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日本の可能性をデジタルの力で解き放つ――、グーグル日本法人・奥山代表が国内での取り組みを説明
日本リスキリングコンソーシアムの設立も発表
2022年6月20日 06:00
グーグル日本法人は16日、オンラインイベント「Google for Japan」を開催。日本における事業戦略を発表するとともに、同社が主幹事となって、スキル開発支援の「日本リスキリングコンソーシアム」を設立したことも発表した。
グーグル日本法人が、国内における事業戦略を説明することは珍しく、2019年11月に、グーグル・クラウド・ジャパンの日本代表に平手智行氏が就任してから、Google Cloudに関する事業方針が説明されるようになった以外、ほとんど行われたことがなかった。
グーグル 日本法人 代表の奥山真司氏は、「多くの人が、Googleのプロダクトやサービスは毎日利用しているが、日本での存在が見えにくいという印象を持っているのではないか。かつての私自身もそうであった。そのイメージをいい意味で払拭したい」と切り出す。
そして、「日本において最も信頼され、最も貢献できるローカルパートナーになるという強い決意を持っている。日本社会の一員として、日本の現状と将来像を考え、そこにGoogleが貢献できることを考え続けている」と述べ、今回初めて開催したGoogle for Japanを、「Googleが日本のために取り組んできたことや思いを直接伝え、今後の貢献を示すためのイベント」と位置づけた。
またグーグル日本法人では、新たなビジョンとして、「デジタルの力で解き放とう、日本の可能性」を掲げたことも発表した。これも過去には例がないものだ。
奥山代表は、「日本には有形無形の資産が眠っており、大きな可能性がある。一方で日本の経済を支えてきたシステムが制度疲労を起こしているのも事実である。これをデジタルの力で変革するDXによって、課題をチャンスに変え、日本が持つ大きな可能性を、最大限に引き出すことに貢献したい。DXが知識、成功、健康、幸福をもたらす原動力になりうる。この実現にテクノロジーが欠かせない」などとした。
グーグル日本法人では、日本において注力する重点領域として、「一人ひとりに力を」、「ビジネスに革新を」、「社会の進歩に貢献を」の3点を挙げた。
「一人ひとりが知識を得ることを通じて、自分の能力を伸ばし、可能性を花開かせることができるようにサポートする。これが、多様な人たちが持つ力を、日本社会の力として生かしていくことにつながる。また、イノベーションを追求することが成功の鍵になると信じている。ビジネスにイノベーションを起こし、社会に幸福をもたらそうとする日本の企業にとって、信頼できるパートナーでありたい。そして、日本の人たちの幸福と健康に貢献するために、社会の進歩に貢献する。テクノロジーは社会をより良い方向に変えていく力がある。AIをはじめとした最新技術を社会課題の解決に応用するための研究開発を通して、誰もが心身ともに健康で、幸福に暮らせる未来の礎になりたいと考えている」と述べた。
ビジネスに変革を起こそうとしている日本の企業を全力でサポートする
一方、グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏は、「ビジネスに革新を」という観点から、日本での取り組みについて言及した。
「グーグルの役割は、変化し、挑戦し、エコシステムや社会基盤にイノベーションを起こそうとする日本の企業を、テクノロジー、ソリューション、パートナーシップを通じて支援をしていくことである。グーグル自らも、検索サービスからはじまり、Gmail、Googleマップ、Androidなど、なんどもイノベーションを生み出し、自らのビジネスを変革してきた経験がある。同じように、ビジネスに変革を起こそうとしている日本の企業を、信頼されるパートナーとして全力でサポートする。また、持続可能性という軸を企業が持つことが必須となる時代が訪れており、そこにもGoogleのサステナビリティに関する知見と技術を活用して、支援ができる。クラウドやAI、広告プラットフォームなどのサービスに加えて、Google for Startupsなどのプログラムにより、日本のあらゆる企業のビジネスを支援していく」とした。
また、Google Cloudが、2021年10月にガバメントクラウドのサービスプロバイダーに選定されたことにも触れ、「デジタル庁が定める約350の技術要件を満たしたこと、サービスの柔軟性と迅速性が評価されたことが選定につながった。政府が要求するセキュリティ水準の確保を図るISMAPには、2021年3月に最初に登録されたことも評価されている」と述べた。
さらに平手代表は、「DXは、生産性の向上、収益の増加、コストの削減、GDPの増加に大きく貢献することができる。日本では、DXをフルに活用することで、2030年までに、年間67兆7000億円の経済効果を生み出すという試算がある。ビジネスパートナーとともに、デジタルの力で日本のさらなる可能性を実現していく」としながら、「持続可能な社会、都市づくりを目指して」、「デジタル活用をあらゆるビジネスに」、「地域のパートナーと地方創生を」という3点から、ビジネスにイノベーションをもたらす具体的な取り組みを紹介した。
