特別企画

より速く、よりモダンに、より現実的に――、EMCのオールフラッシュ戦略の一翼を担うDSSD D5のポテンシャル

 「2016年はオールフラッシュの年だ(2016 is the year of All Flash)」――。

 5月2日~6日(米国時間)の4日間にわたり、米国ラスベガスで開催されたEMCの年次カンファレンス「EMC World 2016」の取材中、筆者はEMC関係者がこの言葉を発するのを何度となく耳にした。自他ともに認める「オールフラッシュの最後発ベンダ」だったEMCだが、ここ1、2年はオールフラッシュのブロックストレージ「EMC XtremIO」の採用事例が順調に伸びており、業界トップのシェアを獲得するに至っている。

 だが、EMCのオールフラッシュに対する執念にも近いフォーカスぶりは、当然ながらXtremIOのみで完結するものではない。「すべてのユーザに最適なオールフラッシュを届ける。もはやフラッシュは価格が導入障壁とはならない」(某EMCエグゼクティブ)という言葉通り、4000万IOPSという驚異的なパフォーマンスを誇る「VMAX All Flash」から、今回のEMC World 2016で発表された約200万円以下のミッドレンジストレージ「EMC Unity」まで、どんなニーズに対してもオールフラッシュアレイで応えてみせるという、強い意思を感じさせるラインアップが揃いつつある。

 そうしたEMCのオールフラッシュポートフォリオにあって、ひときわユニークな存在感を示している製品が「DSSD D5」だ。DSSDは2014年にEMCが買収した西海岸のスタートアップだが、買収のタイミングが製品のローンチ前だったこともあり、その存在はほとんど世の中に知られていなかった。

 ただ、IT業界のレジェンドとして知られるかのアンディ・ベクトルシャイム(Andy Bechtolsheim)が開発に関わっている超高密度ストレージという、わずかに漏れ聞こえた事実に、買収発表が行われたEMC World 2014の会場にいた多くが、その可能性に期待したのは事実だ。

 あれから2年経った現在、DSSDはEMCのオールフラッシュ戦略においてどんな地位を占める製品に成長したのだろうか。現地での取材をもとにDSSDの現在に迫ってみた。

2014年に発表された時は、フラッシュストレージとは一線を画す「ラックスケールストレージ」として位置づけられていた
EMC World 2014でEMCによる買収が発表されたときのDSSDのメンバー。右はアンディ・ベクトルシャイム氏

たった2カ月でアップデート!? デュアルになったその理由

 EMCは今回のEMC World 2016において、デュアルタイプのラックスケール型オールフラッシュアレイ「DSSD D5」を発表している。"デュアルタイプ"としたのは、このカンファレンスの2カ月前にロンドンで行われた同社イベントで「VMAX All Flash」などともに、シングルアーキテクチャの「DSSD D5」も同時に発表されているからだ。たった2カ月しか違わないのであれば、なぜロンドンで、あるいうはEMC Worldでまとめて発表しなかったのだろうか。

 この疑問に対し、EMCでNVM戦略部門(Non-Volataile Memory Strategy)のバイスプレジデント兼ディスティングイッシュトエンジニアを務めるダニエル・コブ(Daniel Cobb)氏は、筆者とのインタビューにおいて「顧客の要求に対する我々の回答」とあっさりと答えている。

ダニエル・コブ氏

 2月にリリースしたDSSD D5のスペックは1000万IOPS、0.1ミリ秒以下のレイテンシ、10GB/秒のスループットに加え、5Uの筐体内に144TBまで拡張可能という、十分に高性能なラックスケールタイプのストレージだ。だがリリースした直後、多くの顧客から「144TBでは足りない。もっと拡張してほしい」という声が相次いだという。

 「DSSD D5そのものをクラスタリングさせることは、技術的にそれほど難しいことじゃなかった。それよりもいまの顧客ニーズはすでに200TB、300TBが普通になりつつあることのほうに驚いた。だから、早急にデュアルコントロールアーキテクチャを実装することにしたんだ」(コブ氏)。

 デュアルタイプのDSSD D5は、容量とスループットは2倍に、レイテンシとTCOは1/3に削減される。また、DSSD D5はEMCのハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品である「VCE Vblock」に組み込んだかたちでも利用できるが、今回のデュアルDSSD D5ではさらに、EMC World 2016でリリースされた「VCE VxRack System」にインテグレートした状態でも利用可能だ。発売開始は2016年第2四半期中とされている。

今回発表されたデュアルDSSD D5はシングルアーキテクチャと比較して「2倍のIOPS、2倍の容量、1/3のレイテンシ」を実現する

高速性、高密度、高可用性 - DSSDを定義する3つの設計思想

 ここであらためてDSSD D5の存在価値、オールフラッシュ市場における優位性について考えてみたい。冒頭でも触れたとおり、すでにEMCには数多くのオールフラッシュ製品がある。そして、これらの製品のほとんどはEMCの過去のストレージ開発で培った技術リソース――SymmetrixやVNXなどの資産を受け継いで現在に至っている。一方、DSSD D5はローンチ前に買収した旧DSSDのアーキテクチャをベースにしており、EMCの過去の技術リソースとリンクする部分は少ない。したがってXtremIOやVMAX、Unityとは明らかに異なる設計思想のもとで開発が進められてきた。

