特別企画

世界最大規模のデータセンター「アット東京」を訪ねる

 アット東京は、日本におけるデータセンターの草分け的存在だ。東京電力の新規事業会社として2000年に設立。2012年10月には、セコムグループの1社となり、今年17年目を迎えているところだ。現在、中央センター、中央第2センターなど都内4カ所でデータセンターを運営。金融、証券関連企業やグローバル企業などを中心に数多くのユーザーを抱える。

 このほど、アット東京の中核データセンターとなる中央センター(CC1)を見学する機会を得た。その様子をレポートする。

アット東京のCC1外観の様子

都内で4つのデータセンターを運営

 アット東京は、2000年に東京電力の新規事業のひとつとして設立したデータセンター事業会社だ。

 電力業界では、今年4月からの電力小売全面自由化が注目を集めているが、大規模工場やホテル、百貨店、そしてデータセンターといった「特別高圧」の小売自由化は、2000年3月からスタート。この分野への異業種参入がはじまり、電力を巡る競争が激しくなる一方、省エネに対する意識の高まりによって、電力需要の伸びが停滞。こうした環境変化のなかで、東京電力が新たな事業としてスタートしたのが、アット東京であった。

 だが、当時、データセンターへの需要はまだまだ少なく、事業を開始したもののなかなか軌道に乗らない状態が続いた。

 そうしたなか、ひとつの転機となったのが、2001年9月11日に発生した米同時多発テロであった。

 企業の災害復旧(DR)や事業継続計画(BCP)に注目が集まるなか、データセンターの立地やファシリティに対する関心も高まってきた。なかでも、外資系企業では、日本に進出する際には、日本のデータセンターを活用したいといったニーズが高まり、これがアット東京の事業にも追い風となった。

 アット東京では、2000年に第1センター、2001年に2つめのデータセンターとして中央センター(CC1)を開設。その後、第2センター(DC2)、第3センター(DC3)、第4センター(DC4)、中央第2センター(CC2)を建設した。

 一方で、その後、第1センター(DC1)およびDC4を閉鎖し、現在は都内で4つのデータセンターを運営している。さらに、親会社であるセコムのグループ会社が運営する大阪のデータセンター(SDC大阪)や、東京電力とともに株主の1社であるインテックが持つ富山県の富山データセンターと連携したサービスも提供している。

3つのデータセンターサービスを提供

 中核となるCC1は、約14万平方メートルの延床面積を持つ大規模データセンターで、CC2はもっとも新しい。DC2は23区内にある耐震強度の高い地下型データセンター、DC3は多摩地区の強固な地盤の上に立つデータセンターとなっている。アット東京全体では、CC1を含めて約20万2400平方メートルの延床面積を誇る。

 世界最大級の規模を持つCC1をはじめとするアット東京のデータセンターは、柔軟性の高い移設、拡張が可能であり、事業環境の変化や、予測が困難なキャパシティプランニングへの柔軟な対応が可能である点も特徴だ。

 CC1では、大規模システムの運用に最適化した1部屋単位で提供する「コロケーションサービス」、10~15台のラックが収容可能な約20平方メートルのエリアを、ケージで区画したスペースを活用する「ケージングコロケーションサービス」、1ラックからの対応が可能な「ハウジングサービス」の3つを、データセンターサービスとして提供する。

 さらに、金融系のユーザーに最適なサービスとして「プレミアムラックコロケーションサービス」を用意。JPXのアクセスポイントとのセンター内での接続や、高密度サーバーへの対応などが行える。

CC1のコロケーションルーム。部屋単位での契約となる
CC1のケージングコロケーション。10~15ラックが収容可能
1ラックからの契約が可能なCC1のハウジングサービス
金融系ユーザーに最適なプレミアムラックコロケーションサービス

 これらのサービスでは、アット東京が提供する標準ラックのほか、ユーザー自身が選定したサーバーなどを導入することも可能だ。

 アット東京の標準ラックは、19インチEIA仕様で、高さ2.2メートル、幅0.8メートル、奥行1メートル。47Uとしており、1ラックあたり47台のサーバーを収容することができる。サーバールームには、標準として、100V、3kWの電源供給が可能だが、要望に応じて200V電源の供給にも対応している。

