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日本オラクル、OCI向けの新AIを提供へ データサイエンスの専門知識がなくともアプリでAIサービスを簡単に活用可能

 日本オラクル株式会社は22日、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)向けの新たなAIサービス「OCI AI」を発表した。

 データサイエンスの専門知識がなくても、アプリケーションでAIサービスを簡単に活用できるようにする開発者向けのサービスで、言語、スピーチ、ビジョン、異常検知、予測、ラベリングの6つのサービスで構成。Oracle AIの中核に位置づけられるサービスになるとしている。

OracleのAIソリューション。OCI AIは6つのサービスから構成される

 開発者は、ビジネス向けデータに対して事前トレーニングされ、すぐに利用可能なモデルを活用するか、組織が所有するデータに基づいてカスタムトレーニングするかを選択して利用できる。

2つの方法から、どちらかを選択して利用できる

 米OracleのProduct Management AI Services and Data Science担当バイスプレジデント(VP)、Elad Ziklik(エラッド・ジクリック)氏は、「エンタープライズ向けAIを提供する最もいいポジションにいるのがOracleである。Oracle DatabaseやExaDataなどに蓄積したデータ、FusionやNetSuiteのようなアプリケーションからのデータ、OCIによるクラウドインフラを提供し、さまざまなデータを持っている唯一の企業であるのがその理由だ。すでに機械学習を提供しているほか、データサイエンティスト向けのツールも提供してきたが、新たにOCI AIを提供することで、AIの専門家ではない人たちでも、ビジネス課題を解決するためにAIの適用が可能になる」とした。

米OracleのProduct Management AI Services and Data Science担当バイスプレジデント、Elad Ziklik(エラッド・ジクリック)氏

 業種ごとの学習モデルも構築し、まずは、ヘルスケア、金融、製造、小売をターゲットに提供していくという。

 日本語化については、言語、スピーチ、ビジョンの3つのサービスで、今後1年をかけて対応していく予定であり、「2022年早々には、OCRの機能を日本語対応の第1弾として提供することになる」と述べた。

 また、開発者向けのトレーニングプログラムやラボなどの提供については、OCIサービス全体のなかで実施していくことになる。「Oracle APEXやOracle Analytics Cloudとの統合を進めており、将来的には開発者だけでなく、ビジネスユーザーがローコード/ノーコードでOCI AIが利用できるようになる」とした。

OCI AIの6つのサービス

 OCI AIで構成する6つのサービスは次の通りだ。

 OCI Languageは、文書や顧客フィードバックのやり取り、ソーシャルメディアに記載されている非構造化テキストを理解するために、大規模なテキスト分析を実行する。事前にトレーニングされたモデルが組み込まれているため、機械学習の専門知識がなくても、センチメント分析、キーフレーズの抽出、テキスト分類、固有表現抽出などをアプリケーションに適用できる。

 「OCI Languageでは、Oracleが持つ、それぞれの業種において関連性があるユースケースを用いて、事前のトレーニングを完了させているのが特徴である。FusionはOracleでは製品名だが、ほかの業界では意味が異なるといったことが理解できる」としたほか、「BERTやGPT-3といった大規模モデルは学習にかかる費用が高い。Oracleは、AIで利益を得ようとは考えていない。最もコスト競争力を持ったAIになる。こんなに安いのであれば、すべてのデータにAIを適用しなくてはおかしいと、ユーザーが思うことを目指している。実際、OCI Languageでは、100万文字までは25セントで利用できる」などと述べた。

OCI Language

 OCI Speechは、数千人のネイティブ言語スピーカーと、非ネイティブ言語スピーカーを対象にトレーニングしたモデルを活用し、自動音声認識を提供。リアルタイムでの音声認識を実現する。人間が発する言葉を含むファイルベースのオーディオデータを、高精度なテキストトランスクリプションに簡単に変換可能で、ワークフロー内のクローズドキャプションの提供、コンテンツのインデックス作成、オーディオおよびビデオコンテンツの分析の強化に利用できる。

OCI Speech

 OCI Visionは、画像認識およびドキュメント分析タスク用に事前トレーニングされたコンピュータビジョンモデルを提供。シーンの監視や欠陥の検出、独自のデータによるドキュメント処理など、ほかの業界や顧客固有のユースケースにもモデルを拡張できる。製造現場における異常を視覚的に検出したり、ビジネスワークフローを自動化するためにフォームからテキストを抽出したりといった用途のほか、画像内の品目にタグ付けをして製品数や出荷数量を数えるような用途にも使える。

 「業種にあわせてモデルを構築するのが難しいという課題が、画像認識の分野でも発生している。OCI Visionでは、犬や猫といった画像での学習ではなく、電線や電柱といった業種固有の画像を活用するなど、それぞれの業種データを活用して、事前トレーニングを実施。その学習モデルを活用して、個々の業種への対応、業界特有のビジネス課題への対応が図れるようになっている。画像解析だけでなく、文字の解析も可能であり、言語も判断できる」とした。

