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日本オラクル、Oracle Alloyなど「OCW 2022」で発表されたOCIの新サービスなどについて説明

Oracle Databaseの新たなロングタームリリース「23c」のベータ版も

 日本オラクル株式会社は10日、10月17日~20日(現地時間)に米国ラスベガスで開催された米Oracleの年次イベント「Oracle CloudWorld 2022(OCW 2022)」での発表に関する説明会を開催した。なおこの日は、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)に関する新サービスなどについての説明が行われたほか、日本における展開についても触れた。

従来のOracle OpenWorldに代わる一大イベント

 OCW 2022は、Oracle最大のイベントとして、これまでは米国サンフランシスコで開催され、ここ2年間はオンラインで開催となっていた「Oracle OpenWorld(OOW)」から一新したものだ。

 日本オラクル 常務執行役員 クラウド事業統括の竹爪慎治氏は、「過去20年間で、かなり変化を指向したイベントであったといえる。かつてのOOWでは、サンフランシスコの街を赤い色で染め、創業者であるラリー・エリソンCTOからは独善的ともいえるほどに、Oracleの価値やテクノロジーの強みを押し出してきた。だが今回のOCWでは、場所がラスベガスに変わり、色調もブルーになった。そして、インダストリーの最も複雑な課題を解決するという顧客視点での提案や、プラットフォームにおいても他社との協調を打ち出し、さらに、これまではバラバラだった経営トップによる基調講演も、インダストリーアプリケーション、包括的なアプリケーション、クラウド基盤という観点から、一貫した戦略のもとに実施された印象が強かった」と、イベントの変化を指摘した。

日本オラクル 常務執行役員 クラウド事業統括の竹爪慎治氏

 エリソンCTOは、「Next Generation Healthcare Applications」の説明に、基調講演の4分の3以上の時間を費やすといった様子も見られたという。

 変化が大きかったとされる今回のOCW 2022であったが、例年通り数多くの新製品が発表されており、プライベートクラウドの新たな形として提供するOracle Alloyや、ロングタームリリースとなるOracle Database 23cのベータ版など、大型製品の発表も相次いだ。

 竹爪常務執行役員は、「OCIでは、ロバスト(堅牢堅固)なクラウド基盤、分散クラウド、データ活用基盤の3つの軸を示し、SIerやクラウドサービスプロバイダだけでなく、データサイエンティストや開発者、テクノロジーベンダーとの協業を強く打ち出した。現在、日本オラクルの顧客は、既存システムをクラウド化し、レガシーモダナイゼーションを実現するケースが多いが、これを広げていくだけでなく、今回の発表を通じた次のステップとして、データ活用や新規サービスの実現、ビジネスの成長、ガバメントクラウドやソブリンクラウドへの採用などといった取り組みも、トータルで進めていくことになる」と、今後のOracleの方向性を示した。

Oracleのクラウドを自社サービスとして提供可能な「Oracle Alloy」

 中でも注目された発表のひとつが、分散クラウドへの取り組みである。

 「オラクルが示す分散クラウドは、OCIによるパブリッククラウドだけでなく、マルチクラウド、ハイブリッドクラウドに加え、ソブリンクラウド(Sovereign Cloud)のような専用クラウドも含まれる。それらのすべての領域に対して統一的なアーキテクチャで提供されており、用途や場所が異なっても同一のサービスを提供できる。高いコストパフォーマンスと、高いSLAを実現しながら分散クラウドを提供可能だ。OCW 2022では、マルチクラウドおよび専用クラウドの領域において新たな発表があり、これらは、日本の市場構造を考えても重要な発表になる」と位置付けた。

分散クラウドで、さまざまな方法や場所で使用可能

 専用クラウドにおいては、Oracle Alloyが高い関心を集めた。

 すでに提供しているOCI Dedicated Regionは、スタックを顧客のデータセンターに設置する一方、運用はOracleが行い、利用するのは特定の顧客だけという仕組みであったが、Oracle Alloyでは、クラウドの運用はサードパーティが行ったり、パートナーがサービス価格を設定したり、課金の仕組みを採用したり、独自のハードウェアの導入を提案したり、といったことが可能になる。

OCI Dedicated Region(左)の進化形に位置付けられるOracle Alloy(右)

