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データは企業の中核部分に活用しなくてはならない――、Snowflake・ラマスワミCEO
~Snowflake World Tour Tokyo 2024
2024年9月13日 10:15
Snowflakeのグローバルイベント「Snowflake World Tour Tokyo 2024」が12日、東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京で開催された。それにあわせて来日したSnowflakeのスリダール・ラマスワミCEOが、メディアを対象とした説明会に登壇。説明会では、日本法人であるSnowflake合同会社の東條英俊社長が質問する形で、Snowflakeの基本方針や、CEO就任に至った経緯などについて触れた。
ラマスワミCEOは、「Snowflakeが持っているデータの力は固有のものであり、Snowflakeだからこそ、多くの組織を支援できる」とし、「コンピュートとストレージを切り分けて、アナリティカルエンジンにつなげることができるのがSnowflakeの特徴であり、これが成功の源泉となっている。これから目指すのは、インテグレーテッドプラットフォームであり、Snowflakeがさまざまなものと連携し、シンプルで、より簡単に使うことができる。さらに、カスタマーフォーカスである点は、これからも変わらない。今後も、データ基盤を強化し、Icebergへの投資も加速する。そして、AIによって、データのパワーをさらに高めていくことになる」との方針を述べた。
ラマスワミCEOは、米ブラウン大学でデータベースシステムの博士号を取得したあと、ベル研究所などでUNIXやトランジスタに関する研究に従事。自らを、コンピュータサイエンティストと名乗る。Googleで15年間に渡って検索サービスに関わり、広告事業とAdWordsなどを担当。ディスプレイ広告や動画広告、分析、ショッピング、決済、トラベルなど、あらゆる広告製品のチームを牽引してきた。2018年に、世界初のプライベートAI検索エンジンを開発するNeevaを設立。CEOを務めていたが、2023年5月にSnowflakeが同社を買収。その後、SnowflakeでAI戦略をリードしてきた。
「Neevaはエンタープライズに舵を切ろうと考えていた。6カ月間はNeevaに残り、統合作業が完了してから次に移る予定だったが、世界中のお客さまと話をするなかで、データに関わってきた私の経験がSnowflakeに生かせると言われ、エキサイティングな気持ちになった。前任のフランク・スルートマンや取締役会の後押しもあって、CEOに就任することになった」と、これまでの経緯を振り返った。
さらに、「私はインド出身で、日本からは多くのインスピレーションを得てきた。また、日本が世界に対して大きな影響力を持つことを理解し、日本が達成してきたことを尊敬している。日本にはイノベーションのパワーがある。SnowflakeのCEOとして、日本に対して強いコミットをしている。日本は重要な市場のひとつである」と述べた。Googleに在籍していた時には毎年日本を訪れていたというが、コロナ禍後では初めての来日だという。
SnowflakeのAIデータプラットフォーム戦略については、「エンタープライズAI時代が到来している」と前置きし、「AIは魔法のような存在だと感じている。情報と情報がスムーズに統合し、どんな言語でも翻訳することができる。画像から課題を抽出することもできるようになっている。だが、ChatGPTの回答の5%がハルシネーションと言われている。その結果、コンシューマAIは注目度が低い」と指摘。
「AIで重要なのは信頼できるものであるかどうかである。正しい回答を出して、初めて信頼できるものになる。金融業界では間違った回答は認められない。エンタープライズAIとしての信頼が必要である。そして、簡単に回答を見つけるために、きちっとモデルをトレーニングすることが重要である。Snowflakeのデータを使うことでそれを実現することができる。Snowflakeは、エンタープライズAIという切り口から、簡単に使え、効率性を高め、信頼性が高いものを提供できる」と述べた。
