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エージェントAIはAIのサードウェーブ――、Salesforceが自律型AIスイート「Agentforce」をローンチ、Microsoftへの対抗意識も隠さず
2024年9月25日 11:45
Salesforceは9月17日(米国時間)、米国サンフランシスコで開催された同社の年次カンファレンス「Dreamforce 2024」(9月17日~19日)のオープニングキーノートにおいて、9月12日付けで発表したAIスイート「Agentforce」の詳細を明らかにした。
キーノートに登壇したSalesforce 会長兼CEO マーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏は「AgentforceはAIにおけるサードウェーブ(第三の波)であり、過去数年のAIのトレンドには見られなかった画期的な進化を遂げている。当たり外れの多い“副操縦士(Copilot)”とは大きく異なるものだ」と語り、エンタープライズAIの競合であるMicrosoftへの対抗意識ものぞかせながら、新たなAI市場の開拓に強い意欲を見せている。
Agentforceは、「Service Cloud」や「Sales Cloud」といったSalesforceの主力CRM製品上で動作するAIエージェントをユーザー自身が作成し、さらにAIエージェントに対して「顧客サービスの問い合わせに回答する」「マーケティングキャンペーンを最適化する」といったビジネスアクションを実行させることまでを可能にするソフトウェアスイートだ。SalesforceはDreamforce 2024の直前となる9月12日にAgentforceを発表、プレスカンファレンスでは、ベニオフCEO自身がAgentforceの特徴やインパクトを報道関係者に紹介している。
4つのコンポーネントから構成されるAgentforce
Agentforceは大きく以下の4つのコンポーネントから構成されている。
・Agentforce Agents … 顧客サポートを行うチャットボット(Service Agent)やマーケティングキャンペーンを最適化するオプティマイザ(Campaign Optimizer)など、Salesforceがあらかじめ提供するAIエージェントコレクション、すでにSlackにビルトイン済み
・Atlas Reasoning Engine … AIエージェントが自律的に動作し、実際にアクションまでを行うことを可能にするAIエンジン
・Agent Builder … AIエージェントをローコードで作成/カスタマイズできるドラッグ&ドロップ形式の開発ツール
・Agentforce Partner Network … AWS、Google、IBM、Zoomなどのパートナー企業が参加する、Agentforce拡張のためのサードパーティネットワーク
Agentforceは「Salesforce Data Cloud」をデータ基盤としており、Customer 360アプリケーションやData Cloudとゼロコピーで連携できるSnowflakeやDatabrics、Amazon Redshift、Google BigQueryのデータも活用することが可能となっている。また、Salesforce傘下のBIプラットフォーム「Tableau」に関しても、新たにAgentforceを搭載した「Tableau Einstein」が9月13日付けでリリースされており、Salesforceの各種サービスとAgentforceの統合が今後もさらに進む予定だ。
なお、これまでSalesforceプラットフォーム上で提供されてきた生成AI機能「Einstein Copilot」はAgentforceに統合されることになる(Einstein Copilotの名称は使われなくなる)。
Agentforceの一般提供開始は2024年10月が予定されているが、最初は英語のみのバージョンとなる。日本語など英語以外の言語に関しても開発が進められており、セールスフォース・ジャパン 製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングシニアマネージャー 前野秀彰氏は「10月以降にはAgentforceの日本語サポートに関してより詳細な情報を提供できる見込み」と語っている。
一般的な生成AIサービスとAgentforceとの違いは?
ChatGPTやMicrosoft Copilotに代表される一般的な生成AI系のサービスとAgentforceの最大の違いは、AIエージェントがユーザーの入力にもとづいて分析/予測を行ったのちに、実際のアクションまでを実行できる権限を与えられている点だ(権限の範囲はガードレイル機能で設定可能)。
Salesforce AI CEO クララ・シャイ(Clara Shih)氏によれば、「AIエージェントは人間とほぼ同じスピードと正確さでもって、さまざまな問い合わせに対応することが可能。単に与えられたクエリに対して回答を返すだけではなく、ビジネスロジックとアクションを自動化できる点がAIエージェントの大きな強み」と語る。
すでにOpenTableやWiley(米国の教育出版大手企業)といった企業がAgentforceをアーリーアダプタとして採用しており、Wileyは、顧客からの日常的な問い合わせにAgentforceを活用したことで、これまで使用していたチャットボットよりも問題解決率が40%向上したというケースを明らかにしている。
生成AIよりもさらに先を行く“自律性”を与えられたエージェントAIに関しては、Microsoftなどをはじめとする複数の企業がアナウンスを行っているが、ベニオフCEOは基調講演後のプレスカンファレンスで「正しいやり方で、かつ信頼できるレイヤを備えたAIエージェントを提供できているのは我々(Salesforce)だけだ。副操縦士は副操縦士にすぎない。我々のAIエージェントは人間と協業して顧客の成功を推進する」と明言し、Microsoftへの対抗心を隠そうとしない。
基調講演で、ベニオフCEOはエージェントAIを「AIの第3の波」と呼んだが、これはエージェントAIが「予測AI(第1波)」「生成AI(第2波)」に続くという意味であり、第4波と予想される「汎用AI」への準備のフェーズとして位置づけていることがうかがえる。そして現在、AI関連企業のほとんどが生成AIにフォーカスしている中にあって、SalesforceはAgentforceのローンチでもって明確にエージェントAI――、ベニオフCEOの言うところの“第3の波”へとビジネスをハードピボットさせたことに注目したい。
Salesforceは同社のCRMプラットフォーム上にあるデータをそこにとどめておくためにも、顧客にとってより使いやすく、生産性向上をより確実にもたらすAIを提供する必要がある。そこで同社が選んだのがエージェントAIという新しいテクノロジだ。Einstein Copilotというある程度知名度があったブランドをなくし、Agentforceに統一したことからも、同社のエージェントAIに対する力のいれようがうかがえる。
もっとも業界内では、エージェントAIというまだ新しいトレンドの不確実性を危惧(きぐ)する声も少なくないが、そうした声に対してベニオフCEOは「エージェントAIはこれまで誰も見たことがないテクノロジであり、サンフランシスコ市内を走行しているWaymo(自動運転車)のようなもの。いってみればAgentforceは我々にとって“Waymoの瞬間”である。我々は歴史の正し側にいることを願っている」と強い自信を見せる。その自信がAgentforce、そしてエージェントAIという技術トレンドをどう牽引していくのか、引き続き注目しておきたい。