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データのあるところにAIを持っていく――、デルが年次イベント「Dell Technologies Forum Japan 2024」を開催

~基調講演レポート

 Dell Technologiesの日本法人であるデル・テクノロジーズ株式会社は3日、年次イベント「Dell Technologies Forum Japan 2024」を、東京のグランドプリンスホテル新高輪とオンラインで同時開催した。

 今回はイベント名に「AI Edition」と冠し、「AIを活用してイノベーションを加速」をテーマに掲げるなど、全面的にAIを取り上げていた。

 基調講演には、デル・テクノロジーズ株式会社の代表取締役社長の大塚俊彦氏と、Dell Technologiesのグローバル チーフ テクノロジー オフィサー(CTO)&チーフAIオフィサー(CAIO)のジョン・ローズ氏が登壇した。またゲストとして、株式会社トヨタシステムズと、株式会社データグループ、KDDI株式会社が登場した。

Dell Technologies Forum Japan 2024

データは差別化要因など、グローバルと日本の企業にAIについて調査

 デル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長の大塚俊彦氏は、「The Next Now」と題し、その意味を「次の時代を、今こそ皆さんといっしょに作っていく」と説明した。

デル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 大塚俊彦氏
「“The Next Now”が始まる」

 大塚氏はまず、Dell Technologiesの会長兼CEOのマイケル・デル氏のビデオメッセージを流した。デル氏はビデオの中で、AIは企業や社会を変える大きな力であり、AIを活用できるよう顧客を支援するのがDellの使命であると説明。と同時にDellにとっては、これまで築いてきた、強力なサプライチェーンや、サポートビジネス、エコシステムなどの、次のステップであるとも考えられる、と語った。

Dell Technologies 会長兼CEO マイケル・デル氏

 大塚氏は、企業のAIに関する同社の調査データを、3つの観点に分けて紹介した。

 1つ目は「AIはビジネスチャンスでありイノベーションを加速する」。AIと生成AIが業界を大きく変革すると回答した割合は、グローバルでは81%、日本でも70%にのぼる。

 一方、生成AIの変化のスピードに追いつくことに苦労していると回答した割合も、グローバルで57%、日本で65%だった。さらに、生成AIの導入については、導入の初期段階から中期段階にあるという回答が、グローバルで57%、日本で66%だったと大塚氏は紹介した。

「AIはビジネスチャンスでありイノベーションを加速する」
AIと生成AIが業界を大きく変革すると回答した割合と、生成AIの変化のスピードに追いつくことに苦労していると回答した割合
生成AIの導入の初期段階から中期段階にあるという回答

 2つ目は「People-Firstアプローチ」。大塚氏によると、AIが人間の創造性をサポートするという意味とのことだ。これについては、AIの利用で飛躍的な生産性向上が実現できるという回答が、グローバルで79%、日本でも62%あった。

 そしてその将来のために人間に重要なスキルとして、新たな学びへの意欲、どういうビジネス領域やプロセスに活用するかというAIの活用力、クリエイティブな発想力の3つが重要になると大塚氏は語った。

「People-Firstアプローチ」
AIの利用で飛躍的な生産性向上が実現できるという回答
将来に向けて重要なスキル

 3つ目は「データはAI効果を最大化する差別化要因」。現時点については、データをリアルタイムのインサイトに変えることができるという回答は、グローバルで33%、日本で28%という結果にとどまった。

 一方で、データは差別化要因であり生成AI戦略にはそのデータの使用と保護を含める必要があるという回答は、グローバルで82%、日本で67%あった。

 そして、データについてオンプレミスまたはハイブリッドモデルを希望しているIT導入決定者は、グローバルで78%、日本で82%だったという数字を大塚氏は紹介し、「データのあるところにAIを持っていく」のが自然であると語った。これが、メガパブリッククラウド事業者ではないDellの、AIとデータにおける基本姿勢といえる。

「データはAI効果を最大化する差別化要因」
現時点で、データをリアルタイムのインサイトに変えることができるという回答
データは差別化要因であるという回答と、オンプレミスまたはハイブリッドモデルを希望しているという回答

