大河原克行のキーマンウォッチ

日本の企業には、欧米の苦労を経験せずに一気に巻き返すチャンスがある――、デル・平手智行社長

 Dell Technologiesの業績が好調だ。2018年度(2019年2月1日締)の売上高は906億ドルを達成したが、特筆されるのは約10兆円の売り上げ規模を誇りながらも、前年比15%増という高い成長を遂げているということだ。

 それは日本でも同様であり、前年比30%近い売り上げ成長を達成している。原動力になっているのは、Dell Technologiesが持つ8つのブランドを統合した提案。特に、VMwareとの統合戦略はマルチクラウド時代における強力な成長エンジンとなっている。

 そして、これらのソリューションは、日本の企業こそ大きなメリットを享受できると、デル株式会社の平手智行社長は語る。

 「マルチクラウド化において、日本の企業が、欧米の企業に数年遅れているとすれば、その数年間に渡って、欧米の企業が苦労してきたことを経験せずに、一気に巻き返すチャンスがある。そこにDell Technologiesが貢献できる」とする。

 デルの平手社長に、日本のITを取り巻く現状と、Dell Technologiesの日本におけるクラウド戦略などについて聞いた。

デルの平手智行社長

主要領域のすべてで高い成長を実現

――Dell Technologiesの業績が好調のようですね。

 2018年度の業績は売上高が906億ドルとなり、2月の為替レートである111円で換算すると、初めて10兆円を超えました。しかも、前年比15%増と2けた成長を遂げています。この規模になっても、2けた成長を続け、さらに成長が加速していることに、強い勢いを感じてもらえるものではないでしょうか。また、インフラソリューション、ストレージ、サーバー、PC、HCIといった主要領域のすべてで高い成長を遂げています。

 そして強調しておきたいのは、過去3年間で128億ドル(約1兆4000億円)もの研究開発投資を行っている点です。これに1年を加えて過去4年間というスパンで見れば、2兆円の投資規模になります。これだけの規模で研究開発投資を行っているIT企業は限られます。現在、取得および出願中の特許は2万5000件以上で、取得した特許件数では世界トップ5に入っています。

 日本の業績も好調です。2018年度の売上高は、前年比で30%に近い成長となっていますし、サーバーでは前年比39%増、ストレージでは25%増、コンバージドインフラ(CI)およびハイパーコンバージドインフラ(HCI)では165%増、法人向けPCでは38%増、サービスでは25%増といずれも高い成長を遂げています。

 もともとDellはPCの会社でスタートしたわけですが、いま、Dell Technologiesが力を注いでいるのは、ハードウェアではありません。ソフトウェアやソフトウェアディファインド(Software-Defined)インフラ、サービスであり、これらを統合したソリューションとして提供することに力を注いでいます。

 デジタルのケーパビリティを新たに構築する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や、日本では、過去20年間に渡る2600億ドルもの投資資産によって形成される「既存インフラのモダナイゼーション」、日本で注目を集めている働き方改革を実践する「ワークフォーストランスフォーメーション」、そして、すべてのITにかかわる「セキュリティトランスフォーメーション」といったように、多岐に渡るデジタル変革のニーズを支援することに力を注いでいます。

 Dellには、DELL、DELL/EMC、Pivotal、RSA、SecureWorks、Virtustream、VMwareといった7つのブランドがあり、最近では、これにBoomiを加えて、8つのブランドで展開していることを強調していますが、これらの製品群をシームレスに統合して提供する強みが発揮できています。しかもそれぞれの製品が、それぞれの分野でトップやリーダーのポジションを持つ強い製品ばかりです。グループ内の強い製品やサービスを、すり合わせをした形で提供できるのがDellの大きな特徴だといってもいいでしょう。

お客さまのDX実現を支援するソリューション群

 そして、こうしたDell Technologiesの成長を支えているのが、社員のスキル変革です。グローバルでは営業だけで年間7000人の新規採用を行い、体制を強化しています。日本でも、営業とサービス部門で採用した約480人をはじめ、年間で645人もの社員が入社し、新たな社員が占める割合は、全体の16.6%に達しています。