Snowflakeの東條社長は、「日本のCxOからは、Snowflakeのような新たなテクノロジーを採用する際の最大の懸念点として挙がるのが、セキュリティである」と指摘したが、これに対してラマスワミCEOは、「クラウドプラットフォームはセキュアではないという誤解がある。自らの建物のなかに置かれるオンプレミスの方がセキュアであるというが、社員は外からアクセスすることになり、それは真実とはいえない。Snowflakeは多要素認証を採用しており、人が認証し、許可することで利用できる。AIが採用されるとセキュリティには複雑性が生まれるだろう。そこで、Snowflakeの上にAIを入れることが、エンタープライズユーザーにとってはいいと考えた。データに付加しているルールに基づいてAIが利用できるからである。また、不快な質問を検知し、事前に阻止することもでき、ビジネスアプリケーションに入ることを事前に防ぐことも可能になっている」などと、セキュリティ面からのSnowflakeの特徴を示した。
さらに、「地球上で最も成功を収めている企業は、プロダクト戦略に中核に、データを置いている」とし、「Googleの検索広告が成功したのは、データのフィードバックループが出来上がっており、広告ごとに計測し、パフォーマンスを測りながら、ユーザーに対して最高の結果を出す仕組みを構築した点にある。人の行動に基づき、より洗練化し、広告を厳選していった。改善しながら、影響力を高めていった点が成功につながった。テスラもクルマの振る舞いをデータとして収集し、運転支援を目覚ましく進化させた。Snowflakeは、データの力を、簡単に使いこなすことできるようにするのが役割である。データはコスト削減にも使えるが、企業の中核の部分に活用しなくてはならない。データは企業の成功の根幹になる」と強調した。
Snowflakeの最新技術やイノベーション、顧客事例を紹介
グローバルイベントの「Snowflake World Tour」は、2024年6月にサンフランシスコで、Data Cloud SUMMITを開催したのを皮切りに、世界23か所で開催するデータクラウドカンファレンスで、今回の東京での開催においては、55のブレイクアウトセッションと、21のカスタマーセッションを通じて、SnowflakeのAIデータクラウドに関する最新技術やイノベーション、戦略的なデータ活用に成功している顧客事例を紹介。さらに、AIやアプリ開発の効率化といったデータ戦略のビジネスへの取り組み方法を学べる場に位置づけてみせた。
同社によると、5000人以上が事前登録し、午前10時から行われた基調講演の会場では、用意された約1000席は満席となったことから、サテライト会場を用意。オンラインでも配信した。
Snowflakeの東條社長は、「Snowflake World Tour Tokyo 2024では、国内24社の事例を紹介するほか、パートナー各社が展示ブースでソリューションを展示。個別のブレイクアウトセッションも用意している」とし、中でも数多くの事例を紹介する内容になっていることを強調した。
基調講演では、2024年2月にCEOに就任したSnowflakeのラマスワミCEOが登壇。Snowflakeは1万社以上に利用され、1日に50億以上のジョブが行われているほか、6週間以上に渡り、企業同士がアクティブにデータ共有を行うステーブルエッジは8300以上に達していることなどを紹介した。
また、AI駆動のデータプラットフォームと、データ駆動のAIプラットフォームによって構成される「AIデータクラウド」が、重要なトレンドになることを指摘。「AIはデータアナリストだけでなく、データを扱うすべての人にとって強力な副操縦士となる。だが、AIにはより多くのデータが必要であり、そこには複雑性の存在、コストの増大、セキュリティとプライバシーといった課題が生まれることになる。Snowflakeはこれらの課題も解決できる。構造化データと非構造化データを統合し、アクセス管理ができ、分析、実行、モニタリングまでを、エンドトゥエンドで達成できるようにしている。また、2400を超えるデータプロダクトが、Snowflakeマーケットプレイスで提供されている。さらに、プライバシーの規制やAIのコンプライアンス、セキュリティの脅威にも対応する」などと述べ、「いよいよエンタープライズAIの世紀がやってくる」と位置づけた。
さらに、Snowflake プロダクト EVPのクリスチャン・クレナマン氏は、「Snowflakeは、データエンジニアやMLエンジニア、SQLアナリスト、ビジネスユーザーであっても、データの価値を享受できるようにしている。データ、コンピュート、セキュリティおよびガバナンスという強力な土台を構築し、その上にパイプライン、アナリティクス、機械学習、生成AI、データプロダクトといったコアとなるケーパビリティを提供することができる。そして、ユーザーがよりシンプルに使えるようにするために、Snowflake自らもAIを活用している」と切り出した。
