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KDDI、法人向け5G SAの商用提供について説明 ネットワークスライシング対応を前面に打ち出す

 KDDI株式会社は21日、法人向け5G SA(Stand Alone)サービスの商用提供を同日に開始したことを発表した。5Gネットワークには、4Gのコアネットワークを流用したNSA(Non-Stand Alone)方式と、5G専用のコアネットワークを使うSA方式がある。

 KDDIでは、5G SAならではの機能であるネットワークスライシングへの対応を前面に打ち出している。まずは単体のサービスではなく、個別ビジネスとして企業にソリューションを提供する中で5G SAサービスを利用する形になるという。

 このサービス開始にあわせ、同21日20:30~21:30に、株式会社AbemaTVの「ABEMA」において、5G SAを使った生中継を実施した。

 またKDDIは、富士通株式会社とともに、オープン化した5G SA仮想基地局によるデータ通信に成功したことも、2月18日に発表した。

KDDIが法人向け5G SAの商用提供を開始
ABEMAで5G SAを使った生中継を実施

映像中継の問題を5G SAのネットワークスライシングで解決

 法人向け5G SAサービスは競合他社からも発表されている。これについて、同日に開催された記者発表会で、KDDIの野口一宙氏(ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長)は、「ネットワークスライシングを活用するという取り組みを発表することは、(KDDIが)初めてなのではないかと思う」と語った。

 野口氏は5Gサービス開始から2年の現状として、「法人からの引き合いも増えている」と説明する。その4割が製造業で、AGV(無人)ロボットの自動制御や、画像解析AIソリューション、スマートファクトリーなどの用途だという。

 また2番目に多いのが、大容量の動画を扱う放送・メディア業界とのこと。今回のABEMAでの採用もこれにあたる。

 ABEMAの配信は2月21日の20:30~21:30。19:00から配信のHIPHOPチャンネル「ABEMAMIX」の一部で、スタジオから5Gコア設備までを5G SAネットワークで接続し、生配信する。視聴者側はインターネット経由で視聴する形だ。

KDDIの野口一宙氏(ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長)
5Gサービスの法人からの引き合いは製造業と放送・メディア業界が多い

 野口氏は、5Gに欠かせない技術としてネットワークスライシングを強調した。ネットワークスライシングとは、1つのネットワークを仮想的に分割する技術。これにより、5Gの高速性や低遅延、多数同時接続などのうち、重視する特性ごとにネットワークを分けて運用したり、帯域やセキュリティの確保といった目的でネットワークを分割したりできる。

 例えば映像中継では、これまでは、ロケ現場に専用機器搭載車両や通信回線を手配する必要があった。最近ではモバイル回線も使われはじめているが、安定した回線のために複数回線を束ねる専用機器が必要で、それでも安定しないという。

 今回のABEMAでは、この問題に対して5G SAのネットワークスライシングを使うことで、1つの回線でほかの通信の影響を受けずに安定して配信できると野口氏は説明した。なお、この配信では、スタジオのみを5G SAエリアとし、KDDIが用意したXperia 1 IIIをベースにした試作機を専用スマートフォンとして使用する。

 サイバーエージェントの増田雄亮氏は、記者発表会での動画コメントで、「スライシングで大きな差が出ることがわかった。いままで制限があってできなかったような演出を実現したい」と語っている。

ネットワークスライシングとは
映像中継の問題
5G SAを使った映像中継
サイバーエージェントの増田雄亮氏

 今後の映像分野については、スマートフォンでの低遅延中継や、MEC(Multi-access Edge Computing、通信網でのエッジコンピューティング)での複数カメラ映像のクラウドスイッチングなど、映像中継・配信の高度化に貢献できるのではないかと野口氏は述べた。

 また映像と5G SAによるソリューションは、放送に限らず、モビリティや製造業、セキュリティ、医療、公共交通でもニーズがあると考えていると野口氏は語っている。

今後の放送分野での5G SAの応用
放送以外での映像と5G SAによるソリューション

2024年に向けてSLA保証などネットワークスライシングを本格化

 今後の展開としては、2022年度に本格展開を開始。2024年度をめどに、ネットワークスライシングの本格展開に向けてさらなる進化をさせると、KDDIの渡里雅史氏(技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部長)は説明した。

KDDIの渡里雅史氏(技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部長)
法人向け5G SAサービスの今後の展開

 渡里氏も「5G SAの最大の特徴はネットワークスライシング」と強調し、今回のABEMAでも不可欠のものだと語った。

 さらに、ネットワークスライシングのさらなる進化のために、SLAに準じて性能を維持する「SLA assurance(SLA保証)」、安全性・可用性を確保する「Security(セキュリティ)」、ネットワークスライス間の相互不干渉の「Isolation(隔離)」の3つの技術が重要だと説明した。

 中でもSLA保証についてはKDDIでも長く開発に取り組んでおり、9月にはエンドツーエンドでのSLA保証の実験に世界で初めて成功していると渡里氏は語った。なお、前述した、2024年をめどとしたネットワークスライシングの本格展開とは、このSLA保証の実用化を意味するという。

 また渡里氏は、世界で初めてオープン化した5G SA仮想基地局の商用化を発表したことも説明した。汎用のサーバー上で完全に仮想化したソフトウェアを動作させて基地局を実現するもので、「例えると、ニーズや状況に応じてソフトウェアを自由自在に選択して、レゴブロックのようにすばやく入れかえて組み合わせることで、用途に最適化することが可能になる」と渡里氏は語った。

ネットワークスライシングの進化に必要な3つの機能
KDDIのSLA保証への取り組み
5G SA仮想基地局の商用化