標準ラックは19インチEIA仕様の47Uラック

 ハウジングサービスエリアでは、ホットアイルとなるラック背面から熱風を排出し、それを上方から吸い上げ、水冷方式の空調機によって冷却。これにより、室内の温度が22℃~26℃に保たれる。これを床から排出し、ラック前面のコールドアイルにより、冷たい空気を送り込むという方法だ。冷たい水は地下の高効率冷凍機によって作られ、その際に冷凍機の温まった冷媒は屋上のクーリングタワーで冷やされた水によって冷却される。

 空気の流れや温度変化は、CFD(Computational Fluid Dynamics=数値流体シミュレーション)で可視化。冷却装置からサーバールームまで無駄なく効率的に冷気を届けているという。

 コロケーションサービスエリアやケージングコロケーションサービスエリアては、ユーザーの要望によって、冷たい空気が吹き出す床面の位置を変えたり、数を増やしたりといったカスタマイズも可能だ。

アット東京の最新の冷凍機。ここで冷水が作られる
屋上に設置されている水冷のためのクーリングタワー
背面がホットアイルとなり、前面から冷気を取り入れる

 ちなみに、アット東京の標準ラックは、青い色のものが多く採用されているが、これは、アット東京のロゴで使用している「@TOKYO」の「TOKYO」部分の色が青であることにあわせたものだという。

アット東京のロゴ。Tokyoの青い文字が標準ラックの青につながっている

信頼性の高いファシリティに強み

 アット東京の強みは、国内外の金融・証券企業や、クラウドプロバイダーなどが活用していることからもわかるように、信頼性の高いファシリティとセキュリティ対策にある。
 CC1およびCC2では、世界規模のリスクマネジメント会社「ABSコンサルティングEQE日本部門」による地震リスク分析において、PML最高ランクを取得。世界最高クラスの堅牢性を誇るデータセンターと位置づけられている。

 また2015年12月には、東京都が地球温暖化対策の推進において、優れた取り組みを行うデータセンターを審査・公表する「環境配慮型データセンター認定制度」で、CC1およびDC3が認定され、環境配慮の観点でも評価されている。

 さらに、世界初となる東京都内の500kVの地下式超高圧変電所から、地下ケーブルでの2系統受電を行っているほか、地下のもうひとつのルートからの直接受電引き込みでバックアップする体制を持っている。地中線ケーブルでの受電であることから、雷などの自然災害の影響を受けにくく、工事中のクレーンによる事故での断線といった人災の影響を受けにくいのも特徴だ。

 CC1では、66kVで受電後、地下1階に設置された変圧器で6600Vに変換され、サーバールームが設置される各フロアのサブ変圧器で415Vに抑えられ、さらに、そこからサーバールーム内の小型変圧器を通じて、各サーバーラックに100Vおよび200Vで供給されている。

CC1の地下1階にある変圧器
CC1地下1階の変電盤を検査する様子

 こうした電源系統の多重化に加えて、「UPS(無停電電源装置)」および「EG(非常用発電機)」を配備。各所に設置されたUPS電源は10分間の稼働が可能であり、この間、EGを稼働させて、非常時にもデータセンターの連続稼働を行うことができる。ガスタービンによって稼働するEGは、屋上に設置。いずれのEGも、約1分での安定発電が可能であり、同期を取ることができるという。

 アット東京 理事 プロフェッショナルサポート部の長内進部長は、「EGは、東日本大震災以降、ユーザーの需要が増加した。ガスタービンとしているのは、同期が速いこと、燃焼効率が高いことが理由。だが、データセンター開設以来、EGは、いずれも一度も稼働させていない」と語る。東日本大震災の発生時には計画停電が予定され、EGを稼働させる準備をしていたというが、それも回避できたという。

アット東京 理事 プロフェッショナルサポート部の長内進部長

 CC1では、EGだけで数億円規模の投資が行われているようだが、それでも一度も稼働させていないというのは、正直なところもったいない気がする。だが、こうした万全のバックアップ体制があるからこそ、アット東京に対する信頼度は高いといえる。