 ビジネスは、売るときだけでなく、売ったあとの5年、10年という長期間のつながりの方が大切です。売った後に満足していただくために、約5年をかけてサービス、保守体制の強化を行ってきました。

 自主運営をしているデル宮崎カスタマーセンターでは、最初のコールで約7割を解決しています。サポートを受ける際には、お客さまが求めるイメージでプロセスが流れないと、結果として不自然になり、満足度を引き下げることになります。その点で、最初のコールだけで解決するということはとても重要なことであり、そのために、社員のスキルをあげることに注力してきました。こうした体制づくりも、デルの成長につながっていると考えています。

8つのブランドの製品やサービスが組み合わさる強み

――Dell Technologiesが提供する8つのブランドの製品やサービスは、どのように組み合わさり、そこでどう強みを発揮することになりますか。

 現在のIT環境を俯瞰(ふかん)しますと、IoTやPCなどの「デバイス」、デバイスをつなぎ、フルソフトウェアディファインドのインフラが求められる「エッジ」、それを中間で集約するオンプレミスやプライベートクラウドの「コア」、そして、パブリッククラウドによる「クラウド」という4層の構造になっています。

 中でも注目を集めているのが「エッジ」です。5年前には、クラウドを制するものが競争を制すると言われましたが、これからはエッジを制する者ものが企業競争を制すると言われているほどです。

 かつては、どれだけのネットワークがつながるか、というのがエッジの競争でしたが、いまの時代のエッジは、どれだけインテリジェントを持つかということが大切になってきています。

 そこにおいて、Dell TechnologiesではEdge X Foundryに参画し、IoTエッジコンピューティングの標準化を推進することで、より多くのIoTデバイスが接続できる環境を作れるように努力をしています。

 また、VMwareのAirWatchの技術を活用したVMware Pulse IoT CenterやLIOTA(Little IoT Agent)によって、工場などにおいても無線環境でIoTデバイスが接続し、それを管理する環境も提供しています。

 さらに、あらゆるものが接続されるようになると、ますます重視されるのがセキュリティです。RSAが提供するProject Irisは、デバイスからあがってくるデータをパケットレベルで振る舞い検知を行い、エッジの段階で悪いデータを遮断することができます。

 いまお話しした技術や製品は、未来の話ではなく、すでに購入できるものばかりです。

シームレスでインテグレートされたソリューション群を提供

マルチクラウドを統一した管理環境で運用できるソリューションを提供

 一方で、ますます注目を集めているのがマルチクラウドです。Dell Technologiesでは、マルチクラウドを統一した管理環境で運用できるソリューションを提供するのと同時に、稼働中の仮想マシンを停止させずに、別の物理サーバーに移行させるVMware vMotionによって、ソフトウェアディファインドデータセンター(SDDC)の実現を支援する体制を整えています。

 ただ、マルチクラウド環境を実現する上では、エッジからあがってきたデータをストリーミングで管理する方法と、データプールによって分析をする方法があり、これらを共存して利用するには、どうしても別々の運用体系にしなくてはならないという課題があります。

 それを解決するのが、Project Nautilusとなります。エッジにおけるIoTなどのストリーミングデータを、リアルタイムで保存、分析するとともに、同時にデータプールを構築できるもので、まさに画期的なものだといえます。

 さらに、GDPRなどによって個人情報の取り扱いにも規制がかかるなかで、エッジですべてを処理したいという要望も高まっています。それに対しては、パッケージ化したAIの機能をvRealizeでエッジに配布し、その結果共有するというProject Milky Wayの取り組みも行っています。

 そして、集まってきたデータレイクでは、より高速な処理が求められており、Dellでは、GPUやFPGA、TPU、IPUを搭載したコンピューティングを提供するとともに、ストレージにおいても、膨大なデータを動かし、AIで分析する能力を有した製品を投入しています。

欧米と日本とではマルチクラウドの定義が異なる

――いま、日本におけるITの最大の課題はなんでしょうか。

 日本では、複数のパブリッククラウドを活用することを、マルチクラウドととらえる傾向があり、その結果、大手クラウドプロバイダーによるクラウドサイロ、クラウドジェイル、あるいはクラウドロックインという状況が生まれようとしています。

