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企業がDXを実現するため5つの課題とGoogle Cloudによる解決策――、「Google Cloud Day:Digital」基調講演レポート
2022年4月22日 06:00
グーグル・クラウド・ジャパンのイベント「Google Cloud Day: Digital '22」が4月19日から開幕した。基調講演やブレークアウトセッションは4月19日~21日。
主にエンタープライズ向けにGoogle Cloudをアピールするイベントで、昨年に続きオンライン開催となった。
本記事では、4月19日に開かれた基調講演の模様をレポートする。基調講演では、主にデジタルトランスフォーメーション(DX)におけるGoogle Cloudのデータクラウドの役割が語られた。また、デジタル大臣の牧島かれん氏の特別講演が行われたほか、LIXILの現場でのデータ活用事例なども紹介された。
DXのための5つの課題
Google Cloud 日本代表の平手智行氏は、企業がDXを実現するため5つの課題を挙げ、それぞれごとにGoogle Cloudが提供する施策を紹介した。
1つめの課題は「自社のデータ利活用は業界最高レベルか?」。平手氏は、データドリブンな状態組織は世界では24%、日本では10%未満という数字を課題として紹介した。それに対するものとして、Google Cloudのデータクラウドを平手氏は挙げ、「分散データの収集から、統合、分析、機械学習の活用まで、データを統合し、組織で最大限のビジネス価値を生み出すことを可能にする」と述べた。
2つめの課題は「市場変化に即応し、競争力を維持するには何が必要か?」。この課題について平手氏は、インフラとアプリケーションのモダナイゼーションが必要だと説明。そして、「Google Cloudの提供するオープンインフラストラクチャクラウドは、オンプレミスとのハイブリッド、他社クラウドとのマルチクラウド、ネットワークエッジにも対応し、1社にロックインされず、必要な時に必要とする場所であらゆるアプリケーションを開発実行することができる」と述べた。
3つめの課題は「データ保護とシステムセキュリティ、そしてお客さまのプライバシーは万全か?」。この課題について、Google Cloudは高まる脅威に向けて5年で1兆円の投資を発表していること、公的認定制度であるISMAPに登録されていること、ガバメントクラウドにも認定されていることを平手氏は挙げた。また、リモートワークのセキュリティをエロトラストで守る製品群Work Saferも紹介した。
4つめの課題は「従業員の皆さまにとって最適な働き方を提供する環境になっているか?」。この課題について平手氏は「Google WorkspaceとWork Saferサービスで、オフィスだけでなく現場でのコラボレーションも高め、DXを推進する」と平手氏は述べた。さらに、現場力をデータ活用で強化するために、専門的なデータスキルを使わないローコード/ノーコードで支援すると説明した。
5つめの課題は「世界が直面している環境問題に、組織として取り組んでいるか?」。平手氏は「サステナビリティはすべての企業にとって最重要課題」として、Google Cloudが2007年よりカーボンニュートラルを達成し、2030年までにカーボンフリーを実現すると掲げていると説明。また、Google Cloudの顧客がエネルギー消費を追跡できるカーボンフットプリントサービスを提供していることも紹介した。
こうした5つの課題とGoogle Cloudの取り組みを紹介して、平手氏は「Google Cloudはお客さまのデータドリブンなイノベーションを支援する」と語った。
牧島デジタル大臣が、DX、デジタル田園都市国家構想、デジタル庁、ガバメントクラウドを紹介
特別ゲストとして、デジタル大臣、行政改革担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)の牧島かれん氏が動画メッセージで登場。日本でのDXの必要性や、デジタル田園都市国家構想、デジタル庁、ガバメントクラウドの取り組みなどについて語った。
牧島氏はまず、「新型コロナウイルス感染症により日本のデジタルをめぐるさまざまな課題が明らかになった」と語った。政府においては、新型コロナウイルス感染症でのデータの取得や給付金の支給事務での膨大な事務コストが問題となった。
さらに、民間を含めて、はんこ押印のためだけに出社するといった問題を取り上げて、「アナログの一部のみをデジタル化したプロセスになっている。これまでインフラ整備として通信ネットワークは整えられたが、組織や業務プロセスの改革がなされていなかった」と指摘して、DXの重要性を訴えた。
デジタル田園都市構想については、「デジタルの力を活用し、地域の豊かさと利便性を兼ね備える新たな地方像」として、生活の局面である教育、医療、農業、観光、物流などにおける相互運用性の確保と、オープンなデータ連携基盤の整備に取り組んでいると語った。
これら「地域の課題解決から世界にとびたつ産業が育つエコシステムを構築していく」ためにデジタル庁が発足したと説明。そのために専門性を持つ民間人材が集まっていると牧島氏は語った。
そうした行政サービスのための基盤としてガバメントクラウドを説明。事業者との直接契約により、従量課金やマルチクラウド接続を実現するという。それにより汎用性や、拡張性、アジリティ、レジリエンシー、安全・安心を担保。さらに、地方行政にも利用できるように、標準準拠システムに移行できる統一標準化に取り組んでいると語った。
