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日本マイクロソフトと東京都、行政のDX推進に向けた連携協定を締結

都や区市町村職員の人材育成にも取り組む

東京都の小池百合子知事(右)と日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏

 日本マイクロソフト株式会社と東京都は9日、「東京全体のDX推進に向けた連携・協力に関する協定」を結んだ。都政現場における業務改革の実践や、都民のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上に資するサービス創出に取り組むとともに、その成果を都内全体に波及させることを目指すという。

 両者では、「東京のフィールドを活かした先進サービスの創出」、「クラウドインフラをベースとした行政DXの推進」、「都および区市町村職員の人材育成」、「国内外の行政機関などとのネットワーク構築」の4点に取り組むとした。

4つの連携事項

 具体的には、2023年2月から、公務職場でのデジタルツールの活用および実践の成果を共有。Microsoft Teamsを導入し、都庁全職員への操作研修の実施や、Microsoft 365の利活用研修を実施。これらの利活用研修のコンテンツをアーカイブとして区市町村に展開する。まずは約4万人の都職員に対してMicrosoft Teamsのトレーニングを実施する。また、区市町村職員向け業務効率化オンラインプログラムも開始。さらに、ICT職の都職員を、日本マイクロソフトに1年間派遣し、研修を行う予定だ。

 なお、今回の協定は電子署名方式で締結。知事名による電子署名は東京都では初めてになった。

デジタルの力を活用しながら東京大改革を進める

 午後3時10分から、東京・西新宿の東京都庁で行われた会見で、東京都の小池百合子知事は、「世界的なデジタル先進企業であるマイクロソフトがパートナーになることは心強い。早速、具体的な連携を開始する。行政分野において圧倒的に不足しているのがデジタル人材であり、その育成にも取り組む。公務の職場でのデジタルツールの活用を促進する実践的プログラムを実施し、区市町村の職員にもこれを利用してもらうことになる。職員一人ひとりがツールを使いこなし、その仕事のやり方そのものが組織の文化になるように変えていきたい。さらに、都職員を世界トップ企業である日本マイクロソフトに派遣することで、しっかりと学んでもらうことも進めていく」とした。

 また、「デジタルの力を活用しながら、東京大改革を進める」と宣言し、「2023年度は、行政と民間が協働し、革新的サービスを生み出すプラットフォームとして新団体の『GovTech東京』の立ち上げを行う。これにより、区市町村と一緒になって、東京全体のDXを爆速で進めることになる。日本マイクロソフトが持つグローバル企業としての知見、クラウドやAIなどの先進技術を活用し、東京全体のDXを加速したい。東京でさまざまなチャレンジをし、お互いの成果を出し合うことで、都民へのサービス向上や、経済的な活力を生み出すことにつなげたい」と述べた。

東京都の小池百合子知事

 一方、日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、「東京都が目指すデジタルガバメントの実現に貢献する機会を得た。これまでにも、東京都とはICT化の促進に関して連携を進めてきたが、この連携をさらに拡大し、東京都のパートナーとして、都全体のDX推進を支援していく」とコメント。

 「今回の協定では、マイクロソフトがグローバルで培ってきたDXの知見をもとに、クラウドを活用した効率的でセキュアな行政サービスの構築、デジタル人材の育成、海外の関係機関との意見交換など、テクノロジーにとどまらない多面的な支援を行っていくことになる。東京都の行政業務の進化に包括的に取り組み、都民のクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する。私も都民の一人である。東京都が目指す『未来の東京』戦略ビジョンを実現できるように支援していく」と語った。

 日本マイクロソフトと東京都は、東京都高度情報化推進システム(TAIMS)など、東京都のICT化の促進などにおいて連携してきた経緯がある。

 なお、津坂社長が対外的な場面で発言したのは、2月1日の日本マイクロソフト社長就任後、初めてのこととなった。

日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏

 一方、東京都の宮坂学副知事は、「東京都は都民の生活の質を向上する社会の実現に向けて、デジタルテクノロジーを最大限に利用しようと考えている。2023年度からは東京都庁のデジタル化に加えて、62区市町村すべてのデジタル化を全面的に支援する組織として、GovTech東京を作り、東京都全体のデジタル化を推進する。その際に大切になるのがテクノロジーに優れた知見を持ったパートナーの存在である。都庁の17万人の職員と、62区市町村の約10万人の職員がマイクロソフトの製品を利用しており、最初に話すべき相手はマイクロソフトだと考え、今回の連携協定に至っている。具体的になにをやるかといったことを初日の段階で提示することもできた。今回の取り組みを通じて、世界的なテクノロジーカンパニーとの連携における『型』のようなものを作りたい。世界のさまざまな都市におけるベストプラクティスも学び、さらに得られた成果は広く公開していきたい」と語った。