 これは、数年前に、欧米の企業がたどってきた道ともいえます。いま、欧米の企業は、Amazon Web Services(AWS)で使っているものをMicrosoft Azureで動かし、Azureで作ったものをGoogle Cloud Platform(GCP)で動かしたり、オンプレミス環境をプライベートクラウド化し、さらにエッジをクラウド化し、パブリッククラウドにもつなげるといった動きが出ています。

 欧米の企業がいうマルチクラウドは、オンプレミスとエッジのクラウドスタック化により、すべての階層において、クラウドオペレーションとオートメーションを実現することを意味します。つまり、資産や資源、データは、どのクラウドでも共通に動かしたいというものであり、複数のパブリッククラウドをどう使うのかを議論する時代は、すでに終わっています。

 調査によると、欧米では、93%の企業が複数のクラウドを使用しており、しかも平均で5種類以上のクラウドを利用しています。また、オンプレミスをプライベートクラウド化するために、2022年までに1200億ドル(約13兆2000億円)が投資されることになり、この期間におけるソフトウェアとサービスへの投資は1000億ドル(約11兆円)に達すると見込まれています。

 日本のIT投資額は全世界の9%程度と言われていますから、日本においても、プライベートクラウド化するだけでも、1兆円以上の投資が見込まれ、さらに、新たなソフトウェアやサービスへの投資も1兆円規模の投資が見込まれることになります。

 ここで大切なのは、日本の企業におけるマルチクラウドに対する考え方は、欧米に比べて遅れているのは確かですが、欧米の企業が経験してきた成功例や失敗例を学び、同じ失敗を繰り返さなくていいというところにあります。

 同じ道を通らずに、一気にジャンプして、本当のマルチクラウドを実現できるわけです。これは、日本の企業が置かれたメリットだともいえます。それをデルは支援していきたいと考えています。

 Dell Technologiesは、8つのブランドによって、真のマルチクラウドを実現するために最適な製品やサービスを用意しています。そのひとつが、Pivotal Cloud Foundryです。これによって、アジャイル開発の環境を実現でき、VMware、OpenStack、AWSといったさまざまなクラウド環境で稼働させることができ、新たなサービスの開発から運用までをサポートします。

 また日本の企業には、長年に渡り構築してきたSoRの環境があり、これが順調に稼働している状況にあります。しかし、SoRとSoEを連携するというところに大きな課題があります。これを連携させる製品としてBoomiがあります。私は、Boomiは日本のお客さまにこそ必要不可欠になる製品だと思っています。

 このように、日本のお客さまがデジタル変革に必要な製品、サービスといったすべてのフレームワークを、すぐに実装できる形で提供している点に、デルの強みがあります。

 2019年度は、AIやIoTなどを切り口に、エッジ、コア、クラウド、そしてデータレイクの構築まで、日本のお客さまのデジタル変革に不可欠な最先端テクノロジーを提供していくことを目指しています。そして、これらの製品、サービスをパートナー企業とともに提供していくことに力を注いでいきます。

世界で実績のあるソリューションを日本の顧客へ提供できるという

複雑化するクラウドの世界を容易に運用管理する

――2019年4月に米国ラスベガスで開催したDell Technologies World 2019では、新たにDell Technologies Cloudを発表しました。この狙いはなんですか。

 いくつものパブリッククラウドやプライベートクラウドが林立し、さらにはエッジでの実行ワークロードの増加など、異種のツールやデータ管理、SLAなどが原因で運用のサイロ化と複雑化が拡大しているのが、いまのITを取り巻く現状です。

 そのなかでDell Technologies Cloudは、VMwareのクラウドソフトウェアと、Dell EMCのインフラを強力に統合し、パブリッククラウドとプライベートクラウド、エッジクラウドを問わず、あるいはワークロードがどこにあるかが関係なく、一貫したクラウドオペレーションモデルを提供することができます。

 これにより、複雑化するクラウドの世界を容易に運用管理することが可能なわけです。これがDell Technologies Cloudということになります。

 具体的には、プライベートクラウドの実現においてHCIが利用されたり、エッジにおいてもコンテナが利用されたりするなど、これらの領域においてソフトウェアディファインド化が進むことで、パブリッククラウドとまったく同じ環境でスタックが構成されることになります。

