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日本マイクロソフトが公共向け戦略を解説、官公庁・自治体が直面するDX推進上の課題解決を支援

 日本マイクロソフト株式会社は29日、官公庁・自治体分野向けの取り組みである「行政デジタル変革戦略」について説明。同分野を担当するデジタル・ガバメント統括本部の陣容が前年比で3割増になったこと、日本独自の取り組みとして、DX戦略やスキル、組織文化などの観点からも官公庁および自治体を支援する施策に取り組んでいることなどを示した。

 また、デジタル・ガバメント統括本部の注力ソリューション分野として、データ利活用のための連携基盤や、機関横断のためのコミュニケーション基盤を実現する「縦割り行政の打破のためのコラボレーション」、手続きオンライン化と自動処理の実現、自治体市場でのクラウド共同利用と、βモデルへの移行を促進する「オンラインでの行政へのアクセス」、中央省庁の統合インフラやシステムプロジェクト、ISMAPへの対応を通じた「信頼されセキュアな環境の提供」を挙げた。

注力ソリューション分野

 さらに、日本独自の取り組みとして推進している「デジタル社会の実現と変革に向けた支援」では、DXで目指すビジョンや全体方針の策定、目標作成、工程表や実行計画の整備による「DXの認識共有とグランドデザイン策定」、デジタル人材確保や育成、内製化支援を行う「デジタル変革推進組織体制の構築」、働き方改革や手続きのオンライン化およびワンストップ化、事務の省力化による「DX取り組みの実行」を推進する。

 日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏は、「DX戦略、スキル、組織文化など、官公庁、自治体が直面するDX推進上の課題を解決すべく、各種支援をお客さまと並走しながら実施している」と述べた。

デジタル社会の実現と変革に向けた支援について説明する、日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏

 さらに今後の取り組みとして、「デジタル庁への継続的なコミットメント」、「データ主権やセキュリティに関するグローバルな知見を活用した、官公庁、自治体向けデジタル化支援」の2点を挙げた。

 「米本社とも連携しながら、グローバルの知見をデジタル庁に提供し、継続的な支援を行っていく。この姿勢は変わらない。すでにデジタル庁向けの専任部隊を設置しており、グローバルでの連携を通じて幅広くデジタル庁を支援し、提案も行っていく。また、データを分析し洞察を得て、そこから国民に良質なサービスを提供することがDXの目的であり、そのために日本マイクロソフトは、安心、安全にパブリッククラウドを使える環境を構築し、官公庁、自治体に対して継続的なデジタル化の支援を行っていく。組織変革、カルチャー変革、人材育成を支援し、日本の公共分野におけるマイクロソフトの貢献度を高めたい」と述べた。

農林水産省や防衛省などの事例

 説明会では、官公庁や自治体、独立行政法人での事例についても紹介した。

 農林水産省は、全国1200拠点に2万人の職員が勤務。移行支援チームを組織化してMicrosoft Teamsを活用した業務の効率化に取り組んでおり、メール中心の作業から、Teamsの各種機能を活用して業務を抜本的に改善しているという。

 具体的には、本省と地方組織間の情報共有の円滑化を推進し、調整にかかわる時間は事業あたりで5割削減し、部局横断の業務相談チャンネルの開設によって、悩み解消までの時間を50分から5分に短縮。共同編集機能により、資料の取りまとめ作業時間を約7割削減――といった成果がすでに上がっているとした。

 農林水産省 大臣官房参事官 デジタル戦略グループ長の窪山富士男氏は、「Teamsの活用を広げていくためのアンバサダーの募集には200人の応募があった。職員の期待も高まっており、Teamsの利活用の推進を続けていく」と述べた。

農林水産省のワークスタイルイノベーション

 防衛省および自衛隊では、デジタルを活用できる人材の育成において支援。セキュリティやAI、IoT分野の最新技術に関するトレーニングを提供して、ICT技術の活用を支援したという。具体的には、海上自衛官が1年間に渡り、日本マイクロソフトで研修を行ったという。

 「防衛省や自衛隊では、デジタル人材を市場のなかから獲得していくことが難しいため、育成が肝になる。デジタル人材の育成を支援することで、国家安全保障の一助になることも期待している」(日本マイクロソフトの木村業務執行役員)と述べた。

防衛省・自衛隊人材育成支援

 また、自治体との包括連携も進めており、2022年7月には中野区と、デジタルスキルが高い人材の育成や業務改善などでの連携を発表。2022年9月には堺市と行政DXの推進での提携、ICTを活用した教育の推進などでの連携を発表した。「各自治体に寄り添ったDXを推進し、市民サービスの向上に寄与したい」(同)と述べている。