Dellの「AI Factory」戦略を解説

 Dell Technologiesのグローバル チーフ テクノロジー オフィサー(CTO)&チーフAIオフィサー(CAIO)のジョン・ローズ氏は、テクノロジーは常に変化しており、その中でもAIは2年前と比較してもまったく変わってしまうほどのスピードで変化していると説明した。そして、Dellの創業40年の間では、さまざまな大変動があったが、それをうまく乗り越えてきたと語った。

 ローズ氏は、AIを蒸気機関や内燃機関の登場にたとえた。蒸気機関や内燃機関は特定の製品ではなく土台となる技術であること、そして仕事のありかたや、産業のエコシステムを変えてきたことを挙げ、AIも同じだと述べた。そのうえで、しばしば言われるように「データはAIの燃料」であることを強調した。

Dell Technologies グローバル チーフ テクノロジー オフィサー&チーフAIオフィサー ジョン・ローズ氏
AIと、蒸気機関や内燃機関の登場

「データにAIを」「オープンモジュラー型」など、AI戦略を構築する上での5つの原則

 ローズ氏は、AI戦略を構築する上での5つの原則を挙げた。

 1つ目は、データは企業の差別化要因であるということだ。大手LLMの学習には主にパブリックなデータが使われるが、世のデータの83%はオンプレミスにあり、さらに50%がエッジにあるというデータをローズ氏は紹介した。そして、そうした企業内のデータを活用するには、データを信用して自らコントロールできることが重要だと述べた。

 2つ目は、データのあるところにAIを持ってくるということだ。ビッグデータでしばしば「データの重力」と言われるように、大量のデータは移動させるのに力が必要になる。そのため、AIのところにデータを持ってくるのではなく、データのあるところにAIを持ってくることで、遅延を抑え、コスト削減をし、セキュリティを向上するべきであるという考えだ。

 3つ目は、IT規模の適正化だ。エンタープライズITは、これから3年で、ほとんどがAIのワークロードに使われるようになるだろうとローズ氏は言う。そのために、リソースやコンピューターパワーが必要になり、規模が変わってくるということだ。

 4つ目は、オープンモジュラー型のアーキテクチャだ。AIの世界は進歩が激しいため、2年後にどのようなシステムが使われるかも予想できない。そのため、1社だけに賭けると、それがよい製品だとしても、行き詰まる可能性がある。だから、ロックインを防ぎ、入れ替わることを想定しておくべきだ、という考えだ。

 5つ目は、オープンエコシステムだ。AIの機能をすべて1社で実現するのは現実的ではないため、オープンなエコシステムによって他社と組んで実現する必要があるという意味だ。

 この5つに加えて、プラットフォームのセキュリティとサステナビリティも考慮すべきものとしてローズ氏は挙げた。

5つの原則+α
データは差別化要因
データのあるところにAIを
IT規模の適正化
オープンモジュラー型のアーキテクチャ
オープンエコシステム

Dell AI Factoryの5つの要素

 そのうえで企業での導入について、「AIのインフラについて戦略的に考えてほしい」とローズ氏は言う。「データをクラウドだけに置いておくわけにはいけない。クラウド時代とは違う」(ローズ氏)

 Dellはこうしたシステムインフラについて、サーバーやストレージ、ネットワークなどの機器や、サービスを提供し、エコシステムを築いてきた。

 そしてAIの分野において、これらを組み合わせることで、AIの複雑性を隠して企業が使えるようにするというのが、2024年春に発表した「Dell AI Factory」戦略だ。その中心となる5つの要素についてローズ氏は説明した。

Dell AI Factory

 1つ目はユースケースだ。AIのユースケースのアイデアだけなら多数考えられるが、企業が全部実行するわけにはいかず、取捨選択する必要がある。

 これについてローズ氏は、その企業の競争優位性のあるコアになるものは何か(Dellでいえばサプライチェーンなど)と、自社のどの分野を変えると競争優位性が高くなるか(ソフトウェア開発ならコーディングなど)の2点から考えるのがよいと述べた。

ユースケース

 2つ目はデータだ。AIにデータを共有するために、データの衛生状況や、どうデータエコシステムを拡大するか、データガバナンスの3点を考慮してデータのアーキテクチャを変える必要があるという。