 同社では、世界中のパートナー企業や組織がクラウドプロバイダとなり、自社の顧客に対して、OCI上に構築したクラウドサービスを提供でき、パートナー企業がデータの統制やデータ主権の要件を完全にコントロールしながら、自社データセンターにおいて独立したクラウドサービスの運用が可能になるとしている。

 「各国の法規制やデータ主権の観点から、クラウドベンダーではない人たちが運用を行ったり、クラウドベンダーがリーチできていない産業や地域でも、最新のクラウドテクノロジーを活用し、地域のSIerなどが、自社のサービスとしてパブリッククラウドを展開したりしていきたいというニーズが高まっている。こうしたニーズは日本からも本社に要望をあげていたものであり、今回、OCI Dedicated Regionの進化系としてOracle Alloyを発表した。ガバメントクラウドやソブリンクラウドの利用を想定したもので、日本の市場ニーズからも親和性が高いサービスになる。戦略性の高いサービスでもあり、戦略的パートナーや特定顧客との協議を進めながら、日本での市場展開を考えていきたい」と述べた。

 また、OCI Dedicated Regionにおいては、小さなフットプリントでフル機能を利用できる仕組みを新たに用意した。OCW 2022では、Vodafoneが課金システムや加入者管理、コールセンター向けシステム、新規サービスの提供などのモダナイゼーションにこれを活用。EU圏内において6つのリージョンで展開し、6000データベースを移行予定であり、1日に6つのデータベースを移行している状況を紹介した。「2年前に発表したOCI Dedicated Regionは、NRIが第1号ユーザーとして先行導入した実績がある。日本オラクルにはノウハウや経験が蓄積されている。日本の企業に対して、OCI Dedicated Regionをさらに展開したい」と語った。

Vodafoneの事例

 なお、マルチクラウドの展開においては、「大企業の82%がマルチクラウドを利用しており、この1年で27%も増加している。OCIを市場展開していく上では、マルチクラウドは重要な戦略になる」と語りながら、「マルチクラウドは、データセンター同士を直結させる『他クラウドとの連携』、お互いのクラウド環境からシームレスに呼び出せる『他サービスとの連携』、データ管理サービスなどの連携を行う『クラウド間の相互連携の向上』の3つのステップを踏むことになる。ステップ1では、Microsoft Interconnectを提供。ステップ2では、Oracle Database Services for Azureや、MySQL HeatWave for Azure、MySQL HeatWave on AWSを提供している。ステップ3では、今回のOCW 2022において、AWSのRDSサービスにOCIからデータを同期させ、シームレスに連携するデモンストレーションを行った」とした。

 「OCIは後発であり、マルチクラウド戦略が必要不可欠である。日本市場でも積極的にマルチクラウド戦略を推進していくことになる」と述べた。

オラクルのマルチクラウド戦略

 クラウド基盤においては、クラウドの利用率を高めることが課題であるとし、「パブリッククラウドとスマートフォンは、ほぼ同じタイミングで登場したが、スマホはすでに91%の利用率に達しているのに対して、パブリッククラウドは32%にとどまる。日本のパブリッククラウドの利用率はさらに低い。利用率が低い理由は、データ主権、セキュリティ、プライバシーへの対応や、性能をはじめとした非機能要件への対応が必要など、クラウド適用における複雑さがある。例えば、パブリッククラウドのコンピュートSKUは、300万種類もあり、構築や運用に関わる負荷が高い。それに対して、最新のOCIでは、柔軟性や性能を担保しながら、SKUをシンプルにすることに取り組んだ。これにより、利用者は自社のサービスの開発や提供に、時間やリソースを割くことができるようになる」とした。

 OCW 2022では、より良いコストで、市場投入までの期間を短縮する「柔軟性」、迅速なソリューションの利用開始を可能にする「使いやすさ」、リスクを軽減し、変化する規制にも対応する「セキュア」、製品開発を迅速化し、需要に合わせて拡張する「ハイパフォーマンス」を4つの原理原則とし、「これまでの2年間においても、4つの原理原則に基づいた数100もの新規サービス、新機能を提供し、イノベーションを実現してきた。今回のOCW 2022でも新たなサービスや新機能を発表している」という。