 そのほか市原市では、バックオフィスのDX基盤の構築にPower Platformを採用。大阪府では、多様なデータを集約し、府民の利便性向上に活用するための「大阪府市町村データ活用プラットフォーム」を構築した。このほか浜松市では、Microsoft Azureを基盤に構築した広報プラスの利用を通じて、外国籍市民や目の不自由な市民への情報提供の強化を実現したという。

自治体との連携事例

 さらに、2022年8月31日には、独立行政法人国際協力機構(JICA)と包括連携協定を締結。JICAが打ち出している「DXビジョン」の実現を支援し、デジタル技術の活用で一人ひとりの安全な暮らしと多様な機会、幸せを実現できる社会を目指すことを支援するという。

 具体的には、開発途上国や地域の動向、開発課題に加え、JICA事業の実施状況および事業効果、事業実施を通じて蓄積した知見などの可視化を図り、パートナーとのリアルタイムな情報共有や業務プロセスの合理化を通じて、事業開始までの迅速化を図る「データ駆動型の組織、事業運営」、場所や時間などに制約にされない柔軟で、効率的な働き方の実現を目指す「制約を克服した働き方」、役職者などのデジタルスキル、リテラシー向上を通じて、事業ニーズや業務課題に対するデジタル技術の活用促進を図る「役職員のデジタルスキル」の3点に取り組むという。

 JICA 最高デジタル責任者の新井和久氏は、「デジタルを使って、信頼で世界をつなぐためにどんな付加価値をつけるのかが、DXビジョンで目指すものになる。環境を変える、人を変える、組織を変えるという3つの変革において、9つの行動に取り組むことになるが、日本マイクロソフトとの連携では、主に、人を変える、組織を変える部分での支援を期待している。これまでにもマイクロソフトのツールを活用していたが、使いこなせていなかった反省がある。1年間の連携協定が終わった時点では、マイクロソフトの製品のことなら、JICAに聞いたらいいと言われるようになることを目指す。リテラシーを高めるなかで、職員の意識が変わり、アイデアを創出したり、気づいていなかった技術の活用を行ったりすることで、一皮むけたニューJICAにしていきたい」などと語った。すでに、インドでは、デジタルを活用し、農地の可視化を実現し、おいしい作物を作るための実証実験を開始しているとのことだ。

DXビジョンと3つの変革/9つの行動
独立行政法人国際協力機構 最高デジタル責任者の新井 和久氏(左)と、日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 デジタルガバメント統括本部長の木村靖氏

 日本マイクロソフトによると、現在、6つの自治体と包括連携協定を結んでおり、JICAを含めて7件の協定があるという。

 日本マイクロソフトの木村業務執行役員は、「包括連携協定への期待は、製品を使いこなすことだけでなく、組織や人材、文化、働き方に対するルール、ビジョン策定や工程表づくりといったデジタルを活用する前提となる変革への支援にある。製品提供だけでなく、新たな技術や学びなおしを含めた支援が必要である。自治体の人材育成だけでなく、そこにかかわるパートナーに対しても、学びなおしの場を提案していきたい」と述べた。

日本のデジタル社会の実現と変革に向けた“かけはし”に

 なお、日本マイクロソフトのパブリックセクター事業部は、中央省庁や自治体、独立行政法人を担当するデジタル・ガバメント統括本部のほか、教育分野を担当する文教営業統括本部、ヘルスケア分野を担当する医療・製薬営業統括本部で構成される。

 「誰一人取り残されない日本のデジタル社会の実現と変革に向けた『かけはし』になる」を、事業部ミッションに掲げ、大規模投資を行っている強固なサイバーセキュリティや倫理的AI、複合現実などの最先端技術の組み合わせによる「信頼して使える最新のテクノロジーの提供」、SaaSやノーコード/ローコード、コラボレーションツール、IoT、メタバースなどの幅広い製品ポートフォリオにより、顧客の課題や変革のステージに合わせた支援を行う「お客さまのDXニーズに対し、最適なアプローチや手段を提案」、組織変革や人材育成などを含めて、マイクロソフト自身が蓄積してきた変革のノウハウを還元する「変革に伴う痛みと価値を理解し、お客さまと並走する知見と志を持つ」という3点に取り組む考えを示している。

 日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏は、「DXのあるべき姿に進んでいく際に、『かけはし』という部分が障害になりやすいと考えている。組織改革や人材育成においても、既存資産を活用し、融合しながら、大胆な改革を進めていく上で、今日の姿から、あるべき姿に、どうやって橋を渡していくのかが重要である。日本マイクロソフトは黒子として、つなぎ役の橋になれると考えている」と述べた。

日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