 これからの時代は、エッジ、プライベートクラウド、パブリッククラウドというように、呼び名と用途が違っても、その中身は同じになってくるわけです。いずれの領域でも、物理マシン、仮想マシン、コンテナ、Kubernetesが利用され、オペレーション、自動化、セキュリティ、ガバナンス、コンテナ管理、可視性も同じ方法で運用でき、サービスも利用できます。これが正しいマルチクラウドの姿です。

 しかし、エッジにおける取り組みも各社各様ですし、ブロックチェーンにも流派があり、簡単にはつながらない。新たなテクノロジーは先進性を求めるあまり、横のつながりがおろそかになり、それがサイロ化を生んでいます。しかしユーザー視点から見れば、これらの異なるテクノロジーをひとつにつなげていく必要があります。これを実現するのがDell Technologiesであり、オープンを追求し続けてきたマイケル・デル(編集注:Dell Technologiesの会長兼CEO)の信念でもあります。

 Dell Technologies World 2019の基調講演では、特別ゲストとして、Microsoftのサティア・ナデラCEOが登壇し、さらに、マイケル・デルを挟んで、VMwareのパット・ゲルシンガーCEOも一緒に登壇するというシーンが見られました。

 ここでは、VMware Cloud FoundationをMicrosoft Azure上で動かしたり、Workspace OneとWindows 10との連携によるUnified Workspaceを提供することを発表したりしています。マルチクラウドの実現に向け、これまではユーザー自らが苦労してやってきたことをDell Technologiesが届けなくてはならない、とユーザー視点から判断し、これらの一連の発表につながったわけです。

Dell Technologies、Microsoft、VMwareのトップが登壇し、さまざまな発表を行った

Dell Technologies Cloudの2つのソリューション

――Dell Technologies Cloudは、どんな製品で構成されますか。

 Dell Technologies Cloudとして、2つのソリューションが発表しています。

 ひとつは、Dell Technologies Cloud Platformです。

 AWSやAzureは、それぞれのコンソールで管理を行い、さらにオンプレミス環境では、ソフトウェアディファインド化されていないと、サーバーごと、あるいはストレージごとに管理コンソールが別々になります。

 しかしDell Technologies Cloud Platformによって、すべてのサーバー、ネットワーク、ストレージを、データセンターからひとつのコンソールで管理し、マルチクラウド環境を実現できるようになります。

Dell Technologies Cloud Platform
Dell Technologies Cloud Platformの主要ソリューション

 例えば、Dell Technologies Cloud Platformのひとつに位置づけられるVCF on VxRailでは、HCIであるVxRailと、VMware Cloud Foundationを組み合わせることで、ここで提供されるSDDC ManagerやvSAN、vSphere、NSX、Horizon、vReal Suiteによって、これまでユーザーが個別にひとつひとつやらなくてはならなかった作業をすべて網羅します。

 自動でインストールすることが可能になり、コンフィグレーションが自動化され、リソースプロビジョニングも自動化され、パッチの適用も自動化される。これまでは、ソフトウェアディファインドのメリットはわかっていても、それを実現するための幅広いスキルセットを持った人材が少ないため、本当の意味でのマルチクラウドに踏み出せなかったり、パブリッククラウドに頼ることしかできないという状況が生まれていたわけです。

 もともとはコスト削減という目的で活用されていたパブリッククラウドが、使い方によってはコストが高くなるということがわかっても、そこから抜け出せないという状況も生まれていました。

 しかし今後は、特別なスキルを持った人材がいなくても、パブリッククラウドに頼らずに、ソフトウェアディファインドの環境に移行できるようになります。そして、VCF on VxRailでは、フルスタックインテグレーションとして、vMotionを使ってVDIの環境を作ったり、仮想化の環境を作ったりといったことが容易にできますから、ユーザーは、本来、フォーカスすべきアプリケーションのレイヤーに集中できます。

VCF on VxRail

 もうひとつの製品は、VMware Cloud on Dell EMCです。VCF on VxRailがDell EMC側から見たアプローチであるのに対して、VMware Cloud on Dell EMCは、VMware側から見たアプローチのひとつとなります。

