進める。
Oracle Fusion Cloud Applicationにおいては、すでに152の生成AI機能、54のAIエージェント機能を、日本語で利用できるようにしていることを示し、「今後1、2年で1000~3000のAIおよびAIエージェントが利用できるようになる。これは、Oracle Fusion Cloud ApplicationsやOracle NetSuiteが、シングルデータモデルによるビルトイン型の構成であり、データとビジネスコンテキストを理解した高精度なAIエージェントを実現できるから達成できる」と述べた。
一般的なERPはボルトオン型であり、CX、HCM、SCM、ERPごとに異なるデータモデルとなっているため、これをAI化するためには、外付けのAI専用データストアを構築する必要がある。そのため、データのリアルタイム性の確保の課題、データの意味を表すコンテキストを理解できず、AIの精度が低下する課題を抱えることになる。ビルトイン型AIとなるOracle Fusion Cloud Applicationsではこうした問題が起きないという。
また、顧客独自のニーズにあわせてAIエージェント機能を強化するOracle AI Agent Studio for Fusion Applicationsを提供。最適化されたAIを追加料金なしで利用できるほか、新たに追加したカスタムAI機能では、専門的および業界固有のニーズに対応したり、OpenAIのGPT4をはじめとしたLLMを選択したりといったことが可能になる。
さらに、日本オラクルの三澤社長は、「AIとデータによるAIネイティブな開発が主流になり、より一層データベースの重要性が増す。つまり、今後は、AIエージェントを支えるAIレディなデータプラットフォームが必要になってくる」とし、「これに応えるのがOracle Autonomous Data Platformであり、AIエージェント同士が連携し、複雑なビジネスプロセスを実行する。マルチモーダルへの対応、コンテキストの管理、マルチLLM対応、高度なセキュリティ、大量トランザクションに耐えられる性能と拡張性を実現できる」と語った。
また、「OracleはOpen AIやメタなどに対して、巨大なAIデータセンターを提供している。また、世界最大性能のAIスーパーコンピュータを構築している。これは、Exadataなどの過去からの技術がベースになっている。OracleがAgentic AIプラットフォームを確立できるのは、こうしたハードウェアとソフトウェアの技術蓄積があるためだ」とも述べた。
日立やNEC、ヤマトコンタクトサービスでは、すでにOracle Autonomous Data Platformを活用し、エンタープライズでの生成AI活用を、より精度よく、より迅速に実現しているという。
ビデオで登場したサイバーエージェント 常務執行役員 AI事業責任者の内藤貴仁氏は、「デジタル広告領域において、精度の高いサービスを提供するために、AIインフラの設定には強くこだわってきた。OCIのGPU基盤は、圧倒的に高いパフォーマンスと優れたコスト効率を実現しており、すでに本番環境で稼働している。OCIの柔軟性と経済性を生かして、AIの活用領域をさらに広げていく」などとした。
一方、日本オラクルの同社2025年度(2025年6月~2026年5月)の業績についても触れ、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益ともに、過去最高業績を達成し、14年連続の最高益を更新したことに言及した。
ライセンスやシステム、サポート、コンサルティングなどが安定したビジネスを生み出しているのに加えて、Tech CloudやSaaSによる事業成長も貢献したという。
三澤社長は、「ミッションクリティカルシステムのクラウドで圧倒的な実績とシェアを確立し、業務アプリケーションのクラウドネイティブSaaS化でも圧倒的な実績を確立した。ミッションクリティカルも、AIも、すべてOracleを使えばいい。そこに対しては、自信満々である」とした。
なお、日本オラクルは、2025年10月15日に創業から40周年を迎えること、4月28日には東証上場から25周年を迎えた節目の年であることも示した。
また米本社の業績については、2025年度の売上高は前年比8%増の約8兆3000億円となり、「RPO(Remaining Performance Obligation=契約済み受注残)が約20兆円に達している。その8割がクラウドで構成されており、33%が年間収益に転換される。また、ひとつの顧客から年間4兆3000億円のビジネスを獲得したという実績も生まれている」とし、「Oracleは、再成長のフェーズに入っている。AIがOracleを再発見し、AIがOracleを再発明したともいえる。これが、Oracleの高い成長を支えている」と語った。