JR東日本では、「Beyond Stations構想」を掲げ、駅が交通の拠点の役割を超えて、ヒト・モノ・コトがつながる「暮らしのプラットフォーム」に進化することに取り組んでいるが、それに向けて、GoogleのAR技術を活用したナビゲーションシステムの実現、運行する列車のリアルタイムデータのGoogleマップ上への表示、Googleマップからのチケット予約ページへの直接アクセスなどの実績があるほか、Google AIを活用した線路の保守点検の検証も実施していることを示した。
スタートアップ企業のラトナでは、Google for Startupsプログラムに参加して経営基盤を整備。AI/IoTプラットフォーム「AION」や、旅館およびホテル向けホスピタリティアプリケーション「OMOTE-Bako」を提供しているという。大日本印刷とは次世代ショールーム店舗プロジェクトに取り組んでいるほか、グーグルでは、Google News Initiativeを通じて、全国の地方新聞社が参加するBuild New Localプロジェクトに協力。地方新聞社の収益化や、デジタルを活用した報道の実現、地域コミュニティの育成などに取り組んでいる事例を示した。
そのほか、Googleマップのデータや解析技術によってCO2排出量をシミュレーションし、可視化するプラットフォーム「Environmental Insights Explorer」を提供し、すでに国内22都市で活用していることを紹介。京都市では太陽光発電施設の設置ポテンシャルの把握にこのプラットフォームを活用しているという。また、サステナビリティへの取り組みのひとつとして、国内外のスマートシティに関する状況をまとめたレポートとして「未来のモビリティが推進する持続可能なスマートシティ」を、PwCコンサルティングとの協力によって発行。6月16日から無償公開したことにも触れた。
日本はGoogleプロダクトの機能の開発と改善を支えている
一方、グーグル アジア太平洋地域 代表のスコット・ボウモン氏は、2001年に、設立3年目のGoogleが、最初の海外オフィスとして東京・渋谷に拠点を置いたことに触れながら、「Googleのミッションは、『世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスでき使えるようにすること』であり、これを実現するには、世界経済の発展と技術の進歩の最前線にある日本に拠点を設立することは自然の流れだった」と当時を振り返る。
そして、「それ以来、当時から変わらないことは、日本の人々、企業、政府にとって信頼され、貢献できるパートナーになるという強い意志である。製品やサービスを通じて、日本の社会全体にポジティブな影響を与え、日本の企業の成長を促し、働く人の雇用と機会を創出し、日本のイノベーションを支えるプラットフォームを提供したい。また、日本はGoogleプロダクトの機能の開発と改善を支えている。Googleマップは日本のニーズをもとに生まれ、いまや自己表現に欠かせない絵文字も日本から生まれた。日本で生まれた進歩が、全世界に広がり、人々に恩恵をもたらすと考えている」と述べた。
さらに、「Googleのプロダクトが日本の消費者にもたらす経済価値は年間4兆4000億円と試算されており、コロナ禍で影響を受けた分野においては10万9000人以上の雇用をGoogleが支えると予測されている。コロナ禍においてデジタル化が加速していることは日本にとってチャンスである。今後もGoogleは、テクノロジーで日本の経済と社会の力強い未来を支えていく。今後10年も、パートナーシップを深めながら、日本の進歩に貢献していく」と語った。
このほか、グーグル アジア太平洋・日本地区マーケティング担当バイスプレジデントの岩村水樹氏は、「これからの日本は、多様な人材が、長く働き続けられる社会を作りださなくてはならない。そのためにはデジタルスキルとダイバーシティでのトランスフォーメーションが必要である。一人ひとりが新たなスキルを身につけ、それをアップデートしていけること、あらゆる人がいきいきと働き続けられる環境を作ることの2つがそろって、日本の社会の可能性を解き放つことができる」とコメント。
それに向けて、グーグルでは、無料のデジタルスキルトレーニングの「Grow with Google」、デバイスやツール、コンテンツによって、教育分野における次世代の学びを支援する「Google for Education」、多様性がある企業文化の実現と、女性の活躍を後押しする「women will」などに取り組んできたことを紹介。「日本は世界のデジタル競争力ランキングでは28位にとどまっている。また、日本の企業は、DXを推進する際の課題として最も多いのが、デジタルやテクノロジーに関するスキルや人材の不足をあげている。視点を変えれば、一人ひとりがデジタルスキルを高め、新しい知識を身につけ、仕事のスタイルを変革すれば、日本の企業や経済が大きく成長する余地がある」と指摘した。
、あらゆる人のデジタルスキルを高めるため「日本リスキリングコンソーシアムを設立」