アプリケーションのモダン化を支えるコンテナプラットフォーム
続いて、Google Cloudのオープンインフラストラクチャクラウドについて、インフラとアプリケーションのモダン化を支えるものとして、Google Cloud 上級執行役員 カスタマー エンジニアリング担当の小池裕幸氏が説明を担当した。
まずオープンインフラストラクチャクラウドについて、Google Cloudだけでなくオンプレミスや他社クラウド、エッジなどで一貫したアプリケーションの開発と実行を簡単に行えるようにするものだと小池氏は説明した。
そのための技術としてコンテナが広く使われているとして、小池氏はGoogle Cloudの2つのコンテナプラットフォームに言及している。
まずはコンテナをサーバーレスで動かすCloud Runだ。サーバーレスで簡単に利用可能できることと、オープンネスと柔軟性が特徴。複雑なアプリケーションにも利用できるという。
そこから成長すると、より細かな設計とセキュリティが必要になるとして、フルマネージドKubernetesのGKE Autopilotを小池氏は紹介した。Cloud Runを利用している顧客が、AutoPilotにスムーズに移行することもできる。
さらに、GKE AutoPilotはKubernetes、Cloud RunはKubernetesの上のKnativeというオープンソースコードがベースなので、ベンダーロックインされないと小池氏は述べた。
そのほか、内製化アジャイル開発に挑戦する企業のために、Googleが「DORA(DevOps Research Assessment)」という研究結果を発表していることも小池氏は紹介した。
例えば、アプリケーション開発でパフォーマンスが最も高いチームは低いチームに比べ、変更を反映するまでのリードタイムや、エラー発生率、障害時の復元時間にはっきりした違いがあるという。また、開発者がセルフサービスでクラウドを利用できることが重要だという。
「Google Cloudはこれらの結果をもとにお客さまのモダン化をお手伝いする」と小池氏は語った。
Config Controllerでセルフサービスとセキュリティガードレールをデモ
そのセルフサービスの実例として、GKEのConfig Controllerを使った例を、Google Cloud アプリケーション モダナイゼーション スペシャリストの塚越啓介氏がデモした。
セルフサービスは使いたい時に使えるのが特徴だが、同時にセキュリティの心配もある。そうしたインフラのセキュリティ状態を安全な範囲に保つための「セキュリティガードレール」が必要になると塚越氏は説明した。
Config Controllerは、あるべき状態を設定で定義することで、その状態にリソースを管理するものだ。デモではYAML形式の一連の設定ファイルをGitでpushするだけで、プロジェクトが構築されてリソースが払い出されるというセルフサービスを見せた。
この設定の中にはセキュリティポリシーも含まれており、デモではCloud Storageを公開するためのセキュリティポリシーが設定されていた。このポリシーがGUIで確認して適用済みになっていることや、GUI上から手動でポリシーを未適用にしてもConfig Controllerにより適用済みに戻されるところを、塚越氏が紹介している。
Google Cloudを用いたデータの準備から活用までデモ
Google Cloudを用いたデータの準備から活用までについて、Google Cloud 通信事業本部 カスタマーエンジニアの茂こと氏がデモした。
デモのシナリオは、さまざまなデータがGoogle Cloudのデータ基盤に収集されている中から、データエンジニアが分析フォーマットに変換し、データサイエンティストがそのデータを利用して機械学習モデルを作成するというものだ。
データ管理・変換サービスのDataplexでは、オブジェクトストレジやBigQueryに保存されたデータを一元的に管理できる。デモでは、データに未加工ゾーンとキュレートされたゾーンが定義されているところや、探索機能で条件によりフィルター検索できることなどを見せた。この中のバイナリ形式の非構造化データがデモの対象だ。
Dataplexでのタスク作成にあたっては、処理内容にあわせたテンプレートが用意されている。デモでは、バイナリ形式のデータだったため、PySparkでデータ変換するタスクを作成した。このタスクにより、データをアナリストに渡せるようにする。PySparkのコードはサーバーレスSparkで動く。
こうして整理されたデータをデータサイエンティストはVertex AI Workbenchで分析する。整理されたデータを選ぶと、テーブル形式でプレビューすることができる。
また、そのテーブルに対してSQLでクエリ実行できる。クエリ結果から「Copy code for DataFrame」機能を選ぶと、BigQueryからデータを読み出すコードがVertex AI WorkbenchのNotebookに自動生成される。
それを元に、Notebook上でグラフ表示したり、BigQuery MLで機械学習を実行したりするところを茂氏は紹介した。
ハイブリッドワークのセキュリティ対策と現場でのノーコード開発