 ここでコブ氏は「DSSDの設計思想においては3つのゴールが定められている」と語っている。

 ひとつは「パフォーマンスの追求」だ。サーバーとの接続インターフェイスにiSCSIやファイバチャネル(FC)を採用しているXtremIOなどとは異なり、DSSD D5は「CPUに近いほどアクセススピードは速くなる」という考え方のもと、NVMeに準拠したテクノロジを活用、PCIeバスを介して最大48台までのサーバーと直結することができる。さらにデータバスと制御バスを分離することで、PCIe接続の課題となるSPOF(単一障害点)を解消している点も特徴だ。これにより、共有ストレージでありながらXtremIOの5~10倍にあたる0.1ミリ秒以下のレイテンシを実現している。

 2つめは「高密度」であることだ。DSSDにはEMCが独自に開発したカスタムフラッシュモジュールが搭載されており、コンパクトな筐体内に最大36基/144TBのフラッシュドライブを格納している。

 そして3つめが「システム全体の可用性の担保」だ。コブ氏は、高可用性へのアプローチとして、「DSSD D5はフラッシュドライブ単位ではなく、搭載された1万6000個のフラッシュダイを個別に管理している」と説明する。加えてガベージコレクションやウェアレベリングなどの制御手法が組み合わさり、エンタープライズグレードの可用性を担保している。

DSSD D5が適している"モダンな用途"

 既存のオールフラッシュアレイとは大きく異なる設計思想のもとで製品化されたDSSD D5だが、ではどんな利用形態が想定されているのだろうか。

 コブ氏は、DSSD D5のユースケースは大きく3つに分けられると説明する。ひとつめは「ハイフリークエンシー&ローレイテンシ」を要求される環境でのデータベースやデータウェアハウジング、2つめはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を含むHadoopワークロードの稼働、そして3つめがSASなどに代表されるカスタムアプリケーションによる分析環境だ。いずれも「リアルタイムに限りなく近いパフォーマンスで大量のデータを分析したい」というニーズにもとづいている。

DSSDに適しているユースケースは「データベース/データウェアハウジング」「Hadoop」「カスタムアプリケーション」などによる高速なアナリティクスが要求される環境

 「DSSDは高速な分析を要求される分野での採用が相次いでいる。たとえばいま話題のマシンラーニングなどは、DSSDの能力を最大限に活かせる使い方だと思う。HadoopやSparkなどのワークロードを実行させるのには最適な環境だ」――。

 DSSDをこう評価しているのは、現在EMCのCEOを務めるデイビッド・ゴールデン氏だ。コブ氏もまた、DSSD D5を「(リアルタイムアナリティクスのような)モダンな用途に適したプラットフォーム」と表現する。XtremIOの0.5ミリ秒ではもはや遅く、シングルアーキテクチャの144TBではもはや足りない――。リアルタイムなビッグデータ分析における現場のニーズは「ナノ秒&PB」まで高まっていると言っても過言ではないのかもしれない。

デイビッド・ゴールデン氏

 「DSSD D5の容量を144TBにしたのは、それが技術とコストの妥協点だったから」とコブ氏は振り返っている。高速性と高密度、そしてTCO削減をオールフラッシュで実現するための現実的な"妥協点"が144TBという数字であり、その設定は決して間違ってはいない。だが市場のニーズはすでにその先を行き始めているのも、また確かな事実だ。そして今度はDSSDチームが顧客の要求の先を行くべく、現在はフラッシュ後の次世代メモリ技術「3D Xpoint」を想定した開発も行っているという。時代の半歩先を行く技術開発を続け、現実的な解としての製品に落としこむことはテクノロジベンダーに課せられた使命でもある。コブ氏の言う「技術とコストの妥協点」は、時代に応じてつねに上書きされなければならないのだ。

*****

 インタビューの最後、コブ氏は開発中止に終わった「Project Thunder」について触れている。数年前、EMCはPCIeフラッシュストレージの開発を独自に進めており、そのプロジェクトがThunderだった。だが2013年、そのプロジェクトは突如終わりを迎える。それほどサーバーに直結できるストレージというのは魅力的であり、かつ開発の難易度が高い存在だったのだ。

 だが2014年のDSSD買収は、EMCにふたたびPCIeストレージの道を開くことになる。「DSSDという会社を見つけたとき、Project Thunderを復活させることができると確信した。DSSDに投資することは、EMCのこれまでの(PCIeストレージへの)投資を無駄にしないことを意味していた」というコブ氏。そうした意味でDSSD D5は、フラッシュストレージとしてはやや異質な存在でありながらも、テクノロジベンダとしてのEMCの矜持を象徴する重要な製品であることは疑いないだろう。

五味 明子