データ

 3つ目はインフラだ。AIに使われるインフラは、これまでと違う性能が必要とされる。

 まずストレージでは、容量、スピード、多機能の3つがそろっていることが必要とされる。これについてDellの製品として、オールフラッシュストレージPowerScale F910をローズ氏は紹介した。

 コンピューティングでは、GPUサーバーだ。これについてDellの製品として、高密度GPUサーバーのPowerEdge XE9680や、液冷(DLC)版のPowerEdge XE9680Lをローズ氏は紹介した。

 ネットワーキングでは、高速インターコネクトのために400GbEや800GbEのポートを多数備えた、高速でシンプルなスイッチが必要とされる。

 さらにPCでも、AIワークロードをPC側で実行するAI PCが登場し、Dellからもリリースされている。

インフラ
AI向けのDellのストレージ製品:PowerScale F910
AI向けのDellのサーバー製品:PowerEdge XE9680とXE9680L
AI向けのDellのスイッチ製品
DellのAI PC

 4つ目は、5つの原則でも挙げた、オープンエコシステムだ。「Dellが誇るのはこのエコシステムだ」とローズ氏は語った。

オープンエコシステム

 そして5つ目はサービスで、専門家によるAIサポートを提供する。

サービス

 AI Factoryについてローズ氏は、各社のAIへの取り組みは個別のものであり、構築において各社とともにDellがとりまとめる、と説明した。

Dell自身を含む事例を紹介

 DellのAI関連の企業事例もローズ氏は紹介した。

 まずは、「customer zero(0番目の顧客)」であるDell自身だ。Dellでは4つの大きなAI導入プロジェクトを行ったという。

 まずはソフトウェア開発においては、コーディングアシスタントのCodeiumを導入した。これについて基調講演後の記者会見でローズ氏は、約1年前に導入したとき、GitHub CopilotとCodeiumを比較したと語った。Dellでは、コードのセキュリティと動作の予測可能性からオンプレミスで自社専用サーバーを動かすことを要件としていた。そこで、当時オンプレミスでサーバーを動かせるCodeiumを選んだという。

 導入効果はタスクによって違うが、だいたい20~70%の範囲で工数を削減したとのことだ。また、数ヶ月前にソフトでメモリリークが起きていたときに、Codeiumに尋ねたところすぐに原因がわかったということがあり、想定外の効果だったとローズ氏は感想を述べた。

 サービス部門では、専門家の経験をデータベース化して、トラブルシューティングや次のベストな行動をレコメンドするAIシステムを作ったという。現在社内の4000人が利用しており、これを全社の4万人まで拡大したいとのことだった。

 セールス部門では、提案書の作成などの準備に時間を40%の時間をとられて、営業そのものにとる時間が少なくなるという問題に対し、生成AIで資料を作成するようにした。

 さらにサプライチェーンについては、AIに量子アニーリングを組み合わせて最適化をはかるという。

Dell自身の事例

 続いて、医療業界のNorthwestern Medicineの事例だ。医者の人材が不足する中で、放射線科医による医療画像の解釈について、Dell AI FactoryによるAIが支援することで、40%の時間を削減したという。

Northwestern Medicineの事例

 また、グレートバリアリーフのサンゴを守るNPOのCitizens of The Reefの事例では、大量の写真からAIを使って問題点を見つけているという。

Citizens of The Reefの事例

トヨタシステムズのデータドリブンに向けた次世代システム基盤の狙い

 ゲスト講演としては、まず、株式会社トヨタシステムズの取締役の加納尚氏が登壇。DXや共通データ基盤の構築などの取り組みについて語った。

株式会社トヨタシステムズ 取締役 加納尚氏

 同社は、2019年にトヨタの情シスの一部機能と子会社3社を統合して発足した会社で、トヨタ情報システムが新たなチャレンジをするための基幹システムの維持改善・教科をミッションとしているという。

 これまでのトヨタのDXの歩みとしては、スマホ/タブレット配布などの「デジタル環境の整備」、IT基礎講座による「リテラシー教育」、ほしい情報をほしいタイミングで入手できるようにする「データオープン化」、現場をわかった人間が開発する「市民開発」に取り組んできた。