続いてハイブリッドワークについて、Google Cloud Google Workspace 事業本部 ソリューション営業統括部長の小林直史氏が説明した。
小林氏は、多くの企業において、リモートワークとコラボレーション能力の向上が重要になっていると説明。一方で、ランサムウェアやサイバー攻撃などの脅威が急増しており、企業の情報資産を守ることが急務になっていると指摘した。
そのうえで小林氏は、ハイブリッドワークにおけるセキュリティ対応とデータ活用のポイントを2つ紹介した。
1つめのポイントはセキュリティだ。これについてGoogleでは、2021年にWork Saferプログラムを発表した。安全なコラボレーションを実現するGoogle Workspace、ゼロトラストモデルで安全なアクセスを提供するBeyondCorp Enterprise、アカウントやブラウジングなどのエンドポイント管理、クラウドネイティブでの脅威の検出や対応を実現するChronicleをパッケージソリューションとして提供する。
2つめのポイントはデータ活用だ。特に、デスクワーカーではない現場従業員では、仕事に必要な追加のテクノロジーが提供されたと回答したのはわずか35%だったという調査結果を小林氏は紹介した。
この問題に対して2021年に現場従業員向けの低価格な「Google Workspace Frontline」をリリースしたと小林氏は説明した。
さらに、ノーコード開発ツールの「AppSheet」では、アプリ開発をしているうちJavaやPythonのようなコーディングスキルを持っていないユーザーが75%であるという数字を紹介し、「システムされていない業務をノーコードのアプリ開発によりデジタル化するとができる」と説明。現場に必要なツールをすばやく柔軟に開発する「デジタルの民主化」により、現場で生まれたアイデアを現場で生かすことができるようになると語った。
LIXILの全社的なデータ活用事例
デジタルの民主化による全社的なデータ活用を推進するLIXILの事例を、株式会社LIXIL 取締役 執行役専務 Chief People Officerのジン・モンテサーノ氏が語った。
モンテサーノ氏は、LIXILが急速に進化する世界の中で長期的に成長するために、インクルージョンが不可欠と述べた。150の市場で製品を展開しているため、顧客の多様性を重視して製品開発しており、従業員も多様性に富んでいるという。「こうした社内風土とデジタル化を推進することで、革新的な体験や課題解決へ導く」と氏は語る。
そして、DXでこの変化を後押ししているとモンテサーノ氏。社内ソーシャルネットワークで現場のニーズにリアルタイムで反応してよりインクルーシブで活気のある社内コミュニティ形成に役立っているという。
ただし現実には、デジタル技術についてこられる人は限られるとして、柔軟な働き方でリアルタイムでデータに基づいた意思決定を行うためには、デジタル技術の活用の民主化が必要だとモンテサーノ氏は問題を語った。
そこでLIXILでは、ローコード/ノーコードのアプローチで現場のシチズンデベロッパー育成に投資。IT部門に頼りすぎずに必要なソリューション開発と生産性向上を実現しているという。
その例としては、ワクチンの職域接種スケジュールの管理や、画像認識在庫管理アプリをモンテサーノ氏は紹介。「データに基づいた働き方を実践し、課題解決のために個人やチームが自立することが、経営が複雑化しているLIXILにとって不可欠」と語った。
「ITの緑化」と「ITへの緑化」への取り組み
Google Cloudのサステナビリティへの取り組みについては、Google Cloud 執行役員 ソリューションズ&テクノロジー担当の菅野信氏が説明した。
菅野氏は、ブランドイメージや、コスト削減、コンプライアンス、イノベーションなどさまざまな側面から、企業にとってサステナビリティ経営は必至だと語った。
Googleのサステナビリティへのコミットとしては、2007年よりカーボンニュートラルに、2017年より100%再生可能エネルギーにし、2030年までにすべてカーボンフリーエネルギーにすると宣言している。
そのうえで、Googleでは環境について、ITの影響を減らす「ITの緑化」と、ITを活用した「ITへの緑化」の2つで支援していくと説明した。
ITの緑化としては、まずデータセンターの電力使用効率化への取り組みがある。
また、Carbon Footprint機能では、ユーザーがGoogle Cloud上での自分の二酸化炭素排出量にアクセスできる。加えて、Google Cloudのロケーション選択ツールでCO2排出量が低いリージョンをハイライトする機能もある。
そのほか、使われいないプロジェクトを見付けて、削除したプロジェクトのカーボンフットプリントを表示するActive Assist Sustainability機能も菅野氏は紹介した。
もう1つのITによる緑化としては、データ活用がある。リアルタイムでの在庫状況の把握や、需要予測の制度改善、ラストワンマイルデリバリーの最適化により、無駄をなくすというものだ。
その事例として、日本の2社の例が紹介された。
イオンリテールでは、BigQueryを利用して、年間数億人の購買データを高速に分析し、顧客の行動予測や、在庫の適正化に取り組んでいるという。
トーヨーホールディングスでは、サステナブルな農業事業に注力。Auto MLを活用し、育成不良のレタスを自動検出して、適切な処置をタイムリーに施しているという。