 すべてのEGは、毎月、稼働テストを行い、必要に応じて部品を交換。また、UPSは、約7年ごとにバッテリーを交換し、約15年でUPS装置そのものを交換する。ちょうど昨年から今年にかけて、UPSを新たな装置に刷新したところだ。

 切り替えるためには、同じ規模の装置をもう一組設置しなくてはならないため、2倍のスペースが必要になる。こうしたスペースを確保している点も見逃せない。こうした考え方も、「止まることが無いデータセンター」の実現に寄与している。

CC1の地下1階にあるUPS。このほど初めて全面刷新した
CC1の屋上に設置されているEG。14台が設置されているが一度も本番稼働はしていない

ユニークな中間免震構造を採用したCC1

 もうひとつが強固な立地に加えて、アット東京独自の免震構造を兼ね備えている点だ。

 CC1では、2001年の建設当初は、1階フロアだけの構造であったため、地下約40メートルにまで着底した直接基礎により強固な地盤が支える構造としていた。だが、その後の増築にあわせて、3階と4階の間に免震機器を導入する「中間免震」構造を採用しているのが特徴だ。データセンターにおいて、中間免震方式を採用している例は稀であるが、これは、CC1が強固な地盤の上に立っているからこそ実現できる構造だともいえよう。

 サーバーが導入されている9階までの高さは約60メートル。マンションなどに換算すると約20階建ての高さに当たるが、この中間免震では、4階から上の階に対する免震を行うものとなっている。

CC1は中間免震構造を採用。3階と4階の間にある積層ゴム

 またCC1は、3つのブロックに分割した建物構造となっている。ひとつのブロックには60本の柱があり、合計で180本の柱がある。ここに、免震用の積層ゴム(鉄板との互層構造)を配置している。

 積層ゴムは、外側の柱部分に用いる鉛プラグ入り積層ゴムと、中央の柱部分に用いる天然ゴム系積層ゴムの2種類を使用した。

 「東日本大震災では、左右前後でそれぞれ4cm、5cm動いた。このCC1は、震度6強クラスの地震では、建物そのものが約60cmまで動いても大丈夫な構造となっている」という。

 なお、サーバールームは、すべてのエリアでガス系消火設備を備えており、火災が発生した際には、それによって迅速に消火することができるという。

サーバールームまで何重ものセキュリティを導入

 セキュリティに関しても、アット東京ならではのものが採用されている。もちろん、アット東京の親会社がセキュリティ会社のセコムであるということからも、万全のセキュリティ体制は当然のことだといえるかもしれない。

 ビル入口での来館者の確認のほか、受付では写真付き公的身分証明書による本人確認を行い、IDカードを発行。さらに生体認証など、サーバールームに入る前までに何重ものセキュリティが施されている。

 さらに、ケージングコロケーションサービスエリアでは、入口にセキュリティカメラを配備。ハウジングサービスエリアではラックが置かれた列ごとにセキュリティカメラを設置。中央監視システムによって、24時間365日の全館監視が行われている。

 アット東京では、「高い情報セキュリティレベルがお客さまの信頼の基本」という理念に基づいて、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)適合性評価制度の認証を取得。さらにプライバシーマークも取得している。

ハウジングエリアでは各列ごとに監視カメラを設置している

ユーザーにとって最適なネットワーク環境を構築

 一方で、ネットワークの強みもアット東京の特徴のひとつとして見逃すことができない。

 アット東京のバックボーンは、複数のキャリアや、JPIXおよびDIX-IEの2つのIXと構内で相互接続され、それ以外のネットワーク設備も二重化されている。上位ISPの障害やメンテナンス時においても、インターネットとのコネクティビティを最大限に確保することが可能な設計となっており、構内配線を含むすべての設備は、自社設備を利用している。万が一の場合にも、迅速に対応できる環境が整っており、ノーダウンを支えていると語る。

 さらに、IBMのSoftLayerとの接続においては、国内で唯一、ダイレクト接続方式のひとつである「Direct Link Colocation」が提供可能な事業者となっており、SoftLayerとの接続では、冗長性、帯域確保、最小遅延を実現している。

 アット東京では、「キャリアニュートラル」、「ベンダーニュートラル」の姿勢をとっており、通信事業者の制限はない。引き込み通信ケーブルのほか、海外キャリア含めて、20社を超える多くの通信事業者と自由にアクセスできる環境にある。また、海底ケーブルネットワークを経由して、海外との高いアクセシビリティを実現しており、ワールドワイドのコミュニケーションハブとして機能できるという。