 OCI VisionやOCI Speech、OCI Languageを活用したデジタルアセット管理の事例も示し、映像や音声などのあらゆるデータをオブジェクトストレージに格納し、AIを適用してデータを統合することができることを強調した。

OCI Vision

 OCI Anomaly Detectionは、ビジネス固有の異常を検出するモデルで、危機につながる不規則性を早期にフラグ付けし、解決までの時間を短縮。業務停止を減らすことができる。数種類のプログラミング言語に対応したREST APIとSDKが提供されているため、開発者は異常検出モデルを、ビジネスアプリケーションに簡単に組み込むことが可能だ。特許取得済みのMSET-2アルゴリズムをベースに構築しており、不正検出や機器の故障の予測、複数のデバイスからのデータの受信による障害予測にも使用可能。原子炉の健全性監視のような、高度な安全性要件を満たすことができるという。

 ジクリックVPは、「複数のセンサーをまたがって異常を検知したり、データに関する問題を検知して、それを自動で修復したりできる」と説明した。

OCI Anomaly Detection

 OCI Forecastingは、機械学習と統計アルゴリズムによる時系列予測を提供。製品需要や収益、リソース要件といった重要なビジネスメトリックのための正確な予測を迅速に作成できるという。これらの予測は、適切なビジネス上の意思決定を行えるように説明可能性を有しているという。

 「予測精度を高めるには、多くのモデルのなかから最適なものを選択する必要があり、同時に、その予測結果をしっかりと説明できることが必要である。OCI Forecastingは、それらを自動的に行うことができる」と述べている。

OCI Forecasting

 OCI Data Labelingは、AIモデルをトレーニングするためのラベル付きデータセットを構築できるように、ユーザーを支援するものだ。ユーザーインターフェイスや公開APIを使用して、データの組み立てや、データセットの作成と閲覧、データレコードへのラベル適用を行うことができる。ラベル付きデータセットをエクスポートし、OCI VisionやOCI Data ScienceをはじめとしたOracleのAIおよびデータサイエンスサービス群でのモデル開発に適用することで、モデル構築に一貫性を持たせることができるという。

OCI Data Labeling

 なお、OCI AIは、今後、FusionやNetSuiteとネイティブな統合を図る計画であるほか、REST APIにより、さまざまなアプリケーションとの連携が行えるとしており、「アジアでもいくつかのPoCがすでに進んでおり、そのなかには、日本の企業が参加している事例がある」とした。

 米OracleのジクリックVPは、「30年前はすべてが構造化データであったが、いまでは画像や音声などのさまざまな種類のデータを活用してビジネスを成功に導くことが重視されている。そして、AIをさまざまなデータに適用できることが、より大切になってきている。AIに対する重要性は、30年前のSQLクエリーの重要性ぐらいクリティカルである」と指摘。「顧客がAIに求めているのは、自分たちのビジネスに対して機能するAIであり、汎用的なものや、大規模なものではない。自分たちの業種向けに最適なものが欲しいと考えている」と述べた。

 ここでは、Zoomのライブ文字起こしを例に挙げ、「Zoomは私の英語は理解してくれるが、私の名前は英語に存在する音ではないため、文字起こしができない。だが、音声認識エンジンを従業員のデータベースやアクティブディレクトリと連動させ、学習させることで、社員名や製品名、略称などを正しく認識できるようになる。これが、顧客が求めているAIの姿である」などとした。

 ジクリックVPは、Microsoftで14年間に渡ってAIに携わり、昨年、Oracle入りした経緯がある。

 「Microsoftでは、クールなAIの開発に取り組んできた。だがOracleでは、AIをつまらないものにすることが仕事である。つまらないビジネスアプリケーションに向けに、毎日使えるAIを作ることが仕事だ。両社の違いは、ゴールがなにかという点である。Microsoftは、最高のAIを構築、つまりGoogleやAWS、Facebookに勝つためのAIを開発し、論文に出せるAIの開発が目的だった。その最高の研究結果をもとに製品化し、コグニティブサービスが誕生した。だがOracleは逆のアプローチであり、FusionやNetSuiteなどのビジネスアプリケーションからスタートし、具体的な課題を解決するためのAIを構築している。それを実現するには、誰がAIを開発してもいい。オープンソースとの連携もその姿勢がベースにある」のだいう。

 また、「ビジネスで利用するには、AIを一貫性があるものにし、モデルや特徴量、データセットがひとつの場所にまとまり、シンプルで、オープンなものにする必要がある。使いたいオープンフレームワークはすべて使えるようにし、どこででも活用できるようにしたい。オープンソースのプロバイダーとの連携も強化している」とも述べた。

 続けて、「MicrosoftのAIは先進的である。だが、自らのビジネスで使うには少し手間がかかる。Oracleが求めているのはビジネスですぐに使えるAIである。アプローチの違いはあるが、最終的には同じところにたどりつくことになるだろう」とも語っている。