OCIの原理原則

 ハイパフォーマンスの領域では、NVIDIAと企業向けAIの導入加速に向けた協業を発表。GPUからシステム、ソフトウェアに至るまでのNVIDIAアクセラレーテッド コンピューティングスタックのすべてをOCIで利用可能にする。NVIDIA A100 80GB TensorコアGPUを搭載したOCI GM4インスタンスを提供。最大規模のAIモデルを大規模にトレーニングすることができるようになるという。

 「GPUスーパークラスタを実現するには、CPUやGPUの性能だけではなく、ノード間のネットワークがボトルネックにならないようにしなくてはならない。高帯域幅、低遅延のRDMAクラスタネットワーキングを実現することで、OCIにおいても、スーパーコンピュータと比べて遜色がない性能を出せる。日本では、自動車メーカーをはじたHPCの活用事例が先行しており、ここにAIの活用提案を加えることができる」と述べた。

NVIDIA A100 80GB Tensorコア GPUを搭載したOCI GM4インスタンス

 また、クラウド向けに完全に自動化したデータベースネイティブのバックアップおよびリカバリを行う「Oracle Database Zero Data Loss Autonomous Recovery Service」、クラウド環境上で、アプリケーションレイヤを含めた包括的なディザスタリカバリ(DR)機能を提供する「Oracle Full Stack Disaster Recovery Service」を発表。「ランサムウェアの広がりとともに、データの回復に対する問い合わせが増加している。また、アプリケーションスタック全体のDR機能は、日本の企業からのリクエストが多くあがっていたものであり、日本でのニーズが高い。日本のエンタープライズ市場向けに積極的に展開していきたい」とした。

Oracle Database Zero Data Loss Autonomous Recovery Service
Oracle Full Stack Disaster Recovery Service

新たなロングタームリリース「Oracle Database 23c」のベータ版を発表

 一方、OCW 2022では新たなデータベースとして、Oracle Database 23cのベータ版を発表した。

 Oracle Databaseは、5年間のプレミアムサポートおよび3年間のエクステンデッドサポートが提供されるロングタームリリースと、プレミアムサポートの期間が2年となり、エクステンデッドサポートが提供されないイノベーションリリースが提供されているが、Oracle Database 23cは、同19c以来のロングタームリリースとなる。

 開発コード名ではApp Simpleと呼ばれていたもので、データドリブンアプリケーションの開発の促進と、開発に関する簡素化を重点において製品化。ロングタームリリースという点でも、エンタープライズユーザーにとっては重要な製品になる。

Oracle Database 23c

 具体的には、JSONなどで記述されるアプリケーションやマイクロサービスにおいて、開発者の生産性を向上させる新機能を提供。SQLの強化による使いやすさの向上や、JavaScriptのストアドプロシージャ言語としての追加などが行われている。

 またOracle Database 23cでは、JSON Relational Dualityという新たなアプローチを採用し、アプリケーションによるデータの表現方法とリレーショナルデータベースによるデータの格納方法の間のミスマッチに対応。データをアプリケーションに適したJSONドキュメントや、データベースに適したリレーショナル表として同時に使用できるようになり、アプリケーション開発を簡素化できるという。

 Oracleではデータベースのミッションとして、「あらゆるユースケース、あらゆる規模に対応する最新のアプリケーションと分析を、簡単に開発、実行できるようにする」ことを掲げており、「Oracle Databaseでは、従来のDBAを対象にした取り組みから、開発者やデータサイエンティスト、データアナリストを対象にした活動を強化している。そのコアになる技術は、Converged Oracle Databaseと、Oracle Autonomous Databaseであり、あらゆるデータ、ワークロード、開発をひとつのデータベースで実現し、あらゆる規模や重要度のアプリケーションに対して、高度に自律化した機能を提供することで、分析や開発の部分に、時間やリソースを割けるのが特徴である。そして、クラウドでもオンプレミスでも、同じ自律型データベースを提供している点も大きな特徴になる」とした。

クラウドでもオンプレミスでも同じ自律型データベースを提供

 さらに、Oracle Analyticsの強化についても発表。「SaaSのアプリケーションに組み込むことで、ビジネスユーザーによる迅速な分析などが可能になる。北米では、データ管理だけでなく、データを活用するサービスに注目が集まっており、日本でもOracle Analyticsのビジネスを加速したい」と述べた。Oracle Analyticsはこの1年間で100以上の新機能を提供しているという。