 今後もネットワークにおける付加価値の強化には、力を注いでいく考えを示している。

ラック内のネットワーク配線の様子

2016年度はサービス提供に力を注ぐ

 アット東京では、2016年度における事業展開のなかで、新たなサービスの提供に注力する姿勢をみせる。

 「これまではファシリティの強みを提案してきたが、それに加えて、サービスの充実をさらに図っていきたい」と、アット東京の長内部長は語る。

 そのひとつが、2月24日から提供を開始したクラウド型データセンター監視サービス「@Ractiv(アットラクティブ=AT TOKYO Rack & Telecom Intelligent View)」である。

 @Ractivは、データセンターに構築されたネットワークやサーバー機器などの運用に必要となるITシステム監視基盤を、仮想プラットフォーム上で構築。ユーザー自身で、必要な時に必要な規模の監視基盤を構築でき、小規模なシステムから大規模なものまで柔軟に対応できるのが特徴だ。

 通常監視機能とともに障害検知時のメール通知、各種レポート作成などの機能を実装。日常監視業務の効率的な運用を可能にするという。

 もうひとつが、アット東京独自のDCIM(Data Center Infrastructure Management)である「@EYE(アットアイ)」である。

 インターネットを介して、ユーザー自身が自社内から、データセンター内の状況を監視可能なシステムで、PCの画面上でサーバールーム全体を俯瞰し、室内温湿度やラック、PDUの状態を視覚的に確認できる。

 この@EYEと@Ractivのサービス提供により、ファシリティマネジメントのみならず、IT監視にも利用できるようになったという。

 「現在のIT環境において、監視システムは企業やIT事業者にとって必要不可欠なものであり、これらのアット東京のサービスを利用することで、時間やコスト、人などの経営資源を本来の事業に集中させることができる」という。

 @Ractivおよび@EYEは、アット東京のデータセンターを利用しているユーザーだけでなく、ユーザー自身が運用するデータセンターでも活用できるようにする考えだ。

 さらに、世界最大級となるデータセンターの規模と、強固なファシリティ基盤を生かして、BCPオフィスサービスも提供。有事の際にも、確実に機能するオフィス環境を提供するといったことにも乗り出している。

 「データセンターならではの特徴を生かして、安定した電力供給や、主要キャリアとの接続と冗長構成などにより、災害時にも機能し、災害対策本部としても利用できる環境が提供できる」という。

CC1で提供しているBCPオフィスサービスで使用されるスペース

重要インフラを支えるアット東京

 アット東京のデータセンターは、システムダウンが一切許されない重要システムを支えるインフラとして、また、グローバルビジネスを支えるミッションクリティカルのデータセンターとして、これまで、「24時間365日ノーダウンオペレーション」を実現してきた実績がある。

 データセンター業界におけるリーディングカンパニーとして、信頼性の高い電源供給、耐震性に優れた施設、光ファイバーネットワークなどの最高水準の設備インフラとともに、高度な設備保安技術を活用した24時間365日の安定稼働によるデータセンターオペレーションは、これからも同社の強みとなることは間違いなさそうだ。

入口を入ると幻想的な回廊がみられるCC1
CC1の回廊を入口方向に見たところ
CC1の受付の様子。高い天井と毎月変わるアロマの香りが特徴
CC1の受付の様子。天窓から自然光が入る
@CafeはCC1利用者が食事などに使えるスペース
@Cafeの入口の様子
CC1にある24時間営業の売店。緊急時に必要となるケーブルなども販売しているという
CC1の4階にある休憩スペース。自由に利用できる
CC1のサーバールームで作業を行う様子
CC1の事務室スペース。窓がある部屋が用意されている
データセンタ―内のエリアは緑、赤、青の3色に色分けされている
緑はアボカドグリーンでAブロック、青はブルベーリーでBブロック、赤はチェリーレッドでCブロックと呼ぶ
バイリンガル対応も行っており、海外企業の利用も多い
CC1の統合監視室。全館をすべて管理している

大河原 克行