今回のオンラインイベントのなかでは、グーグル日本法人が主幹事となり、日本リスキリングコンソーシアムを設立することを発表した。地域や性別、年齢に問わずに、あらゆる人のデジタルスキルを高めることを目的に、総務省と経済産業省が協力し、企業や地方自治体など49企業/団体が参画。200以上のトレーニングプログラムと就業支援サービスを提供することになる。
「大企業、中小企業のほか、女性、シニア、経営者、次世代を担う若者など、すべての人たちに利用してもらえるプログラムを目指す」(グーグルの岩村バイスプレジデント)という。
具体的には、リスキリングプログラムは特設サイトで簡単に検索、受講ができ、マーケティングやテレワーク、AI技術といった目的やレベル別に受講でき、資格の取得支援も行う。
そのうち、Google が提供するプログラムは、2019年から、Grow with Googleとして展開してきたAIや機械学習の初歩を学べるコースに加えて、中上級者向けのAI人材育成のための短期集中型コースも用意。実践的で深い学びの機会を提供するという。なお、Grow with Googleには170以上のパートナーが参加し、900万人以上が参加。2022年末までに1000万人が受講する予定だという。
また、プログラムで学んだことを就業現場で生かす機会を支援するジョブマッチング機能も、就職・転職支援サービス企業を通じて提供する。
総務省の金子恭之大臣は、「総務省は、地方の繁栄なくして、国の繁栄なしの考えのもと、人口減少や高齢化が進む地方から、いち早くデジタルを実装し、誰一人取り残されず、人々がいきいきと暮らせるデジタル社会を作るため、デジタル田園都市国家構想の実現に取り組んでいる。そのためには、一人ひとりがデジタルスキルを習得できる機会を数多くつくることが必要である。Googleなどの民間企業が持つデジタル化への知見やノウハウ、スピード感を生かし、官民連携で取り組むことが重要である。総務省は、日本リスキリングコンソーシアムの趣旨に賛同した。テレワーク向けのスキルアッププログラムも用意されており、総務省のテレワーク推進施策とも連携できる。一人ひとりがデジタルを活用することにより、可能性を大きく引き出せると考えている」などと述べた。
また、グーグル日本法人では、IT分野における専門性の高い職種に就くための職業訓練プログラム「Google Career Certificates」を、2022年8月から提供を開始することも発表した。
Google独自の資格認定プログラムで、これまで米国内で展開してきたものだ。実践的な知識と問題解決能力を身につけ、組織において即戦力となる人材を育成するという。米国では、昇給したり、新たな仕事の機会を得たりといったように、6カ月以内にキャリアにポジティブな結果が出た受講者は75%に達していると指摘。日本では、5種類のコースのうち、最も需要が高かった「データアナリティクス」から提供を開始するとした。
さらに、次世代教育支援では、2022年3月に、小学校向けの無料プログラミング教材「CS First」を日本でリリース。日本の新学習指導要領やプログラミング教育の実情にあわせたカリキュラムを開発したという。加えて、女子中高生に理系の進路選択に興味を持ってもらえるきっかけづくりへの取り組みも開始していることを紹介した。
ダイバーシティへの取り組みとしては、women willの取り組みを強化。2020年10月からスタートしたwomen willリーダーシッププログラムを通じて、女性がリーダーシップを発揮できる環境の創出や、女性を管理職に登用したい企業を支援。2022年からは企業の経営層を対象にした支援プログラムとして、10X Innovation Culture Programを新たにスタート。企業の変革を担う人材を受け入れるインターンプログラムとしてWork@Google 20%を、昨年に続き実施する予定であることも明らかにした。
シニアのためのデジタルスキルトレーニングの提供に向けては、地域のシニア事情に精通したパートナーとして地方新聞社との連携や、2022年4月からはシニアの生活に関する困りごとをワンストップで解決する「まごころサポートプラス」を支援。デジタルコンシェルジュなどを通じて、シニアがGoogle検索の活用などができるようにサポートするという。
また、Google検索が、日本のユーザーにとって、さらに便利に使えるようにすることを目指し、日本のニーズに沿った検索機能を開発するチームを日本に設置。「日本ならではの言語や文化におけるユニークな課題や需要に応えられるように。製品を開発することを目的にしていた組織である」とした。
一方、YouTubeでは、2007年から日本語サービスを開始して、今年が15周年を迎えること、18歳以上の毎月の利用者数は日本で6900万人、世界で20億人に達していること、YouTube Impact Reportによると、日本におけるクリエイターエコシステムへの経済効果は年間2390億円に達し、7万5970人のフルタイム雇用を創出したという結果が出ていることを示した。YouTubeでは、「表現する場所をあらゆる人に提供し、その声を世界中に届ける」というミッションを掲げており、「今後15年間もあらゆる可能性を広げる場として、YouTubeは日本の社会とともに歩んでいく」(グーグル日本法人 マネジングディレクター YouTube日本代表の仲條亮子氏)と述べた。