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世界との協働で日本の行政のデジタル変革を支援――、日本マイクロソフトが政府・自治体向け取り組みを説明
2020年11月26日 13:06
日本マイクロソフト株式会社は25日、政府・自治体向け戦略について発表。基本方針として、「日本を行政デジタル変革の世界のリーダーにする協働」、「クラウドアーキテクチャによる革新的な公共サービスの提供」、「官公庁職員のソーシャルイノベーター人材の育成」の3点に取り組む姿勢を強調しながら、「お客さまとともに、社会全体のデジタル化を推進する」と述べた。
また2021年5月に、政府情報システムにおけるセキュリティ評価制度(ISMAP)を取得する予定であり、「Microsoft 365、Azure、Dynamics 365といったマイクロソフトのすべてのクラウド製品で、ISMAPに対応する」と述べた。
3つの注力ソリューションを設定
日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏は、手続きオンライン化と自動処理、自治体市場でのクラウドの共同利用とβモデルへの移行促進による「オンラインでの行政へのアクセス」、データ利活用のための連携基盤、機関横断のコミュニケーション基盤の提供による「縦割り行政の打破のためのコラボレーション」、中央省庁の統合インフラやシステム構築のプロジェクトへの参画、ISMAPへの対応などによる「信頼されるセキュアな環境の提供」の3点を注力ソリューションに位置付ける。
その上で、「オープンデータやシビックテックの活用、省庁や自治体横断の横串型のコラボレーション、官民連携のデータ活用プラットフォーム、システム内製化への取り組みは、省庁や自治体で多くの議論が行われており、デジタル庁におけるトップアジェンダになっている。こうしたなかで、日本マイクロソフトに対する要望も多岐に渡ってきた。より一歩進んで、具体的に改革を推進したいという政府、自治体が増加しており、人材育成や学びで支援をしてほしい、内製化を加速したいといった要望のほか、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために組織や文化の変革の方法を教えてほしいという要望も増えてきた。日本だけでなく、世界中のマイクロソフトとの協働により、日本の行政のデジタル変革を支援していく」と述べた。
さらに、「IaaSからPaaS、SaaSまで幅広いサービスを提供するとともに、ローコード/ノーコード、セキュリティ管理、ID管理、コンプライアンス対応でも優位性を発揮でき、コラボレーションも得意とするところである。顧客のニーズにあわせてサービスやテクノロジーを提供できる点も日本マイクソロフトの強みになる」と、自社の特徴をアピールしている。
また、行政のデジタル変革人材の育成についても強調。「職員のITリテラシーの向上、デジタル人材の育成は大きな課題になっている。5分~10分の空き時間で学べるオンラインによるマイクロラーニング、ウェビナーやMS Learn、LinkedInラーニングを活用したオンライン学習などを通じて、幅広いトレーニングメニューを提供する。政府や自治体ごとに異なるニーズに対しても対応し、人材育成を支援したい」とした。
政府・自治体のDX支援を積極的に推進
一方で、政府の「第二期政府共通プラットフォーム」がAmazon Web Services(AWS)上で運用開始されたことについては、「AWSが先行していることは認識している。だが、マイクロソフトは幅広いクラウドサービスを提供し、さまざまなテクノロジーを提供している。中央省庁は、マイクロソフトのIaaS以外の技術を活用している。Office 365などによるSaaS、Power Appsによるローコードアプリケーションなどを用意しており、短期間にアジャイル指向のDXを支援できる。これがAWSとの差別化になる。マイクロソフトはAWSから勉強をさせてもらっており、チャレンジャーだ。その特長を生かしながら、DXを支援したい」と述べた。
同社は、2020年7月から始まった同社2021年度において、「政府、自治体のデジタルトランスフォーメーション」を、注力分野のひとつに挙げている。
2019年9月にはデジタル・ガバメント統括本部を設立。「政府、自治体のDX実現の支援のために、事例の紹介やモダナイズの支援、延べ1600人の職員を対象にした数百回の勉強会の実施、20種類以上のウェビナーコンテンツの整備を行った。2021年春には50種類のコンテンツを用意できる。さらには、グローバルのネットワークを生かした海外のエキスパートとの連携、クラウドネイティブアーキテクトの配置によるアジャイル開発の支援のほか、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークやWeb会議への移行支援、短期間での住民サービスの構築支援などを行い、連携に対する気運も高まってきた」(同)とする。
これまでの実績として、厚生労働省において、マイクロソフトのクラウドをフル活用した「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」を構築。アジャイル型開発とDevOpsの適用により、実用可能プロダクト(MVP)の開発から納品までに実質3週間で完了。ゼロトラスト型セキュリティも実装したという。
また経済産業省では、「行政手続きのデジタル化実証プラットフォーム」に、ローコードアプリケーション開発ツール「Power Apps」を採用し、申請手続きアプリケーションを内製化。パイロット運用を開始したほか、最高裁では民事裁判の手続きの一部に、Microsoft Teamsを利用したWeb会議の仕組みを導入している。さらに複数の省庁で、合計4万人の職員がMicrosoft Teamsを導入し、リモートでの業務継続を実現しているが、1~2週間で立ち上げたととのこと。
