大河原克行のキーマンウォッチ

日本マイクロソフト・吉田仁志社長に聞く、「MSがこれから変わること、変わらないこと――」

 日本マイクロソフトの社長に吉田仁志氏が就任して、間もなく約5カ月を経過する。

 吉田社長体制がスタートして以降、同社が開く記者会見や、同社関係者による講演などでは、「お客さまに寄り添うマイクロソフト」と書かれたスライドが1枚追加されるようになった。

 この言葉は、マイクロソフトが掲げるミッションをもとに、吉田社長が新たに打ち出したメッセージだ。いわば、これが、日本マイクロソフト社長として対外的に発信する最初のメッセージだったともいえる。そして吉田社長は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)といえばマイクロソフトと認識されるようになりたい」とも語る。

 これらの言葉に込めた意味はなにか。吉田社長体制となった日本マイクロソフトの、新たな成長戦略を聞いた。

日本マイクロソフト 代表取締役社長の吉田仁志氏

「お客さまに寄り添うマイクロソフト」を目指す

――就任からの約5カ月間は、どんなことをしてきましたか。

 最優先したのは、お客さまとパートナーを訪問することでした。最初の2カ月ちょっとの間は、とにかく外に出ていましたね。それから少しずつ社内の仕組みを勉強したり、数字目標を確認したりといったことをしたわけですが、日本マイクロソフトのお客さまはとにかく多いですから(笑)、いまでも、お客さまを訪問することは優先しています。

――お客さまやパートナーとは、どんな話をしていますか。

 私たちが目指すのは、「お客さまに寄り添うマイクロソフト」であるということをお話ししています。また、経営トップの方々とお会いすることになりますので、自然と話題は、DXに関するものになりますね。特に経営者の視点からすれば、マイクロソフトはどうやってDXを行ったのかという話に興味を持っていただけます。

――最近、日本マイクロソフトの記者会見や、社員による講演などでは、いま、吉田社長が言われた「お客さまに寄り添うマイクロソフト」と書かれたスライドが1枚追加されるようになりました。この言葉は、吉田社長が就任後に打ち出したメッセージだと聞きましたが。

 はい、そうです。

――この言葉にはどんな意味を込めているのですか。

 私自身、30年以上、マイクロソフトを外から見てきましたし、その間、何度かお誘いを受けたこともあります。マイクロソフトという会社を節目ごとに理解してきたわけですが、30年前のマイクロソフトと、10年前のマイクロソフト、そして、いまのマイクロソフトはかなり違った会社になっています。

 もともとは「すべてのデスクと、すべての家庭にコンピュータを」ということを目標にしてきたわけですが、これを達成し、特定の領域ではコンペティター(競合)がない状況を作り上げた。そうなると、自らの製品の機能や品質を、さらに高めることに対する努力を怠ってしまうという状況が一時的に生まれてしまった。その結果、クラウド時代に変化する中で、「Microsoft is not relevant」と言われるような状況にまで陥ってしまったわけです。しかし、ビジネスモデルを変え、カルチャーを変えなくてはいけないということに気がつき、一気にトランスフォーメーションを開始したのが、この5年間です。

 それまでは、「売る」ということに特化した企業であり、1000ライセンスが必要な会社には、1000ライセンス以上を販売するという力を持った企業であり(笑)、しかも、次の更新時期というものをしっかりと見据えて、アップグレードしてもらう仕組みも用意した。

 だが、クラウド時代は「消費型」のビジネスモデルになり、使ってもらわないと売り上げが計上できません。お客さまに「買ってもらう」モデルから、お客さまの「役に立つ」、「貢献する」ということをしない限り、売り上げにはつながらない。つまり、お客さまの成功なしには、日本マイクロソフトの成功もない。そして、クラウド時代には、売って終わりではないですから、営業活動にも終わりがありません。

 言い換えれば、「セールス」という言い方ではなく、「カスタマーサクセス」という言い方が適した活動になってくるわけです。マイクロソフトは、そこに向けて、カルチャー変革とビジネスモデル改革をやってきたわけです。14万人の従業員が在籍し、100兆円超える時価総額の企業が、ここまでトランスフォーメーションを行うという例はほかにありません。

 一方で、日本のお客さまもトランスフォーメーションをしなくてはならない状況にあります。マイクロソフトがトランスフォーメーションをしたときに、血と汗と痛みを伴ったわけですが、これをお客さまに包み隠さずに話したい。そのときに、こうすればいいという「上から目線」ではなく、「マイクロソフトはこんな失敗をしたので、いまからやるにはこうしたらいいのではないのでしょうか」といったように、まさにお客さまに寄り添う形でお話をしたい。正面に座って、向かい合って話をするのではなく、肩と肩を並べて、隣に座るような感じで話をしたい。このようなスタイルを「寄り添う」と表現しているわけです。

 過去30年以上続いたITの役割が変わろうとしています。これはお客さまにとっても大きなチャンスを生むことになります。社会環境の変化と日本マイクロソフトのこれまでの経験と役割、そして、お客さまが置かれた立場を考えると、「お客さまに寄り添うマイクロソフト」という言葉が、いま一番大切であると考えたわけです。