大河原克行のキーマンウォッチ

SIerとともにGoogleの最新技術を日本企業へ――、平手智行代表が目指すグーグル・クラウドの姿を聞く

エンタープライズユーザーに提供できる価値は?

――エンタープライズユーザーにとって、グーグル・クラウドが提供する技術は、どんなメリットがありますか。

 繰り返しになりますが、地球規模で利用されているサービスを、安定的に稼働させる堅牢性の高いインフラを、エンタープライズユーザーが利用できるという点です。

 大規模なデータの整合性を保ちながら水平スケールできるデータベースのSpannerと、膨大なリソースを超分散並列処理を用いてデータ分析が可能なBigQueryの組み合わせは、お客さまにとって大きな価値を提供できます。例えば、SoRのシステムで活用しているデータを、SpannerとBigQueryを活用することで、SoEのデータとして使ってもらえるようになる。コンテナを使って、素結合に変えることができ、日本の顧客が持つ密結合の大規模システムのSoRから、お客さまの知見になるSoEを作りだすことができます。

【お詫びと訂正】

  • 初出時、SpannerとBigQueryについて、技術的に不正確な表現がありました。お詫びして訂正いたします。

 さらに、Anthosは、Google Kubernetes Engine(GKE)やGKE On-Premにより、マルチクラウドを実現することができ、日本のお客さまにとって大きな価値を提供できます。作ったアプリケーションをどこでも動かすことができるわけで、複数のパブリッククラウドとプライベートクラウド、現場のエッジコンピュータを含めたマルチクラウドを実現できるものになります。自動化、コスト削減、権限管理も効率的に行え、多くの既存システムが稼働している日本のユーザーにこそ、より大きな価値をもたらすと考えています。

 そして、高度に自動化されたGoogle Cloud Dataprocを活用することで、効率化を図ることができます。SparkやHadoopのスキルセットを持つのが大変だとか、人材不足で運用が難しいといった場合にも、これを使うことで、少ない人数で、効率よく進めることができます。

 もうひとつの特徴として付け加えておきたいのが、人工知能(AI)やマシンラーニング(ML)における優位性です。

――それはどんな強みですか。

 GoogleのAIやMLの強みは、限られた教師データで、精度の高いAIとMLのモデルを作ることができる点にあります。さまざまな現場で課題となっているのが、教師データとなるデータ量が確保できないことです。しかし、Googleの技術であれば、この課題を解決できます。

 また、作られたAIモデルがとても軽く、スマートフォンで利用したり、10年、20年使われている古いマイクロプロセッサを搭載した検査機や製造装置でも動作させたりできます。ビット数が少ないマイクロプロセッサや、容量が小さいコンピューティングデバイスでも、精度の高いAIを動かすことができ、AIを動かすために、最新の生産設備や検査設備に入れ替える必要がありません。少ない教師データで軽いモデルを作ることができるのは、Googleならではの特徴です。

 また東京リージョンに加えて、昨年には大阪リージョンも開設し、高い可用性を提供できます。エンタープライズに本格的に展開していくためのピースがそろってきたというのが、いまのGoogle Cloudの状況です。

――日本におけるエンタープライズユーザーの事例を教えてください。

 ふくおかファイナンシャルグループでは、ネット専業銀行「みんなの銀行」の勘定系システムのプラットフォームとしてGoogle Cloudを採用することが決定しています。SpannerとBigQuery、マイクロサービスを活用して、コアバンキングシステムを、クラウド上に実装している事例となります。SoRのデータが、ほぼリアルタイムでシステムに反映され、SoEのデータとして活用できるようになります。

 リクルートでは、じゃらんやSUUMO、リクナビといった多くのユーザーが利用しているサイトを運営しており、アクセスの変動が激しい環境にありながら、ここにおいて、高い安定性とパフォーマンスを実現するとともに、Cloud Dataprocを利用して、統合データマートの処理において14倍の高速化を実現しています。

 また、JR東日本では、在来線の車両に設置したカメラやセンサーから発信されるデータを取得して、ここにGoogleならではの軽いAIモデルの実装と、高度な分析を活用することで、線路の予知保全を行っています。

 そして、NTTコミュニケーションズでは、医療法人巨樹の会および東京巨樹の会が運営する病院において導入されている従来型システムを対象に、Anthosによって、マルチクラウド化を実現。データを集約して、臨床データの分析やAIの予測でデータの利活用をサポートし、患者一人一人にあわせた治療計画を立案しています。Anthosにより、パブリッククラウドのマルチ化だけでなく、既存システムを並列でマルチ化することができた事例です。

 このように、エンタープライズユーザーの活用は増加傾向にあります。エンタープライズユーザーが使ってもらえる製品とサービス、環境と仕組みを用意し、そこにパートナーの力をお借りして、さらに活用の幅を広げていくことに取り組みます。