 名称だけを見ると、VMware Cloud on AWSやVMware on IBM Cloudといったように、まるで、Dell EMCがパブリッククラウドのように見えますが(笑)、Dell EMCのハードウェアを活用したオンプレミス環境がソフトウェアディファインド化され、プライベートクラウドとなり、さらにVMwareから複数のパブリッククラウドやエッジもコントロールできるようになります。

 VMwareから見て、異なるリソースをコントロールするのは大変でしたが、それを、HCIを利用することで解決し、エッジ、コア(オンプレミスおよびプライベートクラウド)、パブリッククラウドをシンプルに管理できるようになります。クラウドを活用している人に取ってみると、スキルセットの多重化がなくなり、IT部門にとっては、まさに画期的な変化を及ぼすことができます。

 そして、VMware Cloud on Dell EMCは、Webでオーダーをして、システム構成や場所を指定することで、世界中のどこのデータセンターにも設置が可能であり、設定作業もすべて行うことになります。稼働後は、遠隔地からの管理も可能となり、しかも、所有をせずにフルマネージドサービスとして利用することができます。

VMware Cloud on Dell EMC

 このように、Dell Technologies World 2019で発表された内容は、Dell Technologiesが進む今後の方向性を示し、さらに、Dell Technologiesが取り組む今後の重点ポイントが明確にされたといえるでしょう。

Dell Technologies World 2019で示された3つの重点ポイント

――重点ポイントを、あらためてまとめていただくと、どんな点になりますか。

 Dell Technologies World 2019で示された重点ポイントは、3点に集約できるといえます。

 ひとつは、VMware、Pivotal、Dell EMC、Dellのイノベーションを組み合わせて、開発者に優しく、高度に自動化されたインテリジェントで、効率的なクラウドアーキテクチャを提供し、パブリッククラウドと連携するマルチクラウド環境を実現するということです。

 Dell Technologiesは、エッジ、コア(オンプレミスおよびプライベートクラウド)、パブリッククラウドをシームレスにつなげる環境を提供することができる唯一のベンダーだともいえます。

 2つ目には、マルチクラウドの世界をリードする開発者プラットフォームであるPivotalと、データ統合をリードするBoomiの連携を強化することで、エッジ、コア、パブリッククラウドを統合した環境を構築するという点です。

 日本には既存のIT資産が数多くあり、新たなクラウドネイティブのアプリケーションを開発しても、既存ITシステムとつながらないといったことが起こりがちで、結果として、まったく別のIT環境が林立し、サイロ化を進展させています。

 それを解決するのが、Boomiです。Boomiは、レガシー同士の接続や、レガシーとパブリッククラウドとの接続、さらには流派が異なる最先端のブロックチェーン同士もつなげることができます。Boomiは、世界で8000社が利用していますが、これを日本に持ってくるということが、日本のデルにとってこれからの重要な戦略になってきます。

 そして、3つ目にはセキュリティです。Dell Technologiesが持つ8つのブランドのひとつであるSecureWorksが、20年に渡って脅威を検出し、その対応力と蓄積した専門知識をベースに、AIを活用したサイバーセキュリティサービスを提供しています。

 またRSAでは、高度なセキュリティツールを提供し、SecureWorksとの組み合わせで、お客さまのデータ保護と業務継続を支援しています。Unified Workspaceでは、エンドポイント、統合監視、運用、セキュリティパッチのアップデートも自動化しています。

 そして、エンドポイントセキュリティソリューションとして、新たに「Dell SafeGuard and Response」を発表しました。SecureWorksが持つ統合監視機能とインシデント対応、脅威行動分析に加えて、AIと機械学習を利用するCrowdStrikeのユニファイドエンドポイント保護プラットフォームを組み合わせることで、頭脳を持ったCrowdStrikeと、世界で最大級のAI駆動型の管理を行うことができるSecureWorksという最強のタッグが実現でき、マルチクラウド時代やIoT時代における新たなセキュリティ環境を提供できます。これは、日本の働き方改革を支援するという意味でも大きな役割を果たすことになるでしょう。

 Dell Technologiesは、自らのブランドでソリューションを提供するだけでなく、ユーザー視点で、必要に応じて、CrowdStrikeのような外部企業とも積極的に連携をしていくつもりです。