福井県では、県だけでなく、市町を含めた働き方改革において、オンプレミスから、Microsoft 365へと環境を移行。Surfaceの導入に加えて、緊急テレワーク対応としてWVD(Windows Virtual Desktop)環境を短期に構築した。Microsoft Teamsの導入や利活用支援、上級管理職層向け働き方改革セミナーによる意識醸成支援、働き方改革プロジェクトの立ち上げサポートといった支援を提供したのが特徴だ。
ビデオメッセージを送った福井県の杉本達治知事は、「行政や社会のデジタル化を進めるなかでは、法律や条例、制度を改めることが大切である。東京への一極集中から分散型国家に変えることで、人の生き方が変わり、日本の継続的発展が期待できる。ハンコ行政をやめ、書面や対面をやめなくてはならない。マイクロソフトには使いやすいツールの提供をお願いしたい。より操作性を高めてほしい」などと述べた。
そのほか大阪市では、Microsoft Teamsを利用して約2000人の職員がテレワークを実施。東広島市では、約1100台のSurface Pro 6を活用して業務の効率化や行政サービスの品質向上を実現。埼玉県戸田市では住民からの問い合わせ対応にチャットボットが活用しているという。
さらに、政府の新型コロナウイルス感染症対策推進室と、「新型コロナウイルス感染症対策官民連携プロジェクト」の協定を締結。チャットボットを利用して問い合わせ対応を実現したほか、神戸市では、新型コロナウイルス感染症対策の業務効率化アプリケーションを、全国の自治体で利用できるオープンソースとして公開することで協業したことも紹介した。
「行政の事例は名前を出して紹介できるものが少ないが、この1年で名前が出せる事例が増えてきた。DXの取り組みが本格化し、それに伴い、マイクロソフトの支援も本格化させている」とした。
「日本マイクロソフトは、30年以上に渡る政府、自治体との連携や、業界パートナーとの強固な連携がある。また、クラウドは小さく始めることができ、職員や住民からのニーズが高まればスケールアップができたり、緊急時にも活用できたりといった活用が可能だ。大切なデータを扱うという観点においては、国内のセキュリティ標準に準拠していることが挙げられる。政府や自治体の行政DXに向けた準備を万端にしたい」と述べた。
パートナー連携も引き続き推進
一方、パートナーとの連携強化も打ち出す。
注力分野においてパートナーによるソリューションの充実や、営業活動での連携を強化する「パートナー連携施策」、GitHubとの連携や、全国のAzure Base Networkを通じたAzure Base「GovTech」プログラムの実施などによる「パートナー間協働活動促進」、スタートアップとの協業や、スマートシティ分野でのパートナー連携などに取り組む「新たなパートナーシップ構築」の3点が強化点となる。
Azure Baseは全国12拠点で展開。ニューノーマルを見据えたすべての組織や個人の新しい働き方、DXの実現を支援するプロジェクトであり、「GovTech」プログラムでは、自治体や現地のパートナーが連携しながら、それぞれの自治体にあわせたDXを推進するものになるという。
第1弾として、福岡市のAzure Fukuoka Baseを活用した「LINE SMART CITY GovTech プログラム」を、11月末から提供。Microsoft Azureへの実装をサポートする。
さらに、パートナーとのデジタルガバメント推進施策として、行政からのニーズが高い「ニューノーマルに向けた働き方改革」、「セキュリティとコンプライアンス」、「手続きオンライン化」、「システムのクラウド移行およびモダナイズ」の4点を注力分野に掲げた。
連携パートナーとのソリューションは、新規領域/DX領域で10社以上、クラウド移行・モダナイズで20社以上、パートナーソリューションとして10社以上のISVとの連携成果があるという。
さまざまな選択肢を提供するとともに、最適な進化への道筋を示す
公共分野を担当する日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏は、「日本マイクロソフトの強みは、エッジデバイスからIaaS、PaaS、SaaS、ハイブリッドクラウドといったさまざまな選択肢を提供できる点と、最適な進化への道筋を示せる点にある。オープンソースコミュニティやアジャイル開発のプラットフォーム、ローコード/ノーコードアプリケーションの活用により、人材不足を補い、システムの内製比率を高めることができ、スピードを高め、柔軟性を上げられる」と、自社の特徴を総括した。
一方、「ツールは、人が目的を持って動かしたときに生きてくる。ツールを使いこなして真のDXを実現するためには、組織のあり方や人材育成が重要である。マイクロソフトは、自らがDXをする上で失敗も経験している。成功体験と失敗体験があるからこそ、いままでの世界からこれからの世界に向けた架け橋の役割を果たせる。また、大切なデータを預かり、これをしっかりと保護し、管理し、活用できるようにすることが重要だ。国家や行政のインフラとして、最先端のテクノロジーでサイバーセキュリティを実現すること、信頼できる企業であり続けるという点でも、これまでの実績が生きる」などと述べた。
また、「日本はデジタル敗戦国と言われるが、これからは、世界をリードしていく国、政府、自治体になることを目標にしていく必要がある。日本マイクロソフトは、そのための支援を行っていく。日本の先端事例を海外に向けて発信したい」などと述べた。
このほか会見では、デジタル改革担当の平井卓也大臣がビデオメッセージを送り、「マイクロソフトは、世界各国においてDXやデジタルガバメントでのノウハウを蓄積している。クラウド環境も素晴らしい。日本は、コロナ禍でデジタル化の問題が顕在化した。だが、出遅れをアドバンテージとして一気に最大化できる。そのためにも来年、デジタル庁を作る。多くの学びを得ながら、日本は日本のやり方でDXをやっていく。マイクロソフトのノウハウを享受してもらいたい。期待している」と述べた。