 そしてこれからの姿として、社会や顧客のニーズを起点に、それを社内で一循環させて、再び社会や顧客に価値提供する、データドリブンのクルマ作りを加納氏は語った。

トヨタのDXの歩み
データドリブンへ

 続いて、それを支えるシステム基盤の話だ。これまでの変遷としては、システムごとに最適な構成要素を選択していたのを、2016年ごろから、費用低減と品質向上のため共通基盤「KITORA」に集約した。そして2021年から次世代基盤への移行を行っていると加納氏は紹介した。

 次世代基盤のコンセプトとしては、データ流通、柔軟性、クラウド利点の取り込み、そして堅牢性を加納氏は挙げた。

 具体的には、2021年からデータ流通基盤をスタートした。さらに講演時の2024年10月から、ハイブリッドクラウド、データ統合基盤をスタートした。ここでは、Dell VxRailでハイブリッドクラウドの拡張性を実現し、AI活用を含めた徹底的な自動化にも着手している。アプリごとに管理していたデータベースも、データ統合基盤に集約し、データ流通基盤とも連動しているという。

 システム基盤の今後の方向性としては、さらなる基盤の柔軟性向上を目指す。コンテナ基盤コンテナ基盤を使った「機能切り出し/連携強化」、マルチOS/マルチハイパーバイザー/コンテナによって選択肢を広くする「環境ロックインからの脱却」を加納氏は挙げ、「一歩一歩、基盤の進化を実現していきたい」とまとめた。

これまでのシステム基盤の変遷
次世代基盤のコンセプト
次世代基盤の概要
システム基盤の今後の方向性

NTTデータとKDDIのAI推進責任者が、IT企業の生成AIへの取り組みについて語る

 もう1つのゲスト講演として、株式会社NTTデータグループのグローバルイノベーション本部 Generative AI推進室 室長の本橋賢二氏と、KDDI株式会社の経営戦略本部 Data&AIセンター長の木村塁氏に、デル・テクノロジーズの社長の大塚俊彦氏が話を聞くパネルディスカッションも行われた。

パネルディスカッション

 まず大塚氏は、生成AIの代表的なユースケースについて尋ねた。

 本橋氏は「すでに数百件をお客さんといっしょにやっている」という中から、3つを挙げた。1つ目は、小売の個人データを元に購入履歴を学習してサジェストするチャットボット。2つ目は、ベテラン技術者の暗黙知を生成AIに学習させる技術伝承。3つ目は、データをパブリックな場所に置けない顧客に対して、NTT研究所のtsuzumiで学習させて生成や検索を実現するケースだ。

 一方で木村氏は、「生成AIの一丁目一番地はカスタマーケア」として、コンタクトセンターを挙げた。生成AIによりコスト削減するとともに、顧客にとっても、電話がすぐつながるようになり、24時間365日の対応も可能になる。

株式会社NTTデータグループ グローバルイノベーション本部 Generative AI推進室 室長 本橋賢二氏

 次の質問は、日本企業がさらに生成AIでイノベーションを加速するためにどうするか。

 木村氏は、地味だがデータをきちんと管理して整理していくことが重要なポイントだと指摘。もう1つ、生成AIは変化が激しく数ヶ月前にできなかったことが変わること、さらにベストプラクティスも変わることについて、理解して変化についていくことがスタンスとして重要だと答えた。

 本橋氏は、イノベーションを起こすにはイノベーションに集中することが必要であり、そのためにはAIに置き換えられることを徹底的に置き換えて、より高付加価値な仕事にフォーカスすることが重要だと答えた。

KDDI株式会社 経営戦略本部 Data&AIセンター長 木村塁氏

 最後に、IT業界として取り組むべきことについて。

 本橋氏は、まずITサービスの企業自身が生成AIを活用して労働集約的な体質を変える必要があると主張。そして顧客に対しては、ハルシネーションや倫理の問題について、どう安心安全に使うかの取り組みが必要だと語った。

 木村氏は、まず本橋氏と同じくIT業界自身がAIを活用する必要を主張。そのうえで、顧客の要望にAIをあてはめるだけではうまくいかず、AIファーストにプロセスを変える提案ができるかどうかがポイントになるのではないかと語った。

デル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 大塚俊彦氏