 私は、Dell Technologies World 2019における数々の新たな製品発表によって、マルチクラウドを推進するためのツールがすべてそろったと思っています。先にも触れたように、93%の企業が5つ以上のクラウドを利用しており、その結果、オペレーションが複雑化し、運用コストや管理コストが高くなり、これ以上の進化にも限界があるという状況が生まれています。欧米の企業ではまさに壁にぶつかったという状況にあるわけです。クラウドインターオペラビリティの欠如や、クラウドジェイル、あるいはクラウドロックインという状況を打破するための提案が、今回発表された新たな製品群だといえます。

 そしてこれは、日本の企業にとっては、マルチクラウド化の遅れを一気に巻き返すことができる製品、サービスが出そろったという言い方ができます。オンプレミスのクラウド化とともに、エッジのクラウド化があり、すべての領域において、統一したオペレーションとオートメーションが実現され、しかも、開発したアプリが、すべての領域で利用できるというマルチクラウドの実現を支援できます。

 今後、日本のお客さまに対して訴求していくのは、欧米の企業が通ってきた苦労を、わざわざ追う必要はないという点です。Dell Technologiesには、失敗と成功を十分学べるだけの事例がありますから、それらの知見を活用して、回避できるところは回避すればいいわけです。そして、テクノロジーは、段階を追って導入するのではなく、一気にジャンプしたり、ショートカットできたりといった特性を持っています。ですから、日本の企業にとってこそ、今回の一連発表は、重要な内容だったと思っています。

新規領域にも積極的に踏み出していきたい

――日本のデルおよびEMCジャパンにとって、本年度は、どんな1年になりますか。

 さらなる成長を遂げる1年にしたいと思っています。冒頭にお話をしたように、前年度は、日本法人全体の成長率はもちろん、サーバー、ストレージ、CIおよびHCI、法人向けPC、サービスといった個別の領域で大きな成長を遂げましたが、本年度は、それをさらに大きく上回る実績で推移しています。

 そして新たな取り組みとして、新規領域にも積極的に踏み出していきたいと考えています。例えば、Dell Technologiesはヘルスケア分野において、全世界では7位のポジションにあります。これは専門ベンダーなどを上回る実績となっており、ITベンダーがこの位置にいるのは特別なことです。このように、海外で高い実績を持っていながら、日本ではまだ手つかずという分野がいくつかあります。ヘルスケアのほかにも、ライフサイエンス、公共、フィンテックといった領域においても、日本のパートナー企業とともに新たな一歩を踏み出していきたいですね。

 一方で、社員の採用も引き続き積極化し、同時に社員のスキル向上にも取り組みます。結果としてこれがお客さまの満足度につながるからです。LinkedInが日本で発表した働きたい会社において、デルは17位に入りました。引き続き、多くの人に働きたいと思ってもらえる会社への進化を目指します。

 デルおよびEMCジャパンによる日本の売り上げ規模は3年間で2倍、4年間で3倍になっています。出荷しているユニット数という見方をすれば、5倍以上になっています。そうした力強い成長を支えるために、東京・羽田に、新たなロジスティクスセンターを2019年7月から設置する予定です。

 これまでは、製品ごとに4カ所のロジスティックセンターを設置していたのですが、製品の組み合わせにおいて、倉庫間を行ったり来たりするという無駄が発生していたため、これを1カ所に集中させます。

 ここでは、ロジスティクスのメリットだけでなく、日本においても、より柔軟にキッティングができる体制を構築したり、出荷前テストを行ったりといった機能のほか、デルおよびEMCジャパンが持つロジスティクス機能の強みを、お客さまやパートナーにも見てもらえるようなショールーム機能も用意します。この施設は、当社の業容の拡大にもメリットがあると考えています。

 このように、デルおよびEMCジャパンは、日本における成長をさらに加速させ、新規領域を含めて業容を拡大したいと思っています。デバイス、エッジ、コア、クラウドといったすべての領域で最先端のテクノロジーを提供できるのが、当社の特徴です。お客さまがデジタルトランスフォーメーションを実現する上で、トラステッドパートナーになることにますます力を注ぎます。