東京都の宮坂学副知事

 GovTech東京では、協働化を重視しており、東京都と62区市町村が、人材育成、アプリ開発、調達などを協働で推進することを掲げており、日本マイクロソフトとの連携を通じて、こうした協働化の取り組みを区市町村にも幅広く展開できるようになると期待している。

GovTech東京の取り組み

 また、「行政サービスのなかにAIチャットをどう活用するのかといったことは、現時点では未知数であり、こうした新たな技術は、日本マイクロソフトと一緒になってトライ&エラーを行い、その成果を62区市町村や、日本全体に広げていきたい。私もChatGPTを使ってみたが、検索エンジン、スマホ、SNSに匹敵する発明が起きようとしていることを実感している。使ってみることが大切であり、それによってアイデアが生まれてくる。東京都の子育て支援の情報を知りたい場合にも、検索エンジンでは最新情報や話題の情報が表示されるが、ChatGPTであれば、自分が本当に知りたい情報に到達しやすい。東京都がサービスにどう活用するのかといったことを考えた場合、ChatGPTの可能性は広いといえる」などと語った。

 さらに、「東京都の都民サービスのなかでは、クラウドサービスに移行した方がいいものもかなりある。2023年1月から、都の職員が、Microsoft 365やMicrosoft Teamsが利用できる環境が整い、スマホでも仕事ができるようになった。だが、デジタルが苦手な職員もいる。すべての職員を誰一人取り残さず、新しい便利な道具を使えるようにトレーニングしていく。基礎をしっかり学べるようにしたい」と述べた。

 都庁内に東京デジタルアカデミーを設置し、年間1万人の職員がトレーニングを受講したり、約1000人がローコードツールを活用したアプリ開発に取り組んだりしているという。ここにも日本マイクロソフトが持つ研修プログラムを組み込み、62区市町村の職員も受講できるようにする。

 東京都では、「シン・トセイ3」を発表したところだが、宮坂副知事は、「シン・トセイ3では、多様性を持ったオープンと、新たなコミュニケーションを実現するフラットを重視している。ここにも日本マイクロソフトとの連携の成果を期待している」と述べたほか、「ローコードツールを活用し、自分の職場を自分で変えていくという意識が生まれている。これを加速するために、トレーニング面で支援することが大切であり、その結果、全体のカルチャーを変えていけるだろう」と述べた。

 日本マイクロソフト 業務執行役員デジタルガバメント統括本部長の木村靖氏は、「今回の協定によって、東京都にマイクロソフトを選んでもらったことを感謝したい。マイクロソフトが持つクラウドの広いポートフォリオと、蓄積した人材育成のノウハウを生かしたい。グローバルで自治体や政府を支援してきた知見も生かすことができるだろう。これにより、都民のQOLの向上に貢献できる」と発言した。また、「ChatGPTなどの新たなAI技術を実装することで、職員の働き方改革にもつなげることができるだろう。会議の要約を自動化したり、最適な回答を自動で作成したりといったことができ、業務時間を劇的に減らすことができる。新たな技術を使って、その成果を広く発信していくことを、東京都と話しあっている。また、カルチャー変革の場を提供することも重要である。そこにも日本マイクロソフトの経験が生かせる。GovTech東京の取り組みを通じて、東京から世界に向けて、成果を発信していきたい」と語った。

 日本マイクロソフトでは、すでに全国8自治体と包括協定を結んでいるが、東京都との協定では、職員に対する支援だけでなく、都民のQOL向上という要素を盛り込んでいる点が特徴だという。「東京都の成果をもとに、横連携を進めていくモデルを作りたい」とも述べた。

日本マイクロソフト 業務執行役員デジタルガバメント統括本部長の木村靖氏