2012年にビジネスを開始して以来、あらゆる企業がSnowflakeを利用して非構造化データを積極的に活用できる環境を構築。相互運用性を実現するIcebergテーブルのサポートにより、データ活用の選択肢を提供するとともに、Apache IcebergのためのオープンソースカタログであるApache Polarisを提供していることや、現在、AWSで提供しているSnowparkコンテナサービスにより、コンピュートの選択肢を提供していることなどを示した。加えて、Snowflake Horizonにより、データ管理やアクセス管理、相互運用性などの機能を通じて、高いセキュリティとガバナンスを実現。Secure Data Sharingを提供することで、コピーによって複雑化するデータ利用環境を回避できるようにしていることも紹介した。
そのほか、Snowparkを毎週利用している顧客が50%に達しており、Sparkのパイプラインに比べて、パフォーマンスが4.6倍向上し、35%のコスト削減が図れること、実行されているダイナミックテーブルは23万以上になり、3000社以上が利用していることを紹介。自然言語でSQLを生成するSnowflake Copilotや、MLの開発を支援するSnowflake ML、Streamlitのすべての機能を使いながら、データエンジニアリング、アナリティクス、機械学習のワークフローを強化できるSnowflake Notebook、モデルとチャット、スタジオの機能をスイートとして提供するCortex AIにも触れた。
Snowflakeの活用事例として、カルチュア・コンビニエンス・クラブと、三井住友カードの2社がともに登壇。TポイントおよびVポイントを2024年4月に統合して新たなVポイントをスタートした際に、両社が持つデータを統合し、パートナー企業のマーケティングに貢献する仕組みを構築しており、そこにSnowflakeを活用したことを披露した。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ 執行役員CIO兼CCCMKホールディングス取締役の撫養宏紀氏は、「プロジェクトの最初の段階では、ビジネスモデルや顧客向けプロダクト、規約の検討などが中心となり、データレイクの議論はそれらが決まってからになる。実際、データレイクに着手したのはローンチの2カ月前であり、従来の手法では間に合わなかった。また、CCCMKではAzure、三井住友カードではAWSを利用していたが、それぞれのSnowflakeの環境のなかでセキュアな設定ができた。コストも10分の1程度になっている。Snowflakeによって、スピード、セキュリティ、コストといった観点で効果をあげた」とコメント。
三井住友カード 執行役員 マーケティング本部副本部長兼データ戦略ユニット長の白石寛樹氏は、「金融業界ではクラウドの採用はハードルが高い。だが、CCCMKがSnowflakeを採用しているのを見て影響を受けた。友達の家にファミコンがあるのを見て、うちも欲しくなって買ったというのに似た感覚があった。Snowflakeでデータを授受する環境を具体的にイメージしながら、プロジェクトを進めることができた。エンドユーザーに統合した価値を提供するために、AIドリブンやデータドリブンにより、デジタルの力をもっとつけたい」と述べた。
また、日本最大の発電会社であるJERAでは、2020年10月からスタートしたDPP(デジタルパワープラント)プロジェクトにおける取り組みを説明。データとAIを活用し、脱炭素の実現に向けてDXを推進しているなかで、Snowflakeが貢献できる価値があるとした。
DPPは、発電所DXといえるものであり、AIを活用した運用の最適化やそれに基づいた制御などにより、熱効率を向上させ、年間4.5万トンのCO2排出量の削減、年間1億円の燃料費削減などを目指すという。
JERA 執行役員 ICT推進統括部長の藤冨知行氏は、「JERAは、日本全体のCO2排出量の約1割を占めており、社会に対する影響が大きい。地球環境への対応はJERAにとって重要なミッションであり、2050年に、バリューチェーン全体でCO2排出量をゼロにすることを目標にしている」とし、「DPPにより、発電所のデータをリアルタイムで収集し、一元管理し、時間と場所を超えてデータを活用できるようになった。ナレッジシステムのEKA(エンタープライズナレッジアドバイザー)を活用して、属人化やサイロ化していた状況を改善。さらに、AIエージェントのEmilyにより、後進育成や外国人エンジニアの育成にも活用している」などと述べた。また、既存のボイラ型火力の設備を利用したアンモニア発電を開始。それに向けた国内外のサプライチェーンの構築や運用に、デジタル技術を活用していることも紹介した。